身体はモビリティスーツ・永遠の魂はパイロット
序章 無限の宇宙を超えたその先
宇宙は、果てなき暗闇の中、光速をはるかに超える速度で膨張し続けている。その無限の広がりを越えた先に、もう一つの次元の空間が静かに存在していた。それは、すべての生命の魂が回帰し、そして無数の新たな命を宇宙へと送り出す、根源的なエネルギーの泉。 この異次元世界では、あらゆる魂が個の垣根を越えて溶け合い、たった一つの普遍的な法則に統治されている。・・・・
「さあここから、この物語の、永遠の魂の旅が始まりです」
序章 無限の宇宙を超えたその先
宇宙は、果てなき暗闇の中、光速をはるかに超える速度で膨張し続けている。その無限の広がりを越えた先に、もう一つの次元の空間が静かに存在していた。それは、すべての生命の魂が回帰し、そして無数の新たな命を宇宙へと送り出す、根源的なエネルギーの泉。 この異次元世界では、あらゆる魂が個の垣根を越えて溶け合い、たった一つの普遍的な法則に統治されている。その法則は、生命を維持するための弱肉強食は許すが、生命そのものを否定する悪行――無差別な殺戮、偽り、他者を絶望の淵に突き落とす行為、そして自ら命を絶つこと――は決して許さない。 そうした罪を犯した魂は、深い痛みと苦悩に苛まれ、過去のすべての行いを後悔という名の棘で突き刺される。彼らは二度と転生することは叶わず、深い闇の底へと溶けていく。この世界に他者による裁きはない。裁くのは、他ならぬ自分自身。なぜなら、自分が行ってきたことのすべてが、その魂の核に深く刻まれているからだ。
第一章 魂の旅立ち
第一部 アキト、生命の根源世界へ
それは、あまりにも唐突な日常の終わりだった。若者アキトは、不慮の交通事故で一瞬にして命を落とす。意識が肉体を離れた瞬間、彼の魂は光の奔流となり、光速を超える速度で流れ出した。それは、まるで無数の星屑が漂う銀河を旅するかのような、幻想的な空間だった。 この世界――**「生命の根源世界」**へと、彼の魂は引き込まれていく。 アキトは、自分がもはや肉体を持たない、過去の記憶や感情――罪悪感、幸福感、恐怖心――の集合体であることに気づく。すべてを抱えたまま、彼は根源世界へと還っていく。しかし、そこで彼は、自らが犯してきた「悪行」を突きつけられる。承認欲求のために他人を嘲笑し、優位に立とうとしたこと。孤独を埋めるために他者を支配し、欲望のままに奪い続けたこと。そして、自暴自棄になり、人生を投げ出そうとしたこと……。 様々な行為の記憶が、アキトの魂を苦悩の渦に巻き込む。彼は、運命に翻弄されてきた無数の魂たちの現実を目の当たりにしながら、根源世界の一つの領域へと足を踏み入れた。
「……あれ?この感覚は……そうだ、俺は事故に遭ったんだっけ。ってことは、死んだのか……。」 ゆっくりと状況を理解し始めたアキトは、これまでの人生を振り返る。
「いろんなことがあったな。酒浸りの親父がお袋と喧嘩するのを見るのが嫌で。人に舐められるのが嫌で、強くもないのに突っ張って、暴走族にまで入ったっけ。でも、真面目に更生して仕事もして、リコと出会って……結婚でもしようかと思ってたのに……。まだ四十にもなってないのに死んじまった。きっと、リコは泣いているだろうな……。」
そんな思いが巡る中、アキトは「生命の根源世界」のいくつかの階層に導かれていく。最初に足を踏み入れたのは、殺人を犯した者、戦争やテロの首謀者、人を人とも思わぬ行為をしてきた者たちの魂が溶け込む、漆黒の闇が広がる場所だった。 そこは、苦悩と痛みが渦巻く地獄。もがき苦しむ無数の魂たちの、耳をつんざくような悲鳴が木霊する。その声は、アキトの魂の奥底にまで冷たい恐怖を植え付け、彼の魂を包み込み、苦悩や後悔といった一部を闇の中へ吸い込み始めた。
「うわっ!何だ、何が起きているんだ!魂が、氷のように冷たい何かに引き裂かれる!飲み込まれる、俺の魂が!いったいこれは何なんだ!」
恐怖に駆られたアキトは必死にもがき、逃れようとした。闇は彼の魂に深く刻まれた悩みや苦しみの部分だけを奪っていった。アキトはかろうじてこの地獄のような階層を抜け出すことができたが、気を休める間もなく、まるで導かれるように次の領域へと向かう。
第二部 魂の浄化
不安に震えながら、旅路の果てに何が待っているのかを自問自答する。次に見えてきたのは、貪欲にまみれ、絶えず物乞いをするような欲望の渦にのまれ、抜け出すことのできない魂たちが集まる階層だった。ここでも、アキトの魂に潜む欲望の部分を吸い込もうと、この階層の魂たちが塊となって襲い掛かってくる。 アキトは、目の前の塊が自分自身の欲望と共鳴していることに気づいた。
「……こいつらは、俺の欲望の塊なのか?そういえば、ガキの頃は『あれが欲しい、これが欲しい』って駄々をこねてたし、仕事では相手を騙してでも契約を取ろうとしたな。そんな欲望の部分が、今ここで俺に襲いかかってくるのか……。」
アキトは何とかかわして逃げようとしたが、欲望にまみれた魂の一部をもぎ取られてしまった。アキトの魂の核はこの領域に吸い込まれることなく、次の領域へと進み始める。 今度は、どこからともなく野獣のような鳴き声が聞こえ、茶色く濁った光の魂が勢いよく向かってくるのを感じた。
「今度はなんだ、何の魂だ?犬?狼か?なんか、野生の獣みたいな感じがするな?」
そう思ったとき、生前、弱者を支配してきた記憶が蘇る。彼は本能的に自分の魂を大きく輝かせ、相手を威嚇した。この領域の魂が、弱き者を支配し、強き者に媚びへつらう性質であることに気づいたアキトは、自分の魂をできるだけ大きく見せ、まばゆいばかりの輝きを放つ努力をした。アキトの魂は獣のような魂たちに囲まれるが、その強さと輝きにたじろぎ、怯え始めているようだった。
「やっぱりこいつら、狼か野生の犬だな。しゃあねえな、なんか俺の畜生みたいなもんでも食わせておくか!」
アキトは自分の魂の一部を動物に餌をあげるように、その領域の者たちに与えてやった。すると、獣のような魂たちはアキトの魂が強いと悟ったのか、離れ去っていった。 少しホッとしたアキトの旅路はまだ続く。
「なんか疲れてきたな、いったい俺はどこまで行けば休めるんだ……。」
そう思いながら進むと、突然とてつもない恐怖感に襲われる。
「うっわぁ~、なんだこりゃ。今までの中で一番やべぇんじゃないか?今回は全部吸収されて、魂ごと俺は消えちゃうんじゃないか!」
そして、怒りの力をまとった巨大な赤い魂の塊がアキトの魂の前に立ちはだかった。その魂は、怒りや憎しみ、怨念に支配され、修羅のような形相でアキトの魂に戦いを挑もうとしてきた。
「こりゃヤバイ。絶対勝てない。負ける。俺は取り込まれて消される!」
アキトの魂はどうすることもできずにいる。すると、この怒りの魂はアキトの魂に向かって威嚇し、飲み込もうと襲ってきた。
「やべえ!来た!」
アキトの魂の中にある「怒りの領域」が現れ始め、お互いに飲み込もうと戦い始める。お互いの魂がぶつかり合い、火花を散らし、電光が走る。とてつもない勢いでぶつかり合う魂の戦い。
「ヤバイ、もう限界だ!なんか武器になる物でもないのか!もう死んじゃって生身の魂だけだもんなあ!」
アキトの魂より勢いが強い怒りの魂に、アキトの魂が飲み込まれそうになる。
「このままでは負ける、完全に消されてしまう!どうする、どうすればいい!何か……何か抗う術は……いや、もう何もない……!このままじゃダメだ。俺に残された最後の全てを差し出して、核だけになってでも逃げるしかない!」
そう思ったアキトは、自分を守るため、瞬間的に魂の核だけを残して逃げるようにして、何とかその領域を離れることができた。
「ふう……今回のは本当にやばかったな。本当に死ぬかと思ったよ!……ってもう死んでるんだったっけな!ハハハハハ」
アキトの魂はもう疲れ切ってボロボロの状態だった。しばらくして、遠くから包み込むような明るい輝きが放たれてきた。そこは、穏やかで落ち着いて平穏で、優しく、人を愛することができる人間的な魂が集まるところだった。核だけになったアキトの魂はこの領域に溶け込み始める。 アキトの魂は「ああ……やっとここで休めそうだな。もう何も来ないよな……。」
そう思いながら、明るく優しいこの領域に吸い込まれていく。まるで温かい水に包まれるような安らぎを感じ、深い眠りについた。
第三章 懐かしき魂との再会
時が優しく流れ、アキトの魂は遠い夢から覚めるように、ゆっくりと光の中へと浮上する。
「ん……あれからどのくらいの時が過ぎたんだろうか。俺が今いるこの領域は、いったいどんな領域なんだろう?また何かが俺を飲み込もうとしてくるのだろうか?」
穏やかになった自分の魂の中に、いくつもの空虚な穴が空いているのを感じた。それは、過去の罪と引き換えに失った、自身の感情の一部だった。愚かだった過去への反省と、安らぎと引き換えに代償を払ったことへの寂しさ。彼は不安を抱えながら、この領域の状況を確かめるように意識を集中させた。 そしてアキトが感じたのは、まるでついこの間まで人間として生きていた、とても懐かしく安心できる感覚だった。明るく花が咲き、優しいそよ風が吹き、小鳥もさえずる。まるでどこかの公園にいるかのようだ。今のアキトと同じように、穏やかで優しい魂たちが行き交い、交流しながら仲良く共存している領域。 この階層では、休息し、魂の生命力を蓄え、自らの決意で次の世界への転生をしていく者もいた。そう、この領域からは、望めば宇宙のどこかの星の生命体として転生することが許されるのだ。 アキトもいずれ自らも転生することになるのだろうと思ったが、それまでの間どうしようかと思いを巡らせる。
「何だかここは安心していられそうな場所みたいだな。良かった。ここで少しはゆっくりできそうだ。それに望めば、新たに転生もできるみたいだしな……。でも、なにか?ここよりも上位の階層領域もあるようなことも言っている者もいたな……。もしそうなら、どんな生命状態の魂がいるのか、見てみたい気もするなぁ……。」
