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東京2044  作者: mimi
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翌日、セナが目を覚ました頃には、もう正午を回っていた。


ブラインドを開け、さんさんと照らす太陽の眩しさに思わず目を瞑る。


まだぼんやりとしながら、朝食に少し熟れすぎてしまった果物を食べた。


寝衣姿のまま、携帯(モバイル)を手にとると、目を瞑りゆっくりと深呼吸をする。


意を決したようにパチリと目をあけると、とある番号(ナンバー)へと電話をかける。


「はい・・・」


低い、落ち着いた声。


その声を聞いただけで、セナは今まで閉じ込めていた不安や蟠りが溢れ出そうになる感覚におそわれる。


「生田さん?セナだけど、今ちょっと時間大丈夫?」


「おおセナ、久しぶりだな。珍しいなお前からかけてくるなんて、どうした?」


「実はね・・・」


セナは、カズマが突然家を訪ねて来た事、翌日令人の家にいる時に再びカズマが訪れて来た事、令人がカズマと話す為に出て行って再び帰ってきた時には、全身傷だらけだった事を話した。


それから、令人は外にいた間、何をしていたかを頑なに話そうとしない事、カズマは東京にいる間に謎の失踪を遂げて、施設に戻っていない事も話す。


カズマが施設に戻っていないという情報は、施設の旧友がこっそり教えてくれたという事にしておいた。


「令人は、生田さんにも言うなって言うの・・・」


セナの声は普段にもまして不安そうで頼りなさげだ。


「そうか・・・」


生田も色々と考え巡らせているようで、一言一言の感覚長い。


「俺が事務所に出向いて、令人に直接話を聞く。セナ、教えてくれてありがとう。けどな・・・」


生田はそこで、セナの注意を引きつけるように、少しの間をおいた。


「次回からはもっと頼ってくれよ、お前らに遠慮されてるようじゃ、俺が何の為にいんのかわかんねエだろ」


「うん・・・」


セナは感謝の気持ちで心がいっぱいになり、それだけ言うので精一杯だった。


二人は別れを言い、電話を切っる。


暫くその場でそのまま、石のようにじっとしていた。


しかし、よしっ、と小さく気合を入れると、出かける準備を始めた。





令人とセナが仕事の拠点としている、山竹事務所。


そこに生田は来ていた。


事務所の奥の、小さい会議室。


会議室とは名ばかりで、普段は団欒の場となっているため、ソファが二つおいてある。


生田が一人で煙草をふかしていると、がチャリとドアが空いた。


令人が入ってくる。


生田の目は見ず、小さく頭を下げ、ソファの方へと向かう。


「ひでえな」


二日たっても、令人の顔はアザと腫れで原形をとどめていない。


擦り傷などは自分で手当したあとがあったが、それが一層傷の悲惨さを助長していた。


「セナが心配するはずだ」


令人は下を向いたまま、すみません、と小さく呟く。


「まず病院だ、知り合いの医者を紹介してやるよ、話はその後だ」


「いやいや、いいっすよ、生田さん」


「いいじゃねエだろ、何処か折れてたらどうすんだ」


「まず、話を聞いてください、病院はその後で行きますんで・・・」


生田は、令人の、腫れた瞼で塞がれかけている瞳をじっと見つめる。


「分かった。いいか令人・・・」


名前を呼ばれ、令人の視線がかすかに上がる。


「包み隠さず全てを話せ、俺だけにはな」


令人は、思わず顔を上げる。


シルバーのピアスの奥で、漆黒の揺らぎのない瞳。


それを確かめるようにじっと見る令人の目は、潤んでいるようにも見えた。


「生田さん、俺、全部話してもいい?」


「あたりめエだ」


それまで張り詰めたように無表情だった令人の表情がふっと緩んだ。


溜め込んだ物を吐き出すように、大きく溜息をつく。


「でもこの事を誰かに話したら、俺、いくら生田さんでも殺したい程憎むよ?」


「誰にも言わねエ、約束する。それともお前は俺がその約束を守れねエとでも思うか?」


令人は小さくゆっくりと首を横に振る。


そして不安そうな表情のまま、ゆっくりと話し始めた。



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