表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/47

35話 二人の距離


「俺は、この世界の人間じゃない。魔法で……なのかは俺もよく分かってないんだけど、別の世界から召喚されて来たんだ」


「えっ……? 急に何を言ってる……の?」


「言葉の通りだよ。俺は本来ならここにいてはいけない人間なんだ」


「そんな事は……!」


「もうトレーシーは俺のオドの力の事は知ってるよな、他者の魔法を強化出来るって事。そもそも君がいなければその事に気付かなかったのかもしれないんだ、本当に感謝してる」


 トレーシーは呆然としてこちらを見ている。


「他にもオドを通じてルビア達と話が出来る、これも君はもう知っている事だな。だけど、まだ一つ言っていない事がある……俺にはオドが見えるみたいなんだ」


「えっ? オドが……見える?」


「うん。君達が魔法を使う瞬間とか、オドを持っている動物とか、そう言うのが見えるんだよ。品質の高い薬草を見分けられるのも、それらからオドみたいな光が出てるのが見えるからなんだ。理由はわからないんだけど、俺が異世界人だからってのはあるんだと思う」


 と言うか、それ以外の理由が思い付かない。


「今日、オドは人の内面を司るって話が出ていたけど……それなら、俺の内面って何なんだろうな。よくわかんないよ」


「でも、そのおかげで私含めて色々助けられてるよ? 悪い力じゃないと、私は思う」


「本当はもっと早く君に伝えておくべき事だったのかもしれない、ごめん。本当の事を言ってどうなるのか、みんなから変な目で見られないか、不安だったってのは正直に言うとあると思う」


「そんな事ないっ!! それが分かったって、マサユキはマサユキだもん!!」


 真剣な眼差しでそう言ってくるトレーシー。ありがとう、素直に嬉しい。


「なんで召喚されたのかは知ってるの?」


「国同士の取り決めで、それぞれ勇者を召喚して魔族に対抗しようという話があったみたいだ。今それがどうなっているのかは正直わかんないんだけど、俺の気持ちとしては『あまり関わりたくない』って感じかな」


「……召喚された、って事はそのままこっちの世界に来ちゃったって事よね? 家族とかは……?」


「向こうの世界の家を出る前は、家族はみんな元気だったよ。だからこのまま俺達は生き別れ、って事になるんだろうな。向こうはもう、俺が死んだと思ってるかもしれない」


 そして元の世界に戻る手段があるのかも、今はわからない。改めてその事をこうして口にしたら、流石に胸が苦しくなるな……。

 家族仲が悪かった訳でもないし、会えるのなら今すぐにでも会いたい気持ちはある。


「そんな……っ!! そんなのって……」


 トレーシーは涙を浮かべて、俺の境遇に同情してくれているみたいだ。

 やっぱり君は優しい子だな。


「まぁ、そうなってしまった物はもう覆せないから仕方ないと諦めるしか無い。ごめんな、そんな顔を君にさせる為に話したつもりは無かったんだ」


 俺は指で彼女の涙を拭った。


「俺にはトレーシーがいるし、セドナがいて、ルビアもいる。フリットもシャルもいるし、イザークさんもいる。マルクさんも良くしてくれた。他にもこの一ヶ月で色んな人に知り合えて、結構救われてるんだ。この人達を裏切るような事はしたくないって思うよ」


 トレーシーの話を聞きたくて、それならと先に俺の話をしたのは失敗だったな。ここまで彼女が落ち込むとは思わなかった。

 それを慰めようと思い、彼女の肩に手を回しかけた所で思い直した。そう言うつもりではないのだが、少し下心がありすぎるな、と。

 しかしそんな俺に、横にいるトレーシーは肩を寄せて身体を預けてきてくれた。それなら、いっか。


「……トレーシーって、スライム討伐の時に何か言い掛けてたよな? 今日なんか変だったのも、それが原因だったり?」


「うん。……私の家族の事は話したっけ?」


「確か、流行り病で御両親を亡くしてたんだよな」


「うん。慌てて帰省したんだけど……私に出来た事は、看病と家の空気の入れ替えくらいだった」


「風属性だから、その時に出来る事をやってみたんだな」


「……何にも役に立てなかった。その後に学校で学んでも、出来るようになるのは攻撃だけ。おとぎ話にあるような、人を癒す魔法なんて現実には存在していないし、当然そんな事が出来るようにはならなかった。大事な時に何も出来ない私ってなんなんだろうって考えたら……何もわかんなくなっちゃった」


