表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣の席のぼそぼそ女子が、実は人気イケメンバーチャル声優で、俺だけがその秘密を知っている。  作者: きたみ詩亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

第3話 練習という名の、外出

 土曜日。

 駅前は、朝からもう夏の匂いがしていた。


 俺の名前は瀬能淳弥。

 身長百七十センチ、黒髪短め、フツメン。

 今日は――隣の席の地味女子と、二人で外出する。


 理由は「練習」。


 そう、あくまで練習だ。


◆◆◆◆


 待ち合わせ場所に、十分前に着く。


(……早すぎた)


 自販機の前で時間を潰していると。


「……せ、瀬能くん……」


 背後から、聞き慣れた声。


 振り向くと、笠井夏羽が立っていた。


 白い半袖ブラウスに、薄い水色のスカート。

 髪はいつもより少しだけ整っている。


「……お、おはよう……」


「お、おはよう」


 目が合って、すぐそらす。


「……今日……暑いね……」


「……だな」


 沈黙。


 でも、昨日よりはマシな気がした。


◆◆◆◆


「……どこ……行く……?」


「……その……」


 夏羽は、小さく指を立てる。


「……人……多いとこ……」


「……人の声、聞くって言ってたな」


「……うん……」


 駅前のショッピングモールへ向かうことにした。


 中は冷房が効いていて、少し安心する。


「……わぁ……」


 夏羽が、きょろきょろ見回す。


「……人……いっぱい……」


「……これが目的だろ」


「……う、うん……」


 歩いていると、急に人が増えた。


「……っ」


 誰かに押されて、よろける夏羽。


「うわっ」


 反射的に、腕を掴む。


「……っ」


「だ、大丈夫か?」


「……う、うん……」


 近い。


 思ったより、近い。


 夏羽のメガネの奥の目が、見える距離。


「……あ……」


「……あ」


 慌てて、手を離す。


「……ご、ごめん……」


「……だ、大丈夫……」


 顔が、ちょっと赤い。


 俺もだ。


◆◆◆◆


 フードコートの端の席に座る。


「……喉……乾いた……」


「……何飲む?」


「……れ、レモン……」


 レモンジュースを二つ買って戻る。


「……ありがとう……」


 ストローをくわえる夏羽。


「……あの……」


「ん?」


「……声……少し……出してみても……いい……?」


「……いいんじゃないか」


「……その……

 灰崎の……台詞……」


「……え」


 心臓が跳ねた。


「……聞いて……ほしい……」


「……わ、わかった」


 夏羽は、目を閉じる。


「……君の声が……

 世界を照らす……」


 小さな声。


 でも、ちゃんと――

 あの声だった。


「……どう……?」


「……」


 正直、言葉が出ない。


「……前より……」


「……?」


「……優しい感じ……する」


「……やさしい……?」


「……前は……

 ちょっと……無理してる感じ……だった」


 夏羽は、考え込む。


「……そっか……」


◆◆◆◆


 立ち上がるとき、事件は起きた。


 俺の足が、バッグの紐に引っかかる。


「うわっ」


「……きゃ……」


 夏羽に、倒れ込む形になる。


 ドン。


「……っ」


 額が、軽く当たる。


「……ご、ごめん!」


「……だ、大丈夫……」


 顔が、近い。


 近すぎる。


 目が合う。


「……あ……」


「……あ……」


 周囲のざわめきが、遠くなる。


「……な、何してんだろ……俺たち……」


「……れ、練習……」


「……そうだな……」


 二人同時に、離れる。


「……す、すみません……」


 声が、裏返った。


 夏羽は、俯いたまま。


「……瀬能くん……」


「……ん?」


「……今日……来てくれて……

 ありがとう……」


「……いや……」


 胸が、ちょっとだけ、あったかい。


◆◆◆◆


 帰り道。


「……また……行こ……」


「……え?」


「……練習……」


「……ああ……」


 夏羽は、少しだけ微笑った。


 ほんの一瞬。


 隣の席の、地味な女子。

 その正体は、

 俺の推しのバーチャル声優。


 だけど今は――

 ただの、練習相手。


 ……のはずだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