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東京2044  作者: mimi
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セナの部屋

いつしか郊外へと抜け出したレトロカーは、とある高層マンションの地下駐車場へと姿を消した。


やや大きめの車体が停車すると、まだ不機嫌な気分のままのセナが中から出てくる。


セナはいつものように令人に別れの挨拶をするでもなく白い人工鉱石でできたエントランスへと向かう。


「次の標的ターゲットの情報、パソコンに送っとくからな」


レトロカーのスモークガラスが開き、令人がセナの背中に向かい声をかける。


「セナ!!」


呼び止める様な令人の口調にしぶしぶという感じでセナは足を止める。


生田いくたさんには言うなよ」


“生田”とは、俗に言う凄腕の弁護士であり、二人にとっては命の恩人であり、二人の法律上の保護者でもあった。


セナは何かを言おうとして振り向きかけたが、令人はそれを遮るように車を発進させる。


「じゃなっ!!」


威勢のいいその声がいまいましいとでもいうようにセナは唇を軽く噛んだ。


白いロビーは柔らかな色の光で照らされている。


カードキーをかざすとエレベーターのドアが開き、エレベーターはセナの住む32階へとセナを運ぶ。


部屋のドアは自動ドアだ。


ドアが閉まるとカチリと自動ロックがかかるが、用心の為にセナは手動でロックを二つかける。


部屋は白を基調とした家具が多いが、ブラインドとベットカバーは控えめなピンクだ。


枕元には、いつも枕がわりになってしまう柔らかくて白いぬいぐるみがたくさん。


しかし物が多いとは言えず、生活感はあまりない。


それはセナも令人も余計な物を買う事に慣れていないせいであった。


窓からは夜景が見えるが、今は窓はぴたりとブラインドに覆われている。


セナは、早くさなぎの殻を抜け出したがっている蝶のように、服をあっという間に脱ぎ捨て、急いでシャワールームへ向かった。


お湯につかり、体中ほかほかになった頃には、気分も大分ましになっていた。


冷蔵庫からキンと冷えたレモン・ウォーターを手に取り、ベットの上にあるキーボードを指でタップすると、半畳程もある壁のパネルが光りだす。


令人からのデータはもう届いていた。


セナはレモン・ウォーターを飲みながら、それにざっと目を通す。


≪依頼主≫匿名

≪ターゲット≫橋本 イース(仮名)


その情報に、セナは特には驚かない。


こういう事はよくある事だ。


それにしても美人ね、セナは思う。


肩の下で切りそろえられた艶やかなブロンズ色の髪。


彫が深く、完璧といってよいほど整った顔立ち。


生意気そうな表情の割には、どちらかというと顔の造りは幼い。


この容姿だったら、どんな服をきてどんな髪型をしても、誰もが“美人”と認めるだろう。


しかしこの美人は自分の美貌を悪用している。


美貌をエサに男性を誘い、隙をついて行われた数々の“泥棒行為”がずらりと示されていた。


この分だと依頼主は被害者のうちの誰かだろう、セナがそんな事をぼんやりと考えていると、突然コールサインが鳴る。


手元のボードに触ると、令人の姿がパネルに映し出される。


「データ、見た?」


画面に映し出された令人は昼間着ていた服のままで、レトルトのパスタをほおばっている。


「見たよ。一週間ばれないように監視して、事細かに何をしてるか報告しろって事だよね」


「ストーカーみてぇな仕事だな」


確かに令人の言う通りだ、とセナは思った。


絶対にばれないようにやる必要がある。


めしは?」


「ダイエット中」


「食欲ねぇんだろ」


「まぁね」


分かってるなら聞かないでほしい、セナは心の中で思う。


「ストーカーしてるだけでいいんなら、まあまあ楽な仕事だな。さっさと終わらせて連休取ろうぜ」


「でも格闘技心得ありって書いてあったよ」


そうは言ってみたものの、令人はもちろんセナもあまり心配はしていなかった。


あの体格じゃ格闘技といった所でたかが知れている。


ものすごく着やせするタイプでなければ。


「じゃぁ、明日は休みで明後日からストーカー開始、それでいい?」


「うん、いいよ」


「よし、じゃぁおやすみ」


おやすみ、と言いながら、令人は通話のスイッチを切らない。


令人がパスタを食べる横顔は上品とは言い難かったが、セナはしばらくぼーっとそれを見つめていた。


令人は通話コールのスイッチを切らないだろう、セナが自ら切るかあるいはセナが眠りにつくかするまでは。


令人はセナの事を良く分かっていた。


なんていったって子供の頃からずっと一緒だったのだから。


令人に甘えるなんて、セナの中ではそんな事はごめん、だった。


しかし咲がナイフを振り上げた時の鬼の形相がよみがえってくるよりはましかもしれない。


そう思い、セナは少しだけ令人に感謝しながらその疲れた体をベットに預け、やがて眠りについた。









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