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東京2044  作者: mimi
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セナの過去③

施設からの逃亡は、案外すんなりと成功した。


二人は、施設を訪れた人間を騙し、その人間と共にその人間の車に乗り込み、東京へと辿り着いた。


初めて本物の自由を手に入れ、やりたい事は有り余っていた2人だったが、身の安全を確保する為に、前々から計画していた“ある計画”を即座に実行に移した。


ある巨大なオフィスビルの前。


二人は神妙な面持ちでそこに立っていた。


「行くぞ」


令人の声に、セナはゆっくりと頷く。


なぜか令人だけが先にオフィスビルに入っていった。


セナもきっかり三分たったのを確認してから、一人でオフィスビルに入ってゆく。


エレベーターで十九階まで上がる。


ドアが開くと、『生田法律事務所』の文字が目に飛び込んでくる。


セナは令人がそこに居るのを確認して、令人のとなりの相談窓口へと座る。


「生田弁護士を呼んでください!」


隣からは令人の真剣な声が聞こえてくる。


「どうしても生田弁護士じゃないと話せないんです、俺の命に関わる事なんです」


「えー、しかし、直接本人には会えないんです、代理人を通してでないと・・・」


やっぱり駄目か、とセナは心の中でため息をつく。


「お客様、今日はどのようなご相談で?」


セナの目の前に座っている女性がセナに話しかけてくる。


「あー、えーっと」


適当に話をでっちあげようとした、その時だった。


「生田を呼べ!!」


令人がそう大声で怒鳴り、セナの襟首を強引に掴んだ。


痛い、令人本当に痛いから、セナは心の中で唱える。


令人はそのままセナの体を自分の方へ引き寄せ、本物のナイフをセナの喉元に突きつける。


「俺は本気だ、生田を呼ばねえならこの場でこいつを殺す」


周りからは悲鳴が上がる。


「まあまあ、落ち着いて・・・」


職員の一人が歩み寄ろうとしてくる。


「寄るなあ!!」


令人の凄まじい剣幕に職員の足が止まった。


「今すぐ生田を呼べ、それから奥の部屋を一つ用意しろ、じゃないとこいつを殺して俺も死ぬ」






暫くして、二人は鍵の付いたドアのある、奥の部屋へと案内された。


生田以外は絶他に入ってくるな、令人はそう言い、セナを人質にとったまま、部屋に立てこもった。


コツコツ、と音を立てながら、早足でその部屋に向かう一人の男がいた。


長身のすらりとした体に上品な光沢を放つ黒いスーツを纏い、長い黒髪を後頭部で一つにまとめている。


しかし何よりも印象に残るのは、眉の下や唇、鼻、顔中に開けられたシルバーのピアスだろう。


それらは、生田の表情を大変分かりにくくしていた。


「餓鬼が、自分がやってん事解ってやってんだろうなア」


合鍵でドアを開けながら呟く。


鍵が空くと、ドアを足で蹴り開けた。


そこには聞いていた通り、少年と少女がいた。


ただし、少年は少女を人質になどとってはいない。


床に頭をつけて、二人は土下座していた。


「すみません!!」


「はア?」


「どうしてもお会いしたかったんです!」


顔をあげた二人は、特に少女の方だが、生田の顔をみて更に怯えた表情になる。


「人質をとったのは演技です、俺は令人、こいつはセナ、妹みたいなもんです。お願いです、少しだけ話を聞いてもらえませんか?」





三十分後、対面式のソファの片側に令人とセナが、もう片側に生田が座っていた。


三人の前にはコーヒーが出されいる。


令人は自分達の生い立ち、マスダタカユキのもくろみ、そして施設を脱け出してきた経緯について洗いざらい話した。


「驚いたぜ、マスダタカユキがそんな事していたとはなア」


初めは面倒そうに聞いていた生田だったが、いつしか顔つきが真剣になっていた。


「俺達、決められた時以外絶対施設の外に出たらいけない事になっているんです。もし施設に連れ戻されたら、最悪殺されるかもしれない」


「それはねえだろ、血は繋がっていなかろうが自分の子なんだぜ?」


令人の切羽詰まった表情を見ながら、慎重に生田が言う。


「代わりはいくらでもいる」


生田は、令人とセナの痛々しい程必死な目を、交互に見つめる。


「だとしたらやべエかもな」


生田は考える時の癖で、手を顎の辺りに持ってゆく。


令人は、言いたい事が伝わったと思ったのだろう、表情が少し柔らかくなった。


「図々しいのは百も承知です、俺らの事、暫くの間守って頂けないでしょうか」


本題が来たな、生田は心の中で呟く。


「守ってやる、とすぐにでも言ってやりてエ、そうすんのが人の道だってのも分かる、だがな・・・」


二人は、次の言葉を固唾を呑んで見守る。


