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31話 同居人と図書館


 全く、なんてこった。

 酔った勢いとはいえ、こんな事になってしまうとは。これが一夜の過ちって事なのか。


「あっ、このベッドかわいい」


 今、俺達がいるのは家具屋である。トレーシーの使うベッドを探しに、二人で来ているのだ。

 セドナには留守番を頼んでいる。まぁ来客も無いとは思うが、わざわざ三人で来る程の用事ではないしな。


「どのくらいの大きさがいいかなぁ?」


「まぁ別に二人用のなんて買う必要は無いし、自分が気持ち良く寝られる大きさならいいんじゃないか? 何かその辺にこだわりはあるのか?」


「うーん、特に無いかなぁ……」


 俺としては彼女がダブルサイズを買って、セドナを引き取って貰えると伸び伸びと寝られて助かるのはあるのだが。一応寝室は、ダブルを置いても余裕はあるくらいのサイズはあるし。


「……しかし、本当にいいのか?」


「もうっ、それ何度目? 私だって色々考えたんだからね。その上でお願いしたんだから」


 だってさぁ。

 と言うか、覚悟が出来てないのは俺の方だな。家族以外の女性と同じ家に住むなんて経験した事がないし、どうすればいいのか正直わからない。

 我ながらキョドってんなぁ……。


「ねぇ、セドナちゃんはいつもどうしてるの?」


「前にもちょっと言ったかも知れないけど、あいつは俺がどこで寝ててもこっちに潜り込んでくるんだよ。最初はセドナにベッドで寝るように言ったんだけどな。だからもう諦めて、俺がベッドで寝てる。そうすれば、あいつもベッドで寝てくれるからな」


「まぁ私はマサユキを知ってるからいいんだけど、他人から見たらちょっとアレよね……」


「そうなんだよ。前にトレーシーが泊まっていった時があるだろ? その時はトレーシーに引っ付いてたから、別に俺じゃなくても良いんだと思う」


「そうねぇ。そしたら、ちょっと大きめの物にしようかな?」


「そうしてくれるなら、俺も助かるよ。こっちの問題でもあるから、俺も半分出してもいいしさ」


「それは魅力的な話ね。……よし、そうしよう!」


 そうして彼女は、ダブルサイズより少し小さいくらいのベッドを購入した。お値段は小銀貨八枚。予算の関係で見た目はシンプルだが、普段使いするならそういう物の方が楽だったりするし。普段使いしないベッドってなんだよって話だが。


 当然抱えて持って帰るなんて事は出来ないのだが、ここへ来る前にシャルから魔法のバッグを借りてきていた。ワイルドボアが入るのだから、当然のようにするりとベッドはバッグの中に入っていった。

 しかし、二人でバッグを借りに行った時のシャルのニヤけ顔が実に……。

 面倒だから何も突っ込まなかったが。


 他にも宿暮らしをしていたトレーシーの生活用品を買ったりしていたら、あっと言う間に昼になってしまった。

 相談した結果、そのまま外で昼食を取ることに。ギルドの近くでは出店が出ている事が多く、元が王城だった事もあり広場が隣接している。それぞれ思い思いの物を買ってきて、広場内の芝生の上で食べた。


