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東京2044  作者: mimi
10/40

帰路

セナは結局、近くの駅の前でタクシーを拾い、事務所へと向かった。


道が混んでいたせいもあってか、帰り道は二時間以上の時間を要した。


跳ね上がった料金メーターの数字を誰かにどうにかしてもらう為に、セナはタクシーを表に待たせ、事務所に通じる階段を駆け上がっていく。


事務所のドアを勢いよく開けると、中にいる数人の目がセナに集中する。


「セナ!!」


ほんの僅かな沈黙の後、そこにいた令人がセナに駆け寄った。


間髪入れずセナをぎゅっと抱きしめる。


「よかった、心配したんだぞ」


令人がそのままなので、セナは恥ずかしくなり令人を自分から引きはがす。


令人の目にはくっきりとしたくまが出来ていて、セナはそれを見て申し訳なく思う。


「怪我はないか?!」


「何があったの?!」


浴びせかけられる質問に答え損ねていると、かおりさんがお茶を入れてきてくれた。


「まぁみんなおちついてよ、話はゆっくり聞けばいいじゃない」





あったかいハーブチティーのおかげで、セナはここ二日あった事について、ゆっくり話す事が出来た。


事務所にその時いたのは令人、かおりさん、所長の三人だったが、三人ともセナの話に吸い込まれるように聞いていた。


セナは詳細に話したが、最後に見た黒い車の事と部屋に飛び散った血の事は、無駄な心配をかける気がしたので伏せておいた。


話が終わると、令人はいきなりセナの頭をがっと掴み、ぐらぐらと揺らした。


「おまえ頭大丈夫か?」


セナはむっとした顔でその手を振り払う。


「まぁセナちゃんの話を信じよう」


所長はそう言ったが、その口ぶりはあまり信じているようではなかった。



「あ、そうそう」


その場の空気を変えようと、所長が口を開く。


「僕らも橋本イースについて詳しく調べたんだけどね…」


所長はそばにあったデバイスを手にする。


「一つ、面白い事が分かったんだよ」


セナは所長から手渡されたデバイスの覗き込む。


そこには花のように笑う、可愛らしい少女が映し出されている。


少女の髪は長く、穢れを知らないような笑顔の為、気が付きにくいがこれは…


「橋本イースだよ」


セナははっとしたように顔を上げ、所長の顔を見た。


「少なくとも顔のパーツは驚くほどそっくりだ」


「アメリカの二番手の製薬会社、オスターのご令嬢様らしいぜ」


令人が口をはさむ。


「だけどここ二、三年の写真がまったくないんだ、どこをどんだけ探しても」


セナはデバイスを食い入るように見つめた。


デバイスの中のイースは、この世の幸せしか知らないようで、セナの見たイースの面影はなかった。


ただ一つ、顔が同じという事を除いては。


セナはその意味について思考を巡らせたが、答えはうっすらとさえも見えてこなかった。





事務所を出てマンションに着く頃には、もうすっかり夜も更けていた。


部屋に戻ってもなんだかぼんやりとしていた所に、令人からの着信がある。


壁に画面いっぱいに映し出されたのは令人のふて腐れた顔だった。


「おまえ、俺からの電話一方的に切っただろ」


「だって色々大変だったんだもん」


「あのなあ、こっちがどんだけ心配して」


「だからごめんってば」


セナは突如、窓の方向を振り向いた。


「どうした?」


全神経を窓のほうに集中しているセナに令人が声を掛ける。


「なんでもない」


セナの耳は、確かにベランダで微かな物音がしたのを捉えていた。


しかし、ここは32階だ。


気のせいかな、セナは心の中で呟く。


「今日はもう寝るね」


「あぁ、おやすみ」


そう言うと、令人は間髪入れずにぶちっと通話を切った。


やれやれ、といった動作でセナも電源を切る。


同じボードで、電気のスイッチを切る。


しかし、すぐ眠りにはつかなかった。


鋭い目つきで窓の方を睨むと、そろりとベットから抜け出し、足音を殺して窓へと近づいた。


そして一気にブラインドを引き上げた。




セナは甲高い叫び声を上げた。


怖かったのだ。


窓ガラスを一枚はさんだそこには、いるはずのないイースが立っていたから。



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