 その頃の事を思い出してしまったのかな。


「あ、でもね? 勿論、マサユキが言ってくれた言葉は覚えてるよ? 使い方次第だって言葉、今はそうかもって思えるようになってきた」


 そっか。少しでも役に立ったなら嬉しいな。


「それでも……やっぱりたまに考えちゃう。あの時の私でも、もっと何かが出来たんじゃないかって」


 そうやって自分を責めてたのか。

 確かに結果としてはそうなってしまったかもしれない。でも、その時に出来る事をやったのは素直に偉いと思う。


「俺のいた世界だと魔法は無いんだけど、錬金術師みたいな技術が発達してるんだ。それによると、伝染病は接触で伝染る事もあるし、汚い空気で伝染る事もあるんだ。だから君のやった換気作業は、決して無駄な事じゃない。むしろ正しい対処法の内の一つなんだよ」


「そうなの……?」


「ああ、嘘じゃない。だが、それより病気の進行の方が早かったんだろうな……。起きてしまった事は変えられないけど、病気の治療薬なんかをマルクさんが作ってくれたら、これからそういう悲しい思いをする人を減らせるかもしれないよな」


 多分彼もそういう事くらい考えていると思う。

 であれば、彼の手助けをすれば結果的にそれが人助けになる事もあるだろう。次に会った時に色々聞いてみるとするか。


「じゃあ、マサユキは頑張んなきゃね」


「トレーシーだってそうさ。俺だけだと、その辺の野生動物にだって食い殺されちまうからな……?」


「そっか。そうだね。何か二人で出来るといいね」


「だな、何か出来るといいな」


 そうして、俺達は暫く身体を寄せて星空を眺めていた。


 また一つ、この世界でやりたい事が見付かったのかもしれなかった。






 翌朝。

 今朝も俺が一番早起きだった。その為、今はまだ寝ている二人の寝顔を堪能していた。


 セドナはよく背中を丸めて寝ているが、今朝は何故か香箱座りでおやすみだ。いや、むしろごめん寝の体勢と言った方が正しいか。そんな格好で寝て身体が痛くならないのか不思議だ。


 枕元のルビアは丸くなっている。まるでふわふわの白い饅頭みたいだ。撫でると耳をピクッとさせて、なんかふにゃふにゃ言い出した。


 トレーシーの方はごく普通に、仰向けで毛布を掛けて寝ている。まぁその綺麗な金色の髪は普通じゃなく目を引くので、何が自分にとって普通だったのか今となってはよく分からない。

 弛緩した表情と長い睫毛に前髪がかかっていて、その艷やかな唇に目を奪われてしまう。朝日に煌めく紫のイヤリングも、もう彼女の一部のように見える。


 いやぁ、平和だなぁ。

 これで仕事が無けりゃ最高の異世界生活なんだが、働かざる者食うべからずなのはここでも同じなのだ。悲しいね……。


「んっ……ふわぁ……ぁ。マサユキ、おはよ……今日も早いね」


 あ、トレーシーが起きた。

 目を擦りながら、まだ冴えない意識と戦ってるようだった。


「おはよう。これから準備して仕事に行ってくるよ」


「うん……。あ、そうだ。ギルドに行くけど、何か用事ある? 代わりにやっとくよ?」


「いいのか? それじゃキツケ草と常緑草以外に、何か水薬の材料になるような物の依頼があったら調べておいて欲しい。近い内に三人でやろう」


「うん、わかった! 多分だけど今日精算があるから、マサユキ達の報酬も預かってくるね」


「ありがとう、助かる。それじゃまた午後に、いってきます」


「いってらっしゃい!」


 昨夜あんな話をしたからな。

 良い材料が取れればマルクさんのような錬金術師達の助けになるだろうし、結果的に良い水薬が市場に出回るようになるだろう。


 笑顔で見送ってくれたトレーシーに俺も手を振り返し、イザークの店へと向かった。






「マサユキ、大変じゃ!!」


「な、なんです……?」


 店に着くやいなや、イザークが何やら慌てている。この人が慌てる所なんて、初めて見たかもしれない。


「昨日、王の使いという者が店に来おってな……」


「なんか悪い事でもしたんすか?」


「そうじゃないわい! はぁ、折角余生を趣味に注ぎ込もうとこの店を開いたと言うのに、見つかってしもうたわ……」


 話を聞くとどうやら、ペルコイデイ王から顔を出せとの連絡が来たらしい。


 イザークは過去にはそれなりに高い地位とその実力から、常に王から色々なお誘いを受けていたらしい。それがウザくて身を隠し、少し放浪してからこの旧市街に趣味の店を開いたとの事。

 灯台下暗しと言うが、それは結構効果があったらしい。常連の貴族達は当然イザークの事を知っているのだが、まぁ彼等も釣りにハマっているので仲間を売る事はしなかったんだそう。

