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第13話「最前線の街では非情で無情な景色が広がってますが、なにか?」

 シェイレーヌの案内で、一同はラファエロの街の繁華街を歩く。

 それも、路地裏に回って奥に進むと、冒険者の最前線は別の顔を見せ始める。

 より強いパーティのために切り捨てられた追放者、アウトライナーの吹き溜まりがそこにはあった。

 誰もが活力を失った目を暗く濁らせ、酒や煙草に溺れている。

 それでも皆、シェイレーヌを見ると身を正して挨拶を交わしていた。


「シェイレーヌさん! あ、あの、先日の……もう少し返済を待ってもらえれば」

「シェイレーヌや、この間は助けてもらったのう。本当にありがたい」

「次の便はいつです? もう冒険者は廃業だ、地上に俺は戻るんだ!」


 グランが不思議に思っていると、ミホネが小声で耳打ちしてくれた。

 シェイレーヌは追放者だけのギルド『アウトライナーズ』のサブマスターなのだ。こうしてラファエロの街で見放されたアウトライナーを保護し、希望者を引退させて地上に送り返しているという。

 このバベルゼバブの塔を中心に広がる街、下界のルシフェアで第二の人生を始める者たちが大勢いるらしい。


「みんな、安心して頂戴。明日にでも次の離脱者をルシフェアに見送るよ。あと、今夜も炊き出しがあるから、山猫亭の二号店に是非いらしてね」


 この街にも『アウトライナーズ』の拠点、山猫亭があるらしい。

 その建物は、繁華街の裏通りにひっそりと建っていた。本店よりも少し薄暗くて、酷くうらぶれた印象がある。それもそのはず、ここにはグランのような普通のアウトライナーが集まっているわけではない。

 より高いレベルの選別を受けて、一流ながらも超一流になれなかった者たちのふきだまりなのだった。


「戻りました。オヤジさん、今夜の集会は少し豪勢に頼めて? 帰還組の送別会でもあるし」


 シェイレーヌの言葉に、カウンターの奥の老人がうんうんと頷く。顔に大きな傷のある、恰幅がいい大柄な男だ。もちろん、彼が冒険者だったことは間違いない。

 シェイレーヌの案内でグランたちは、ずらりカウンターに並んで茶を出される。


「ここは山猫亭の二号店。偉大なるギルドマスター、ネスカルザドブから私がこの場を任されている。ここで保護した冒険者の大半は、引退を選択して地上に帰還するんだ」


 ようするに、ここで追放者になった冒険者には二つの道が提示されているのだ。

 あくまで冒険者として、新しいパーティーを結成したり、既存のパーティーに自分を売り込んでさらに上を目指すか。もしくは、潔く引退して日常の生活に戻るか。

 後者を選択した人間を無事に地上のルシフェアに連れて戻るのも『アウトライナーズ』の活動の一つらしい。


「今夜はせいぜい騒いで飲んで歌って、それで明朝皆を引率して地上に戻る。いつも通り頼めて? ミホネ」

「任してくれたまえよ。そのためにわざわざラファエロくんだりまで来たのさ」

「いつも、ゴメン。貴女ならもっと上を目指せるでしょうに」

「あまり興味がないねえ? それを言うならシェイレーヌ、君もだろう?」

「……知ってるでしょう? 私は魔導師として戦える人間ではなくてよ」


 先程のいざこざで、シェイレーヌは恐るべき魔法の力を見せた。

 自分の何倍も巨大な悪漢を、氷の魔法で撃退したのである。

 この世界の魔法は、大きく分けて五属性。精霊の力を借りる地水火風の四つと、神代の太古から伝わる禁術、古代魔法である。精霊魔法はそれぞれ、水の上に氷、風の上に雷、土の上に樹がある。火のみが上位属性を持たず、教会からも古代魔法と同等に忌避されていた。

 それでも、基本の四属性を使いこなすことは魔導師や魔法使い、魔術師の大事な素養だった。


「あら、グラン? 不思議そうに思ってるのね……私みたいな女がアウトライナーだなんて」

「い、いえ、それは」

「私、水と氷しか使えないの。……火属性は控えているし」

「……は? え、つまりそれって」


 熱い茶を優雅に飲みながら、自嘲めいた笑みを浮かべてシェイレーヌは菓子の大皿に手を伸ばす。丁度昼下がりで、客はぼちぼちだが皆が茶や果実のサイダーを飲んでいた。

 シェイレーヌは焼き菓子を手に取り、丁寧に割って片方を口にする。


「風属性と土属性の魔法が使えないのよ、私。もちろん、雷属性と樹属性も」

「それで、追放者に」

「ここから先、11層より上はモンスターの弱点を突く戦いが重要視される。水と氷しか使えないし、火はちょっと……さりとて、私には古代魔法なんて使えなくてよ」


 意外な話だったが、それが事実なら冷徹な現実そのものだった。

 魔法を使う職業は皆、五つの術式を使いこなす。あの大賢者と呼ばれたネスカルザドブは、全盛期には四属性の全ての魔法を駆使し、いくつかの古代魔法をも励起させたという。黄道十二勇者の名に恥じない、大魔導師だったのだ。

