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33話 身バレとアクア


 翌朝。

 昨晩からルビアの事を観察していたが、セドナの時のような変調をきたす事もなく平然としていた。流石に夜明け前には寝落ちをしてしまったが、それまでは何の変化も見られなかった。

 寝てる彼女に触れながら話かけてみる。


「ルビア、身体は何ともないか?」


『むにゃ……もうたべられないよ……』


 大丈夫そうだな、この様子なら。


「あ、おはよマサユキ」


 トレーシーの方が今日は早く起きていたようだ。

 普段の彼女はその長い金髪を結んでポニーテールにしているが、今は全て下ろしている。その姿は新鮮で、窓から差し込む朝日に透ける髪がとても綺麗だった。


「おはよう、今日は早いんだな」


「むしろ、あなたが遅かったのよ?」


「まぁルビアの様子を夜遅くまで見てたからな……。今日が休みで助かったよ」


 多分、まだ二時間くらいしか寝てないんじゃないか。二度寝でもしようかな……。


「あれ、そう言えばセドナもいないな?」


「セドナちゃんなら、朝早くから出掛けてったわよ? 昼前には帰ってくるって言ってたけど、何か聞いてる?」


「いや、何も?」


 セドナにも何かやりたい事があるんだろう、別にそれを止める必要なんて無い。誰だって自由時間は必要だよな。


「じゃ、おやすみトレーシー」


「えっ?」




 ◇◇◇



「ヴァンよ、勇者の様子はどうなのだ?」


「はい。我々の用意した家を拠点に、冒険者として日銭を稼いでいるようです」


 神官長ヴァンは、ペルコイデイ王の寝室で報告をしていた。召喚から約一ヶ月、セドナやギルドを通じて情報収集をしていた内容についてだった。

 度々行なわれるこの密会は、完璧な人払いをされている。


「何か能力面で分かった事はあるのか?」


「ギルド等からの情報を加味しても、戦闘面ではやはりほぼ素人同然である様子です。いくつか気になる報告はありますが……」


「ふむ、言ってみよ」


「これはギルドからの情報ですが、彼の納品する物は質が高いようであり、市井の者より重宝されているようです。最近では錬金術師であるマルク・エギア氏の依頼にて、水薬量産に目処を立てたようです」


「あの水薬が、か?」


「はい。薄めてもこれまでの物と同様の効果を保て、より効能の高い物の精製も可能との事です。量産効果により低価格化も見込める様です。その効能については先日のエクカバ車事故にて実証されております」


「それは朗報であるな。間接的ではあるが、あの一件を収めたのも彼の手柄であったのか」


「偶然ではありますが、そういう見方も出来ますね」


 旅客馬車の事故。

 その原因は主要街道に起きた落石であり、それに馬車三台が巻き込まれるという物であった。その程度の事であれば、普通は王の耳に入る事は無い些事として処理される。

 しかし今回はその乗客が問題であった。一般の乗客、とは言っても貴族階級なのだが、それに加えて他国からの使節団が同乗していたのだ。

 それが領内で事故に遭ったとなると、それが自然災害であれ人為的な物であれ、当該国が疑いをかけられるのは自然な流れである。

 数十人規模の被害であったが、一人も死者が出なかったのは実に幸いな事だった。


「また、どうやら召喚直後から四法四属のイザークとも交友が深いようです」


「なんと、あの行方不明であったイザーク殿か!?」


「はい。どうやら何時の間にか、旧市街地に居を構えられていたようです」


「何故、そのような所に……」


「貴族側から当たってみた所、彼の趣味のようですね。【魚釣り】と言う物らしいのですが、熱中している貴族もいるようです」


 四法四属のイザーク。

 若い頃から魔法の才覚を発揮し、現代魔法の基礎理論を作り上げ、王立魔法大学の学園長を務めた人物。

 ペルコイデイ王も若い頃に、彼を王国の兵に誘った事がある。なにせ全属性の魔法を最高の質で、しかも無詠唱で扱えるのだ。国としては戦力としてどうしても欲しかった人物だ。

