私の渋皮煮戦記
そうだ。秋だし、スーパーのポイント溜まってたし、栗の渋皮煮というものを作ってみよう。
そう思った。
まず第一の試練がこれだった。『茨』を選ぶか、『熊』を選ぶか。
11月のはじめにスーパーで栗を見かけた。
そうかぁ、生栗が出てくる時期なんだな。
そんな風に思いながら、お値段を見てすっと通り過ぎた。
だって、税込み約600円もするのだもの。小さな円形プラパックに。
これが安いのか高いのかも分からないが、家計に響きそうな気がした。
普通にお肉買えるじゃん。普通に魚買えるじゃん。
なレベル。
だけど、スーパーに出かける度にやたらと目に入る生栗。
ふと、渋皮煮というものを思い出した。
思い出しただけで食べたこともないもの。だけど、すごく綺麗なイメージ。
味は、甘いはず。
秋だし……。
手に取った栗の容器は「熊本県産」
どの粒が良いんだろう、分からないくせに、もう一つ手に取ってみると「茨城県産」
えっ、どっち?
西か東か……。
そう、思えばこの時から栗という敵との戦いが始まっていたのかもしれない。
悩むこと、数十秒。なんで、地元県産がないんだろう……それだったら迷わず選んだのに。他にあるのは、天津甘栗と、剥いちゃいましたな栗。渋皮煮が作りたいのに、渋皮がなかったらできないじゃん……。そんな私の脳裏に某有名な赤いほっぺの子が頭に過った。
うん、馴染みがあるのは「熊本県」
そんなわけで私は、熊本県の栗と戦うことにしたのだ。
さて、だからと言ってすぐに作り始めたわけではない。
なんせ、食べたこともないものを作ろうとしているのだ。たんなるビジュアルに惹かれただけで。
ネットで相手を知ることから始める。
ふむ、ほっこり優しい甘さなのか。
ふむ、重曹を使わないやり方もあるのか。
ふむ、灰汁抜きは念入りに。
様々なレシピを読みながら、初渋皮煮に備える。
そうだ。渋皮煮ができたら、それをパウンドケーキに混ぜたい!
そんな目標もできた。
だいたい120分と書かれているところが多いから、連休にパウンドケーキを焼きたいから……。
この日の出勤は午後からだから……。
そんなわけで、渋皮煮との決戦日が決まった。
さて、最初は栗に熱湯をかける。30分間浸ける。
その後、鬼皮を剝く。
小さい方の包丁と、軍手を準備して、鬼皮を剥くことやはり30分。
でも、もっと難しいかと思っていたけれど、そうでもない、という所感だ。
しかし、この時点で、だめな栗をいくつか見つけてしまった。
どうも傷んでいるよう。
どうして分かったかというと、渋皮を傷つけてしまったから……。意外と出来るは、「=完璧に出来た」ではない、は私の常套だから仕方がないのだ。
でも、これ、どうしようもないよ。カビが生えているのもあったし、真っ黒になってるのもあったし。一緒に煮なくて良かったと思わなくちゃ。
でも、本当に、これ、分からなかったらカビを一緒に煮ていたんだよね。上手な人はどう判断するのだろう。そんなことを思いながら、中身の見えない、いわゆるきれいに渋皮を纏う栗の実を見つめてしまう。
見つめていても、進まない。
次は、灰汁抜き。
重曹を使わないから、4,5回もしくは数回とあるレシピが多い。
とにかく、茹でて煮こぼすこと5回目。
すでに、一時間はやっていた。
ぜんぜん、色が薄まらない……。なんという強敵『灰汁』
そんな思いから、ネットで作戦会議である。
ふむ、渋皮を少し擦って剥いても良いのだな。
ふむ、最終砂糖を入れる際にも灰汁が出てくるから、取り除くのだな。
ふむ、色が薄くなればOKともある。
そして、もう一度、煮こぼす。
あれ? さっきよりも灰汁が強い気が……。
渋皮を擦って剥いたことにより、なんと、灰汁が再び濃くなってしまったではないか。
えっ! なんで???
しかし、私には時間がない。
出勤まで30分を切ってしまっている。
悩みに悩んだあげく、そのまま放置。栗と戦った結果、遅刻しましたは、笑えない。
うん、笑えない……。
そう、とっても長い水きりだと思えば……。うん、そうしよう。
『灰汁』よ、とにかく戦いはとりあえずの一時休止だからな!
そう思って、脱兎のごとく家を出る。
そして、帰宅。
夕食を作り、それを食べ、そして、背後からそこはかとなく感じる、栗の気配。
やっぱり、明日じゃダメですよね。
今日中、ですよね……。
そんな押し問答をひとりで終わらせ、もう一度栗を煮こぼすことにする。
だけど、それから三度くらい煮こぼして、薄茶くらいになった頃、もうギブアップとなってしまった。
色、ずっと出てくるんだもの。
砂糖を入れた後も灰汁取り頑張れ、って書いてあるんだもの。
煮こぼしのあとも私は悪(灰汁)と戦わなければならないんだもの!
そんなわけで、砂糖を入れて味を付けることにしました。
それなのに、
それなのに。
なんと。
灰汁が一つも出てきません。いや、ブクブクって泡が出てはくる。くるのだが……。
でも。
お玉を持って備えたはずなのに。灰汁取り用にお皿も準備したのに……。
灰汁が全部出てしまっていたのだろうか。
悪と戦わずして、悪を仕留めてしまった気分。
すっかりいい子の栗たちは、その後、文量に応じた砂糖に煮詰められ、無事に渋皮煮になりました。
一晩冷蔵庫に寝かし、一つ味見。
しかし、ここにも落とし穴が。
取り出したその栗が悪かったのか……。そもそも食べれたものじゃない味。いや、味は良い。でも、栗がほっこりしていない。
なぜ?
やっぱり食べたこともないものを作るのは、正解が分からないから危険なのかもしれない。
そんな教訓を胸に、私の渋皮煮戦記は、次のパウンドケーキ編へと続くのだった。
その後、渋皮煮を刻みながら傷んでいるところを弾いて、美味しくパウンドケーキをいただきました。
さらに、残った渋皮煮のシロップでワッフルを焼いて、栗の風味を楽しみました。勝利なのかな?