 そして、グランは改めてバベルゼバブの塔が秘めた恐ろしさに身震いする。

 あの『英雄旅団』ですら、次のセフティーフロアである15層に辿り着けていない。

 グランが言葉を失っていると、ミホネがフフンと鼻を鳴らす。


「シェイレーヌを切り捨てたギルドは、なんていったかねえ……ええと、たしか」

「彼らは死んだ、全滅したわ。私を排除し別の魔法使いを雇い入れて……そうして総戦力を高めても、この上の層で死んでしまった」

「追放されてラッキーだったねえ、シェイレーヌ? そう思えばいいさ」

「ふふ、相変わらずクレバーね、ミホネ。……今でも夢に見るのよ。私を捨てた人たちの最後の惜別の笑顔が」


 グランは改めて思い知らされた。

 シェイレーヌは、もといたパーティーを追放されたことを悔やんでもいないし、憎んでもいない。ただ、ここより先の冒険に力不足と断定され、追放されたのだ。その時、先へと進む昔の仲間たちがどんな顔をしていたかがわかる。

 だからこそ、シェイレーヌがこのラファエロで活動している意味もはっきりわかるのだ。


「まあ、シェイレーヌは本当に水と氷、火以外はてんで駄目だからねー」

「そっ、そそそ、そうなんですか? 我が信仰心の対象クトゥグアは炎の神ですが」


 キュオンとハウートも、それぞれ呑気に感想をのべる。

 キュオンは勝手知ったる仲らしく、ド直球にくさしてもシェイレーヌを微笑ませるだけだった。悪意がないことも、その弱みを痛く感じてることも共感してるからだろう。

 ハウートは突然布教モードになってシェイレーヌに迫ったが、苦笑で優しくなだめられた。


「クトゥグア様の加護があれば、火の魔法がもっと強く使えます! 是非、是非是非御入信を!」

「ふふ、ごめんなさいな、異教の信徒さん。火は……できれば使わないにこしたことがありませんの。唯一にして対なる属性を持たない、炎。ただ破壊だけをもたらす力」

「でも、炎のぬくもりは人を暖め、その燃える力は肉も魚も清めます。だから」

「ありがとう、ええと確か……ハウート、だったわね。私はいいの、ここまでの女ですもの。そして歓迎するわ、ようこそ『アウトライナーズ』へ。このギルドでは志納の自由も保証されてるから、無理強いするような勧誘さえなければよくてよ」


 そう、火属性の魔法にだけは、対となる上位属性がない。

 そして、破壊の象徴たる炎の魔法は不浄の力とされていた。教会は勿論、各国の首脳たちも協定を結んで火属性の規制を強化している。戦争になっても、火属性の使用は躊躇われたし、それ以上に危険な古代魔法は禁術とされてきた。

 文明の象徴たる火は、必要最低限の使用を限定されているのだった、


「さて、と。シェイレーヌ、今夜は賑やかに騒ぐとして……少し、いいかい?」

「ええ。準備は全てこちらで……ミホネはなにか予定があって?」

「少年を連れて、少しラファエロの街を歩きたいねえ。……それと、11層」


 ビクリとグランは総身が震えた。

 この第10層、ラファエロの街の上は未開の地……現在進行形で最精鋭の冒険者が探索しているフロンティアである。もちろん、グランにとっては未開の地、未体験の世界だ。

 そこですかさず、キュオンとハウートが立ち上がる。


「ほいほーい! ボクも一緒に行くよ!」

「グランさんが行くなら、わたしも」


 だが、すぐにシェイレーヌが二人を両脇にがっつりと抱きしめた。

 そして、ミホネへと小さなウィンクを送る。


「二人はちょっと、今夜の準備を手伝って頂戴? もちろん、お礼ははずみましてよ」


 こうしてなにやら、グランはこのあとミホネと初めての11層に向かうことになった。

 未経験で未体験、想像もつかない冒険者たちの最前線……いまだ15層にあると言われる三つ目のセフティーフロアまで、誰も踏破した者はいない。

 あの、妹の聖女エアリアが所属するギルド『英雄旅団』すら、足踏みしている世界なのだ。


「ミホネさん、11層に行けば……わかりますか?」

「うん? なにだがい、少年」

「本当に冒険者って、強いか弱いかだけの価値感しかないのかなって」

「どこの世界でも人間同士には相性があるからねえ。1+1が2より膨らむシナジーだってある。でも、それが前提でなければのぼれない激戦区、それがここから上さ」

「それで、沢山の人がここで追放される……見捨てられる。そういう現状を僕は、一度自分でしっかりと把握しておきたいです! お願いします、連れてってください!


 頭を下げて懇願したら、ミホネは嬉しそうに頭を撫でてくれた。

 酷く甘やかされてるような、小馬鹿にされて遊ばれてるような感触もある。同時に、妙に優しい視線を感じることができた。

 いつもの気だるいジト目で、ミホネは冷めたお茶を一気飲みして立ち上がる。

 今、グランの前に全く未知の道が開かれようとしていた。

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