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36話 派兵と勇者


「そう遠くない内に、我が国は魔族領への派兵を行なう。これには他国の勇者も参加する」


「なんじゃと!? もしや水薬の量産化は、その為の物資確保か!」


「うむ。我が国から勇者が出せない以上、これはサルモネディ、ラティメリア、リピディスティアとの四国間の取り決めを守る為に必要な事なのだ……」


 話がぶっ飛びすぎてて理解が出来ない。いや、俺のせいでこの国が派兵しなければならないって事ぐらいはわかるんだが……。


「具体的にはいつなのだ!?」


「各国で召喚された勇者達の戦闘訓練が済み次第ではあるが……長くて一年、早くて半年という所であろうか」


「ぬう……」


 そんなに遠い話でもないが、すぐと言う程でもないな。

 そりゃそうか。他の勇者がどんな能力を持って召喚されたのかわからないが、少なくともこの世界にはレベルだのスキルだのと言うお手軽な戦闘能力は無さそうである。

 それでもそんな選択を取るという事は、それなりに勝算が見込める。そして、そこまで危機が迫っているという事だ。


「現状における魔族の脅威と言うのは、具体的にどのような事が起きているのですか?」


「うむ。魔族領というのは我々のいるオスティエクト大陸から海を挟んで西に存在する、コンドレクティ大陸と呼ばれる場所の事でな。そこにはガレオセルドとカルチャリアスという二大国家が存在するのだ」


「海を挟んで、と言うことは大分距離がありそうですね」


「確かにその通りじゃ。しかしそちらに面しているサーコ地方の国、ラティメリアとリピディスティアは小規模な侵略を度々受けておる。その度にサルモネディ帝国が派兵をし、争いを治めてきたという経緯があるのだ」


「サルモネディ帝国と言うのはこのオスティエクト大陸最大の軍事力を持つ国でな、他の三国が束になっても勝てるかどうかくらいの強大さを誇っておるのじゃ」


「やはりその帝国は、外交においても発言力が強いのですか?」


「そうであるな。今回の勇者召喚もサルモネディ帝国が持ち掛けてきた話であり、自らその統括を行なっておる。それを失敗したパーシフォームとしては非常に立場が弱いのが現状じゃ。なので、せめて兵力を出すくらいはせねば……、と言う理由で我が国の動向は決まったのだ」


 うーむ、現状はそんなにも厳しかったのか。


「ならば今回、わしを呼んだのはやはり……」


「うむ……。なんとかイーちゃんに協力をして貰えないか、というお願いをしたかったのだ」


「ペルちゃんは、わしの答えなんぞ聞かんでもわかっとるだろうに。嫌じゃよ」


 まぁいくらイザークが魔法に長けてるとはいえ、最前線へ出ていく歳ではない。そりゃ断るのも当然だ。

 しかもこれまで隠居してたんだから、尚更だな。


「まぁ、これは国の政じゃ。勇者殿もいまだ魔法は使えないと聞く。二人の協力を得られれば有り難いとは思っておるが、無理強いをするつもりは無いんじゃ」


 この王様はゴミ拾いの福祉系の政策といい、この謙虚さといい、どうも人が良いな。甘いと言う見方も出来るだろうが、俺個人としては嫌いではない。

 何か手伝ってあげたいと言う気持ちは湧いてくる。


 しかし、問題なのは魔族とやらだ。

 まだ一度も出会ってないので、どのような考え方を持つ人々なのかさっぱりわからない。ゲームの敵みたいに完全に悪役である、という様には思えないんだが……。

 そもそも、最近のゲームでそんな勧善懲悪な奴も少ないか。


 しかしイザークに聞いた話では、彼等はオドの過剰摂取を乗り越えており、高い暴力性を持つような人々である。その話の通りであれば、未開の地から蛮族が攻めてくるって感じに思えてしまう。


「ところで、お二人は魔族という人達と出会った事はあるのですか?」


「王であるわしはこの国を治める立場である故、そうそう外に出る機会なんて無いのでな。外交で出向く事は当然あるが、年に数回もあるかという所か」


「ペルちゃんはそうであろうな。わしは昔に修行の旅に出た際、何度か見た事はあるぞ」


「どんな感じの人達なんです?」


「……わからんと言うのが正直な所じゃ」


「なんで!?」


「流石に大陸を渡った事は無いし、海沿いの街で犯罪者として捕らえられたのを見たくらいだからの。しかし、西の二国ではしばしば密入国したものが捕らえられておるらしい。とても粗暴で、文明的では無いと聞く」


