37話 冒険者への依頼
イザークの店を出てから俺は、すぐに家に戻った。セドナが昼食の支度をしてくれていて、トレーシーはまだギルドから戻って来ていないようだった。
ならばと、セドナにはいつもより多めの昼食の準備と留守番をして貰って、俺だけでギルドへと向かった。
運が悪ければ入れ違いになってしまうかもしれないが、多分ギルドには全員が集合している筈なので、運が良ければそのまま全員を確保出来るだろう。
ギルドへ入っていくつかのテーブルを見渡すと、予想通りにお目当ての顔が揃っていた。果たして、賭けには勝ったようだ。
近付いて声を掛ける。
「やあ、依頼の精算は終わった?」
「あれ、マサユキもきたんだ? ごめんね、まだちょっと時間が掛かりそうかも」
「なら丁度いい。みんなにお願いがあって来たんだが、ちょっとここでは出来ない話なんだ。精算が終わったら、俺の家までみんなで来て欲しい。昼食をごちそうするよ」
トレーシーは、そんな俺の言葉に首を傾げている。フリットとシャルもお互いに顔を見合わせてから、同意してくれた。
少し待っていると受付から呼ばれたので、フリットが対応して報酬を受け取った。それぞれが確認して懐に仕舞った所で、ギルドを出発した。
ちなみに今回の報酬は一人当たり大銀貨一枚と小銀貨五枚だった。ほぼ口先だけの対応であったので、スライム討伐より少ないのは当然か。
それよりマルクさんとの繋がりが出来た方が大きいのかもしれないな。
そうして四人で雑談をしながら歩いている内に自宅へと到着した。旧市街地、五丁目五番地の六。だがその住所は呉では無い。
「狭い所で申し訳無いが、内容が内容なので我慢をお願いしたい……」
「いや、構わないさ。思ったよりちゃんとした一軒家なんだな」
「そうですねぇ。ラテオラに来たばかりときいていたのでちょっと予想外です」
「部屋数はそんなに多くないんだけどな。トレーシーの部屋だって用意したかったんだけど、現状でもう空き部屋は無いから……」
「あれあれ? っと言う事はですよ? もしかして同じ寝室で……?」
「……そうよ?」
ニチャアという笑みを浮かべるシャル。こういうのに触れると面倒臭いから、スルーして中へ入ろう。
「セドナ、ただいま。みんなを連れてきたよ」
「にゃっ、多めにってそういう事だったのにゃね?」
「さ、とりあえず好きな所に座って貰って昼食にしながら話をしよう」
家中から椅子を掻き集めてきて、なんとか人数分を確保する事が出来てホッとした。
それからセドナの作ってくれた鶏肉料理にみんなで齧り付いた。これは結構俺のお気に入りで、トマトみたいな物と色々な香草、スパイスを一緒に煮込んだ物だ。
フリットとシャルにも高評価だったので、セドナは嬉しそうにしている。
「それで……マサユキさん、お願いとは?」
そう言ってフリットが話を振ってくれた。
では、本題に入るとしようか。
「実はお願い、というか依頼なんだ。ウィンドブローに護衛をお願いしたい。期間としては少し長丁場になると思う。内容は、リピディスティアを経由してラティメリアまで行き、再びここまで戻って来るという旅程を想定している」
「ふむ、それでは大分長旅になるな……」
「でも、私達にそのような装備は無いのですが……」
「その辺は依頼主側が用意してくれる算段になっているんだ。他にも必要と思う物があれば、依頼主側の予算を当てにしていいと思う。また具体的な金額はわからないんだけど、報酬も相応に期待出来る筈だ」
依頼主が依頼主だからな、今回は。
「それは随分太っ腹な依頼主だな、一体誰なんだ?」
「……依頼主は、ペルコイデイ王。そして依頼の護衛対象は俺だ」
その名前に四人共、食事の手を止めて目を見開いていた。まさか一介の冒険者が、依頼主にその名前を聞く事も早々無いだろうしな。
王宮で働いていたセドナも驚いてるのは少し意外だったが。
「ここからは口外しないで欲しいんだが、これからこの大陸の国々は勇者召喚を切っ掛けとした戦争に突入する可能性が高い。実を言うと、俺もその当事者の一人……と言うか、勇者として召喚された人間なんだ。だから、各国のその状況の調査が今回の目的になる」
俺自身の事。現在の状況。俺が各国で確認したい事。ペルコイデイ王と話をした事を、なるべく漏らさないように三人に伝える。
トレーシーには既に話した事も含まれるが、フリットとシャルも驚きながらそれを聞いていた。