ここから先の上位階層領域。その話を聞いた瞬間、アキトはもう一度旅に出たいと、魂の内側から強く願っている自分に驚いた。安らぎに身を委ねるだけだった自分の中に、再び、何かを求める光が灯ったのだ。
第一部 祖母との再会
「さーてと……これからどうすっか。少しここにいるにしても、他の魂たちと交流して、この世界のことを聞いていかないとなぁ……。」
そんなことを思いながら、アキトは誰か話せそうな相手を探してうろうろしていると、どこからともなく遠くの方から呼ばれているような感覚がした。
「ん……?なんだ、なんだ?」
アキトはキョロキョロと周りを見回した。すると、遠くの方から誰かが自分に向かってくるのが見えた。
「おーい……おーい……アキトォー……あなた、アキトじゃないのぉー……ねぇー……?」名前を叫びながら駆け寄ってくる者がいる。
「ん?誰だ?……うわっ!ば、ば、ば、ばあちゃん!?……なのか?」
アキトは驚き、慌てた。 おばあちゃんの魂は、歓喜に震えながらアキトのもとへ駆け寄る。その柔らかな光がアキトの魂に触れると、懐かしさが胸いっぱいに広がる。
「なによ、やっぱりアキトじゃない。アキトでしょ!なんで、あんたがここにいるのよ。まだここに来るには早すぎるんじゃないの。何があったのさ……。」
アキトは少し恥ずかしそうに苦笑しながら、これまでのことを話し始めた。
「いやぁ……それがさ、仕事中に交差点で車にぶつけられちゃってさ……。つまり事故で死んじゃったみたいなんだ、それで……こんな感じで。」
生前の生活、仕事、彼女と結婚しようと思っていたこと、その矢先の事故のこと。アキトは今までの状況をすべて話した。おばあちゃんは、アキトの話をひとつひとつ頷きながら、優しい表情で聞いてくれる。
「そうだったんだねぇ。なかなか大変だったんだねぇ。それじゃあ、きっと彼女も悲しんでるんだろうね。大変だったね。」
久しぶりに再会したおばあちゃんとの話は弾み、アキトは安堵と幸せな思いに包まれ、この瞬間に充実感を感じていた。 そんな中、アキトはふとあることに気づき、おばあちゃんに尋ねてみた。
「ところで、ばあちゃん?なんか超若返ってるような感じがするんだけど、これって何なの?」
アキトの言葉に、おばあちゃんは楽しそうに笑う。
「アキト、どうよ?ばあちゃんもなかなかのもんでしょ。これでも若い頃はよく可愛いって言われてモテてたんだから。どうよ、アキトの彼女とどっちが可愛い?転生したら結婚してあげようか?ハハハハハハ。」
笑いながら、おばあちゃんは話を続けた。
「あのねアキト。人間というか、生身の体がある生き物は、生まれてから体が年を重ねて、子ども、お姉さんになって、おばちゃん、おばあちゃんになっていくでしょ。でもね、死んだら生身の体が無くなって、魂と生命力っていうオーラパワーだけになるのよ。だから、自分の一番輝いていた時の姿でいたいっていう思いや感情が共鳴して、アキトには綺麗で可愛くて超若いおばあちゃんに見えるの。ほら、周りをよく見てごらん。赤ん坊も爺さん婆さんもいないでしょ?」
アキトは納得し、今度はこの領域にたどり着くまでの旅路について尋ね始めた。
「ここに着くまで、本当にひどい目に遭ってさ……。あれってなんなの?ばあちゃんもここに来るまでにあんな目に遭ったのか?」
おばあちゃんは微笑みながら答える。
「そんなわけないじゃない。私はアキトみたいにグレて親に反抗したり、万引きしたり、喧嘩して相手を病院送りにしたり、ヒロミ(アキトの母親)に散々迷惑をかけるようなことはしてないからね。あんたみたいに悪業を積まずにきたし、周りの人たちの助けになるように頑張ってきたり、家族や子供たちの幸せを祈ってきたからね。きっと少しでも善業を命に刻んだのかしら。割とスムーズに来たわよ。」
続けて、おばあちゃんは真剣な声で語る。
「あれはね、悪業を積んだら積んだ分だけ、その階層の命に引き込まれるみたいなの。だから、悪業が深ければ深いほど、吸い込む方の勢いが強くて、魂の核が耐えられなくなって、核ごと吸い込まれて抜け出せなくなるらしいのよ……。」
アキトは苦い顔をしながら震えた。
「うわぁ~、じゃあ俺、ヤバかったんじゃん!最後の階層の時、下手して全部飲み込まれてたら、あの修羅みたいな命の中でずーっと戦って出られなくなってたってことかぁ……。うっわぁ~、良かったわぁ~、ホントに!」
アキトの言葉におばあちゃんも呆れたように言った。
「本当だよ!どうなることかと思って、冷や冷やしながら心配してたんだから。もう……。」
そう言って、アキトの頭をぽんと叩き、笑顔を浮かべた。
「ところで、ばあちゃん?魂の領域ってここで終わりなの?ここに来て、ばあちゃんに会う前に周辺を散策してたら、幾つか転生していく魂たちを見たんだけど?」
すると、おばあちゃんはしっかりとした表情で答えた。
「あのね、あなたはここに帰ってきたばかりで以前のことを忘れていると思うんだけど、私たちの本当の目標って、魂を成長させて仏神と融合し、劣る魂たちを救って幸福にしていくのが、真の目標なのよ。思い出した?」
アキトはまだ納得がいかない表情で
「それが何で転生につながるの?」と尋ねた。 おばあちゃんは続けた。
「仏神を目指すには、まだここから五階層も領域があるらしいの。それに、神仏と融合できるような魂になるには、色々な誘惑があったり、大変に厳しい試練が待っているらしいのよ。それなら、転生して人を助け導き、善業をたくさん積んで、少しでも上層階に戻ってこれるようにするつもりでいくの。でもね、人間に生まれ変わると、魂は変わらなくても体が違うから、成長していく段階で前世のことや真の目標を忘れちゃって、あんたみたいになって後悔するのが通常なのよ。転生って、実は自分の魂を成長させるための修行みたいなものなの。だってそうでしょ?ここにいたら穏やかで幸せで、争うこともないし居心地がいいじゃない。それがずっと続くと、生命力の無い無の魂になって溶け込んで無くなっちゃうの。だからずっとここに居ることもできないの。」
アキトは、おばあちゃんの話になんとなく理解しつつも、何かを思案しているようだった。 アキトは、おばあちゃんに聞いてみた。
「ばあちゃんは、ここにはいつまでいるつもりなの?」
するとおばあちゃんは、少し寂しそうな表情で答えた。
「そうだね、実はね、アキトがこっちに来るちょっと前に、じいさんが転生するから見送ってあげたのよ。そしたら急に、あんたが来るのを感じたから会いに来たのよ。だから私も、そんなに長くはここにいられずに、転生しないとだめだろうね。」
その話を聞いたアキトは、何か決意したような表情でつぶやいた。
「ばあちゃん、俺、上位階層を目指したらダメかな?」
難しい顔をしたおばあちゃんは、心配そうに言った。
「アキト……さっきも少し言ったけど、上位に魂を成長させるってことは本当に大変なのよ。常に試されるようなもので、失敗すればここに戻れずに、猶予なく即、転生させられることになるんだよ。しかも、ただの転生じゃなく、今まで暮らした人間界よりもさらに過酷な環境に生まれることになるの。それでも試したいっていうなら、私は止めないよ。でも、本当に大変だよ。死ぬつもりで挑まないと……。」
アキトは、そんなおばあちゃんの言葉に力強く答えた。
「でも、ばあちゃん。たとえ途中で失敗して転生させられたとしても、魂の核は成長して大きくなれるんだよね?だったら、ダメ元で攻めるのもありだよね!」
その顔を見て、おばあちゃんはフッと微笑みながら
「アキト、本当に軽く考えてないんだね。だったらやってごらん!私はどこにいても、アキトのことを祈り、応援するよ!」
そう言うと、おばあちゃんは涙を浮かべながらアキトを強く抱きしめた。
「アキト、まだここに帰ってきたばかりなのに、もうこんなに成長して……。私も決めたよ。転生することにするわ。もうあなたはきっと大丈夫だから。ばあちゃんもまた、頑張ってくるわ!」
アキトは、おばあちゃんに抱きしめられながら、いつかすべての魂を導けるような階層者になると心に固く決意していた。
第二部 叔母・マサミとの再会
その後、アキトとおばあちゃんは、穏やかに楽しい時間を過ごしていた。すると、おばあちゃんは何かを感じたようにアキトに言った。
「アキト、行くよ。誰か来るみたい?」
アキトは驚いた顔をしながらおばあちゃんについていく。
「ばあちゃん?どこ行くんだよ?」
おばあちゃんは少し急ぐ様子で、「いいから、早く来な!来たらわかるから。」と言った。
少し疑問に思いながらも、アキトはおばあちゃんについて行くと、遠くの方から明るい光を放ちながら、ふわりとおばあちゃんの元へ降りてくる魂が見えた。 おばあちゃんとアキトは少し驚いたが、その魂を迎えた。
「あらま、マサミじゃないの?」 「おばちゃんじゃん?」
とアキトも声を上げた。 おばあちゃんが尋ねる。
「何であんたが来るの?まだちょっと早いんじゃないの?」
するとマサミは、「あら、お母さんが来てくれたんだ。あら、そうか、アキトもいたのね。あんた、そういえば事故で死んだって聞いたけど、本当だったんだぁ。」
アキトの顔を見て納得したような表情で言った。
「アキトほどでもないけど、ちょっとだけここに来るのは早かったかな?」
アキトは思い出したように言った
「あっ、そういえば、おばちゃんって病気で入院してたんだよね……。」
叔母は、「そうよ、膵臓がんだったのよ。ちょっと早かったかなあ……七十前だったしね。」と静かに言った。
おばあちゃんが心配そうに、「マサミ、あんたも大変だったね、痛かったんだろうね?」と聞く
マサミは「まあそうだね、薬は効いてたけど、死ぬ瞬間に少し苦しくて痛かったかな。」と答えた。
おばあちゃんは続けて尋ねる。「あんた、先生してたんだよね。何でここに降りたの?もう少し上の階層じゃないの?」
するとマサミは少し申し訳なさそうに言った。
「それがさあ、お母さん。子どもや人を相手にする職業って、やっぱり思いを保ち続けるのは大変なのよ。忙しかったり、少しずつ不満が溜まったりして、思いがブレちゃったのかな?だから上には行けずに、ここなのかな?」