 なんだかちょっとしたピクニックな気分だ。

 そう言えばこちらへ来てからというものずっと何かしらの予定で動き詰めだったから、こういうのんびりとした時間が久しぶりに思える。

 ……釣りはしていたけど、そんなにのんびりな時間では無いので除外する。


「なんだか遠くを見ちゃって、どうしたの?」


「いや、ここに来てから色々あったなとつい耽ってしまってさ」


「ここに来てからって事は、パーシフォームで生まれたんじゃないんだね。マサユキって元々は何処に住んでたの?」


「そうだな……それなりに都会で暮らしてはいたけど、あの頃は色々と疲れちゃってたな。別に故郷を捨てた訳じゃないし、戻りたいと思う気持ちもまだ無くはないんだけど」


「家族は?」


「うーん、元気にしてるとは思うよ。ちょっとすぐに会えるって距離じゃないから、心配はしてると思う」


 次元と言うか、世界そのものが違うからなぁ。

 戻りたいと思う気持ちが無いと言えば嘘になる。でも、今はこっちの世界を知りたいという好奇心の方が強い。


「トレーシーはここの生まれなのか?」


「ううん、違うよ。私はここから東にある外れの村で生まれたの」


「それがどうして冒険者に?」


「……生活魔法って知ってるよね?」


 一応聞いた事はある。

 この世界では多くの人が魔法を使える。が、その殆どは生活魔法と言う物が使える程度だ。

 火を起こす、水を出す、そよ風を吹かせる、土を耕す。そんなささやかな魔法を使って暮らしている。

 しかし、それが一般的な市民階級である三等市民の資格にもなるのだ。


 その枠より上のレベルの魔法が使えるかどうかは才能であるらしい。


「生活魔法が使える人は、その効果が弱い代わりに複数の属性が扱えたりするの。私は風しか使えなかったんだけど、それが生活魔法の枠を少し出た強さだったんだ。この国は魔法教育に力を入れててね、才能があれば無料で王立の魔法大学に通う事が出来るの」


「なるほど、それで魔法を学びに来たって訳か」


「本当に、ギリギリで合格滑り込みってレベルだったんだけどね。だから学生である間は、魔法について沢山学んで沢山試してみたんだ。結局は、他の属性の適性が無いって事がよく分かっただけだったけど」


 そう言って、恥ずかしそうに笑うトレーシー。


「もう今は冒険者をやってるんだから、学校は卒業したんだよな? 実家に戻ろうとは思わなかったのか?」


「うん……、ちょっとね。五年前くらいだったかな、村で疫病が流行ったって話を耳にして帰ったんだけど」


 残念ながら、村の半数が亡くなったらしい。その中にはトレーシーの両親も含まれていた。

 そうして帰る場所が無くなった彼女は、ラテオラに留まって冒険者を始めたという事だった。


「嫌な話をさせちゃってごめんな、話してくれてありがとう」


「ううん、いいの。いつかは話さなきゃなって思ってたし」


 俺より一回りも年下なのに、苦労してるんだな。俺の話もしてあげたい所だが、余計な事を知らしてこっちの事情に巻き込みたくは無いと思っている。

 今の所は王宮側からの干渉なんて無いんだが、喚ばれた理由が理由なので、いつかは大きな流れに俺も巻き込まれるかも知れない。


 そうなった時に、俺はどんな判断が出来るのだろうか。


 ま、今からそんな事を考えたって仕方が無い。まずはちゃんと食っていける事が大事だ。その為にも、買い物を終わらせなきゃな。


「よし、それじゃ残りの用事もやっつけてしまおうか!」


「……うん、そうだね!」


 俺は先に立ち上がって、彼女へと手を差し伸べた。






 午後も買い物を済ませながら、色々とトレーシーに聞いてみた。


 今の俺がとにかく欲しいのは、この世界の知識である。主な入手手段は雑談からだが、出来ればしっかりとした本を読んでみたい。

 そんな話をしたら、トレーシーが母校へ連れて行ってくれる事になった。王立図書館が大学の敷地内にあり、卒業生はいつでも利用が可能であるとの事。同行者も同様に利用出来るらしい。


 なので、俺達は新市街の西側にある王立魔法大学へと向かった。


 ギルドから中央通りを北へ向かい、橋を渡るとそこには新市街地が広がっている。

 そこから西に向かって進むと、これまた立派な建物があった。その大きさだけなら旧王宮であるギルド付近に引けを取らないし、なんなら敷地面積はもっとあるかも知れない。


「ちょっと懐かしいわ……」


「凄いな、イザークってこんな所の学長をやってたのか……」


 トレーシーの後をついていく。正門で身元の確認を済ませ、メインキャンパスの横にある建物へと彼女は入っていった。

 ドアを開けると、そこには本棚が所狭しと並んでいた。確かに図書館という雰囲気の場所だ。あまり光が入らないような造りになっているのは、劣化を防ぐ為なんだろうか。


「私もマサユキも貸出はしてもらえないけど、ここで読む分には閉館時間までは自由よ」


「助かるなぁ。トレーシーは何か目当ての物はあるのか?」


「魔法書でも探してみようかな?」


「わかった。それじゃ本を持ってきて、中央のそこの机で読もうか」


 一旦別れて、本を物色する。

 とりあえず手近な物を手にとってペラペラと捲ってみる。やはり文字もしっかり読めるな。

 言葉が通じていたし、街の看板とかも読めていたから別にわかってる事ではあるのだが、こういうチート能力なら大歓迎だ。

 なになに、これは【魔法学基礎概論】か。とりあえず持っていくか。

 文化面の物、歴史書、宗教学、これではいくら時間があっても足りないな……。


 目に付く物を一通り持ち、机に積み重ねる。まずは、魔法学の本から読んでみようかな。


 読み進めると、これまでイザークやトレーシーに聞いた内容をより詳しく書いてある感じだった。氷魔法については……特に触れられていない。やはり四属性が基本であり、それ以外についての知識は無かった。