セドナはどこまで聞かされているのか俺は知らなかったのだが、リアクションを見るにそこまで多くの事は知らされていないようだ。
ただ少なくとも、俺が異世界人である事は知っていた様だった。これはヴァンさん経由だろうな。
「みんなには騙す様な形になってしまって申し訳無いと思っている、今まで黙っていて済まない」
俺は心のまま、素直に頭を下げた。
この事を話す必要があったのかどうかと問われると、正直よく分からない。
しかし今後も彼らと関係を続けていくのなら、ここで秘密はゲロってしまおうと思ったのだ。余計な後ろめたさを感じなくて済むし、裏切られたとしてもその時はその時だな。
「……にわかには信じられないのだが、一旦その話を前提としよう。そんな特殊な話であれば隠すのも当然だし、これまでの色々な事も少し腑に落ちた。気に病まないで欲しいと個人的には思う。しかし、何故俺達を護衛に?」
「正直、まだ俺はみんなと少ない時間しか一緒に過ごしてないけれども……。頼ってもいいかな、って思えたんだ」
これは本音だ。
とはいえ俺には他に頼れる人間がいないというのも事実ではあるんだが、それでも彼らには一定の信頼が置けると思っている。
別に王宮の連中が信じられないという訳ではないのだが、第三者的な目線も大事になるだろうしな。
「マサユキさんにそう言って貰えるのは嬉しいが……しかし魔族か。俺も関わった事は無いから、正直な話どういう連中なのかさっぱりわからない」
「わからないからこそ、この目で確かめに行きたいんだ。俺にはこの世界の常識が無いから、良くも悪くも公平に見られる……とまで言うのは流石に烏滸がましいかな。道中、何かあればみんなの率直な意見も聞きたいと思ってるよ」
「そう言えばトレーシーちゃんは、パーシフォームとリピディスティアの間あたりの村の出身ですよね?」
「ええ……」
昨日、話してくれた故郷か。
辛い記憶だろうし無理に行く必要も無いだろうが、彼女が行きたいと思うなら道中で寄る事も出来るだろうな。
覚えておこう。
「さて、どうだろうか? なるべくこちらに有利になるようには、王には掛け合っていくつもりだ。流石にその結果までは保証出来ないが……。勿論交渉の結果、条件が合わないと感じたらその時点で依頼を無かった事にしてくれても、俺は構わないよ」
フリットは腕を組んで一点を見つめている。リーダーとしてどうするべきか考えているんだろうな。
普通の依頼より拘束時間は長いし、道中で何が起きるかもわからない。いくら報酬が多くても、リスクの高さは別物だ。命あっての物種である。
「……これは仮の話だが、もし俺達が断ったらマサユキさんはどうするつもりなんだ?」
「そうしたら、王様に護衛の兵でも出させるかな。俺としてはこのまま戦争になるのは避けたいし、それが出来るかもしれない立場で何もしなかったら後悔しそうだからさ。むしろ俺の都合にみんなを巻き込みたくないと言うのも、本音の一つではあるよ」
何が起きるか分からない旅だから出来れば気心の知れた連中と行きたい、と言うのは単なる俺の希望だ。そして、俺の都合で振り回すのが嫌なのも、俺の勝手な思いだ。
葛藤を自覚しているからこそ、彼らにその判断を委ねてしまっている。
ズルいな、俺は……。
ただ冷静に考えて、少人数で行くよりは国の持つ兵力を借りた方が確実性は上がるだろう。大所帯で行ったらそれはそれで他国に要らぬ誤解を与えてしまうという懸念点はあるが、より安全ではあるだろうし。
「元々、この話を王様に言い出したのは俺なんだ。あまりに情報が無い中で俺の関係する物事が動こうとしているのが、正直言って気に食わなかった。他国の勇者に会って話をしたい、と言うのもある」
「他の勇者の方も、マサユキさんと同じ世界から来てるのですか?」
「それはわからない、もしかしたら全然知らない他の世界なのかも。けど、同じ目的で喚ばれた以上はどんな人間なのか知っておく必要はあると思っている、かな」
もしかしたら喚ばれた事に納得していて、戦う事に乗り気の人もいるかもしれない。しかし、別にそれは止めるように説得しようとは俺も思っていない。
俺が彼らへ何かしらのサポートが出来るのなら、それも悪い話では無いだろうし。
「ただ、トレーシーには本当に申し訳無いと思ってる。急に出て来た話だから、折角これから落ち着こうって時に……」
「ううん、私はいいよ。むしろ手伝わせてよ、パートナーなんだし!」
「わたしも御主人様が行くのなら、当然行くのにゃ!」
