エピローグ
セナを乗せた飛行機は、日本へと無事到着した。
長旅で疲れ果てていたにも関わらず、飛行機のゲートを降りた瞬間、日本の懐かしい空気に、くすぐったいような喜びがこみ上げてくる。
飛行機の中での、長く退屈な時間は、セナに様々な事を考える為の時間を与えた。
そのせいか幾分気持ちの整理がついており、頭もすっきりとしていた。
首にかけたペンダントにそっと触れながら、セナは空港の床を、一歩一歩踏みしめ前へと進む。
セナは空港の中のカフェで遅めの朝食をとった。
身体はだるかったが、食欲は良好で、それほど落ち込んでもいなかった。
まるでイースの強さが自分の中に宿ったようだ、そんな事を考えてセナは一人微笑む。
朝食をあらかた食べ終えてから、セナはおもむろにモバイル取り出した。
人工プラスチックのキンと冷えたた久しぶりの感触に、少し戸惑ってしまう。
セナは暫くそのまま、悩ましげな表情でモバイルを見つめた。
しかし、思い切った様子で、何処かに電話をかける。
一回だけ連絡してみよう。出なければ、金輪際の別れでもいい
コールの音を聞きながら、セナはそんな事を考えた。
ーーたまには運命の選択を運に任せてみるのも悪くないーー
七回コールがなった。
相手は電話に出ない。
諦めて切ろうとしたその時。
「はい……」
呟く小さな声が、セナの耳に届いた。
久しぶりに聞くその声は、妙に懐かしかった。
二時間後、セナは待ち合わせ場所にいた。
待ち人はまだ来ない。
もうかれこれ、約束の時間から三十分が経過している。
こないのだろうか、待ちくたびれてそう思い始めた時だった。
遠くに、人混みを掻き分け必死に走ってくる令人が見えた。
セナは久しぶりの再開に、どういう顔を合わせたら良いのか分からず、令人の姿から目を反らす。
しかし令人の方はそのような事は気にも止めていないようで、セナの姿を見つけると、間髪をいれず抱きつく。
「こんな時に限って電車が遅れてよ、もう会えないんじゃないかと思ったぜ」
人ごみも気にせず強く抱きしめる令人の腕の中で、セナは何処かで感じていた緊張感が溶けてゆくのを感じた。
言葉は出てこなかった。
しかし急に泣きたいような気分に襲われる。
令人は身体を離すと、今にも泣き出しそうなセナの顔を見て優しく微笑む。
「俺はセナが別に誰を好きになろうが誰と結婚しようが構わない、だけどできるなら、一生側にいてくれよ。本当に血が繋がってる兄弟みたいにさ」
それを聞いて、セナの顔は更にくしゃりと歪む。
令人はそれを見ていられなくなったのか、もう一度セナを抱き寄せた。
「勝手にいなくなんなよ」
セナは何も言わずにその背中を一度だけ抱きしめ返した。
頬を撫でる風は暖かい。
駅の出口の方へと目をやると、遠くに満開の桜が白い花吹雪を散らしているのが見えた。
柔らかな花びらと暖かい春の空気に包まれた東京の街を、二人は再び明日に向かって歩き出した。
なんとか完結させる事ができました。
お見苦しい点が多々あったにも関わらず、お気に入り登録して下さった方、感想下さった方、読んで下さった方、ありがとうございました。