決別
二人は倉庫を出た。
「うーっ、寒いー」
イースは冬の寒空の下で身を強張らせる。
「どうしたの?元気ないねえ」
俯きながら足取り重くついて来るセナに声をかけた。
暫く歩き、イースが乗ってきた中型バイクの前で二人は足を止める。
「ねえ」
セナはそのツヤツヤとした黒とシルバーの車体を焦点定まらず見つめながら、呟くように言う。
「連れて行って欲しい所があるんだけど」
紫のロードライトに照らされて、二人を乗せたバイクは周りの車をどんどん追い越して行く。
「ヘルメット、持ってこなくてごめん」
風に負けぬようイースが大声で言う。
「全然っ、こっちの方が気持ちいいし、楽しーー!」
初めて乗るバイクに、セナのテンションは上がっている。
「もっと楽しい事する??」
イースはそう言うと、車体を思いっきり斜めに倒した。
車と車隙間をすり抜け、道路をジグザグに走る。
「きゃーーっ」
セナは悲鳴を上げながらも、存分に楽しんでいる。
やがてバイクは主要道路から外れ、暫く一般道路を走り、静かな路地へと入ってゆく。
そして、令人の家の前で止まった。
「ありがと、イース」
そのまま後部座席から軽やかに飛び降りる。
「悪いんだけど、ここで待ってて、すぐ帰って来るから」
「はいよー」
イースが返事をした頃には、セナはもうマンションに向かって駆け出していた。
マンションの小さなエントランスホールを早足で横切り、来客用のパネルに令人の部屋番号を打ち込む。
お願い出て、セナは心の中で祈るように唱える。
「はい・・・」
セナの思いが通じたのか、辛そうな令人の声がパネルから聞こえてくる。
「令人、セナだけど、中に入れて」
セナはなるべく優しい声でパネルに話しかける。
令人は何も答えない。
「そんな状態じゃほっとけないよ、中に入れてくれないなら、生田さんに全部話す」
沈黙が続いた。
セナは令人が何か言ってくれるのをただじっと待った。
「俺はお前に心配されるほど柔じゃねえ、俺の事は暫く一人にしてくれってさっきも言ったし、生田さんにも言うな。だけどどうしてもお前がそうしたいって言うんなら勝手にしろ。その変わり俺らの関係はもうこれっきりだ!」
一言一言噛みしめるように言うと、令人は通話を一方的に切った。
せなは呆然とパネルの前に立ち尽くす。
気持ちを落ち着かせる為に暫く時間を置いた後、再び令人の部屋番号をパネルに打ち込むが、何回試しても、再び令人が出る事はなかった。