6.船での暮らし
採掘は、陽のあるうちで切りあげる。暗いと危ないし、明かりの無駄だ。雨の日は休み。
夕食は、足場でそろって缶詰食。湯を沸かし、インスタントのスープを作るくらいはする。当番制。今日はハロルドが担当だった。サポートにキースがついてやっている。あんまり甘やかすなよ、そいつを。
水は《運び屋》がボトルで運んでくれるが、船に蒸留水製造装置も積んであった。けれど《運び屋》の水のほうがうまいので、蒸留水は食事には使わずにシャワーや洗濯にまわしている。《運び屋》が来れなくなったときには、蒸留水を飲むしかないんだけどな。
四角い缶詰の中身は、パスタのときもあれば、米の飯のときもある。
空になった缶詰はまとめて、あとで《運び屋》に渡す。金属は大事だし、リサイクルするからな。
足場に適当に散って座るが、けっきょくは船や炉の近くに固まっている。
暗くなっても、炉の灯が明かりになった。
俺の隣にアックスがいるのは、メシ目当てだ。配られる数は一定だが、個人の許容量は違う。俺はほかのやつらよりは食が細いので(体力勝負な仕事なので、おなじ年齢の女よりは食ってるはずだが)、缶詰の中身は少し多い。最初からアックスに分けることにしている。俺が手をつけた残りもの食わすよりはいいだろ。
アックスの開けた缶に、フォークでとった麺を盛ってやる。本日は貝っぽいパスタ。トマトソースで味つけされている。
「お、いつも悪ぃな副長」
「残すよりゃ、誰か食ってくれたほうがいい。これくらいでいいか?」
「まだ食えるっちゃ食えるが、動けなくなるほどじゃねえから、いいぜ」
チームでいちばん体に厚みのあるアックスは、やはり、いちばん食う。
いちばん身長があるのはハロルドなんだが、仕事に影響あるから体重を増やさないようにしているし、アックスほどは食わない。
いまのチームメンバーになったときに食事が足りないやつがいるかは確認したんだが、手を挙げたのはアックスだけだったので、食事時の俺の隣はアックスになっている。逆側にはウィーザーがいたりもするが。その隣はラミア。
ラミアは俺より背が低いのに、食べられる量なんだよな。成長期すごいな。
「アックスだけじゃなくて俺もかまってくれ」とか云ってる男がいるが、おまえ、食事は足りてるだろ。意味不明に甘えるんじゃない。
寝床は、二艘の船に男女で別れる。当然、俺はラミアといっしょだ。女はふたりだけ。男は八人もが、ひとつの船で寝ている。男女比ちょっと考えたほうがいいんじゃないかと思うが、そもそも《採掘師》になる女は少ないのだ。
(セイラはほんとに《採掘師》になる気かね……)
難しいとは思うが、女の《採掘師》が増えるぶんには歓迎しなくもない。俺みたいってのは推奨しないが。
船室には二段ベッドと、背の低いロッカー、小さな書きもの机。揺れるから、基本的に物は放置しておかない。抽斗に入れたり、箱に入れたり、紐でつないだり。揺れたときに飛ぶと、危ないからな。
ラミアは足場で外していたハーネスとアイゼンとヘルメットとを、自分用のロッカーに入れた。乱雑に入れないのは、アイゼンでヘルメットが傷つくと、意味ないからだな。アイゼンはちゃんとケースに納まっている。
ヘルメットは、支給したときには白かったんだが、翌日にこいつはピンクに塗ってきた。ウィーザーは「いいな!」と云って、その日のうちに黒に塗った。ハロルドも青く塗り出し、チームの統一感はなくなっている。島にいるときじゃなくて、船で渡せばよかったかな、と、ちょっと思った。仕事が一段落したあとだったから、島にいたんだよな。
装備はたいてい、チームの金で買って渡す。個人で用意させると、金をケチって強度の足りない安いやつを買ったり、ボロくなっても交換しなかったりするからな。ヘルメットもカラビナもザイルも、摩耗するよりさきに買っておかないと、へたすりゃ死ぬ。
