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東京2044  作者: mimi
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会議室


「てめえは、自分がした事が分かってんのか?」


生田は、静かにそう問い詰める。


令人は感情が消えてしまったかのような、虚ろな目のまま、かすかに頷く。


「令人、お前の気持ちは分かるぜ。だけどな、人間社会の一員である限り、暴力に訴えたら負けなんだよ、おまえはそういう意味ではもう負けちまったんだ」


諭すように生田がそう言っても、令人の表情は少しも変わらなかった。


そんな事は分かってる、その表情はそう言っているようでもあった。


「生田さん・・・」


令人が突然口を開いた。


「俺は、この事は生田さんに黙ってるつもりだったんだ。だけど、セナにこの姿を見られた後、セナは生田さんに言うって聞かなかった。だから、俺は、生田さんにもし何か言ったら、セナとの縁を切るって言ったんだ」


「本気じゃねえだろ?」


令人はゆっくりと首を振る。


「俺は冗談でそんな事は言わない、セナだってそんな事分かってる。だけどあいつは、俺との関係が切れたとしても、生田さんに話す事を選んだ。つまりそれだけ生田さんを信用して、頼りにしてるって事なんだ」


「何が言いてえんだ?」


「俺は、多分、誰かに守って貰う程、価値のある人間じゃねえ。だけど、セナには幸せになって欲しいんだ。生田さん、セナに何かあったら、守ってやってよ」


生田は新しい煙草をケースから一本抜き出し、銀のライターで火をつけた。


「セナはこの事何も知らねえんだな?」


令人は小さく頷く。


「バカヤロウ」


侮辱の言葉の筈なのに、何故か令人はその言葉に優しく包まれた気がした。


「辛かったろうな・・・」


思いがけず、令人の頬を涙が伝った。


顔をふせ、手の甲でそれを拭う。


「三年前、もっと早く助け出してやれなくて、すまなかった」


令人はそんな事はない、とでも言うように、下を向いたまま小さく首を横に振った。


令人の気持ちが平常を取り戻すまで、生田はそれ以上何も言わなかった。






会議室のドアの外。


セナはドアに背中と頭をぴたりとつけ、全てを聞いていた。


その間、複雑な表情のまま、耐えるようにじっと目を瞑っていた。


話が終わったのをさとると、セナはそっとその場を離れ、誰にも見つからぬまま事務所を後にした。




帰り道、セナはあてもなく歩き続けた。


東京の町が奏でる騒がしい雑踏が、いつもより遠くに感じた。


何も知らない人達と、すれ違ってゆく。


その人達と自分が、ひどくかけ離れているように思えた。


その事に誰も気付きませんように、セナはそっと心の中で祈った。




やがて、一軒の店の前で足を止める。


シノダ画材店と書かれた看板を暫く眺めた後に中へと足を進める。


平日のせいもあってか、中は空いていた。


種類の多さに感心しながら、セナはわざと時間をかけて、キャンパスや絵の具を選んだ。









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