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泉鏡花とAI:AIは「春昼」を翻訳できるか?

作者: 数宮 響
掲載日:2026/10/26

「泉鏡花の文章をAIは翻訳できるのか?」

素朴な興味から試してみた結果を共有します。

私見では「翻訳できていない」と思いますが、皆さんはどうお考えでしょう?

私見の詳細は最後のコメントに記載しています。


原文:青空文庫より


「お爺《じい》さん、お爺さん。」

「はあ、私《わし》けえ。」

 と、一言《ひとこと》で直《す》ぐ応じたのも、四辺《あたり》が静かで他《た》には誰もいなかった所為《せい》であろう。

そうでないと、その皺《しわ》だらけな額《ひたい》に、顱巻《はちまき》を緩《ゆる》くしたのに、ほかほかと春の日がさして、とろりと酔ったような顔色《がんしょく》で、長閑《のど》かに鍬《くわ》を使う様子が——あのまたその下の柔《やわらか》な土に、しっとりと汗ばみそうな、散りこぼれたら紅《くれない》の夕陽の中に、ひらひらと入《はい》って行《ゆ》きそうな——暖《あたたか》い桃《もも》の花を、燃え立つばかり揺《ゆす》ぶって頻《しきり》に囀《さえず》っている鳥の音《ね》こそ、何か話をするように聞こうけれども、人の声を耳にして、それが自分を呼ぶのだとは、急に心付《こころづ》きそうもない、恍惚《うっとり》とした形であった。


英語:ChatGPTによる翻訳

“Grandfather! Hey, Grandfather!”

“Eh? Me, you mean?”

The old man answered at once, perhaps because everything around him was so quiet and there was no one else about.Otherwise, it would have been hard to imagine that he could so quickly have noticed a human voice calling to him.

His forehead was a mass of wrinkles, and the headband around it sat loosely. The warm spring sunlight shone upon his face, which wore the drowsy, slightly intoxicated expression of someone lulled into a pleasant stupor. He went on peacefully working his hoe.

Beneath him lay the soft earth, almost moist with warmth, and the peach blossoms above him swayed so vigorously that they seemed ready to burst into flame.

Birds fluttered among the branches, chirping incessantly. Their calls, mingling with the flowers and the sunshine, sounded almost like voices engaged in conversation.

The old man appeared so completely absorbed in this tranquil scene that he might not have realized at once that the voice he heard was calling to him.


英文の日本語訳:ChatGPTが英語に翻訳した文章を ChatGPTが日本語に翻訳

「お爺さん! ねえ、お爺さん!」

「えっ? わしのことかね?」

あたりがひどく静かで、ほかに人影もなかったせいだろうか。老人はすぐさま返事をした。そうでなければ、呼びかける人の声に、これほど素早く気づいたとは考えにくかった。

老人の額には深い皺が幾筋も刻まれ、その上に巻いた鉢巻はゆるんでいた。暖かな春の日差しが、心地よい眠気に誘われ、少し酒に酔ったような顔つきをした老人の顔を照らしている。老人は、何事もなかったかのように、静かに鍬を動かし続けていた。

老人の足元には、暖かさでしっとりと湿ったような柔らかな土が広がっていた。その頭上では桃の花が勢いよく揺れ、今にも燃え上がりそうなほどだった。鳥たちは枝から枝へと飛び交い、絶え間なくさえずっている。花や日差しに溶け込むその声は、まるで誰かが楽しげに語り合っている声のように聞こえた。

老人は、こうした穏やかな春の景色にすっかり心を奪われているようだった。だから、自分の耳に届いた声が自分を呼んでいるのだと、すぐには気づかなかったのかもしれない。


コメント(私見):

原文の「あのまたその下の柔《やわらか》な土に」から「何か話をするように聞こうけれども」の部分が、うまく翻訳されていない気がします。

鏡花の文章は、現代の標準的な日本語ではないでしょう。ですから、その解釈自体、いろんな説があると思います。

あくまでも個人的な見解ですが、上記の箇所は、以下のような意味だと解釈します。

下の文は、原文の語順を少し入れ替えたものです。


散りこぼれたら

やわらかな土に

紅の夕陽の中に、

ひらひらと入って行きそうな

しっとりと汗ばみそうな、暖い桃の花を、

燃え立つばかり揺ぶって

しきりにさえずっている鳥の音こそ、

何か話をするように聞こうけれども、


つまり、「土の上や夕陽の中に散りこぼれそうな暖かい桃の花を、揺さぶりながらさえずる鳥の声が話し声のように聞こえるけれど」と、私は解釈します。

もしかすると、この解釈は正しくないかもしれません。

しかしいずれにしろ、英語訳、現代語訳ともに、桃の花が「散る」という部分が欠落しています。「花が散る」という部分は、文学的にかなり重要な要素だと思うので、ここが抜けてしまうのは致命的な感じがします。

あくまでも素人の個人的な見解ですが。

まあ、しかし、AIにとって泉鏡花の文章を学習することは、それほど重要な使命とも思えないので仕方ない気がします。


ちなみに以下の文章をAIに翻訳させると、こうなります。


「散りこぼれたら、やわらかな土に、紅の夕陽の中に、ひらひらと入って行きそうな、しっとりと汗ばみそうな暖い桃の花を、燃え立つばかりに揺ぶってしきりにさえずっている鳥の音こそ、何か話をするように聞こえる」


The birds, fluttering among the warm peach blossoms, so moist and almost perspiring that they seemed ready to fall softly into the earth and drift down into the crimson evening sunlight, shook the blossoms until they seemed ablaze, while their incessant chirping sounded almost like voices engaged in conversation.


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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