 文化面について書かれた本や歴史書を調べると、このパーシフォームは魔法で発展した国だと言う事がわかった。

 南側に海が接している為、そこを起点にして流通が発展。それを支える為にも魔法の存在が重要だったのだろう。

 魔法使いと言えば学者的な存在という印象がどうしてもあるが、この国においては船員としての需要が高い。卒業後の進路としてもそちらがメジャーであるようだ。

 船を魔物から守る為に、複数人で各属性の魔法障壁を作るのがその仕事内容になる。


 宗教学、これについては女神教という物の存在は聞いていたものの、どういう物であるのかはわからなかったので初耳な情報だらけだ。

 てっきりガチガチな宗教かと思っていたが、思ったより市民側の受け入れ方は世俗的だ。各マナを司る女神様がいるという共通認識はあるようだが、感覚的には俺達現代人の考える八百万の神に近いのかも知れない。

 ただしこの宗教はこの世界全体に広まっているので、ある意味では国を越える影響力がある。


 ずっと不思議だったのだ、王の横に居るのが何故【神官長】だったのか、が。

 神官長と言うのはあくまでも数多く居る神官達の長なので、言うなれば中間管理職ポジションだ。その上にも当然役職があり、司祭、司教となる。会社で言う役員クラスと言うところか。そして、それらの一番上にいるのが大司教だ。

 各国へは神官長クラス以下が派遣されており、つまりどの国も女神教の影響下にあるという事だろう。司祭以上の役職になると、その本部であるマナ神殿内での執務となるらしい。


 あれ? オドの女神様の扱いが雑じゃない?

 そう思って読み進めると、女神教的には各女神の立場は【マナの女神>各属性の女神>オドの女神】となるらしい。実際の機序とは逆に思えてしまうが、教義としてはそういう物なんだとか。

 呪文の内容から考えるに、我々(オド)のお願いを聞いて各属性のマナを魔法として顕現させてあげている、という事なのだろうか。


 しかし、魔法学は学問としてマナやオドを捉えているのに対して、女神教は女神への信仰が主になるので、所々に見解の相違が見られるのが面白い。

 特に女神についての捉え方は真逆だ。

 魔法学側はあくまでも術者のイメージを手助けする為の架空の物であるという認識をしているのに対して、女神教側は『普遍的に存在するのが当たり前なので敬うように』という捉え方をしている。

 女神の立場に対しても同様だ。魔法学ではまずオドがありきで、それをどうやって各マナへ影響させるかという考え方をしている。一方の女神教は、女神こそが至高の存在なので魔法学とは立場が真逆だ。


 この二つ、仲が悪いとかあったりするのかな……。

 個人的には、魔法学側の考え方の方が理論立っているので受け入れやすいな。


 しかし、氷属性について分からないのは痛い。ルビアに直接関わる事でもあるから、何かしらヒントが欲しい。

 一度席を立って、返却ついでに他の本を物色してみる。


 そうしたら、トレーシーが本を戻しに来た。


「なぁ、四属性以外についての魔法って何か知ってるか?」


「この大学でやるのは四属性のみだったわね。古代魔法論って授業で、なんか今では失われた魔法があるって話を聞いた覚えは……あったかなぁ、忘れちゃった」


 失われた魔法、か。現代に伝わっていない魔法もあったりするのかな。


「付与術って、言ってみればオドのみで発現する魔法だよな? なんかその辺からヒントがあったりしないのかな」


「そうしたら、錬金術師に聞くのがいいかもね」


「そこで、なんで錬金術師が出て来るんだ?」


「錬金術って素材にする物の掛け合わせで色々な物を作る技術なんだけど、魔法的側面もあるのよ。調合して終わりって訳じゃなくて、そこからオドによる調整作業があるの。オドが影響する先が、マナではなく物になるって感じかな。付与術だって、錬金術師の技術なのよ?」


 なんと、それは初耳だった。

 それじゃ時間が出来たら白狼に会いに行くついでに、マルクに聞いてみるか。


 そんな所で図書館での調べ物は終わりになり、ついでに夕飯の買い物をしてから俺達は帰宅した。


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