おばあちゃんは優しく言った。
「そうなの……ちょっと残念だったわね。」
マサミは母に尋ねる。「お母さんはまだ、ここにいられるの?」
するとおばあちゃんは、マサミに言った。「さっき、アキトにも言ったんだけどね、おじいちゃんの転生も見送ったし、私もそろそろ行く準備しなきゃねって。それに、マサミがいればアキトも安心して上位階層に挑戦できそうだしね。」
マサミは驚いた顔で言った。「えっ!アキト、あんた、上の領域目指すの?うっそ~……ほんとに?」
マサミは少し考えてから、きっぱりと言った。
「よし!わかった、ちょっとだけなら私が付き合ってあげるよ!」
そう言ってマサミはアキトの肩を軽くポンポンと叩きながら、ニコッと笑顔になった。 アキトはマサミのやや軽めの対応に半信半疑で尋ねる。
「おばちゃん?なんか難しいっていう割には、俺に対する対応が軽くねぇか?」
するとマサミは笑顔で言った。「アキト、こう見えても私は先生をしていっぱい優秀な子たちを育ててきたのよ。あんたを連れて一つ二つぐらいの上位階層だったら行けるくらいの徳はつんでると思うよ!」
するとアキトは「じゃあ何でここで降りたんだよ、上の階層に降りればよかったじゃん。」と返す。 するとマサミは、
「だって久しぶりに帰ってきたんだもんお母さんが転生する前に会っておきたいじゃないよ。」
アキトは納得した顔で「そっか……そりゃそうだな。今度、いつ会えるかわかんないもんな?転生して死んでこっちにもどって来たら以前のことは忘れてるかもしれないからなぁ?」と言った。
第三部 別れと旅立ち
マサミは、感心したようにアキトの顔を見つめ、にこやかに言った、
「そうよ、よくわかってきたじゃない。」
そう言ってアキトとマサミが楽しそうに会話をしていると、おばあちゃんが、小さな声で少し寂しそうに言う。
「あぁ……そろそろ私の魂に反応が来たみたい。もう転生の準備だわ。」
マサミとアキトも少し寂しそうに、「あらぁ……とうとう法力・神通力を感じ取っちゃったのね、お母さん……。」と言った。
アキトも「おばあちゃん、大丈夫かい?気持ちの準備はできた?」と尋ねる。
するとおばあちゃんは、すっきりした表情で
「マサミ、アキトも、私は大丈夫よ!もう気持ちの準備はできてるから!アキト頑張るんだよ。マサミ、アキトを頼むわね。」
そう言うとおばあちゃんの魂は輝きを増してきた。そして魂が金色に輝きを発した瞬間、まるでワープでもするように、宇宙の外側の魂の空間から宇宙のどこかの星へと転生の旅へと飛び立っていった。
第四章:新たなる一歩へ
「あ~ぁお母さん行っちゃった、まだ遭ったばかりなのにな……。」
マサミは少し寂しそうに言う。アキトもマサミの顔を見ながら
「あゝ本当だね、ちょっと早いよね。おばちゃんは、おばあちゃんに会うためにわざわざこの階層に降りたんだもんね……。」
するとマサミは「しょうがないさ、それも定めだからさ。そんなことよりアキト、次の階層に行こうか。」
マサミは何かを振り切るように言った。アキトは軽く頷きながらマサミに問いかける。
「おばちゃん、次の階層ってどんな所なの?」
マサミはニコッとしながら問いに答える。
「次の階層はこことほぼ境目のない階層なのよ。ただちょっとだけ優れた力や寿命を持ち、快楽、喜び、幸福に満ちた境涯を持った魂たちが宿るところなの。」
マサミは続けて「ただねアキト、快楽や喜びなどの幸福感ってそんなに続くものじゃなくて直に冷めてしまうものだから、割と簡単にさっき居た所に戻ったり転生されちゃうのよ。」
そう言ってアキトの手を引き天喜の階層へと入り込んでいく。
アキトは「おばちゃん?何の許しもなくこんな簡単に入り込んで、大丈夫なのか?」
するとマサミは「大丈夫よアキト見てみな、ここの魂たちは、快楽や喜びなどで命が舞い上がってる状態だから、私たちのことなんて気にしていないよ!」
アキトはマサミの言うことを聞きながら周りを見渡し、なるほどね~っと思いながら、ちょっとだけ周りの境遇に共鳴したのか自分の魂が少し浮かれ気味になってる事に気がつく
「ダメダメ浮かれてないで気持ちをシャキっとしなきゃ!」
マサミはそんなアキトを見ながら微笑み
「アキトの奴、ちゃんと命が飲み込まれないように、意識して気持ちを切り替えてるみたいだな。」
そう思っていた。アキトは快楽や喜びなどの幸福感に少し惑わされながらも、マサミの手を握りどうにかこの階層を潜り抜け、マサミと共に次の階層へと向かって行く。
第五章:四聖悟階層
しばらく進むと新たな空間が現れる。そこは、明るく晴れてはいるが何故かスッキリとはしない感じがしていた。
マサミはアキトに聞く「アキト、なんかすっきりしない異様な感じがしないか?」
アキトは頷きながら答えた。「うん、なんかすっきりしない変な感じだよ。」
マサミはアキトに教えるように説明をする。
「アキト、ここからが少しずつ試練が始まるよ。今までは人間の時に感じていた命の感情と同じで、地獄の苦しい命から天にも昇るような命の境涯、輪廻階層だった。ここからは、四聖悟階層と言って、聖聞乗階層、聖覚乗階層、聖天菩階層、聖神仏階層って言う階層があって、最後は私もよく知らないけど大聖命階層っていうのが有るらしいの。」
アキトはマサミの話を難しい顔をして聞きながら、マサミに言った
「おばちゃん、難しいことはよく解んねえけど、次の階層ってどんなところ?」
マサミは答える「聖聞乗は、神様や天使、仏菩薩の教えを聞き、学び、悟りを得て自分の命を上級階層に成長させようとする魂の集まりよ。簡単に言えば、修行僧や修道者みたいな感じの魂たちかな?」
アキトはマサミの顔を見ながら笑顔で言う「ふ~ん……じゃあそんなに難しくないんじゃない、おばちゃん?ちゃんと教えを聞いて勉強すればいいでしょ。」
するとマサミは難しい顔をして言う「そんな甘くないよ。少しでも疑ったり悩んだりしたら、いつまでもこの階層から先には進めない。それどころか、迷い悟れずに強制的に転生されるか、下位階層に送られるからね!」
マサミはアキトの甘い考えを一掃するような厳しい口調でアキトに言い聞かせながら、この階層にたどり着いた。すると奥の方から静かに魂が近付いて着て聞く。
第一部 新たな歩みへの入口
「あなた方は何者かな?ここからは、悟りを求める者だけが入れる階層ですが……?」
するとマサミはその魂に対して挨拶をする
「お久しぶりで御座います。シダイガ様、私は二聖生のユビーニョで御座います。現名をマサミと申しており、之に居りますは、私の甥のアキトと申します。どうか、お見知りおきを……。」と言いマサミは頭を下げる。
すると、シダイガは、目を見開き手を合わせ頭を下げる
「おゝ……これはこれは、ユビーニョ様でしたか、失礼いたしました。して、聖覚乗階層のユビーニョ様がこちらに何様でしょうか?」とシダイガがマサミに尋ねる。
するとマサミは「ここに居る甥のアキトが魂を向上させたいと申しまして……どうでしょうか?一度修行を経験させてみようかと思いまして……。」
するとこのやり取りを見ていたアキトがマサミに耳打ちをして尋ねる。
「おばちゃん、誰だよこいつは……。」
するとマサミは「こら、アキト!ここに居られる方はシダイガ様と言って、神天使・仏菩薩の御代理としてこの階層をお守りしておられる方です。失礼のないようにね、アキト!」
するとアキトは姿勢を正し緊張したように「シダイガ様、失礼いたしました。私、アキトと申します。どうか宜しくお願い致します。」とお辞儀をした。
第二部 マサミの意外な姿
するとシダイガはアキトを見て「ユビーニョ様の甥子様ですか……決っして修行は楽では御座いませんよ、大丈夫ですかな?」
するとアキトは「はい!宜しくお願い致します。」と再び頭を下げた。
そしてアキトはシダイガにそっと尋ねる「あのぉ……シダイガ様、俺のおばちゃんってこの世界では何者なのですか?」
するとシダイガは笑みを浮かべながら「ほぉ……お知りにならなかったとはのぉ……良いですか、そなたのおば様はな、聖聞乗、聖覚乗と修行をやり切り聖天菩階層まで辿り着かれた方なのですよ。ですが、自らの思いから聖天菩に止まらずに、人間界に転生なされ修行を重ねられた方なのですよ」
その話を聞いたアキトは思わず「えっ!おばちゃんてそんなスゲ~人だったの……?」
アキトは目を見開き驚きながらマサミの顔を見た。
するとマサミは笑顔で「エヘヘヘヘ、どうよ……見直した……アキト。イェイ!」
そう言うと、マサミは満面の笑みを浮かべ、アキトにピースサインを送った。
アキトは未だ信じられないといった様子で、ただ呆然とマサミを見つめている。
「……おいおい、ちょっと待てよ、おばちゃん……。」
アキトは混乱した頭で、マサミに問いかけた。
「聖覚乗階層のユビーニョって、どういうことなんだ?聖聞乗の上にある階層だろ?ってことは、おばちゃんはもう聖聞乗の修行を終えてるってことなのか?」
マサミは得意げに胸を張りながら答える。
「そうよ、何言ってんの。聖聞乗なんて、私にとっては通過点よ。昔は私もあんたみたいに、ちょっと道を外れた時期もあったけどね。でも、修行をやり遂げたからこそ、ここまで来れたのよ。」
アキトはマサミの言葉に言葉を失い、シダイガの方をちらりと見た。シダイガは、そのやり取りを微笑ましく見守っている。
「そ、そんな……じゃあ、俺も頑張れば、おばちゃんみたいになれるのか?」
アキトがそう言うと、シダイガは静かに口を開いた。
「ユビーニョ様は、そなたが思う以上に、この世界でも特別な存在なのですよ。自らの意志で、一度到達した高みから再び人間界へと降りていかれた。それは、劣る魂を救い、導くという、仏神の御心に最も近い行いです。」
シダイガの言葉に、アキトはマサミに対する尊敬の念を新たにした。同時に、自分がこれから挑む道のりの重さを改めて痛感する。
「さて、アキト殿。」 シダイガは優しい声でアキトに語りかけた。