 密入国って事は、何か目的が有るって事だろうか。流石に移民とかじゃなさそうだが……。


「……それでは王様、他に魔族に詳しい方はいるのですか?」


「基本的にその辺の話は、女神教の方から話が入ってくるのじゃ。勇者召喚にしても帝国が音頭を取ってはいるが、実行するのは女神教側なのでの。神都ネータストの司教様方なら詳しい所を知っておるとは思うが……」


「……失礼を承知で言いますが、そのような程度の見識で、何故そこまで魔族という者はここまで悪く言われるのですか?」


「古い話ではあるが、過去にオスティエクト大陸とコンドレクティ大陸は大戦を経験しているのだ。それは約二百年前に終結したのだが、それはこの二つの大陸の交流を完全に絶ってしもうた。既にわしらの世代からですら、その記憶はほぼ失われてしまっておる。しかし大戦終結後に、神都ネータストの女神教はその教条に一文を加えたのだ。『魔族は人と相容れない存在である』とな」


 王によると、今ではコンドレクティ大陸には誰も近付かないし、渡航の許可も出ないらしい。


「女神教はこの地に根付いている宗教じゃ。その教えを律儀に守る者はそうおらんが、それでも人々の考え方の根本にある物なのでな。また、この国は魔族領から一番離れているので、他の三国とは捉え方が異なるというのもあるじゃろう」


「我が国において、魔族問題の受け取り方は『他人事』と言っても良いのだろうな。だが、神都と帝国からの強い要請があれば、それに従うしか無いのが我が国の立場じゃ。地理的に我が国は交易拠点として栄えておる。この国を横切る街道は帝国・神都とラティメリア・リピディスティア間を結ぶ物でもあるのだからな。他国との連携はとても重要な事柄であるのじゃ」


 うーわぁ……。この世界もこの国も、思ったよりやべぇぞ。


 なんでそんな見込みだけで軍を出すなんて話になってんだよ。魔族の被害って話も実際の所はどうなのか怪しいだろ、これじゃ。


 大体、海の向こうから攻めてきておいて海沿いの街に被害って、それだけ? 国一つが征服されたとかならわかるが、それも帝国が撃退していると言う。

 そんな話、そもそも本当に撃退しているのかすら怪しくなってくるだろ。この情報だけだと、帝国と神都がグルになった自作自演だって疑えてしまう。


 今の話を聞いただけだと、サルモネディ帝国と神都ネータストの連中は信用していいのかと言う疑問が浮かぶ。

 その手段も目的もわからないが、会った事もないような連中に対して不安を煽っているように見えるのは、俺にこの世界の知識が無いからなのか? 俺が疑い過ぎているだけなのか?


 また被害のあるというラティメリアとリピディスティアの話も、それがどの程度の物なのかさっぱり分からない。

 国境での衝突はよくある事だし理解が出来るが、この話の場合は被害があるのは海沿いの街だ。街が襲われるような規模の兵力で海を越えて攻めて来ているなら、それは嫌がらせのレベルを超えている。

 逆に言えば、事態がとっくにエスカレートしていないとおかしい。


 魔族側にもこちらへの嫌悪感情があると仮定すればそのような行為に出るのも理解は出来るが、そんな事の為に兵士と船を使うだろうか。

 海上での示威行為くらいならわかるが……。


 現代においては、戦争への参加なんて物は限られた人間が判断する事だ。いくら民主主義とは言っても、民衆の選択なんてものは直接的には影響しない。

 そしてその限られた人間達だって、様々な選択肢を検討した上で判断を下している。情報も無しにいきなり殴り掛かるなんて事は、そうそう有り得ない。


 しかし情報が乏しくて他国より立場が弱いとなると、ここまで言いなりになってしまうものなのか。


 クソ、どうすりゃいいんだ。

 幸か不幸か、今回の話において俺個人は関係者と言っても過言では無い。まさに【その為】に呼び出されたのだから。

 だが、訳も分からないのに「はいそうですか」と素直に従う事なんて出来ない。俺にだって良心くらいはある。


 とは言っても、俺の手札である現代知識を使うにしてもそれが浸透するには時間が掛かる。地位も名誉もない俺にこの世界でやれる事なんてあるのか……?