ヘルメットやハーネス、アイゼンなどは個人のものにしていいが、無線だけは仕事が終わったら回収して、俺が管理していた。
《採掘師》に必要な装備は、協会で買える。申請しておけば、《運び屋》が届けてくれたりもした。そこらの港じゃ買えないんだよな。しかたないけど。欲しいと思ったときにすぐ買えるわけじゃないから、カラビナやザイルの予備はいくらか置いてあった。俺のロッカーにな。
頭の形は個人で違うから、ヘルメットの予備は自分のやつしかない。
協会に直接行ってフィッティングができればいいが、そういう余裕がある時期ばっかじゃないからな。《運び屋》が複数持ってきてくれるやつのなかから、合うのを選ぶのがふつうだ。
事故がなければ二年くらいは保つものだから、大事に使ってほしいよな。なるべく、一年で替えるようにしてるが。
チームの金は、こっちの船の金庫にある。鍵は二種類。俺とウィーザーとが持つ鍵がないと、開けられない。
協会に登録している関係上、どうしても新人は受け入れなくちゃならんので、場合によっては信用できないやつが来たりもする。どこに金庫があるのかすら、教えてなかった。こっちにウィーザーを呼んだらバレるので、開けるときは俺が鍵を預かるんだけどな。
こっちの船はもう一方より小ぶりだが、船室は共有スペースであるクルールームを抜いても三つある。
もうランプは消していたが、二段ベッドの上から、ラミアが顔を出した。
「ねえ副長。船長と逢ったときの話、して」
「もう何回も話しただろ」
男どもには仲がわるいと思われているようだが、俺はそうは感じていない。夜のラミアは静かだ。おとなしく、俺にウィーザーの話をねだる。
船室はほかにもあるから部屋を分けてもいいのだが、ラミアは同室を選んでいた。嫌っているやつと、わざわざ同室になろうとはしないよな。
「いいから。聞きたいの」
大半の女は、男に頭をなでられるのが嫌いだ。そりゃそうだろ。子供でもなけりゃな。
ラミアはつまり、ウィーザーに男を求めているんじゃない。父親を求めているんだ。
(とはいえ、俺は母親じゃない)
いいとこ、従姉のお姉さんって感じだ。
ラミアを拾ったころには俺以外にも女の先輩がいて、ラミアを育てたのはそのひとがいたからでもある。すでに十歳くらいまで育ってたとはいえ、俺が子育てできるわけないんだ。
その先輩はラミアと係わっていたら自身の子供が欲しくなったとかで、引退して島にいる。どうせ長くやる仕事じゃないから、子供が産める年齢で退くのはおかしくない。結婚も出産もちゃんとできたらしいし。めでたいな。
俺がラミアを見ていられたのは、文字を教えるくらいだ。情操教育とかはやっていない。子供のする遊びも、ほとんどつきあわなかった。先輩とウィーザーとかがやってたな。
ともかく、ラミアは俺を恋敵だとは思っていない。悪態をつかれていたとしても、憎まれているとは俺も感じなかった。
「そんなにかっこいい話じゃないだろ」
「でも好きなの」
そうか、と俺は返した。べつに、ラミアが望むなら、話くらいしてやってもいい。云えない部分もあるけどな。
俺はいわゆる名家の出というやつで、十代後半まで、海を知らずに育った。
大陸の中央。都市部だ。島と違い、豊かな暮らしをしている。いや、一年じゅう果実が生っている南部の島も、豊かだとは思うが。こないだ行ったみたいな、な。
庭のある広い屋敷で、家族四人と、使用人とで暮らしていた。父は政治家だった。
いまや厚みのあるワークパンツが仕事着兼、普段着の俺だが、そのころにはレースのついたドレスとかを着ていた。嘘みたいだろ。
六歳までの話だけどな。