「聖聞乗の修行は、ここからは一人で向き合うことになります。ユビーニョ様は、そなたの師として、時には道を示し、時には厳しく見守ってくださるでしょう。」
アキトは緊張しながらも、決意を込めてシダイガに頭を下げた。
「はい!精一杯、頑張ります!」
その言葉を聞き、マサミは満足そうに微笑んだ。
「よし、アキト。じゃあ、まずはこの階層の生活に慣れることね。私とシダイガ様の教えをよく聞いて、しっかりと学ぶのよ。いいわね?」
マサミはそう言って、アキトの頭を優しく撫でた。アキトは、マサミの温かさに触れながら、この世界で新たな修行の旅が始まることを予感していた。不安も大きいが、マサミという心強い存在がそばにいる。彼は、自分自身の魂を向上させるために、一歩ずつ進んでいこうと強く心に誓った。そうして、アキトとマサミの、四聖悟階層での新たな旅が幕を開けた。
第三部 新たな修行の第一歩
シダイガはマサミとアキトを連れ聖聞乗の階層領域へと向かう、すると近づくにつれアキトは異様な緊張感に襲われながらもシダイガに連れられ階層領域の入り口に着いた。
「さあ……アキト殿ここが入り口に御座います。ここからは、厳しき試練と自分の弱き魂との戦いになります。」っとシダイガが促す。
アキトは決意した表情で「大丈夫です、行きましょう。」と言い一歩前に足を踏み出す。
アキトたちがこの領域に入ってしばらく行くと奥の方から様々な声が響いてくる。ある者は釈迦の経々を読み唱え、ある者はイスラム経のコーランを学習し、またある者はキリスト教の聖書を読む、その他、ヒンドゥー教や道教など様々な教えを学び理解をして悟ろうと必死になってる様子が窺える。しかし、どの魂たちも悟るどころか悩み迷い出口が見えないような表情をしている。すると幾つかの魂がマサミとシダイガの前に近ずくと手を合わせお辞儀をして言う
「シダイガ様・ユビーニョ様・私たちは今、過去の自分を見つめ直し数多くの教えや経行を学び修行を行っているのですが、各の教えの考え方や求めているものの違い、教えのくい違いなど何が正しい道なのかに迷い苦悩しております。是非とも悟りを得るためのヒントをくださいお願い致します。」と言い跪き頭を下げた。
するとシダイガはこう促す「それを自分で探し見つけ出すのが修行なのです。でなければ魂の境涯を上げることができないのでは?」
するとマサミが……「そう言わずにシダイガ様、この者たちは本当に迷走しているようですよ……。」
「しかしユビーニョ様、すぐに答えを求めるのでは修行にならぬのでは…。」
「シダイガ様、ヒントぐらい良いでしょ……。では、あなたたちに基本をひとつ、何が一番大事なものなのか?それはいったい何なのか?どの様な行いが大事なのか?何を大切にすることが大事なのか?そのことを中心において考えると、何かが見えてくるのではないでしょうかね?……頑張ってください。」と言いマサミは優しい笑顔で迷える者たちにヒントを与えを導いた。
その状況を見ていたアキトは改めて自分の伯母であるマサミを誇りに思うと共に、この修行の厳しさを感じていた。 すると、シダイガはマサミの言葉を聞き、静かに頷く。
「ユビーニョ様の仰る通りですな。答えは常に、あなた方の心の内にある。どうか、そのヒントを糧に、精進なされよ。」そう言うと、シダイガは迷える魂たちを優しい光で包み込み、その場を離れていった。
魂たちはシダイガとマサミに深々と頭を下げ、再び自分たちの修行に戻っていく。 アキトは、その一連のやり取りをじっと見つめていた。
「なぁ、おばちゃん……。結局、あの人たちに言いたかった『一番大事なもの』って、なんなんだ?」 アキトは素直にマサミに尋ねる。
マサミは、穏やかな表情でアキトに向き直った。
「アキト、今の私からしたら簡単なことよ。でも、この聖聞乗の階層にいる魂たちからしたら、それが一番難しいことなの。答えはね……命、生命が一番大切なのそこから、感謝と愛、そして、人を大切にする慈悲の心よ。」
アキトは不思議そうな顔をする。
「え?そんなこと、当たり前じゃないか?」
マサミは、アキトの頭をぽんと叩いた。「その当たり前が、人間界では一番難しいのよ。そして、この階層に来た魂たちも、その当たり前を忘れてしまった人たちばかり。教えを学ぶ前に、まず魂を清めなきゃいけないの。だから、彼らは出口が見えずに迷っているのよ。」
アキトは、マサミの言葉を聞いて深く頷いた。自分もまた、人間界で多くの当たり前を忘れていたことに気づく。感謝、愛、親切心、慈悲の心、そして命の大事さ。これらが、魂の成長に不可欠なものなのだと、初めて理解した。
「アキト、あなたはもう、その答えを魂の奥底で知っている。だから、この階層の魂たちと比べて、ここまでスムーズに来れたのよ。」
マサミの言葉に、アキトは少し照れくさそうに笑った。
「そうかな……?」
「そうよ。さあ、この階層で学ぶべきは、様々な教えの根源にある、たった一つの真理よ。私と一緒に、その真理を見つけに行きましょう。」
マサミはそう言って、再びアキトの手を引いた。アキトは、これから始まる修行がどんなに厳しくても、決して挫けないと心に誓った。そして、マサミという偉大な存在がそばにいることに、心からの感謝を覚えるのだった。
第四部 魂の鏡
そして、少し進むと、ある水晶体でできたとても大きな鏡の前に着く。シダイガがアキトに言う。
「アキト殿、ここからが修行の始まりです。まずは、その鏡に今の自分の姿を映し出し、魂の本当の状態を確認するのです。」
そう言って、シダイガはアキトを鏡の前に導いた。 アキトは大きな水晶の鏡の前に立つ。するとそこに映し出された姿は、まるで素直でかわいいピュアな子供のような姿。それを見てアキトは
「おいおい何だよこれ……?俺、まるでガキじゃん?」
これを見てマサミが笑いながら
「あらら、懐かしい可愛かったころのアキトだわ……。なぁ~んだ、あんたの命って、あのころとちぃ~とも変わってないんだ。」
「なんだよおばちゃん、笑うなよ、まるで子供ってちょっとショックだしぃ……。」
「アハハハハハハ……いいことじゃない、命がピュアだってこと、学んだことを何でも吸収できるってことじゃない。ここではとても大事なことよ。」
すると頷きながらシダイガも「この聖二乗階層(聖聞乗、聖覚乗)では最も大切なことです。雑念があると何を学ぼうと魂に刻み込まれず、悩み迷い本意を悟れませんから、命が素直なことは良いことです。」
アキトは少し浮かない顔をしながらも、次へ進むことにした。
第五部 雑念と迷い
ここでは皆が心を静かに落ち着かせ、瞑想をし悟りを開こうとしている者たちが、集まっている場所である。アキトも着座し静かに目を閉じ瞑想に入ろうとしていると、いろいろと思い出されてくる。幼い子供のころ、いろいろ悩み背伸びをした思春期、ヤンチャな青春期、更生して新たに歩み始めた青年期、辛かったこと、苦しかったこと、悩んだこと、楽しかったことなど、記憶と思い次々と廻るなか雑念も出てくる。
「もうどのくらいの時間が過ぎているのだろう?俺は本当に悟りを得られて先に行けるのだろうか?悟った後には何が見えてくるんだろうか?一体何が本当なのだろうか?」
アキトは瞑想をし、どんどん奥深い思いへと入って行き暗闇の中へと吸い込まれるような気がしていた。
「何なのだ、この異様な感覚は何も解らなくなってきた……これが迷うっていうことなのか?この命の状態では何を学んでも理解できないし判断ができない。これでは駄目だ盲目状態になってしまう。悟りなど開けない。迷いの闇の中へ入ってしまい危険だ!どうするか?」
アキトの心の中が揺らぎ迷い始めた。 その瞬間、アキトの魂の奥底で、優しい光が灯るのを感じた。
「アキト、迷っちゃダメよ!」 懐かしい、温かい声が響く。
それは、マサミの声だった。アキトはハッと目を開けた。彼の魂は、雑念の渦に飲み込まれ、暗闇に引きずり込まれそうになっていた。マサミがその様子を察し、彼の魂にそっと手を添えている。
「迷いは、雑念から生まれるの。そして、その雑念は、見栄や体裁、他人との比較、そして『自分はこうあるべきだ』という過去の囚われからくるわ。」
マサミはそう言って、アキトの魂にそっと語りかけた。
「思い出しなさい、鏡に映ったあなたの姿を。ピュアで、何も知らない、素直な子ども。それが、あなたの命の核よ。その子どもの心に戻るの。何も飾らず、ただありのままの自分を見つめるのよ。」
マサミの言葉が、アキトの魂の核に深く響いた。彼は目を閉じ、再び自分の魂に意識を集中させる。雑念や迷いが嵐のように吹き荒れるが、彼は決して惑わされなかった。頭の中に浮かんだのは、マサミが教えてくれた**「命 そして、感謝と愛と慈悲の心」**という言葉だった。そして、鏡に映った、あの純粋な子どもの顔。
「そうだ……難しいことなんか、何もない。ただ、この心で、感謝すればいい。愛すればいい。」
アキトの魂は、一点の曇りもない光を放ち始めた。雑念の嵐は静まり、暗闇は後退していく。彼の心は再び、穏やかで澄んだ状態に戻った。
「……!」 アキトが目を開けると、彼の魂はまばゆい光を放ち、周囲の魂たちが驚きと羨望の眼差しを向けているのがわかった。彼は瞑想に成功したのだ。 シダイガが満足そうな表情で近づいてくる。
「見事で御座います、アキト殿。己の弱き魂と対峙し、見事打ち勝たれた。これはこの階層における、最も重要な試練で御座いました。」
アキトは少し驚きながらも、マサミに尋ねる。「おばちゃん、今のって、試練だったのか?」
マサミはにこやかに頷く。「そうよ。瞑想の過程で、自分の魂に潜む迷いや雑念に打ち勝てるかどうかの試験だったの。あなたが心の中で迷いを抱き、その迷いから生まれる闇に引き込まれそうになったとき、私はあなたの魂が発するSOSを感じ取ったわ。」
アキトは、マサミの偉大さを改めて痛感し、深々と頭を下げた。
「ありがとう、おばちゃん。おばちゃんがいなかったら、俺は今頃どうなっていたか……。」
「もう、いいのよ。これも修行のうち。さあ、次は座学よ。ここからは、神々や仏菩薩の教えを学び、魂に刻み込んでいくの。」
