表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/47

45話 親睦会と反省会


「さて。獅子の仮面の事はここまでにして、他の話題に移ろう」


 セドナ達が次の料理を出して来てくれた所で、フリットがそう言った。

 ポトフの次は、干し肉とじゃがいもを一緒に茹でてマッシュポテトみたく潰した物だった。シンプルではあるが、肉の旨味と香辛料がじゃがいもに移っていてなかなか悪くない。もしかして、これも道中の予行演習としての料理だろうか。


「俺から出せる話題は、今の所はこれで全部だから構わないよ。フリットは何を話したいんだ?」


「昨日の黒女の襲撃によって、マサユキさんが狙われる可能性がこれまでより高くなった。だから、戦闘面の確認をしておきたい」


 黒女て。まぁその通りだし、シンプルで呼びやすいからそれでもいいか。


「具体的には何が知りたいんですか?」


「知りたい、というよりは全員の共通認識を持ちたいという形だな。今回の依頼は国王様からと言うのは半分はあるが、もう半分はマサユキさんからの依頼でもある。依頼主の要望は叶えられるように動くつもりではあるが、どうしても安全面で首を縦に振れない状況も出て来るだろう」


「例えば、どんな事を想定しているんだ?」


 じゃがいも、うめぇ……。

 よくネットで異世界じゃがいも問題が議論されてるのを見掛けたが、食えるもんがそこにあるのなら細かい事はどうでもよくなってくるな。


「例えば……この内の誰かが四肢欠損による戦闘不能、もしくは死亡した場合。マサユキさんはどうする?」


「ごほっ! げほっ……すまん」


 急に重い話を振られたから、咀嚼していたじゃがいもが変な所に入って咽てしまった。


「ちょっとびっくりしたけど、確かにあり得る想定ではあるな。詳しく知らないから今の内に聞いておきたいんだが、この世界での怪我の治療方法はどんな物があるんだ?」


「そうね、水薬はマサユキも実体験があるからわかりやすいと思うけど、治療するのに一番お手軽なのがそれね。ただ、切り離された物は治らないけど」


「一応の確認なんだけど、魔法にはそういう種類の物は無いんだよな? 怪我や病気を治したり、って言う……」


 以前にもこんな話をトレーシーとした気がするが、忘れてしまった。


「無いよ。厳密に言えばもしかしたらあるのかもしれないのだけど、今の私達が使える手段としては……無い」


「うん? 妙に引っ掛かる言い方だな」


「四属性魔法は現代の魔法なの。でも話だけだったら、そう言った奇跡みたいな物は失われた魔法としてなら伝わってるのよ」


「それは二百年前の大戦ってのと関係してたりするのか?」


「んー、失われたのはもっと前らしいよ? ほら、光の女神って聞いた事無い?」


 光の女神……確か、召喚された直後に神官長のヴァンからそんな言葉を聞いた気がする。

 確か彼は、マナとオドを光と闇とすることもあると言っていた。勇者はマナを自在に操れる者だから、光属性に適性があるとか……。


「各属性を司る女神の上にマナの女神ってのがいて、その人が光の女神だって言われるの。その辺を踏まえると、光属性っていうのは四属性全部を一つにまとめた物と言えるのかな」


「でも光属性なんて属性魔法は聞いた事がないけど……」


「それはそうよ、だって存在しないもの。四属性全てを扱える人と言えばイザーク様だけど、昔話のような光属性魔法って物は存在しないと結論付けているのよ」


 光属性が各属性の上位に位置するのなら、四属性が使えたらその上の物にも手が届くに違いないという仮定の話だろう。そしてその条件を満たす人間は現に存在するが、それでも使える事は無かったという事か。


「……よく分からなくなってきた。光属性ってのは結局何なんだ?」


「ただの概念、って言っていいと思う。その光属性が癒しの力だとされてるから、昔の人もそう言うのが欲しかったんじゃないかな」


 俺からしてみたら、魔法という物そのものが夢物語みたいな話だ。そういうフィクションへの憧れのような感覚が、こっちの世界の人にもあったのかもしれない。


「まぁつまりはトレーシーが言うように、やっぱり魔法では怪我も病気も治せないんだな。そうしたら女神教の司祭や神官だったら、そういう技があったりはしないのか?」


「教会で祈りを捧げるという行為はあるが、それは宗教的な儀式の一つであって、実際にそのような恩恵を受けられるという物ではないな」


「じゃあ冒険者達が大きな怪我をしたらどうしているんだ?」


「腕や脚を失って冒険者を引退するというのは、どこにでもあるようなよくある話だ。だから、そのようなリスクを負わないようにするしかない。一般兵士や騎士団でも、怪我は一番多い引退理由となっている。治すには外科的処置と水薬を合わせるのが一般的ではあるが、完治は期待出来るものでは無いのが現実だ」


