さて
「えー、本日より、ここで君たちの先生をします。名前はカルド・エルゲンです。今年で25歳になるかな。冒険者歴は、、、親が死んだのが8の時だから、、、17年になるね。つい最近、俺向いてねーなぁと思って辞めました。」
誰がどう見てもやる気のなさそうな態度で挨拶をするのは、今年創設された世界初の勇者育成学園、『レベルマ学園』の教師として務めることとなった男である。
「冒険者すら向いてないやつが、どうやって俺たちを勇者にするってんだ!?あぁ!?」
1番後ろ角の席に座る少年が声を荒らげた。
「あぁ、冒険者の最後の3年は地元の子供3人に戯れ程度の稽古をしててな、あのガキどもみーんな勇者候補の称号を授かりやがった。それをどっから嗅ぎつけたんだか、ここの学園長が俺をスカウトしたってわけだ。目の前に大金を出されてみろ、人ってのはなぁ、欲望に逆らえねぇもんだ。」
当の本人でさえ納得いってなどいないのである。確かにあの子供達は才能があったというか、よく努力はしていたと思う。正直いって偶然の産物としか思えないのである。
「何故あなたのような、名も知られてない男に私たちに残された3年という貴重な時間を預けなければならないのですか?ましてや、この教室は最も勇者候補に近い方々が集められていると聞きましたが。」
今度は1番前の列、ちょうどカルドの前に座る少女がいう。
「それはなぁ、学園長の推薦、、、と言ってやりてぇところだけどよぉ」
カルドは頭をかいて少し間をあけた。
「俺が教師の仲で1番強かったからだ。ほんとにあいつら勇者パーティ経験者か?デケェのは口だけでいざ戦ってみれば、、、思い出したくもない。」
続けて大きなため息をついたあと、
「だからやりたくもねぇのにこの教室の担当になったってわけ。あんな使えねぇ奴らよか幾分かマシだと思った方がいいぞぉ。」
間髪入れず、メガネくんが発言する。
「使えない?かつて最強とうたわれた勇者パーティ、『炎帝』の魔術師、ファルハンド、帝国1番の大盾使い、バーディ、疾風の射手、イクノ、彼らを含めて9名もの勇者パーティ経験者がいると聞いていましたが?そんな彼らが使えないと?」
「そんな早口になるなよな?ファルハンドはただのジジイだったし、バーディはデブ、イクノは、、、かわいかった。他の奴らも俺が会ったことのある唯一の勇者パーティの奴らにくらべたら大したこと無かったぞ?」
教室がざわついている。当たり前だ。実際に今名前を挙げられたものたちは、いわば勇者と共にいる英雄として名高い人間たちだからだ。ファルハンドとバーディは過去の栄光だったとしても、イクノにいたってはつい先日まで現役だった。
「まぁそう騒ぐなや、めんどくせぇ。じゃなんだ?お前らが俺に望むものは。言ってみい、声でかい君。」
そう言って最初に声を荒らげた少年を指す。
「望むもの?えーっと、、、」
「じゃあ次、目の前の可愛いお嬢ちゃんは?」
「おい、まだなんも言ってねーだろ!」
少年の話を聞く前に、目の前の少女に話を振ったが当然遮られる。
「どうせ力をみせろってだろ?聞いた俺が悪かったわ、すまん。で?お嬢ちゃんどう?」
少年は空いた口が塞がっていない。
「私ですか、あなたの得意分野は?」
「お、質問できたか、いいぜ。逆になんだと思う?」
「質問に質問で返すとは、、、そう、ですね、、、」
少女は腹立たしいカルドの態度をあっさりと流し考える。
「体つきからして、力でどうにかできるタイプではないでしょうし、無難に魔術ではないのですか?」
カルドの体格や性格を鑑みても、この結論が妥当であろう。筋肉がある訳でもなく、隠密や回復術士には到底見えない。ひねくれた性格を合わせれば魔術師以外考えられないとまで言える。
「んー、半分正解だな。」
「半分なんてことがありますか?」
「あるんだなぁ、これが。確かに主な戦闘方法は魔術だね。一応植物系の魔術、中でも樹木に関しては得意としてるよ。ただお察しの通り、それだけで戦っていけると思うか?当然無理だ。結局たどり着いたのが、近接主体の魔術師だ。」
「それは近距離で魔術を使うだけなのでは?」
ここで、メガネくんの鋭い指摘が飛んでくる。
「メガネくんの割には察しが悪いな。近距離で樹木魔術を使ったって普通は攻撃力なんて圧倒的に足りないだろ?だから殴るんだよ。木刀作ったり色々してな。」
これはカルドが冒険者になりたての頃、自分の無力さに真剣に向き合い導き出した最初の戦い方である。
8歳の時、どこにでもいる村人だった両親は、王都へ食物を運搬中盗賊に襲われなくなった。幸いにもカルドはその場におらず、当時護衛を任されていた冒険者から後に聞かされた。大人数での急襲だったらしい。それ以降、復讐を果たすべく冒険者として登録をした。初めは復讐に燃え、やる気に満ち溢れていたが、冒険者ギルドで役職や魔法の適正検査を受けた時、やる気は見事にへし折られた。
適正検査の結果、役職は剣士の才能が辛うじてある程度、魔法に関しては、流石村人出身ともいえる植物魔法だった。カルドが冒険者になりたての時代において、最弱と言われていた魔法である。その場にいた冒険者には雑用係と嘲笑われ、受付のお姉さんには渾身の愛想笑いをされた。あの歪んだ口角を忘れることはないだろう。
それでも冒険者以外に道はなく、登録をすませた。
その後は植物魔法について調べたが、何をあたっても大した事は得られず、剣術に関しては、剣すら買うお金もなかった。
ひたすら独学の毎日だった。簡単な仕事を受けては、辛うじて得られた植物魔法に関する知識を片っ端から試し、固めの棒切れを拾っては、やみくもに振り回し続けた。
毎日の努力の結果、わかったことがあった。初級の植物魔法では戦闘には当然役に立たないという絶望、棒切れでは剣術の練習には全くならないということ。どちらも分かりきっていたことではある。が、良いこともあった。植物魔法の中でも、樹木魔法は感覚が良かったということ。小さい時から両親の手伝いをしていたこともあり、体力はなかなかだということ。天地がひっくり返るような大それたことではないが、カルドにとっては大きなことだった。
それからというもの、樹木魔法を中心に鍛錬に励んだ。木から枝を生やす。根っこを伸ばす。仕事の合間にやり続けた。そこでわかったことがもうひとつ。自分で生やした枝なら木剣として十分とは言えないが使えなくもないということである。更には、日に日に硬度が上がっていることもわかった。
そしてたどり着いた戦い方が、枝で作った木剣による近接攻撃に加え、木が生えている場所に限り、根っこを伸ばして敵の動きを妨害するという方法だった。
「わかったか、メガネくんよ」
自分の過去の話を交え結論を述べる。
「この戦い方を元にして俺の今の戦い方がある。まぁ、最近は近接ではあるけど、直接殴ることは少ないけどな。」
「実際に戦った方がはやいだろ。この際だ、自己紹介もかねて手合わせといこうか。」
そう言って教室を見渡す。
皆がやる気に満ちた表情をしている。1人殺意に溢れたものもいるが、見なかったことにした。
「では、最初の授業を始める。演習場へと向かおう。」
「「「はい!」」」
各々が、返事をして颯爽と演習場へと駆けていった。
さて、どうなることやら。
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