マサミはそう言って、アキトの手を引いた。アキトは、これまでの旅で得た経験と、マサミという頼もしい師の存在に勇気づけられ、新たな学びの旅へと踏み出した。 ここから、アキトの本格的な修行が始まる。教えを学ぶにつれ、彼の魂はどのように成長していくのだろうか。
第六章:理の悟り
アキトは修行の一段階目の瞑想行を終え、次の修行へと移ることにした。 その修行とは、各主要な神々や仏たちの主張する教えを学び、そこから真意と本意を読み取り、どのように生き、行動するべきかを悟るというものだ。アキトがまず紐解いたのは、ヒンドゥー教。
第一部 神々の教えと教本
ヒンドゥー教は、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァを主神とする多神教であり、輪廻転生を信じます。この世での行いであるカルマが来世の境遇を決定づけ、最終的には輪廻から解放され、宇宙の根本原理であるブラフマンと一体になることを目指します。 次に学んだのは、イスラム教。唯一絶対の創造主アッラーを崇拝し、最後の審判で善悪が裁かれると信じられています。信者には信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼という「五行」が課せられています。 そして次々と紐解き学習する。ユダヤ教は、神との契約(モーセの十戒)を重んじ、唯一神ヤハウェを信じ、メシアの到来を待ち望みます。律法を守り正しく生きることが教えの中心です。シク教は唯一神を信仰する一神教で、カースト制度を否定し、すべての人間は平等であると説きます。勤勉な労働と貧者への施しを重視します。ジャイナ教は特定の神を崇拝せず、24人の偉大な指導者の教えが中心です。最も重要なのは、あらゆる生命体を傷つけないという**「不殺生」の教えであり、輪廻からの解脱を目指します。道教は、宇宙の根源である「道」**の思想に基づき、「無為自然」を理想とし、自然の流れに逆らわずに生きることを説きます。キリスト教は、父なる神、イエス・キリスト、聖霊の三位一体を信じます。神を愛し、隣人を愛することが最も大切な教えです。仏教は、お釈迦様が説いた悟りを開くための教えで、人生の苦しみの原因は煩悩にあると説き、煩悩をなくし悟りを開くことで、苦から解放されることを目指します。慈悲の心を持ち、執着から離れることの重要性を説きます。
第二部 生命の道理と悟り
アキトは様々な教えを学び、思考を整えるために瞑想する。その繰り返しをしながら、一つの道理を悟った。
「この魂の世界は、誰かが取り仕切っているわけでも、操っているわけでもない。自然の摂理と道理で動いているんだ。まるで、僕らの体が液体や細胞で構成されているように、この宇宙全体が魂の大きな器なんだ。そして、その魂の集合体から、新しい命が生まれる。僕らが生まれ変わるとき、溶け込んでいた魂が一つに集まり、この世界から生身の生き物の中へと入っていく。これが生命と自然の摂理と道理であることは間違いない。」
アキトは瞑想の中で、この世界の根源的な真理に触れ始めていた。彼の魂の純粋さ、そして過去の経験からくる深い思索が、各々の教えの表面的な違いを超え、その共通する核を浮かび上がらせたのだ。それは、「生」と「滅」、そして「回帰」という、宇宙を貫く普遍的な法則だった。 アキトは瞑想から静かに目を開けると、自分の魂が一段と成長しているのを感じた。
「どうだった、アキト?」 マサミが優しく問いかける。
アキトは、まっすぐな目でマサミを見つめながら答えた。
「おばちゃん……。僕、わかったよ。色々な教えがあるけど、結局、どの教えも同じことを言っているんだね。自分の行いが、自分自身に還ってくるってこと。そして、その行いを正し、感謝と愛、慈悲の心を持つことが、魂を向上させる唯一の道なんだ。」
その言葉を聞いたマサミは、満足そうに頷いた。
「そうよ、アキト。それが、この聖聞乗階層で学ぶべき、最も大切なことなの。みんな、それぞれの教えの違いに囚われて、その根源にある共通の真理を見失ってしまうのよ。」
シダイガもまた、静かに微笑みながら二人の会話を聞いていた。
「見事で御座います、アキト殿。教えの根源にある真理を、自らの力で悟られた。」 そう言うと、シダイガはアキトに一つの課題を提示した。
第三部 新たな課題
「では、最後の試練で御座います。今、そなたが悟った道理を、まだ迷い苦悩している魂たちに、自らの言葉で伝えてみよ。そして、その魂たちを、迷いの淵から救い出して見せるのです。」
アキトは、シダイガの言葉に少し戸惑いながらも、静かに頷いた。
「はい、やってみます。」
彼は、瞑想にふけりながらも、出口が見えず苦しんでいる魂たちの元へと向かっていく。アキトは、彼らの魂の奥底に語りかけるように、静かに、そして力強く語り始めた。
「皆さん……僕もついさっきまで、皆さんと同じでした。どの教えが正しいのか、何が真実なのか、迷ってばかりでした。でも、僕は一つだけ、大切なことに気づきました。」
アキトの言葉に、魂たちは顔を上げ、彼の声に耳を傾ける。
「どの教えも、その根源にあるのは、たった一つの真理です。それは、『命』。僕たちの魂は、ただの単体ではなく、宇宙のすべての魂と繋がっている、一つの大きな命の一部なんです。だから、誰かを傷つける行いは、自分自身を傷つけることと同じ。そして、誰かを助ける行いは、自分自身を助け、魂を輝かせることと同じなんです。」
アキトの言葉は、まるで澄んだ水のように、迷える魂たちの心に染み渡っていく。
「どうか、教えの違いに囚われず、あなたの心の中にある一番大切なものを見つめてください。それは、感謝と愛、そして、慈悲の心です。その心こそが、あなたの魂を磨き、真の悟りへと導いてくれる道標なのです。」
アキトの言葉が響き渡ると、多くの魂が涙を流し、その魂から雑念が消えていくのが見えた。彼らは、アキトの言葉によって、自分たちが忘れていた大切なことを思い出したのだ。 シダイガは、その様子を見て、静かにマサミに語りかける。
「……見事なものですな、ユビーニョ様。あの若き魂は、この聖聞乗の階層を、あっという間に卒業してしまうかもしれませんな。」
マサミは、嬉しそうに微笑んだ。
「そうだと嬉しいな、シダイガ様。私の甥は、見かけによらず、結構やるんですよ!」
アキトは、悟りを開いた魂たちに囲まれ、彼らの感謝の光を浴びながら、静かに佇んでいた。彼の魂は、もう一段階、大きく成長したのを感じていた。
第七章 転生という試練
こうして、アキトは聖聞乗階層のすべての修行を終え、次の階層へと進む準備を整えたかに思えたが、思わぬ落とし穴に落とされてしまう。 しばらくすると、アキトはこの階層にいる、教えを求める数多くの魂たちから、「アキト様・アキト様」ともてはやされ、魂たちの中には「アキト尊師」と呼ぶ者も現れる。次第にアキトの命の中に良からぬものが目覚め、支配していく。アキトも最初は謙遜していたが、もてはやされているうちに、本当に自分は凄いのかもしれないと思うようになり、自分は皆と違って選ばれた凄い存在なのだと思うようになる。 アキトの魂の変化に気づいたマサミは、アキトに声をかける。
「アキト、どう?近頃、みんなに色々と尋ねられていて慕われているようだけど。」
するとアキトは、「彼らは未熟者なんです。直に教えを求めてくる無能者です。なぜにこの領域に入れたのか分からない者たちばかりですよ……。」と答えた。
それを聞いたマサミは、アキトに言う。
「アキト、あなたはまだ次の階層には行けないわね。それどころか、もうこの階層にも居れないわね。」
アキトはマサミの言葉に驚く。
「なぜ?僕はここで悟り、迷う魂たちに救いの手を差し伸べて教えてるじゃないか?」アキトはマサミに問う。
マサミはアキトに言う。「アキト、今のあなたはここに居ちゃいけないわ。私と一緒に一度転生をしましょうか?」
アキトは驚き、マサミに再び問う。「なぜだ、なぜ今さら転生しなきゃいけないんだよ?」
するとマサミは、「それよ!その今のあなたの命の状態……慢心……今のあなたは迷い苦悩している者たちを見下し、馬鹿にしている。その状態が酷くなると傲慢になり、決して元には戻れなくなる。だから今のうちに一度転生するの!分かった。」
そう言うとマサミはアキトの手を取り、強引に自分と共に転生状態に入り込む。アキトは多少抵抗するも、マサミの強引さに成す術もなく転生状態に引き込まれていく。 アキトの意識は、再び混沌の渦に巻き込まれていった。
「いやだ……!せっかく、ここまで来たのに……!」
彼の魂は抵抗しようとするが、マサミの力は圧倒的だった。マサミの魂から放たれる強い光がアキトの魂を包み込み、そのまま光の渦の中へと引きずり込んでいく。
「おばちゃん、なぜこんなことを!」
アキトの叫びは、虚しく光の渦の中に消えていく。彼が最後に感じたのは、マサミの悲しみに満ちた、しかし決意に満ちた表情だった。
「いつか、わかる時が来るわ。これが、あなたの魂を救う、唯一の方法なのよ。」
マサミの声が遠くに聞こえる。アキトの意識は徐々に遠のき、やがてすべてが真っ白な光に包まれた。
第八章:二度目の試練
アキトは、内戦や侵略による争いの絶えない土地に、人間として生まれ替わった。新たな名前も、なぜか前世と同じくアキト。土地は痩せ、民は貧困と飢えに苦しみ、一人一人が必死に生きるのがやっとという国。幼い頃から生きるためには略奪も当たり前という環境に育ち、物心が付く頃には戦闘に駆り出されていた。アキトが十八歳を過ぎた頃、ある戦闘に参加していたとき、敵の銃弾に撃たれ倒れた。 次にアキトが意識を取り戻したとき、彼は全く新しい、そして信じられないような光景の中にいた。
「う……ううん……。」
目を開けると、そこはコンクリートと鉄筋でできた、無機質な部屋の中だった。薄暗く、ひんやりとした空気が肌を刺す。彼は、硬いベッドの上に寝かされていた。
「ここは……どこだ?」