 それ以外にも、理由はあるのだが。


 だがどんなに高い待遇でも彼は、その首を縦に振る事は無かった。その代わりに彼は大学で教鞭を執り、後進の育成をした。王国の魔法部隊にも彼の教え子は多い。

 そして引退後、行方をくらましたのだ。


「では、彼はイザーク殿に教えを……?」


 それであるなら、もしかしたら勇者は魔法の才に目覚めているかも知れない。

 そう、ペルコイデイは考えたのだが。


「いえ、それが……彼が魔法を使う所は全く目撃されていないのです。何故かお目付け役として付けたメイドが、魔法の才に目覚めていましたが……」


「待て、あれは確か四等であった筈だが?」


「はい。しかし確認した所、確かに炎属性に目覚めていました」


「ふむ、気まぐれなマナの女神様のする事はわからんな……。そんな事がありえるのか?」


「少なくとも、私は聞いた事がありません。本人にも、公言しないように釘を差しています」


 しかし、これは画期的な事でもある。その理屈が解明出来れば、いまだ残る身分制度の改革も夢では無い。

 王族や貴族という二等市民まではまた別の話になるが、平民とされる三等市民と四等市民の差は【魔法が使えるかどうか】だけだ。

 その考え方は女神教から来る物ではあるが、ヴァンはペルコイデイの考えに対して理解を示している人間の一人だ。ペルコイデイはそれを公言するまでには至っていないが、四等市民が魔法を使える様になるというのは単純に国力を上げるという面でも有用な話になる。


「これについては、より詳細が分かれば随時報告して欲しい」


「畏まりました」


 そうして、二人の密会は終わった。


 召喚時の情報により、各国には召喚失敗との報を送っている。その分、パーシフォーム王国は金銭面での援助をする事で話は纏まったのだが、これがなかなかに国の財政を圧迫している。


 何かしらの手を打ちたいが、良案は生まれていないのが現状だ。

 当分、この二人の悩みの種はそこになるのだろう。




 ◇◇◇




 起きたら太陽が高かった。

 たまにはこうやってダラダラ過ごすのも悪くないもんだな。


「ただいまにゃー」

「わんっ!」


 玄関が開き、セドナの声が聞こえてきた。俺もベッドから這い出て、リビングへ向かう。

 帰ってきたセドナの足元で、ルビアがぴょんぴょんと跳ねていた。


「おかえり」


「マサユキ様、まだ寝てたのにゃ?」


「昨夜は夜遅かったし、仕事も無かったからな」


「そんな事してるとカビが生えてくるのにゃ」


 お、それをお前が言うのか。と言い掛けたが、意外と猫のくせにセドナはしっかりしているんだよな。多分、留守にしている時も昼寝とかはしてないんじゃないだろうか。

 今度、ルビアにこっそり聞いてみるか。


「セドナはどこ行ってたんだ?」


「んー、王宮に顔を出してミラとベルに会ってきたにゃ」


「そう言えば、前にも聞いた名前だな」


「王宮での同僚だったにゃよ。同じ部屋で暮らしてたから仲良しなのにゃ」


「おー、それはいいな。そうやって会える友達は大事にした方がいい」


「なんか年寄りくさいにゃ。それじゃお昼にするにゃね」


「助かる。そういやトレーシーは見てなかったか? 朝にちょっとだけ話をしたんだけど、いないな……」


「午前はギルドに顔を出すって言ってたにゃよ。そろそろ帰ってくるんじゃにゃいかにゃ?」


「なら昼飯の支度をして待ってようか」


 そこから少ししたら彼女も帰ってきたので、三人で昼食を取った。


 トレーシーによると、先日のマルクさんからの依頼は完了扱いになりそうだと言う事だった。しかし報酬の受け取りまでにはもう少し時間が掛かりそうだとの事。

 そして、近い内にまた屋敷へ顔を出して欲しいとの言伝がギルドへあったらしい。

 何かあったんだろうか。


「それじゃ、これから顔を出してみるか?」


「ええ、いいわよ」


「わたしも行けるにゃ」

「わんっ!」


 という事で、俺達の午後の予定が決まった。






 マルクさんの屋敷の前に着いた俺達を迎えてくれたのは、白狼達だった。見ると早速、ルビアは母の背中に飛び乗って甘えている。まだ子供だもんな、自分から行くと言って親元を離れたとは言え、会えばそりゃ甘えたくなるだろう。