 いや、それはそれでどうなんだって話ではあるが、派閥争いとかも絡んで来るんだろうな……。


「まぁ、顔を出すだけなら行って来たらいいんじゃないですか? 減るもんじゃなし」


「……おぬしも来るんじゃよ」


「えっ、なんでです?」


「わしと共に、王からのご指名じゃ。今日は店は閉めて、これから付き合ってもらうぞい」


 ええ〜っ。ダルそうだなぁ……。

 そんな事を思ってると、イザークは、俺を裏庭へと連れ出した。


「そんな分かり易い顔をするでない、わしもおぬしと同じ気持ちじゃ。とっとと済ませて帰るぞ」


 イザークはそう言うと、俺の身体を後ろから羽交い締めにした。なんで!?


「風の女神よ、大地を蹴り彼方へと翔ける翼を我等に授け給え!」


 そうイザークが唱えると、身体が……宙に浮いたッ!? 風魔法、マジで凄くねぇ!?


「ゆくぞい!」


 ぐっと身体が重くなったと思った次の瞬間には、足元をラテオラの街並みが凄い速度で過ぎ去っていく。ギルドを過ぎ、川を越え、新市街地に入ったと思ったらもう王城である。

 しかし、城の敷地に入った瞬間に何かを通り抜けた感覚がした。それは結構な不快感で、例えるなら顔に蜘蛛の巣が引っ掛かった時の感覚に似ていた。

 そのままの勢いで中庭へ降りていき、地面に触る瞬間にふわっと減速が掛かって着地した。


 そしてこんなダイナミックエントリーをしたら、そりゃ護衛の兵士達がすっ飛んでくるのは当然だ。この世界の素人の俺だって、そのくらいは分かる。

 あっと言う間に俺達は兵士に囲まれた。


「貴様ら、何者だ!!」


「呼ばれたから来たんじゃよ。ペルちゃんに『イザークが来た』と伝えてくれんかの?」


「ぺ、ペルちゃんだとっ!?」


 ペルちゃん!? イザークの言葉に驚く兵士と、全く同じ事を思ってしまった。

 うわぁ、不敬罪で投獄とかされないよな……? どうすんだこれ……。


 そうして慌てていると、暫くしてから人影がこちらに歩いて来た。

 兵士の一人が近寄って何やら話し掛けるが、すぐに頭を下げて他の兵士達を下がらせた。


「全く、急に呼びおってからに……」


「やはりイーちゃんなのだな!? 元気でおったか!? しかし、老けたのぅ」


「それはペルちゃんにそっくりそのままお返しするわい」


 くっそ……会話を聞いてたら、頭が痛くなってきた。

 二人を見たら旧知の仲だったってのは分かるんだが、ペルちゃんにイーちゃんってのはどういう事なんだってばよ。


「あの、イザークさん……?」


「おお、イーちゃん。勇者殿も連れてきてくれたのだな?」


「あっ、はい。連れて来られました」


「わしの店の店員じゃ。ほれ、とっとと部屋に案内せんかい」


「相変わらずイーちゃんは、せっかちよのぅ……」


 不敬に不敬を重ねていくスタイル。俺、ここから生きて帰れるのか不安になってきた。

 とりあえず移動になるようなので、俺は二人の後に付いていった。






 そして、何処に通されるのかと思ったら王の私室だった。もう勘弁してくれ、権威に圧し潰されそうだ。


「で、ペルちゃんよ。単刀直入に聞くが、何故わし等を呼んだのじゃ?」


「イーちゃん、ひとまずは先にお礼を言われておくれ。勇者殿、話はマルクから聞いておる。此度の働き、実に見事であったぞ。感謝する」


「あ、どうも……」


「何の話じゃ?」


 そうか、イザークさんは知る訳もないか。一応ルビアの話はしているが、その後で起きた事だもんな。

 俺は彼に、ここ数日のあらましを説明した。


「なるほどな、エギア家からの仕事をしていたのじゃな」


「ルビアの母親であるアクアと、ルビアの兄弟達も良くしてもらってるようなので助かりました」


「マルクからは、水薬量産化の目処が立ちつつあると報告を受けておる。このまま順調に進めば、より多くの民へ治癒の手を行き渡らせる事が出来るであろう」


「いや、俺は単に依頼をこなしてただけなので……」


「まぁ確かに水薬は高価じゃから、それが安くなるのなら良い事ではあろうが……。しかしそれでは国としての収入が減るのではないか?」


「うむ、その通りじゃ。しかしそれでもやらねばいけない理由があるのだ」


 ペルコイデイ王は、これから話す事は口外無用であると念を押してから、話し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