周りを見渡すと、他にも数人の人々がいた。みな、アキトと同じように、困惑した表情で周囲を見回している。誰もが、ボロボロの服を身につけ、痩せこけている。
「あ、あなたは……誰ですか?お名前は?……。」
一人の女性が、しっかりとした声でアキトに話しかけてきた。 アキトは自分の身体に触れる。冷たく、やせ細った手足、胸に包帯を巻かれていた。
「俺はアキト、あなたは?ここは何処だ」
アキトは話しかけてきた女性に聞き返した。
するとその女性は、「ここは、野戦病院よ、あなたは銃弾に撃たれここに運ばれてきたのよ。私はここの看護を頼まれているの。私の名前ははミマーサ。あなたはずっと意識が無くて心配してたのよ……生きててよかったわね。」
アキトは、敵に撃たれずっと意識不明の状態でいた。その時に見た夢の話をミマーサに言った。
「何か変な夢を見たんだ……僕は、自分が肉体を持つ人間に戻っていることに気づき愕然とした。『まさか……俺、転生したのか……?』 そして、彼の脳裏に、マサミの言葉が蘇る。 『ただの転生じゃなく、今まで暮らした人間界よりもさらに過酷な環境に生まれることになるの。』 アキトは、自分が置かれた状況を理解し、絶望に打ちひしがれる。ここは、彼がかつて生きていた豊かな人間界とはかけ離れた場所だった。貧困と飢餓、そして争いが日常の、荒廃した世界。 『ああ……おばちゃん……。ひどいじゃないか……!』 彼の目から、涙がこぼれ落ちた。しかし、その涙は、悔しさや悲しさだけではなかった。そこには、自分の慢心と傲慢さによって引き起こされた、この厳しい現実に対する自責の念も含まれていた。 『アキト……これが、あなたが自分で選んだ道なのよ。』 彼の心の中に、マサミの声が響く。 『慢心は、魂を腐敗させる。魂が腐敗すれば、この世界で最も過酷な場所へと導かれる。』 アキトは、この試練が、自分自身を救うためにマサミが与えてくれた、最後のチャンスなのだと悟った。彼は、この世界で生き抜くこと、そして再び魂を向上させることを誓った。 『待ってろよ、おばちゃん。必ず、また元の世界に戻って、みんなを助けてみせる……!』 そう心に誓ったアキトは、冷たい床に立ち上がり、新しい人生を歩み始めた。」・・・
第一部 ミマーサとの出会い
「なんて言う……まったく変な夢を見た……何だったんだろうね?……どう思う……」
アキトはミマーサに夢の話をした。するとミマーサは変な顔をしながらこう言う。
「アキトさんだっけ……死に損なったんだから無意識のうちに変なところにでもいちゃったんじゃないの?」
そしてミマーサは微笑みを浮かべながら言った。
「まぁ実は私もそんなような夢を見たことはあるけどね。」
アキトは驚いたような顔をしてミマーサを見てしまう。
「君が見た夢はどんな感じの夢だったの?」
おもわずアキトはミマーサに聞く。 するとミマーサは
「ん~どんなだったけなぁ……なんか私が天使に近い存在でそこで迷っている人たちに教えを説いて助けているの……笑っちゃうわよね、そんな教えなんて勉強したことも聞いたことも無いって言うのにね?」
ミマーサはそう言いながら看護の仕事へ戻っていった。アキトは何か心の中に不思議なものを感じながらスーッと眠りについた。……
すると突然もすごい勢いで警報が鳴り響く。 「敵国より弾道ミサイルが撃たれた模様!至急全員避難せよ!全員至急避難せよ!」
アキトは部屋に居た皆に声をかけ避難を呼びかけるが、直に動けない者もいる。アキト自身も体の痛みをこらえながらも、他に動けないものを救おうと必死に行動する。そこへけが人を運ぶためミマーサもやってきた。
「みんな、逃げるのよ動ける人は、こっちの通路から逃げて、力のある人は、動けない人をベットごと移動するから、お願い!手伝ってくれますか!」
その状況を見たアキトはミマーサに近づき声を掛ける。
「わかった、僕が手伝うよ、さあ、行くよ。」 そう言いながらベッドの淵を握り引き始める。
ミマーサも同じベッドを握りアキトと一緒に押して行く。アキトたちが必死に逃げている間にもミサイルが町中に着弾する。その内の幾弾が病院にも着弾した。 アキトやミマーサ、他のけが人たちも非難の最中の着弾だった。ものすごい轟音と爆発音。一瞬にして壁が崩れ落ちる。壁の下敷きになる者、爆発の犠牲になる者、風圧で飛ばされてしまうも者、アキトとミマーサもこの事態に巻き込まれていた。 アキトは薄れていく意識の中で思っていた。
「俺は、子供の頃から戦うことを教えられて育ってきた。それは生きていく為だからと言われ敵に勝って国を守るためと教えられてきたが、こんなに目の前で人が死んでいく、俺も死に損ねた……。でも……?何で人同士が争い戦い殺し合わなければいけないんだ、手を取り合って生きていけないのか?争わずに生きていけないのか?なぜこんなに犠牲を払ってでも争うものか?例え戦いに勝ったとしてもこんなに犠牲者が出たり町が壊されたり、毎日死の恐怖にさらされ、こんなことに何の意味があるんだ……もっといい環境の国に生まれてきたら幸せだったんだろうな?あっそういえば、ミマーサや他のみんなはどうなったんだろうか?大丈夫なのか?ダメだ目が開かない……皆、生きていてくれたらいいけど……。」
アキトはそう思いながらも何かを思い出したようにして、この戦いの犠牲となった。
第九章:再び魂の世界へ
アキトは、天使のような魂に、とても暖かい光に包まれ異空間へと連れていかれる感じがした。またその天使は他に幾人の魂も暖かな光で包み連れていく。アキトは以前同じような事があったような感覚がしていた。
「そう言えば、なんだか以前にも同じような事があったような……あの時はひとりで、幾つもの階層でいろんな魂の欠片を足られたんじゃなかったけ?……でも、今回は何だか天使みたいな者も一緒で、他にも何人か一緒にいるみたいだしな……でも、こうなったって事は俺は死んじゃったのか?じゃあ、一緒に居る魂たちはあの時、一緒に犠牲になった人たちか?もしかして、ミマーサもいるのか?彼女、結構可愛かったし良い子だったんだよな生きていてくれたらいいなぁ……!」
そんなことを思いながら、天使とあの時、病院で亡くなった人達の魂と一緒に魂の世界へと吸い込まれるように流れて行く。魂の世界に入ってからは、何人かの魂たちが、各階層領域に吸い込まれていった。
「うわぁ~あの魂たちこの領域で飲み込まれていった……可哀そうに、あんな環境で育ち暮らしていたら皆、人間らしくなんて生きられない。少しは配慮してくれても良いだろうに……神様たちも冷たいよなぁ……。」
アキトはそう思いながらも、天使の光に包まれながら進んで行く。やがて、人安穏階層領域に入ると、ここでこの皆は降り、天使はアキトを光に包み込んだままこの階層領域を通過していった。
アキトは「あの天使さん……まだ進むのですか?」
すると天使はアキトの方を向き答える。
「アキト、あなたはお忘れですか?私は、ミマーサです。」
アキトは驚き天使ののようなミマーサを見つめる。
「あぁ、あの時やはり君も巻き込まれてしまったんですね。無事でいてほしかったのに本当に残念です。」
アキトはそう言って寂しく悔しそうな顔をしていた。 するとミマーサが言う。
「アキトさん、私のことを悔やんでくれてありがとう。でも大丈夫ですよ。これも私の運命ですから。それにあなたをこの命の階層に連れて来れて良かったから。」
そのミマーサの言葉を聞いて「どういうこと?なぜ僕をここに連れて来れて良かったんだ?」とミマーサに問う。
するとミマーサは「あなたは、あの過酷な環境に生まれ育ったのにもかかわらず、戦闘に出ても誰一人も殺さずにいた、それだけじゃなく、あなたは負傷した者たち私を助けようとした。あなたの命は変わらずに素直なままでよかったわ。アキト……。」
その時アキトは以前ここで叔母のマサミに無理矢理に転生させられた事を思い出し、思わず声を上げた。
「あっ……!」 そしてミマーサは本当の姿を現しアキトに笑顔で言う。
「アキト思い出した。私はユビーニョで、あなたの叔母のマサミの時もあったわね。」
アキトは驚いた表情で聞く。「なぜ、おば……ユビーニョがここに居るの?」
ユビーニョは答える。「私には、『慢心』になったあなたを強引に転生させた責任があるからね。あの病院で遭えるのは命が感じ取っていたわ……でもあの場所で一緒に亡くなるとは思わなかったけどね……でも結果的にここまで連れて来られて良かったわ。」
第一部 反省と発心
ユビーニョは続けて言う。「どう?アキト、あなたは修行中に慢心に陥り、転生させられて過酷で厳しい環境に生まれていろんなことを感じたでしょ?」
するとアキトは「あぁ……本当だよ!あの世界は地獄だよいつ死ぬか分らない恐怖……今日を生きることだけで必死……自分のことだけ。他の人の事などどうでもいい、人間の姿をした獣のようだったよ。もう一度ここで、静かに修行をして迷える魂を救える様になりたい。……またここで修業をさせてほしいです。」
するとユビーニョは微笑みながら言う。 「アキト、今度は慢心にならないように修行をしましょう。……まずは、以前ここで悟れたことを思い出すように頑張りましょうね……。」
するとアキトは「はい!ユビーニョ様、成長できるように精進いたします。」
すると、ユビーニョは笑いながら。 「ハハハハハハ……なんか変だは甥っ子だった子にユビーニョ様って呼ばれるのってなんか気持ちがクスグッタイわぁ……。」
するとアキトは少し困惑した表情で「でも、今は叔母さんじゃないし、もはや、僕にとっては師匠とも呼べる方なので……。」
それを聞きユビーニョはアキトの手を取り再修業のためにある領域へと向かう。 二人が向かったのは、以前とは全く異なる領域だった。そこは、色彩に満ちた、温かく穏やかな場所。空には虹がかかり、大地からは優しい光が溢れ、そこには争いや苦悩の痕跡は一切見られない。この領域の名は、「聖覚乗階層」。
「アキト、ここでの修行は、以前とは全く違うわ。」
ユビーニョは、微笑みながらアキトに語りかける。
第二部 「無私」の修行