「……なかなか厳しい話だな」


 攻撃魔法という物が存在する以上、この世界の個人が持つ攻撃力は現実世界とは比べ物にならないだろう。しかし医療技術が発達していないこの世界では、その攻撃力に対抗する手段が少ない。

 そうなると有効な戦術は【先手必勝】という事になる。しかし、俺達は馬車で移動する事になる。先手を取れる事は早々無いと思った方が良さそうだ。


「なるほど、フリットの質問の意図がようやく理解出来た」


 このような条件、つまりリカバリーの効かない状況においてどのように動くのか。そう言った行動指針を決めたいという事だろう。


「これは当たり前の話として、ここにいる全員が無事で戻って来る。それが旅の一番の目標だ。だから誰かが行動不能になった時点で、安全の確保とその回復を優先としたい。それが叶わない時は、どのような状況でも最優先目標をラテオラへの帰還へと変更するよ」


「わかった。危ない橋を渡らないのには俺も賛成だ」


「じゃあ俺からフリットへ質問なんだけど、旅の途中であの黒女からの襲撃を受けたらどうする? 馬車があったら守らざるを得ないから、移動中以外でという条件にしよう」


 そう返したら、シャルとトレーシーがぎょっとした表情を見せた。


「そうだな……。黒女は確かに手練れではあったが、すぐに誰かがやられてしまうという状況では無かった。しかし優先すべき目的が旅の継続なのだから、とっととこちらから撤退するのが最良だろうな」


 その言葉を聞きながら、俺は深く頷いた。


「やめてくださいよ、喧嘩が始まるのかと思ってハラハラしました……」


「心臓に悪いわ……」


「すまん、別にフリットへの意地悪で意趣返しした訳じゃないから……誤解しないで欲しい」


「わかってるさ。マサユキさんは単に直近で実際にあった事を具体例として挙げただけだろう?」


 フリットの言葉に頷いて同意する。


「あんな奴が他にもいるとは考えたくはないけど、少なくとも俺達より手練れの人間は確実に存在するだろ? やっぱりそういうのと出会った時には逃げるが勝ちだな」


「その方が旅程を完遂出来る確率は上がるだろうな。理由が無ければ無理に戦う必要は無い。相手がそれを許してくれるかはまた別の話だが……」


 俺達は別に腕前が立つ訳でもないし、経験が多い訳でもない。その事だけは忘れないようにしないといけない。


「なんだか、昨日の反省会みたいになっちゃったな」


 そう言ったら、全員が笑っていた。


 その後の夕食会は、それぞれの話をしてお互いをより深く知る為の会話をして時間が過ぎていった。好きな食べ物だったり、趣味の話だったりという具合だ。

 彼らは俺より十歳以上も年下だが、そういう気の使い方はあまり感じなくなった気がする。

 まぁ、ただ歳を食ってるだけだからな。冒険者としては右も左もまだわからない初心者だし、彼らは等級では俺より上だ。実戦経験の数が圧倒的に違う。

 今回は俺がたまたま依頼者寄りの立場だから、意見を尊重してくれているのもあるだろうと思う。


 そして飯の後は当然のように酒が入り、シャルとトレーシーの独壇場になってしまった。


 こういう時のフリットは本当にズルい。すぐに酔いつぶれてしまうから、被害を受けないのだ。二人が盛り上がってくる頃には気持ち良さそうにスヤスヤしてやがる。

 ちなみに酒は、女性陣が男性陣の三倍のペースで消化している。なんて飲みっぷりだ、酷いもんだ。


 そして今回はセドナとルビアがいるから少しはターゲットを散らす事が出来るかと思っていたが、そう現実は甘くなかった。ルビアは隅っこで丸くなってるだけだし、セドナに至っては女性陣側へ付くという裏切り行為をしやがった。

 ルビアの立ち回りも上手かった。隅っこで丸くなってるのが許されたのは、酒の入ったジョッキにしれっといつの間にか魔法で氷を入れていたからだ。冷えた酒はなかなか飲めないのでとても好評であり、それ故にモフられる事も無かった。ちゃんと己の価値を示し、立場を勝ち取ったのだ。

 お前、本当に子犬か?


