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東京2044  作者: mimi
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沈黙

カイ話を、セナはただ黙って静かに聞いた。


カイが全てを話終わった後でさえも、長いこと口を開かなかった。


不思議な沈黙が続いた後、それを破ったのはカイだった。


「遅かれ早かれ、こうなる運命だったのです」


カイの静かな声に、虚ろな目付きのままセナは顔を上げる。


「セファイア……いや、イースと呼びましょう、彼女の人格には元々寿命のような物があった。イースが知っていたかどうかは分かりませんが、彼女の人格は砂で出来た城のように少しずつ崩れ去り、いつかはエリーに戻る。これは避けられない事なのです」


セナはカイの言葉が理解できないとでも言うように、顔を背けた。


「解らない……」


独り言を言うように、セナはポツリと呟いた。


「誰が何を言おうと、私にとってはイースが本物」


それだけ言い残すと、セナはそれ以上何も言わずに、面会室を後にした。





セナは拘置所を後にし、家路へとつく。


イースが消え、エリーが現れ、一週間が経過していたが、まだそこはセナにとって、“二人のマンション"だった。


鍵を開け、中へと入り、薄暗い部屋に荷物を落とすと、テーブルに手をついて、大きく息を吐いた。


それでも、心が鉛に覆われたように重たいのはどうしようもならず、少しも楽にならなかった。


セナはふいに窓際へと足を向ける。


古典的なやり方で窓を開けると、夕方と夜の狭間の薄闇の空から部屋へと、強い風が吹きこんだ。


空の深い青は今、島の全てを包み込み、その色に染め上げている。


セナもその深い青にどっぷりと染まりながら、ゆっくりと瞳を閉じた。


憎かった。


イースを、勝手な理由で生み出した・・・・・人間が。


再び開かれたセナの瞳には、先ほどまでは宿っていなかった黒い憎悪の炎が燃えていた。


しかし暫くしてセナはある事に気づく。


その感情は、いつも心の何処かで感じていた、馴染み深い物である事に。


(ああ、そうか)


セナは心の中で呟いた。


(私は、憎んでたんだ。私の事を勝手に作り出した、マスダ・コーポレーションの人間達を……)


気付いてしまったその事実に、更にやるせなくなったセナは、窓を静かに閉めると、重い足取りで寝室へと向かった。


そこには、イースの顔をした、エリーという名の少女がすやすやと眠っている。


起き出す気配は、ない。


一週間前、人格がとって変わられてからというもの、彼女はとてもよく眠った。


「ねえ、イース」


その小さな声は、すぐに静寂に呑み込まれる。


セナは、その疲れた小さな身体を、ベットに横たわるイースの隣に潜り込ませた。


すぐ側にあるイースの横顔を見つめる。


もう二度とあえないのだろうか。


あまりに唐突すぎて、目の前で眠るこの子がイースなくなってしまったなんて、理解がおいつかない。


「話が違うよ」


薄闇に浮かび上がる白くきれいな横顔を睨みながら、セナは噛みしめるように言った。


「せっかく自由になれたのに、私だけを置いてどっかに行っちゃうなんて」


伝えたい言葉は、今となってはイースに届かない。


押しつぶされそうな胸の痛みに耐えるように、セナは目を瞑った。


「約束が違う」


その時だった。


イースの手がそっとセナを包み込んだ。


そしてやさしく抱きしめる。


セナは鼓動が早くなるのを感じた。


「イース?」


しかしイースは目を覚まさない。


安らかな寝顔のまま、しかし手はしっかりとセナを抱きしめていた。


落胆と切なさに心を支配されながら、セナは長いことイースの顔を見つめた。


やがて部屋が完全な暗闇に包まれた頃、セナはイースの腕の中で、観念したように目をつむり、そのまま眠りについた。




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