出会い
尾行は、出だしは何の問題もなく順調だった。
ターゲットが現在宿泊しているホテルの情報は事務所から入っていたので、張り込んで彼女が出てくるのを待てば良かった。
橋本イースは夕方になってようやく姿を表し、歓楽街のそばにある一軒のバーに入った。
後はお決まりのパターンだ。
彼女に言い寄ってきた男性と共に、二人はホテルに入っていき、そのほんの僅か後にターゲットだけが出てきた。
おそらく、男性が持っていた金品を持って。
セナと令人は二手に分かれ、令人はイースを追い、セナは被害にあった男性から話を聞こうとしたが、男性は自分の行為を恥じているのか大した事は聞き出せなかった。
ターゲットがホテルに戻ると、令人はホテルの周辺に張り込み、セナはマンションに帰り睡眠をとった。
明け方になると、二人は交代し、今度はセナが張り込んだ。
ホテルの二か所の入口が見張れる場所に、丁度バス停のベンチがあり、都合の良い事にそこから双眼鏡で彼女の部屋も見張れた。
空は白みがかってきたが、まだ朝早い。
イースの部屋のカーテンは閉まったままで、まだ眠っているようだ。
冬の朝の冷たい風が容赦なく頬を、耳を、嬲る。
少しでもその風から顔を守ろうと、コートに付いたフードを被ろうとした、その時だった。
人の気配などしなかった。
ただ、きんと冷たいナイフの刃先を喉元に感じ、それと同時に、全身を緊張が貫く。
「ハロー、美人さん」
その声は女の声帯から発せられた声だ。
僅かに心に余裕が生まれ、セナは細心の注意を払って、令人にピンチを知らせるブレスレットのボタンを押そうとする。
「よしなよ、ばればれ」
更にナイフが強く喉元に押し付けられ、息をするのすら危うい。
声を上げるなんて、無論無理だ。
頭が次の事を考える間もなく、口と鼻に睡眠薬を含んだガーゼを押し当てられ、セナは意識を失った。