「汚ねエ大人の事情ってやつがある、正直、俺かてマスダを敵に回すのはごめんだ」


みるみる落胆の表情が色濃くなる。


「安心しろ、俺はお前らの依頼を断わった訳じゃねエ、この事は俺に任せろ、だが今すぐお前らを守ってやれる訳じゃねえのを、良く肝に命じとけ」


令人とセナは顔を見合わせる。


回りくどい言い方だが、生田はどうやら手を貸してくれるようだ。


二人の顔に、喜びと安心感からくる笑みが咲く。


「二つ、約束してもらう、こっからは汚ねえ大人の取引だ、餓鬼は絶対に首を突っ込まねえ事った」


令人とセナはうんうんと首を縦にふる。


「それから、暫くはこの事務所で寝泊まりしろ、外に出る時は絶対二人一緒に、だ。てめえらの身はてめえで守れ」


「有り難うございます!」


令人の威勢のいい礼につられ、セナも首を下げる。


「やったな、セナ」


「うん!」


嬉しそうな二人を脇目に、部屋を出た生田の表情は険しかった。


「生田先生、どうでした?」


部屋を出るなり、生田より大分年上の弁護士が、心配そうに話しかけてくる。


「やばいのが迷いこんじまったみてエだな」


「はア・・・」


年上のの弁護士は、悩ましそうにその白髪交じりの頭をかかえた。







二人が『生田法律事務所』に世話になり出してから、三日がたっていた。


二人は、出歩く場合は人通りの多い昼の時間帯に、必ず二人一緒に出歩くようにしていた。


人の多い時間帯なら、いくら施設お抱えの強靭なSPでも、人目を盗んで二人を連れ去るのは無理だろう、と考えたからだ。


今日も、食べ物と最小限の日用品を買った帰り道、二人は人がごった返す道を、辺りを警戒しながら歩いている。


その時、前触れなく令人が足を止めた。


「どうしたの?」


セナも足を止め、不思議そうに聞く。


令人は目を細め、生田法律事務所が入っているオフィスビルの入口辺りを、よく目を凝らして見る。


「セナ、こっちに来い」


令人はそう小声で言い、二人は建物の陰に身を隠す。


令人の酷く緊張した顔を見て、セナの表情も凍りつく。


「今、タカユキがいた」


タカユキとはカズマの取り巻きの一人である。


「嘘っ、そんなはずないよ!」


「でも確かにいたんだよ」


「どういう事・・・」


次の瞬間、セナは恐怖に息を呑んだ。


セナの極限まで見開かれた瞳が写す物を見る為に、令人は振り返った・・・が、遅かった。


それを見る前に、令人の頭に拳が勢いよく振り下ろされる。


地面に膝をつく令人と、恐怖に悲鳴を上げるセナ。


「セナあ、どういう事か教えてあげよっかあ?」


「サキ・・・!」


セナはパニックになりながら回りを見回す。


いつのまにか、施設にいるはずの"兄弟"達に取り囲まれていた。


ざっと二十人はいそうだ。


「私達はねえ、狩りをしに来たの。獲物(ターゲット)はあんた達よ」





二人は兄弟達に完全に取り囲まれながら、バスの方へと連れていかれた。


はたから見たら、修学旅行か何かの集団のように見えたかもしれない。


バスでの帰り道が悲惨だったのは言うまでもない。


このまま施設につく前に、バスごと崖から落ちてくれたらどんなに嬉しいか、セナは本気でそんな事を考えていた。






しかしバスは無事施設に着いた。


令人とセナは、処分を待つ間、懺悔室に入れられる。


懺悔室は、罪の重大さによって入れられる部屋の大きさが異なったが、二人はもちろん一番小さい懺悔室に入れられた。


そこは、小さなトイレが付いているだけの、二畳ほどの部屋だ。


二人はそこで三日程過ごした。





しかし、四日目に異変が起きた。


二人は、懺悔室を出る事を許された。


そればかりか、講師達から吐き捨てるように、施設を出て行くように、と言われたのだ。


すべて生田の計らいだった。


驚いて言葉が出ないセナの頬を、涙が次々と伝った。





施設の外に出ると、法律事務所の職員が運転してきた、エメラルドグリーンの車がそこに止まっている。


涙が止まらないセナと、まだ暗い顔をしている令人を乗せて、車は東京へ向かい出発する。





二人は生田にとてつもなく大きな借りが出来た。


生田は、養子縁組をしてまで、二人を救ってくれたのだ。


二人には一生かかっても返せない恩を、なんとかして、少しでもいいから返したい、という強い思いが芽生えた。


なので二人は、生田法律事務所の傘下の探偵事務所で働く事にした。


そこで得た収入の、決まった割合を、生田に払う事にしたのだ。


元々英才教育を受け、施設で護身法なども習得していた二人は、すぐに才能を発揮し出した。


仕事にも、東京の町にも慣れた頃、二人は人並みに幸せで、自由な人生を真に手に入れたのであった。

































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