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おっさんずクリスマス(大史編)

 12月24日。


 せっかくのクリスマスなので、3人でクリスマスパーティーをしようと持ち掛けたところ、各々用事があると朝から出かけてしまった。


 虎之介は万次丸さん&雪子さん夫妻の家へ招かれ、龍さんは団三郎ファンクラブのクリスマスディナーショーへ。予定がないのは俺だけだったようだ。


 どうせなら誘ってくれればよかったのに。誘われても行くとは限らないけど、行かないとも言っていない。どうしてもと言うなら行ってあげてもよかったのに、一言くらい声をかけて欲しかった。


 俺は意外と面倒くさい性格なのもしれない。


 あいにく今日は定休日なので店を開ける予定もない。

 そうとなれば、やることは一つ。


「ぼっち酒じゃあぁぁぁしゃおらぁぁぁあ!!」


 こうなったら背徳の限りを尽くしてやる。

 俺は意気揚々と薄暗い店へと下り、カウンター席のみ明かりをつけた。冷蔵庫から瓶ビールを取り出し、麦焼酎と芋焼酎、水と氷をテーブルにセッティング。小さいグラスはつぎ足すのが面倒なので、ビールの大ジョッキをドンと置く。


 どうせ俺1人なのでつまみは適当でいい。確か虎之介が秘かに隠している酒のアテが棚のどこかにあるはず。そう思いカウンター下の棚を探っていると、段ボールに入った大量の“乾きものコレクション”を発見。


「ふっ、この俺が見逃すと思ったか! これだけあれば拝借しても問題ないよな」


 手に取ったのはビーフジャーキーとミックスナッツ、れんこんスナック。腹が減ったらカップラーメンでも食べればいい。


 料理人であるがゆえの背徳感、ワクワクする……!

 たまにはこんな日があったっていいじゃないか!


 そんなことを考えていると、外から鍵のかかった店の戸を開けようとする音が聞こえた。もしかしたら定休日の看板を出し忘れてかもしれないと思った俺は、解錠して静かに戸を開ける。


「――― すいません、今日は定休日で……あっ!」

「なんだ、定休日だったか。看板が出てなかったからよ、やってんのかと思ったぜ。久々に()()()()昼メシでも食おうと思ったけど、また来るか」

「いやいやいや! ちょっと待って! 入ってどうぞッ!」

「だって定休日……」

「お気になさらず! ちょうど仲間を求めてたんですよ! ようこそ“ぼっちクリスマス会”へ!」

「なんか嫌だな」


 しぶしぶ店内へ足を踏み入れたのは刑事の百目鬼(どうめき)さんだ。ここ最近は忙しいのか店に来ることはなかったが、よりによって定休日に来るとは。


 だがしかし、ナイスタイミング!

 

「おいおい、なんだこれ。昼間から酒を飲むつもりだったのか?」

「見ての通り! 百目鬼さんも一緒に飲みましょうよ。今日は休みでしょ? ちなみに仕込みしてないんでメシはないっす。カップラーメンならあります。赤いたぬきと緑のきつね、どっちがいいですか?」

「じゃあ赤」

「え~、俺も赤がよかった」

「緑でいい」

「優しいなぁ、百目鬼さんは!」

 

 褒めたつもりだったが呆れたような溜息を吐かれた。本当はうちのメシを食べに来てくれたのに、カップラーメンと乾きものだけではやはり味気ない。そう思った時、肉屋の松さんから仕入れている冷凍焼き鳥があることを思い出した。既に味付けをして焼いたものなので、レンチンするだけでいい。


 お湯を沸かして冷凍焼き鳥を温めていると、百目鬼さんは小さな箱をテーブルの上に置いた。


「今日は相棒どもはいないのか」

「いませんよ。2人共お出かけしてます。俺を置いて」

「かわいそうに。人間のお前より妖怪のほうがよっぽどクリスマスを満喫してるじゃねぇか。あの子供にと思ってケーキを買ってきたんだが、いないならしょうがないな。食うか?」

