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第6話「エリートギルドのマスターだけに最強キャラ属性ですが、なにか?」

 エアリアを止める声は、そのまま彼女をそっと手で制して前に出た。

 その顔を、その名を決してグランは忘れない。

 それは、エアリアが所属するギルド『英雄旅団』のギルドマスターだった。彼もまた、名うての剣士であり、優れた冒険者……次代の黄道十二(ゾディアック)勇者(ヒーローズ)として期待される一流の剣士だった。

 その彼の名は、ゼイン。

 巧みな剣術でモンスターを蹴散らす、若き剣豪としての名をほしいままにする冒険者だった。


「エアリア、待ってくれないか? 君の力は、こんなつまらないことに使われるべきじゃない」


 誰もがゼインを見て溜め息にも似た感嘆の声をあげる。

 当然だ、一流冒険者として最高レベルの防具を着込んで、手にはレアアイテムの魔剣を持っている。彼の強さがグランには、以前からいやというほどわかっていた。

 ギルド『英雄旅団』とはつまり、英雄ゼインとその仲間たち……補佐して支える下僕たちのギルドなのだ。そのゼインは、端正な笑顔に長い金髪をなびかせながら微笑む。

 見た目までも御伽噺(おとぎばなし)の英雄のようだが、彼の言葉は辛辣だった。


「エアリア、君と違ってあの娘は……異端者だ。(ほう)じる神が違う。教会が言う背教徒(はいきょうと)だよ」


 きざったらしい気取った態度で、ゼインが言い放つ。

 それで改めて、グランはミホネが抱きかかえる血まみれの少女を見た。

 僧侶であるシスター服の意匠こそ変わらないものの、それは正規の教会が作っているものではない。彼女が死にかけて手放した杖もそう……どうやら、この冒険者は普通の僧侶ではないようだ。

 そして、グランも記憶を掘り起こして昔の話を思い出す。

 教会が認めぬ邪教を奉ずる、異端者と呼ばれる者たちがいるという現実を。

 だが、そんな異教の少女をエアリアに託して、ミホネは立ち上がる。


「たしか、ギルド『英雄旅団』のギルドマスター、ゼイン君だったねえ? フフ」

「……久しぶりだな、ミホネ。お前はまだ、あんな戯言を吹聴しているのか?」

「私にとっては真実で、現実で、それ以外でもそれ以上でもないんだよ。まったく、面倒だね」

「黙れっ! お前のような気の触れた妄想家なんか、仲間として信用できるものか!」

「だよねえ……ま、それはもう過去の話だ。とりあえず、この()を救わなければ」

「救うに値しない! 教会の教えに背く異教徒を、その命を誰が救済してほしいと望むのか!」


 ゼインが声を荒げる。

 その間も、ミホネの抱く少女はどんどん息遣いを細く小さく荒げながら、死の淵に転げ落ちていった。見かねたエアリアが、その体をミホネから受け継ぎ治療の法術を使い始める。

 そして、立ち上がったミホネは、最強レベルの剣士ゼインに真っ向から向き合った。


「ゼイン君。聖女様はあの子を助けてくれるようだよ? 邪教だ異端者だといっても、やっぱり救える命は救うっていうのが聖女様のありかたなんじゃないかなあ」

「うるさい、黙れっ! エアリア、お前もお前だ! なぜ、そんな人間を救う! 背教徒のために力を使うな!」


 だが、ゼインの声を聞きながらもエアリアは治療をやめなかった。

 やがて、救出された僧侶の娘は息を吹き返す。死の一歩手前で出血は止まり、傷口も徐々に塞がりはじめる。瀕死の命が救われたことを確認して、エアリアは少女を地面に横たえながら立ち上がった。


「ゼイン。この子はもう大丈夫……たとえどんな人間でも、救える全てをわたしは救う」

「くっ……エアリア、よく考えろ。俺たちは前人未到のフロアを攻略する、そのためのパーティー、ギルドなんだぞ!」

「そう、だからお兄ちゃんを外した……追放した。でも、覚えておいて、ゼイン。あなたが最強パーティーの一人として選んだ女は……わたしという僧侶は、こういう人間なの。こうありたいの」


 それだけ言うと、命を取り留めた僧侶の少女をミホネに任せて、エアリアは立ち去る、去り際にグランから巨大なメイスを受け取る時、静かにエアリアは微笑を剥けて頷いてくれた。日頃から表情が乏しく感情表現が下手な彼女の、それは兄に向ける敬愛と信頼の微笑みだった。

 だが、彼女と自分のレベル差、冒険者としての技量の差を感じてグランは曖昧に頷くしかない。

 そして、ゼインはそんなエアリアの去り際に怒声を叫んだ。


「エアリアッ! 聖女エアリア! なぜだ……どうして夢をおろそかにする? なぜ、聖櫃(アーク)を求める冒険のために、俺たちと心を一つにしない! 無駄な力をどうして使ってしまうんだ!」


 そう、グランは知っていた。ギルド『英雄旅団』のギルドマスター、ゼインは巨塔バベルゼバブの(いただき)を目指している。だからこそ、最精鋭でパーティーを固めるためにグランを切り捨てたのだ。

 だが、いきり立つゼインを前に、一人の少女がけだるげに立ち上がる。

 やれやれと黒く長い髪を掻きむしりながら、その戦士は剣と盾を構えた。


「ゼイン君、だったねえ? そちらのギルドのエアリアちゃんの助力、まずはありがとうね」

「っ! うるさい、()れ者! 俺たちは、まっこと強き者たちの連帯で天の頂を――」

「あー、うん。はいはい、意識高い系ね? でも、私はちょっと腹が立っているんだよ?」

「なにを……さっきの娘は異端者だぞ! 教会が定めた主への信仰心を持たぬどころか」

「ごめんねえ、こっちの世界ではまだ日も浅くてね。……でもねえ、正直イラッとするのさ」


 まさかの事態が起こった。

 ゼインが剣を抜いたのだ。

 同時に、やれやれと億劫そうにミホネも武具を構える。

 命を繋いで無事に治療を終えた少女をかかえたまま、グランは突然の一騎討を前に言葉も呼吸も、鼓動さえも忘れてゆくのだった。

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