「……二人共、ありがとう」
二人がそう言ってくれるだけで本当に有り難い。いくら俺にぼっち耐性があってもちょっと度が過ぎてるからな、今回の話は。
「ふむ。となると、ウィンドブローのメンバーの半分以上が居なくなってしまうと言う事になるな。これは解散の危機か?」
言いながらニヤリとするフリット。
「確かにそうですね……。私は、そういう形での別れは望まないのですけど」
シャルもフリットと顔を合わせ、こちらへ微笑みかけてくる。
「おまけにどうやら大口の儲け話だ、これを逃す手は無いだろう。なぁ、シャル?」
「ふふ。報酬として王様に、私達の家でもお願いしてみますか?」
「ありがとうフリット、シャル。 それじゃ早速明日なんだが、みんなで王城へ顔を出して欲しいんだけど……」
「わかった。明日午前の半ばくらいに、ここに集合で良いだろうか?」
「……みんな、宜しく頼みます」
そうして話がまとまり、俺達はフリット達と別れた。俺は少し行きたい所があったので、片付けが終わった後で出掛ける事にした。
その行きたい所とは、アルフレッドの所だ。
◇◇◇
「しかしまた、大変そうな事になりましたね」
マサユキの家を後にし、家路につくシャルはフリットにそう投げ掛けた。
「トレーシーは最近引っ越したばかりだし、真っ先に嫌がるかと思ったが……案外そうでも無かったな」
「ゾッコン、なんですかね……ふふ」
「えっ、そうなのか?」
「えっ、冗談ですよね? もしかして気付いてなかったんですか!?」
「いや、気が合うのだなとは思っていたが……。しかし、歳が大分離れていないか?」
「一回りちょっとは離れているかもしれませんけど、そう言うのはあまり関係ないですよ?」
「そう言う物なのか?」
「そう言う物です。でも、トレーシーがもし行くのが嫌そうな素振りをしていたら、リーダーとしてはどうしました?」
「……難しい所だな。とは言え、元々俺達は三人でやっていたのだから、元の形に戻るだけか」
「それはまぁ、そうですけど。でも、折角これから同棲生活だったのに、残念ですねえ」
「エクカバ車旅だから、俺達がお邪魔虫になってしまうな」
「そうならないように頑張りましょうか」
「どう、何を頑張ればいいのかよくわからないが……」
「節度があればいいんです。そうですね……それでは、これから出発の日までデートをし溜めておくってのはどうでしょうか?」
「お、おう……」
そんな会話をしながら、二人は腕を組んで街へ消えていった。
◇◇◇
アルフレッドの店へ到着。早速中に入ると、いつものいかつい姿が待ち構えていた。
「マサユキじゃないか。今日はどうしたんだ?」
「お疲れ様です。実はちょっとの間、ラテオラを離れる事になりそうでして……」
と、ラティメリアまで行く事を説明した。勿論、余計な事は言えないが。
「……そうか、ならばその前にこれを伝えられて良かった。実は依頼されていたリールだが、もうすぐ完成しそうだ」
「おお、それは嬉しい話ですねぇ!」
これは依頼していたダイレクトリールの話だ。
「あと数日で渡せると思う。出発までに間に合う様、頑張ってみよう」
「旅の最高のお供になると思います、楽しみにしてますね。ところで少し質問なんですが、初めての長旅であった方が良い物ってあります?」
「そうだな、まずはそうやって気負って欲張らない事だな」
ん? どういう事だろう。
「良い装備を整える、と言うのはある面では正解だ。特に人里から離れた所に行くのなら、出来うる限りで質の良い物を揃えるのは、いざという時の助けになるだろう」
そりゃそうだろうな。
良い物は長持ちする。そりゃ物によっては、絶対的な性能を求めるが故に耐久性を犠牲にするような物もあるが……。
「だが今回はラティメリアだろう? それなら街道沿いに進むのが基本になる。道中の街での補給も出来るだろうし、派手な見た目は人目を引く」
「つまり金銭や品物目当てで目を付けられ易くなる、って事ですか」
「そうだ。必要な物を必要なだけ……と、口で言うのは簡単なんだがな」
ガハハと笑うアルフレッド。
車内に使わない竿やリールを置いておいて、車上荒らしに遭うような話だな。邪な考えを持つ奴はどこにでもいるんだろう。
「そうだ、以前に売った鞭があるだろ? ちょっと見せてみろ」
なんだろう。
彼の言葉の意図がわからず、俺は言われるままに腰に下げていた鞭をカウンターへ置いた。




