01 舞台の幕開け-01-
よろしくお願いいたします
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今日も胎動が聞こえる
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風で木の葉がそよぎ、太陽が大地を照りつけていた。
そんな穏やかな外界とは一変、バタバタと朝から走り回る慌ただしい音がこの城でのアラーム替わりである。
「アレス!アレスはどこ!!」
そして、その主の要件が自分らしいと分かるとアレスと呼ばれた青年はコツコツと革靴を鳴らし、髪を結いながらその声の元へと向かった。
「アレス!」
「…姫様、少々お転婆が過ぎますよ。」
「アレス〜!」
少女は青年を見るやいなや一目散に胸へ飛び込む。青年も慣れた手つきで頭を撫で、べリッと容赦なく引き剥がした。
「まだ眠っていてもよろしいのですが。」
「でも、貴方に早く会いたいの。」
「そうは言っても…」
アレスはガシガシと困ったように頭を掻くと、少々お待ちくださいと言って先程即席で結んだ髪を丁寧に結び直していく。
「あら、アレス。どんな貴方でも素敵よ?」
「はぁ…そういう問題じゃないんですよ。」
(見つかって怒られるのはこっちだっての。)
実を言うと、アレスは正直疲弊していた。
毎日のこの"アリア"という少女からラブコールで目が覚める日々、そして姫様の前で執事らしからぬ姿を見せるべからずと上司に叱られる日々。
どこをとっても散々な毎日である。
そして…
アレスはキョロキョロと周囲を確認して人がいないことを確認すると、そっとアリアに耳打ちした。
「あの件、忘れていないだろうな。」
「当たり前でしょう。ただ、いやに貴方が様になっているから邪魔したくて。」
「お前…」
一言なにか言ってやろうと思ったが、それが声として表に出てくることは無かった。
それはアレスが姫様〜!とメイド達が必死になっている声を聞いたからである。
「呼ばれてる。君は戻ると良い。」
「はーい…」
アリアは先程のしつこさとは打って変わって素直にしかし残念そうに戻って行った。
(本当に大丈夫か?)
トボトボと帰っていく年相応の背中を見ていると、嫌にこちらが心配をしてしまう。
(本当に…)
(本当にあいつを殺せるんだろうな?)
【ニセモノ姫と偽物執事の共犯】
アリアは苦手なマナーのレッスンを終え、バタリと自室のソファへ倒れ込んだ。
結局あの後、メイドには勝手に歩き回るなと苦言を呈され、淑女らしい振る舞いをと最も苦手なレッスンを増やされる羽目になった。
(でも、こんな生活あの頃に比べたら夢のようだわ。)
温かい布団に、温かいご飯。
綺麗なお洋服に、教養として勉強だって出来る。
欲しいものは何でも手に入る。何でも自分の思うがまま。
寒くて凍えてしまいそうなことはなく、空腹で野垂れ死ぬこともない。
窓を見ると、メイドが変えたと思われる綺麗なバラが花瓶に刺さっていた。
「これで花冠を作ったらきっととても美しいわ」
この城の外には一面に薔薇が咲いていて、それはそれは見事なものである。
…が、、、
(今、私はこの城から出ることは出来ない。外の空気を吸えるのも、またアレスに花冠を作って貰えるのもきっとずっと先…)
だから、今は耐えるしかないのだ。
我らが王を殺すまで。