「ここでは、誰もあなたのことを知る者はいない。あなたはただの魂の一つとして、この世界に溶け込むの。」
アキトは戸惑いながらも、静かに頷いた。 ユビーニョは、彼を小さな菜園へと連れて行った。そこには、黙々と野菜の手入れをする他の魂たちがいる。
「あなたの最初の修行は、この菜園で、誰にも気づかれずに野菜を育てること。」
アキトは目を丸くした。以前は、偉大な教えを説くことだった。しかし、今回はただ、静かに土を耕し、水をやり、雑草を抜くという、何の面白みもない、地味な作業だ。
「ユビーニョ様、これは……?」
アキトが尋ねると、ユビーニョは優しく答えた。
「あなたが以前、最も見下していた『無能者』たちとは違うのです。彼らは、誰に褒められるわけでもなく、ただひたすらに、自分と他者の命を繋ぐために、この作業を続けている。彼らは、あなたよりも、ずっと深く自然や命の真理を悟ろうとしているのかもしれないわね。」
その言葉に、アキトは顔を赤くし、何も言えなくなった。
「ここでの修行は、**『無私』**の心を取り戻すこと。誰かの役に立ちたいという気持ちだけで、行動すること。そして、自然や生命の摂理・道理などの真理を悟り、その行動が誰にも知られなくても、静かな喜びを感じること。」
アキトは、ユビーニョの言葉を胸に刻み、静かに菜園の土に触れた。以前の修行で得た知識や、人から称えられた経験は、ここでは何の役にも立たない。ただ、黙々と土と向き合い、野菜の成長を助けること。それが、彼の新しい修行だった。 アキトは、この地味な作業の中に、新たな学びを見つけ出せるだろうか。 アキトは、言われた通り、菜園での地味な作業を始めた。 最初は、ただの罰ゲームのように感じられた。毎日毎日、同じことの繰り返し。土を耕し、種をまき、水をやり、雑草を抜く。褒めてくれる者もいなければ、見てくれる者もいない。 しかし、日が経つにつれて、アキトの心に少しずつ変化が訪れる。 彼は、一本一本の野菜に、まるで命が宿っているかのように感じ始めた。小さな種が芽を出し、緑の葉を広げ、太陽の光を浴びて、少しずつ大きくなっていく。その成長を見守ることが、アキトにとって何よりも大きな喜びになっていった。 ある日、アキトが水をやっていると、近くを通りかかった一人の魂が、彼の育てた野菜を見て、静かに微笑んだ。
「……見事なものですね。」
その一言に、アキトの心は震えた。誰にも知られずに、ただひたすらに行っていた作業が、誰かの心に届いた。その事実が、アキトの心を温かく満たした。 そして、アキトは、この作業の先に、自分の過去の傲慢さがあったことに気づいた。かつて、他者を「無能者」と見下していた彼が、今、自分自身が彼らと同じように、無名の存在として、誰かのためにひたすら尽くすという、最も尊い行いをしていたのだ。
「僕……本当に、どうしようもない奴だったんだな……。」
アキトは、心の中で呟く。しかし、その声には、以前のような傲慢さや絶望はなく、ただ、素直な反省と、感謝の気持ちがこもっていた。 アキトが菜園で作業を続けていると、ユビーニョが静かに彼の隣に現れた。
「アキト、あなたの魂は、もう元の輝きを取り戻したわ。それどころか、以前よりも、ずっと深く、温かい光を放っている。」
ユビーニョは、アキトの額にそっと触れる。その瞬間、アキトの魂の中に、新たな力が湧き上がってくるのを感じた。
「ユビーニョ様……僕、このまま、ここでみんなのために……。」
アキトが言いかけると、ユビーニョは首を横に振った。
「いいえ、アキト。あなたは、もうここには居られないわ。」
アキトは、またか……と少し悲しい顔をした。
「さあ、行きましょう。次の階層へ。そして、本当の意味で、迷える魂たちを救う力を手に入れるのよ。」
アキトは、満身の笑みを浮かべ、ユビーニョと共に、次の階層へと向かって歩き始めた。
第十章:未知なる階層へ
アキトは「聖覚乗階層」での修行を終え、ユビーニョと共に次の階層へと向かった。その途中アキトはユビーニョに尋ねる。
「ユビーニョ様、次に向かう階層はどの様なものなのでしょうか?」
ユビーニョは少し緊張した表情で言う。
「アキト、あのね実は私も今回初めて入れる様になった階層領域なの。そこは、**『聖天菩階層』**と言って、天使たちや菩薩たちの居る場所らしいのよ。……あぁ……ちょっと緊張してきたぁ~……。」
するとアキトは驚いて、ユビーニョの顔を見て。
「ちょっと、ユビーニョ様がそんなに緊張してたら僕はどうするんですかぁ~……?あぁ~やべぇ~……超緊張してきたぁ~……。」
二人はそう言いながら「聖天菩階層」の入口へと近づく。すると入り口の前には何者をも寄せ付けようとしない風貌で入口の前で立ちはだかる者がいる。
「己らは、何者だ!何様でここに来た!」 そう言って鋭い形相で睨む。
するとユビーニョとアキトは少しビビりながらも、しっかりと手を合わせお辞儀をしながら答える。
「申し訳ございません。申し遅れました金剛力士の阿形様・吽形様……私はユビーニョ、之に居りますは、アキトと申します。私共は天使様・菩薩様の修行をしたくこの聖天菩階層へ参りました。」
すると、金剛力士吽形が「では、少し待て確認をしてやる。」
そう言いながら近くに居るサインツとマラーイカを呼び確認を頼む、すると二人の天使は直に奥の方へ行く……しばらくして、二人の天使が戻って着て言う。
「ユビーニョ・アキト、あなたたちに各大天使様・菩薩様の許可がありましたので、どうぞお入りください。」
そう言ってサインツとマラーイカが奥の方へ導く。
そして、「あなた達はこれから天使菩薩の修行者としてこの領域で精進してください。あなた方は之より天菩と呼ばれます。後に天使として使えるか、菩薩として使えるかを自ら決めてください。」そう言われながら聖天菩階層領域に入った。
第一部 天菩としての第一歩
二人が足を踏み入れた「聖天菩階層」は、これまでのどの階層とも比べ物にならないほど、広大で荘厳な空間だった。そこかしこに、まるで銀河を閉じ込めたかのような輝きを放つ天使たちが飛び交い、静かで慈悲深い光をまとう菩薩たちが、瞑想の姿勢で悠然と浮かんでいる。彼らの放つオーラは、アキトとユビーニョの魂を震わせるほど強力だった。
「すごい……これが、天使と菩薩の領域……。」
アキトは、ただただ圧倒されていた。ユビーニョもまた、緊張の面持ちで周囲を見回している。 サインツとマラーイカは、二人をある広大な庭園へと案内した。その中心には、輝く大樹がそびえ立ち、その根元には、見る者を安らかな気持ちにさせるような、優しい顔立ちをした大天使と、柔和な微笑みを浮かべた大菩薩が座している。
「大天使ミカエル様、大菩薩観音様、彼らが今回、この聖天菩階層への修行を許された、ユビーニョとアキトです。」
二人の天使が頭を下げて紹介すると、大天使ミカエルが静かに目を開いた。彼の瞳は、夜空の星々を映したかのように深く、アキトの心の奥底を見通すかのようだった。
「よくぞ、ここまで来た。ユビーニョよ、そしてアキトよ。」
次に、大菩薩観音が、ユビーニョとアキトを温かい眼差しで見つめる。
「あなた方の修行は、ここから、さらに深遠なものとなります。」
そして、大天使ミカエルが二人に向かって言った。
「天菩よ。お前たちの最初の課題は、力を使うことではない。見ること、感じること、そして理解することだ。」
アキトとユビーニョは、緊張しながらも真剣な眼差しで、大天使の言葉に耳を傾けた。
「現世には、多くの魂が迷い、苦悩している。彼らは、自らの力ではどうすることもできない、複雑な問題に直面している。お前たちには、これから一つの魂を観じ、その魂の抱える苦悩の根源を理解してもらいたい。」
大天使がそう言うと、彼の掌から、小さな光の玉が浮かび上がった。その玉は、アキトとユビーニョの間に静かに漂う。
「この光の玉は、現世の一人の魂と繋がっている。お前たちは、その魂の人生を、その魂の視点から観じるのだ。そして、その魂の苦悩が、どこから来るものなのかを、自らの心で答えを見つけなさい。」
ユビーニョとアキトは、互いに顔を見合わせる。それは、これまでのような教えを説く修行とは全く違うものだった。
「ただし、一つだけ掟がある。決して、その魂に干渉してはならない。ただ観じ、理解するのみ。」 大菩薩観音が穏やかに告げる。
第二部 光の玉との繋がり
「この課題は、あなた方が本当に『無私』の心を持っているか、そして、他者の苦悩を自分事として受け止められるかどうかを試すためのもの。」
二人は、静かに頷き、目の前の光の玉に意識を集中した。玉は光を放ち、二人の意識を吸い込んでいく。彼らの目の前に、全く新しい、しかしどこか懐かしい、人間界の光景が広がった。 アキトとユビーニョは、「聖天菩階層」での最初の課題に挑むことになった。他者の苦悩をただ見つめるという、この試練の先に、彼らは何を見出すのであろうか? アキトとユビーニョはただひたすら、その光を放つ玉に意識を集中させ、その者の魂と共鳴し思いを感じることに努めた。するとアキトがユビーニョに問いかける。
「ユビーニョ様、この方は男性でしょうか?女性でしょうか?何かとても穏やかな魂のようですが?」
するとユビーニョは少し考えながら…… 「アキト、この方はきっと女性だ。しかも、身御子を持っているようだ。よく見るとこの光の玉の中にもう一つ小さな球が光を放っている。」
するとアキトも、その光の玉を見つめながら 「本当だ!確かに光の玉の中にもう一つの小さな光の玉が有ります……おぉ、なんということでしょう……しかもこの球は小さくともしっかりと輝きを放ち始めております。僕は今とても感動しております。ユビーニョ様!」
そんなアキトを見て、ユビーニョは 「そんなに感情的になるな、いま私たちは冷静にこの方たちの思いと感情、そして苦悩などの命の状態をしっかりと汲み取り感じる事が大事なのですよ。」
そう言ってユビーニョはアキトに優しく微笑む。するとアキトは、我に返った表情で……