「だいたい、トレーシーちゃんがせっかくベッドを買ったというのに、ろくに使わないうちにこんな話を持ってくるのがひどいです!!」


「そりゃ、俺も悪いとは思ってるんだよ……」


「気にしてないから大丈夫よー?」


「わたしは正直、馬車で寝るのはいやにゃ! マサユキ様のお腹の上がいいにゃ!」


「あらぁ〜、大胆〜♡」


「結局、いつもこっちに潜り込んでくるよな、お前は。なんでなんだよ?」


「あったかくてやわらかいからにゃ」


「俺だって男なんだからさぁ、柔らかい物がふいに硬くなる時だってあるんだよ」


「うわぁ、酷い下ネタですぅ……」


「マサユキ、流石にそれはちょっとぉ……」


「にゃ? マサユキ様はいつもやわらかいにゃよ?」


「えっ、うそ……ごめんなさい」


「そうなの……? ごめん……」


「ちょっ、二人共なんか誤解してない!? 機能はしてるし、男色でも無いが!?」


「いや、それならそれで私は構いませんけど! フリットとマサユキさんの問題ですし、むふっ」


「……シャルさん? 仮にそうでも普通にあなたは当事者では?」


 万事がこんな感じで、常に会話の主導権を握られて遊ばれていた。

 そりゃ、俺だってようやくラテオラでの生活に慣れてきてゆっくり出来ると思ったのにさ……。誰が悪いって言ったら、王様だろ。あの人が雑な事するから、口出しせざるを得なくなっちゃったんだぞ。

 そんな事を言ったら不敬罪で首が飛びそうだから、酒の席でも言わないけどさ……。






 そうして夜は更け、起きたら全員が床でくたばっていた。朝日が差し込んできて、その明るさで目がズキズキする。頭もグラグラしてて痛い。

 馬車に酒だけは積み込んではいけない、これは間違いない。移動中は断酒をしてもらおう、飲むのは街に着いた時だけだ。


 俺は全員を起こして、一旦解散とした。

 先に酔いつぶれたフリットはそれなりにシャッキリしていたので、今度はシャルを連れて行って貰う事にした。二人を見送りながら、前回とは真逆の光景だと思ってしまった。


「マサユキー、あたまがいたいよぉー」


「そりゃあんだけ飲んだら当然だろ……。ルビア、冷たい水を出してもらえるか?」


『いいよー』


 ルビアの身体が光ると、木のコップの中には氷水が現れていた。

 彼女がうちに来てからというもの、我が家の水回りの改善が著しい。これまではわざわざ共用の水汲み場まで行っていた手間が、一切無くなった。

 しかもこれまでは温める事しか出来なかったが、ルビアのおかげで冷やす事が出来るようになったのだ。社会の授業で昭和の三種の神器を習ったが、そこに冷蔵庫が入ってる理由を身体が理解した。

 これは確かに欲しくなる。


「あぁ、生き返る……。ルビアちゃんありがとぉ……」


「わんっ!」


 俺も氷水を出してもらい、寝ぼけた頭を覚ました。


「さて。今日はマルクさんの所に行って、仮面の事を聞いてみるか」


「そうね、私も行くよ」


「あ、私はちょっと別の用事があるから行けないにゃ」


「わかった、じゃあルビアも連れて俺達三人で行こう。セドナは、戻りはどのくらいになりそうだ?」


「多分、夕食までには戻ってくるにゃ」


「わかった。じゃあ久々にあの三日月湖にも寄らせて貰おうかな。ちょっと試したい事があるんだ」


 最近作ったルアーのスイムチェックと、ダイレクトリールでのキャストの練習がしたい。

 適当に作ったルアーだから、ちゃんと泳ぐかどうかわからない。まぁ泳がなかったとしても、リアにブレードでも付ければルアーとしては成り立つだろう。


「それなら先にギルドにも寄って、何か採取依頼が出てないか確認しておきたいね。少しでもお財布の余裕があれば、道中も安心だし」


「そうするか」


 俺もちょっと大きい買い物をしてしまったし、多少でもその埋め合わせはしたい。


 出発までに自由に動けるのは、今日を入れて残り二日だ。明日はお世話になった人に挨拶回りをしたいと思っているから、なんだかんだであっと言う間に準備期間が終わってしまう感じがする。

 何か忘れている事が無いか不安になってしまうが、忘れてるのなら仕方が無い。忘れ物が無いかと聞かれても、忘れているからこそ忘れ物なのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