秘密の地下施設①
セナの告白の後、二人は近くの安いホテルで眠った。
もう丸一日がたっていたが、セナはそうとう疲れているようで、一向に起きる気配はなかった。
しかしイースは起きていた。
壁を背もたれのかわりにして、ベットの上にあぐらをかいている。
足の上にはノートパソコンが乗っていて、それで様々なタイプのキー認証の解除の方法を探っている所だった。
頭痛がしたので、目と頭を休ませる為に画面から目を背ける。
横で眠ってる、セナの方を見た。
安らかに、気持ち良さそうに眠っている。
昨日、セナが話した事を思い出す。
話の内容は衝撃的で、イースは自分の事のように怒りを覚えた。
「人間って、どうしてこうも自分勝手なのかな」
小さな声で呟くと、セナは眠りながら、ほんの少しだけ顔を歪めた。
セナが目を覚ますと、二人はお腹を満たし、ホテルを出発した。
その頃には、セナが施設に行こうとしている本当の目的ーーカズマに、令人と何があったのかを聞き出すーーについても、イースは聞いていた。
途中、必要な物を買う為に寄り道をしながら、二人はセナが育った施設を目指す。
道中、二人は静かだった。
セナはかなり緊張していた。
イースは本当はわくわくしていたが、セナの手前あまり表には出さないでおいた。
その変わり、頭の中で、侵入経路のシュミレーションを何回も行った。
深夜3時。
二人はの乗ったバイクは、施設がそびえ立つ広大な空き地へと静かに侵入する。
茂みでバイクが隠せる場所で降りると、袋を取り出す。
袋の中には、顔を隠す為の道具が入っていて、二人は帽子やバンダナ、サングラスで完全に顔を隠す。
袋の中には、その他にもカズマがなかなか喋らない時の尋問に使えそうな道具などが入っている。
イースがそれを肩に担ぐと、二人は速やかに施設の入口へと向かった。
「どう?」
入口のロックの様子を調べているイースに声を掛ける。
「これだったら全然大丈夫、カードだけで行けるよ」
厚みのある掌サイズのカードを錠にかざすと、ワンテンポ遅れてカチリという音が鳴り、鍵があいた。
音を立てないよう注意しながら、二人は施設の中に侵入する。
"秘密の地下室"への行き方は、セナが知っている。
入り組んだ廊下を迷うことなく進み、非常用通路・立入禁止と小さく書かれているドアの前で足を止めた。
「ここ」
「間違いない?」
「うん、合ってるはず」
イースは錠の形状を見ると、今度はすぐさまパソコンを取り出した。
「どう?」
「これは少し時間がかかるよ」
イースは見たこともない道具で、錠のカバーに小さな穴を開け出した。
それが完了すると、パソコンから延びた線を小さな穴の中に挿入する。
暫くそれで悪戦苦闘した後、今度はパソコンのキーを目にも止まらぬ早さで打つ。
軽やかにEnterのキーを押すと、画面がチラチラと光り出す。
「九桁の暗証番号だから、三十分ってとこかな」
二十分が経過しただろうか。
しかしセナにとっては一時間より長く感じた。
頻繁に腕時計に目をやる。
その時、ペタペタという足音がかすかに聞こえた。
二人に緊張が走る。
イースは麻酔銃をこっそりと背後に構えた。
ペタペタという足音が止まり、廊下の一番奥に姿を現したのは、幼稚園児位の年齢の子供だった。
眠そうに目をこすり、ぼーっとこっちを見つめてくる。
セナはサングラスを外し、顔を覆うネックウオーマーを下にずり下ろした。
「シーッ」
立てた指を口元にあて、諭すようにそう言うと、子供もしーっ、とそれを真似た。
そして大きな欠伸をしながら、何処かに行ってしまった。
「大丈夫かな?」
セナは心配そうに言う。
「まあ子供だし、夢だと思うんじゃね?・・・おっ!ヒットした」
チラチラと光っていたパソコンの画面に、小さく数字の羅列が表示される。
そして、ガチャっとドアのロックが外れる音がした。
「侵入成功♪」
イースが先導して、二人は扉の中へと入っていった。
扉から続く廊下をまっすぐ行くと、突き当たりにエレベーターがある。
そのエレベーターに乗り込み、セナはB6のボタンを押す。
「寝室は全部、地下六階にあるの」
エレベーターは静かに地下に向かって動き出した。
地下六階で降りると、廊下にそってドアがずらりと並んでいる。
「カズマの部屋は、こっち」
小声でそう言うと、セナは足早に歩き出す。
カズマの部屋の前。
鍵を開ける用にイースは施錠用のカードを取り出そうとしたが、何故か部屋に鍵はかかっていなかった。
イースが麻酔銃から拳銃へと持ち変えると、二人は目配せをし、カズマの部屋に踏み込んだ。
イースは拳銃を前に構えたまま、素早くベットに接近する。
「動くな!」
セナが部屋の電気をつけた瞬間、隣の部屋に聞こえないぎりぎりの大きさの声で、イースが言葉で威圧する。
しかし予想外の事態が起こった。
「?!」
そこに、カズマはいなかった。
イースが注意深く部屋中を見回すが、やはり何処にもいない。
「なんで・・・?」
セナは動揺してイースの方を見る。
「さあ?」
イースはおどけて見せた。