「王様、オスティエクトの四カ国の中で、ここから一番近い国はどこになるんですか?」


「サーコ地方にあるリピディスティアであるな。ここから西にある大峡谷、その奥底に首都である迷宮都市ディプノイがある。その次は街道の終点となるラティメリアか。この二国は、我が国の貿易の主要輸入先になっておる」


「帝国と神都はどうなんです?」


「その二国は我々と同じアクティノ地方に分けられる。街道を東へ向かうと辿り着けるのだが、中央山脈超えをせねばならんのでサーコ地方への旅程に比べて長くなるのだ」


「行くとしたら、どのくらいの日数がかかるのでしょうか?」


「マサユキよ、何を言いたいのだ?」


「いいですか。この国が持っている情報は、判断材料としてはあまりにも少なすぎます。何故こんな程度なんですか? 軍に諜報機関は無いのですか? 外交はどうなってるのですか?」


「……パーシフォームの人流は、外から来るものは殆ど無いのだ。我が国が魔法に力を入れているのは、交易の際の魔法障壁要員の育成の意味が強い。我々自らが取引先へ出向き、物のやり取りを行なうのが慣例になっておる。商売である故にそうのんびりも出来る物では無い……」


 つまり、買い付けに行って売り付けに行く。相手国は動かなくて済むし、そのマージンで成り立っている商業国家だと言う事だ。

 なるほど、街でも港でも他種族をあまり見ない理由がそれか。パーチ港は国際的な貿易港なのに、この会話に出てきたような種族は全然見掛けていない。その疑問がようやく解けた。


「……ペルコイデイ王、であればやってみませんか? 首輪が着いていて、各国に対して動きやすい人間がここにいますよ」


「まさか、勇者殿が?」


「旅費と活動費と許可証、身分証明くらいを出してもらえれば、私が勝手に各国を巡って情報収集をしてきます。勿論、懇意にしている仲間達も出来れば護衛の為に同行します。何かあれば逐次、王様宛に報告を流します」


 俺の突然の提案に、二人は困惑していた。当然だ、少しは困らせるつもりで言ったからな。

 だが、適当に【パーシフォームの勇者が、各国勇者との交流の為に来た】とか言っておけば、今のこの国の立場も少しはマシになるだろう。無能だった俺を庇ってくれたのは嬉しかったが、それが原因で誰かが犠牲になるのも心苦しいどころの話では無い。

 勝手にウィンドブローを巻き込んでしまう話をしてしまったが、まぁ報酬さえ納得出来るなら嫌とは言わないと思う……多分。


「……興味深い話ではあるな」


「おい、ペルちゃん……」


「まずは勇者殿、そなたの仲間達に会ってからでも良いだろうか?」


「ええ、それが良いかと思います」


「ならばわしも……!」


「駄目じゃ、イーちゃんも歳を少しは考えたほうがええ」


「わしを派兵の為に呼び付けたペルちゃんが言うでないわ!」


 そうして二人の言い合いはあったが、ひとまずはこの方向性で動く事となった。

 明日、みんなを連れて王様へ謁見する事になり、それでこの場はお開きとなった。






 帰りも、行きと同様にイザークの風魔法で移動し、釣具屋へと戻って来た。

 時刻は丁度、昼くらいだろうか。


「しかし、なんという事を言い出したんじゃおぬしは……」


「まぁそう言わないで下さいよ。正直、俺が召喚された事が原因でこんな事になってる訳ですし」


「そんなもん、ほっときゃええんじゃ。勝手に喚び出したのはあやつらなのだから、その尻拭いもあやつらが……」


「そうですけど……それでずっとお客様気分で居ても、何か起きた時に気分が悪いじゃないですか。既に変な方向へ事態は転がり始めてるので、俺の知らない所でぐちゃぐちゃになっても嫌ですよ。戦争になんてなったら、釣りどころじゃなくなっちゃいますしね」


 そう言うと、イザークは難しい顔をして黙ってしまった。


「ただ、店員の仕事が出来なくなってしまうのは、本当に済みません」


「……そんな事、気にせんでもええわい。無事で戻って来いよ、まだ教えて貰いたい事は沢山あるのじゃからな」


「分かりました。なるべく早く終わらせて帰って来ます」


 俺はイザークと握手をした。

 この世界で俺が戻るべき所が、家以外にもあった事に今更ながら気付いたのだった。


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