「えっ、百目鬼さんがケーキを……!? こんなおっかない顔してるのに、ケーキ屋に行ったんですか!?」

「侮辱罪で訴えるぞ」


 箱を開けると、可愛らしいキャラクターケーキが3つ並んでいた。龍さんがいたら確実に喜ぶやつだ。「せっかくなんで一緒に食べましょうよ」と言うと、表情には出さなかったが「仕方ねぇな」と言った声がどこか嬉しそうだった。多分、百目鬼さんはスイーツが好きなんだと思う。


 俺はジョッキにビールを並々と注ぎ、百目鬼さんには芋焼酎のロックを用意。乾杯をしたと同時に、一杯目を一気に飲み干した。真冬だというのに、やはりビールはキンキンに冷えてるほうが美味い。一方、百目鬼さんはちびちびと酒を口にしながら、焼き鳥とケーキをつまみにしていた。


「しょっぱいのと甘いのを交互に食べる作戦か……俺も真似しよ。そういえば、元奥さんとの寄りは戻せたんですか?」

「なんだよ藪から棒に。前となんも変わってねぇよ。最近は忙しくて娘にも会えてないが、クリスマスプレゼントだけは送っておいた」

「へえ、相変わらず子煩悩なお父さんなんだなぁ。俺、物心つく前に両親が他界したんです。親父の顔もどんな人だったかも全然覚えてないんですけど、なんだか百目鬼さんが親父に思えてくるんですよね。もし生きてたらこんな人なんだろうなぁって。だから勝手に親近感湧いてます」


 すると、百目鬼さんは少し考えたあと、グラスの酒をぐいっと飲み干した。


「親父よりせめて友達にしてくれよ。ひと回りちょっとしか変わらねぇだろ」

「えっ、友達になってくれるんですか!? じゃ、じゃあ、これからよろしくな! 百目鬼!」

「距離感バグってんのか」


 悪態をつきながらも拒まない百目鬼さんはやはり優しい。親父ではなく友達と言ってくれた時は本当に嬉しくて、つい肩に手を回してしまったが秒で払われた。さすが刑事、瞬発力が桁違いだ。


「あーあ、カップラーメン伸びちゃったなぁ」

「これはこれで美味いだろ」

「まぁ、確かに。クリスマスにおっさん2人でカップラーメンすするなんて思いもしなかった。でも……めっちゃ楽しい」

「そりゃよかったな。俺もまさかメシ屋でカップラーメン出されるとは思わなかった」

「百目鬼さん、次は営業日に来てくださいよ。待ってますからね」

「おう」


 その後も夕方頃まで飲み続けていたが、いつの間にかカウンターで寝てしまったようだ。気付いた頃には百目鬼さんは帰っていて、そのタイミングで虎之介と龍さんが帰宅。


「戻ったぞ! って、酒くさぁ!」

「まさか1人で飲んでたのか? 水くさいな、オレも誘えよ。そういえば、大史に土産を買ってきたぞ」


 テーブルに置かれたのは、見覚えのある小さい箱。

 その中には、可愛らしいキャラクターケーキが3つ入っていた。


「龍が3人でクリスマスケーキを食べたいって言うからケーキ屋に寄ったんだけどよ、ホールケーキが売り切れでな。これしかなかった」

「ふふんっ、可愛いだろ? 我のように」

「もう……たべた、それ」

「え?」

「もう食べたけど……っ! そうだよな、3人で食べようなぁ! メリークリマクリスティーッ!」

「相当酔ってるみたいだな」


 虎之介に担がれた俺は、強制的に自室の布団に寝かされてしまった。

  

 まったく、きみらってヤツは。

 ぼっちだと思っていたクリスマスは、最高の気分で幕を閉じた。

 ——— 来年のクリスマスは、今から予約を入れておくつもりだ。


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