「そうでした。いま私たちは修行の身でしたね、ユビーニョ様。しっかりとこの方たちを見守っていかなければなりませんね。」
するとユビーニョはアキトを優しく包み込むような笑顔で見つめた。
「しかしユビーニョ様、この方たちはこれから、どんな苦悩に遭遇してしまうのでしょうか?」
ユビーニョはアキトのその言葉を聞いて 「そうね、これからどのように生きていくのでしょうね。私も心配です。何もできないですけど、しっかりと見守ってあげましょうね。」
そう言いながら二人は真剣な趣で光る球を見つめ続けている。時がたつにつれて光の玉は色々な光を放つようになる。その光の玉は対象者の魂・命の感情から発信されている。安心・不安・喜び・絶望・満足・不満・期待・失望・感謝・憎悪・様々な感情が光となって現れる
「ユビーニョ様、今この方はだいぶ不安を抱えているようです。」
「アキト、この方は子供の成長やこれからの家庭生活状況での不安、お金の事や仕事の事とか、子供や夫の健康の事。様々なことに不安に悩まされているようですね」
そして、この魂の長い年月を見守っていたある時、大天使ミカエルと大菩薩観音がユビーニョとアキトのもとへ現れる。大天使ミカエルが二人に聞く。
「どうですか、その方の状況を見て何かを感じ取れましたか。」
アキトが答える 「はい、ミカエル様。この方は、常に不安を抱えていることが多いようです。子供が産まれる前から産まれたのちも子供の成長や幸せを思いを心配しておられており、その思いからからくる、生活、養育、仕事、など様々な事柄に苦悩しておられるようです。私たちは何もできず、ただ見守ることしかできないのが残念です。」
そう言ってアキトとユビーニョは少し悲しげな表情をして頭を下げた。
第十一章 最後の試練
大菩薩観音と大天使ミカエルが、静かにアキトとユビーニョの前に現れた。彼らの存在は、ただそこにいるだけで、すべての魂を包み込むような温かさと、揺るぎない威厳を放っていた。
「アキト、そしてユビーニョよ。あなたたちは、これまで数えきれないほどの命の感情と向き合い、その喜怒哀楽を学んできた。人々を助けたいという、その純粋な願いは、すでに菩薩や天使としての資格を十分に備えている。しかし、最後の試練があなたたちを待っている。」
大菩薩観音の言葉は、回廊に響く透明な音色のように、二人の心に深く染み渡った。
「これからあなたたちは、地上に転生し、人として生きる。その過程で、真の菩薩、真の天使となるための修行を積まねばならない。だが、この修行には途方もない危険が伴う。もし失敗すれば、二度とこの場所に戻ることはできない。無限の地獄に落ち、魂は永遠の苦しみの中に囚われる。たとえ地獄から抜け出したとしても、再び人として生まれることは叶わない。」
ユビーニョとアキトは、息をのんだ。彼らはこれまでにないほどの重圧を感じていた。
第一部 煩悩を喰らう魔
大菩薩観音は続けた。
「我々天使や菩薩も、神々や如来様から使命を受け、人々のために転生する。だが、地上で人として生きる中で、その使命を忘れてしまう者がいる。そして、そこに**『魔』**が潜んでいるのだ。」
ミカエルが静かに語り継いだ。
「かつて、神々が人々に教えを説いたとき、『欲望や煩悩は捨てよ』と説いた。それは、魂の奥底に潜む魔を目覚めさせないためだった。だが、魂が進化し、教えが深まるにつれ、『煩悩即菩提』という真理が生まれた。煩悩や欲は、使い方を誤らなければ、魂を向上させる原動力となる、と。しかし、神々が人々の前から姿を消したとき、その真理の重さに耐えきれない者が現れた。」
大菩薩観音の目が、遠い地上を見つめるかのように細められた。
「煩悩や欲が肥大化したとき、心に潜む『魔』は目を覚ます。その『魔』は、やがて強大となり、**『サタン』や『第六天の魔王』**と呼ばれる存在へと変貌するのだ。彼らは、他者の心を操り、無意識のうちに悪へと導く。人々を不幸に陥れ、戦争や争いを引き起こす。そして最も悲しむべきは、彼らもまた、かつては我々と同じ、使命を帯びた天使や菩薩であったということなのだ。」
その言葉は、二人の魂を震わせた。成功した資産家、権力を持つ政治家、あるいは宗教家。彼らが心に潜む『魔』に操られ、自己の利益のために世界を混乱させる。その悪行のたびに、神々の教えは間違っていると判断され、神仏の力は弱まる。 ミカエルは、二人の瞳をまっすぐに見つめ、問うた。
「この『魔』は**『他化自在天』**とも呼ばれ、様々な姿に化けて心に近づき、魂を惑わす。どうだ?あなたたちは、この戦いに挑む覚悟があるか?これは、あなたの魂の中に宿る『使者と悪魔』との戦いだ。この戦いに勝利した時、あなたは真の天使、真の菩薩となる。どうするかは、あなたたち自身が決めなさい。我々は決して強制はしない。」
第十二章 二人の決断と覚悟
大菩薩観音とミカエルが去った後、二人は沈黙した。広大な魂の回廊に、二人の静かな呼吸だけが響く。 ユビーニョが、重い口を開いた。
「アキト、私たちはもう師弟ではない。対等な共同体よ。どうする?この修行に挑む?それとも、ここで終わらせる?」
アキトの顔は緊張でこわばっていた。
「ユビーニョ様…正直、とても怖いです。失敗すれば、二度と戻れず、無限地獄に落ちるなんて、即答できません…。」
ユビーニョは、微笑んだ。
「そうよね。私も、正直に言うと震えているわ。でも、失敗を恐れて何も行動しないなんて、私の魂が許さない。だって、私たちは何のためにここまで来たの?」
アキトの言葉に、ユビーニョの言葉が重なった。
「私たちがここまで来たのは、誰かに言われたからじゃない。自分自身の魂が、人々を救いたいと強く願ったからよ。もし今、ここで引き返せば、きっと未来の私はこう思うでしょう。『なぜあの時、勇気を出さなかったんだ』と。後悔は、魂を腐らせるのよ。」
二人は静かに、しかし深く頷いた。彼らの心に、同じ決意が芽生えていた。
「ユビーニョ様、僕は決めました。」 「私もよ、アキト。後悔はないわ。」
二人は顔を見合わせ、晴れやかな笑みを浮かべた。彼らの魂から、弱さと迷いが消え、確固たる決意の光が溢れ出す。
「よし!大菩薩観音様とミカエル様のところへ行きましょう!」
「はい、ユビーニョ様!」 二人は、迷うことなく前を向き、再び歩き出した。
第十三章 旅立ち
数日が経ち、アキトとユビーニョの魂が、再び地上へと旅立つ時が来た。大天使ミカエルが二人を伴い、魂の回廊の最深部へと進んでいく。
その場所には、言葉では表現できないほどの光景が広がっていた。天空を貫くかのような巨大な宝塔がそびえ立ち、その手前には、二人の転生を祈るために静かに座す、釈迦如来と多宝如来の姿があった。そして、その周囲には、数えきれないほどの神々、天使、そして菩薩たちが、二人の旅立ちを見送るべく集まっていた。
静寂の中、観音菩薩が厳かに告げる。 「皆さま。この厳しい時代に、使命を帯びて地上へと転生する、ユビーニョ天菩とアキト天菩です。どうか、この二人が修行を成就し、無事にこの場所に戻ってこられるよう、皆さまの祈りで見守っていただきたい」
その言葉に、すべての者たちが力強く頷いた。
やがて、釈迦如来が宝塔の前で正座し、アキトとユビーニョはその背後に並んで座る。釈迦如来が祈りを捧げ始めると、二人の魂は眩い光を放ち、やがてその光は一つに融合した。超光速で光は天へと昇り、大宇宙へと飛び立っていく。
二人が去った後も、神々や天使たちの祈りは続いた。その祈りは、地球の平和と全人類の幸福へと降り注ぎ、慈愛の光となって地上を優しく照らした。
そして、二つの光は、青く輝く美しい惑星、地球に降り立った。彼らは、それぞれの場所で、新たな生を受けることになった。
第十四章 再び世界へ
アキトの魂は、日本の穏やかな地方都市に生まれた。彼の新しい名は「陽翔」。優しい両親と、自然に囲まれて育った彼は、幼い頃から、人や動物の悲しみに敏感な、慈愛に満ちた少年だった。しかし、時折、胸の奥から湧き上がる説明のできない喪失感に悩まされることがあった。「何か、とても大切なことを忘れているような…」その感覚は、陽翔の魂に刻まれた、前世の記憶の残滓だった。
一方、ユビーニョの魂は、ニューヨークの摩天楼がそびえる大都会に生まれた。彼女の新しい名は「結衣」。
活気のある家庭で父はアメリカ人、母は日本人の両親の元で育った彼女は、幼い頃から周りを導くリーダー気質を持っていた。自分勝手な振る舞いや不公平な出来事を見ると、無意識のうちにそれを正そうとする。その内なる強さは、彼女が自覚しないうちに、彼女の人生を形作っていた。結衣は、常に何か大きな使命を求めているような感覚に駆られていたが、それが何なのかは分からずにいた。
時が流れ、二人は青年へと成長した。陽翔は、他人のために尽くすことを生きがいとする青年となった。彼の穏やかで優しい心は、多くの人々を癒し、希望を与えた。結衣は、正義感が強く、困っている人々を助ける仕事を選んだ。彼女の情熱と行動力は、多くの人々の心を動かした。
ある夜、遠く離れた二人は、同時に不思議な夢を見た。それは、広大な宇宙を光となって飛んでいく夢だった。その光の先には、巨大な宝塔と、静かに祈りを捧げる無数の神仏の姿が見えた。夢から覚めた二人の頬には、一筋の涙が伝っていた。なぜか胸が締め付けられるほど懐かしく、そして切ない気持ちになった。
二つの魂は、記憶を失い、遠く離れていても、再びこの世界で出会う運命を背負っていた。
第一巻 完結
第二巻 再びの世界へ
再序章 今を生きるあなたへ
さて、ここから始まる【第二巻 再びの世界へ】は「陽翔」と「結衣」の人生の物語は、現実世界で、あなた自身が作っていくものです。主人公はあなたです。さて、「結衣=ユビーニョ」と「陽翔=アキト」の修行がどうなっていくのかは、この物語を読んでくださったあなたに委ねたいと思います。
二人の人生が、そしてあなたの人生が、幸福で、悔いのない一生を送れるように、私は心から祈っています。私も「陽翔」と「結衣」の新しい物語を描いていきたいと思っています。