 白狼は相変わらず人間大の大きさで迫力があるが、数日前より少し毛並みが良くなった気がする。ブラッシングでもして貰ったのだろうか。

 触れて少し会話をする事にした。


「久し振り、って程でもないか。マルクさんは良くしてくれてるかい?」


『おかげさまで、他の子達も元気いっぱいです。まだ私達の小屋は出来ていませんが、屋敷内で快適に過ごさせて貰っています』


「それは良かった」


『今日はどうされたのですか?』


「いや、ギルド宛に顔を出して欲しいって言伝があったみたいでさ。急で申し訳無いけど、時間が有ったから来てみたんだ」


『それでは、マルク様をお呼びしてきますね。少々お待ち下さい』


 そう言って、白狼は器用にドアを開けて中へと入っていった。

 それから少しした後に年配の使用人が白狼と共に出て来て、俺達は中の応接室へ案内された。


「こちらで少々お待ち下さい……」


 そう言って使用人さんが出て行こうとした時、ドアが開いてマルクさんが現れた。


「いや、わざわざ来て頂いて申し訳ない!」


「……その必要は無かったようですな」


 使用人さんがこちらへ微笑みかけてくる。どうやらそのようで。


「ノリスとアクア、ありがとう。アクアはそのまま同席して欲しい」


 白狼はそれに頷き、マルクさんの横へ座った。


 アクアか、良い名前を付けて貰ったんだな。しかし、なんで水なんだろうか。


「突然の訪問で申し訳ありません」


「いえいえ、こちらからギルドに言伝をお願いしましたので全く構いませんよ。こんな早く来て頂けるとは思っていませんでしたが、早ければ早い方が良い事でしょうしね」


「と、言いますと? 先日の件で何か問題でもありましたか?」


 まぁ、依頼に関しては完遂した事をマルク側が認めているのでそういう話では無いだろうが、念の為に話を振ってみる。


「いえ、そちらでは無いのです。今回はこの白狼、我々でアクアと名付けさせて貰いましたが、彼女の魔法についての事です」


「という事は、アクアの魔法をご覧になったのですね」


「ええ、彼女にお願いして実演をしてもらいました。氷槍を生成し飛ばすという、確かに氷属性と思えてしまう物の様ですね。生成された氷槍も、氷そのものの様でした」


「実は私も、それについてマルクさんにお話を伺いたいと思っていた所だったのです。私は魔法については疎いのですが、うちのルビアにも関係する事かと思い、最近少し調べ物をしまして。氷と言うのは所謂、四属性には含まれない物ですよね?」


「その通りです、氷のマナという物は存在しません。しかし自然界の水は、気温が低下すれば氷結します。ここではあまり見られませんが、北方の国では雨の代わりに雪が降ります。つまり氷の大元は水であるので、マナとしては水属性が関係していると思われます」


 ああ、だからアクアって名前にしたのか。

 確かに、あの氷槍には水属性魔法は関わっていると思う。

 これまでの経験から魔法発動の時のオド放出だけでなく、オドがマナに干渉した際にもそこに色が付く事で、何属性の攻撃が来るのか俺には見えるのが分かっている。


 これはトレントの時が良い例かもしれない。

 鋭利な葉っぱを飛ばす攻撃、あの時にはトレントは緑色に光った。あれは葉っぱ自体が魔法なのではなく、それを風に乗せて飛ばす行為に魔法を使用していると俺は解釈している。だからあの攻撃は、風魔法を使用しているという事だ。

 そして根っこを生やしてくる攻撃は黄色だった。それは地属性の色なのだが、根を伸ばす事自体はトレント自身が出来る事なのだと思う。だから地属性魔法で地面を柔らかくして、根を伸ばしやすくしているのでは無いだろうか。


「私はアクアに、水属性の魔法を使う様にお願いをしてみました。言い方を変えたりして何度も試しましたが、しかしこれは駄目でした」


 ふむ、水属性魔法単体としては発現しないのか。


「駄目でしたか。しかし……これは個人的な見解なのですが、水属性魔法が関わっているのは間違いが無いと思います」


 氷が出来る為には、水が必要だ。だから氷槍を生成する際に、水のマナに干渉しているのは間違ってないと思う。

 また氷槍を飛ばすという行為も、人間であればそこに風属性魔法が必要になるだろう。しかし、あの時に緑の光は確認出来なかった。

 どうやっているのかは分からないが、オドの使い方が人間とは違う物である可能性は充分に考えられるな……。


「私も同様の事を考えました。そこでですね。普通の水をコップで用意して、それに何か変化を加える様にお願いしたのです。するとコップの中の水はなんと、氷へと変化をしました」


「……つまりアクアの氷槍はオドをマナに干渉させる魔法という事では無く、アクア自身が持つ能力という事でしょうか?」


「ほぼ、それで間違いは無いと思います。そして、そのような能力を持つ動物と言うのは……」


「もしかして、魔物ですか?」


 こくり、と頷くマルク。


 だがイザークにも同様の質問をしたが、魔物とは暴力性を持つ物だと言っていた。アクアはこれに関しては、明らかに当てはまっていない。ちゃんと彼女には理性があって、知性があるからだ。


「しかし、私が持つ魔物に対しての知識とアクアでは、大分その質が異なりますよ?」


 トレントの時に、俺の能力が全然分かってなかったのが悔やまれる。もしかしたら、まだあの時は能力が無かった可能性もある。

 アクアを迎えに行った時に出会った奴は、今思えばチャンスだったのだろう。あの時、結局俺は前線に出なかったのでこれもわからずじまいだ。

 トレントとも、もしかしたらコミュニケーションが取れたりするのだろうか……。


「では少し、別の側面からの話をしましょうか」


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