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東京2044  作者: mimi
39/40

別れ


カイの告白を聞いた日から、いく日かが経過していた。


セナは今、日本に帰る準備をしている。


日本に帰った後のあてなどなかったが、イースがいないこの地に留まるのは、それにも増して意味のない事に思われた。


スーツケースに洋服をせっせと詰めていると、エリーが起き出してきた。


セナの様子をつっ立って見つめているエリーを初めはセナは無視していたが、やがて観念したように口を開いた。


「どうしたの?」


「セナさん、お腹すいた…」


セナはやれやれ、という様子で立ち上がり、エリーの為に何か作ろうとキッチンへと向かった。




セナが作った熱々のハムエッグとマフィン食べながら、エリーは口を開く。


「セナさんって、幾つ?」


エリーの前に座り、ぼうっと考え事をしていたセナは、我に帰って答える。


「十八だけど」


「うっそー!私と同じ!」


エリーはいかにも嬉しい、という風に手のひらを正面で打ち合わせる。


「でもすっごく大人びて見える。私と同じとは思えない」


それを聞いて、セナはふっと微笑んだ。


「色んな事があったから…」


「ふーん…」


エリーがマフィンを食べようと首を屈めた時、イースが首筋に入れた刺青の模様がちらりと見えた。




暫くして、日本に帰国する為の支度を開始したセナは、パスポートを取り出すために金庫を開けた。


まだエリーがイースだった頃、(ここは必要な時以外は開けちゃダメだ。大事な物が入ってる所は、頻繁に開け閉めするべきじゃないよ)とイースが言っていたのが思い出された。


思い出を振り払うように鉄の重い扉を勢いよく開け、パスポートを取り出すと、パスポートの間から何かがぽとりと落ちた。


セナは不思議そうにそれを拾い上げる。


それは、小さな皮の袋だった。


中を慎重にあけると、そこにはペンダントが小さなメモと一緒に収められていた。


ペンダントのチェーンを指にかけ、チャームを近くで見る。


セナのさみししげな表情が、いっそうつらそうに歪んだ。


チャームにはイースが刻んだ刺青と同じ模様が刻まれている。


震える手で、綺麗に折りたたまれたメモを開く。





“ごめん


たとえ消えたとしても、願わくば、これからはセナの強さになりたい


もしそれが叶ったら、僕が生きた意味はあったよ


大好きだ”





最後の言葉は、涙で滲んで見えなかった。





エリーとイースとの別れの時間は近づいていた。


「本当に行くの?」


玄関で靴を履くセナに、不安げな表情のエリーが声をかける。


「ええ」


セナは靴を履くその手を休めない。


セナには早くこの部屋を出ることが、二人にとって最善の事のように思えた。


「カンザシ拘置所でカイと面会できるから、今後どうすればいいか聞くといいよ」


エリーの目は、懐かしい馴染みの名を聞いてキラキラと輝いた。


それを見てセナの頬もふっと緩んだ。


「じゃあね」


そう言い、セナが玄関のドアから出て行こうとした時だった。


「あれ?」


出て行こうとする、セナの手を、エリーの手が力強く掴む。


セナは驚いてエリーを見つめるが、エリーはセナ以上に困惑している。


「なんで?手が勝手に……」


エリーは自分の意思と関係のない動きをする手を気味悪そうに見た。


セナは突然、エリーを自分のほうに抱き寄せた。


「セナさん?」


困惑するエリーなどお構いなく、セナは力いっぱいその身体を抱きしめる。


そのまま暫くいた後、そっと身体を離すと、おもむろにエリーに優しくキスをした。


突然の事に何が起こったか理解できないエリーを残し、セナは独り部屋を出た。


「セナさん!」


地上へと降り立つ階段へ向かう途中、エリーに呼び止められ、セナ立ち止まる。


「色々……ありがとう!」


エリーの明るく大きな声が、外廊下中に響き渡る。


一瞬足を止めたセナは、振り向く事はせず、小さく片手を上げてその言葉に答えた。


階段の奥へと消えたその背中は、どこかさみしげだった。

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