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東京2044  作者: mimi
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秘密の地下施設②

仕方がないので、二人は何の収穫も得られないまま、カズマの部屋を出た。


セナはしきりに何かを考えているようだったが、あるドアの前に来ると足を止めた。


「私の部屋・・・」


懐かしそうにドアに指先を触れた。


「ちょっと寄ってもいい?」


イースはにこりと微笑む。


「いいよ」





中に入って電気を点ける。


辛い日々だったとは言え、子供の時からずっと過ごした部屋だ。


セナは懐かしさに胸が少し苦しくなった。


「うわあ・・・」


イースが呟く。


セナにはイースがどういう意味でその言葉を言ったのか、分かった。


「なんていうか、少し怖い・・・」


イースは全ての壁を覆い尽くす勢いで張り付けられている紙見回して言う。


その紙の一つ一つに、鉛筆や黒いペンで、不思議な絵が書かれている。


「全部私が書いたの」


セナは言う。


「こんな風に壁に貼り付けたりはしてなかったけど。私がここを出て行った後、誰がこんな事したんだろ」


イースは壁に近寄り、絵を一枚一枚まじまじと見る。


「よーく見ると、結構芸術的かも。現代アートだね、絵の事は良く知らないけど。でも・・・」


部屋中をぐるりと見渡す。


「こんなに集められると、黒魔術の儀式か何かみたい」


セナはどこかさみしそうに微笑むと、絵の一つに触れた。


「何か嫌な事がある度に書いてたの。そうすればすっきりしたから」


ふうん、とイースは分かったような分からないような返事をした。


「私はここで、正気を保つのが精一杯だった・・・」


セナは部屋を見渡しながらそう言う。




その時、開くはずのない入り口のドアが、キイ、と小さな音を立てて開いた。





「誰かいるの?・・・セナ?!」


ドアの隙間から女の顔が覗く。


「サキ!」


パニックになったセナは、イースの方を見るが、もうそこにはイースはいない。


「あんた、どうしてここに・・・うグッ!」


サキが次の言葉を続ける事は出来なかった。


イースが手に持つ拳銃が、顎の下から強く押し当てられ、口を開くことが出来なくなったからだ。


「これ、本物だよ、分かるよね?」


イースはさっきまでとは声質を変えながら、サキを脅す。


黒い帽子とバンダナの間から除く鋭い眼光と、拳銃を扱う慣れた手付きは、イースが只者ではない事を表しており、サキを怯えさせるには十分だった。


イースのはサキの背後に回り、背中を強く押して、部屋の奥へと無理やり歩かせる。


途中、マ・カ・セ・テ、と口の形だけで、セナに合図を送った。


セナは心配そうな顔をしているが、一応は了解したようだ。




部屋の角まで来ると、イースは乱暴にサキを押し倒し、そのせいでサキは尻餅をつくと同時に、したたかに背中を壁に打ち当てた。


「君の事は噂で良く聞いてるよー」


イースは自分もしゃがむと、改めて拳銃をサキの頭に突きつける。


「君への仕返しもしたいけど、聞きたい事があるからその後にしよう」


「分かった、言う通りにするから、絶対撃たないで!」


セナは、二人のやりとりを、少し遠くから心配そうに見つめている。


「カズマ君は部屋にご不在のようだけど、何処にいるの?」


「知らない、一週間前に東京にいったっきり、帰って来なかった。SP達はカズマが勝手に逃げ出したって言ってるみたい」


「カズマが逃げ出す訳ないじゃない!」


セナが咄嗟に口を挟む。


サキはゆっくりと視線をセナの方へ移す。


「そうよ、カズマはこのままいけば後継者になれたのに。何かの事件に巻き込まれたのかもって思うけど、みんな口には出さない。だって後継者の席が一つ空くしね」


セナは呆れた時にそうするように、口元を緩め微笑を浮かべる。


「あいかわらずね」


サキは何が悪いの、とでも言うようにセナを睨みつける。


その時、サキの左腕にドンという衝撃と鋭い痛みが走った。


「動くなよ」


イースは細かい針が沢山ついた注射器のような物を、サキの腕に突き立てている。


「何するのっ!」


針が刺さっていた部分をもう一方の手でさすりながら、狂ったように喚く。


「さっき言ったよね、仕返しするって」


「何を入れたの?!」


「仕返しに相応しい物。今の十倍早く歳をとるようになる薬」


ぎょっとしてセナはイースに目を向ける。


しかしサキはそのまま首をうな垂れ動かなくなった。


「なーんてね、本当は睡眠薬。明日は一日絶対目が覚めないよー」


イースは拳銃をやっとホルダーにしまう。


「そして目が覚めた時には、今の事は綺麗さっぱり忘れてる」


セナはそれを聞いて、色んな意味で胸を撫で下ろした。






施設からは脱出は、何の問題もなく順調にいった。


二人は静かにドアから外に出てバイクに乗り、そこを後にする。


セナはやっと安心感と開放感に包まれた。




東京へと戻る、帰り道。


「イース、ありがと。イースがいなかったらこんな事できなかった」


疲れのせいで小さな声だが、心のこもったその言葉に、イースは優しく微笑む。


「そういってもらえると嬉しいよ、秘密の地下施設を見学できて凄く楽しかったし」


この世の中にイースを怖がらせる事が出来るものはあるのだろうか、セナはそんな事を思う。


二人をの乗せたバイクは、誰もいない暗い夜道をただひたすらに東京へと走る。






やがて東京へ着くと、イースはバイクをセナのマンションの前へとつける。


セナはイースに良くお礼を言ってから別れ、自分の部屋へと帰る。


部屋についた途端、その場に力が抜けたように座り込んだ。


その表情は虚ろで、床の一点をぼんやりと見つめている。


一回座り込んでしまうと、再び立ち上がる事は困難な程疲れていた。


「令人・・・」


セナは令人の痛々しい姿を思い出す。


今までずっと、カズマが令人を一方的にあんなにしたのだと思っていた。


しかし、セナは認めたくなかったが、・・・そう考えればすべて合点がいく。


「令人、あんたいったいカズマに何したの?」



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