表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/47

28話 欲求と錬金術師


 今日も朝がやってきた。

 そろそろ朝マヅメの海の調査とかもしたいとは思っているのだが、俺のベッドに居座る一人と一匹のせいでなかなか足が進まない。暖かくて気持ちがいいので、どうしても眠気を誘われてしまう。

 新型リールが完成したら、朝の釣りを始める事としよう。


 っと、そんな事をしていたら仕事に遅刻してしまうので、気合を入れて起床。

 寝てる連中はそのままにしておこう。今日も仲良く過ごしてくれよな。






 午前はいつも通りの店番だが、昨日アルフレッドに依頼した改造内容の話をイザークにすると、とても興奮していた。


 そのついでにこの店番の時間を利用してルアー製作をしたい旨を伝えたら、快諾してくれた。小物類も工具も勝手に使って良いという大盤振る舞いだ。

 と言う訳で、廃材置場から探してきた木の棒をナイフでガリガリと削って過ごした。目指す物はペンシルベイトだ。


 ペンシルベイトはシンプルなルアーで、竿先を動かす事でルアーが左右に首を振る動きをする。物によっては、竿を煽る事で水面直下を泳いだりもする。

 基本的には放っておいても水面に浮かび、中に仕込むオモリの大きさで浮かぶ角度が変わる仕組みだ。これがルアーの動き方に影響するのだが、意外と何も入れなくても良い動きが出たりするのだ。フックの重量と自身の形状だけでもそれなりの物になる可能性があるので、手始めに作るにはもってこいだろう。


 そうして、とにかく潜水艦みたいな形に木を削り出して形を整えている内に、イザーク達が帰ってきてしまった。

 続きはまた明日やるとしよう。


 ちなみに、最初の話では店番の給料を貰えるという事ではあったのだが、今はこちらからお願いしてナシにしてもらっている。

 冒険者側での収入があるのと、給料の代わりに色々と道具作り面での都合をしてもらっているし、そもそも客が来ないのでそれで賃金を貰ってもこちらが申し訳無く感じてしまうからだ。


 金の発生しない仕事に責任感は生まれないと言うが、それも時と場合によるだろう。現物支給があるなら、それも充分な報酬になるのだし。






 店番の後はアルフレッドの店へと向かい、新型リールを受け取った。

 こちらの要望は完璧に再現されており、文句の付けようが無かった。これが量産出来るのなら、彼の取り分が少しでも多くなる様にイザークへ言うべきだな。

 空回ししてみる。ギアの質感は流石に現代リールより数段落ちるが、釣りにならない程の物でも無いな。ちゃんとレベルワインダーも稼働する。

 今回は手持ちのリールを改造したので、巻いてある糸はそのままだ。

 すぐにでも試したい衝動に駆られるが、今日は別件があるから我慢しなくてはいけない。


 これは滅茶苦茶辛い。

 だが、仕事をしなければ食っていく事は出来ない。異世界に来た所で、このしがらみからは逃れられないようだ。






 さて、悶々とした物を抱えながら帰宅してセドナと昼食を取る。その内にトレーシーもやってきたので、足にしがみついてるルビアを肩に乗っけてから、ギルドへと向かった。


 ああ、釣りがしてえなぁ。

 そういえば旧市街地と新市街地を隔てる川では、全然釣りをした事は無いんだよな。一応、隣接するその地下水路ではやったけども。

 しっかり狙ったら何が出るんだろうか、気になる……。


「……セドナちゃん、さっきからマサユキがブツブツ言ってるけど何かあったの?」


「わかんないにゃ。帰ってきてからずっとこんな感じにゃよ?」


「そう……」


 なんでもいいから水辺に立ちたいなぁ。






 ギルドへ到着。そしてフリット達と合流した。

 なんだか久し振りに二人に会った気がする。会わなかったのはたった数日なのにな。


「集まったか、それでは今回の依頼の説明をする。今回の依頼主はマルク・エギア氏……なのだが、俺も依頼内容については殆ど聞かされていない。ひとまずは彼の工房へと行き、聞き取りを行なう事になる」


 錬金術師なんだっけ。接着剤とか塗料とか、何か役に立つ物の話が聞けたらいいな。


「それってどこにあるの?」


「ラテオラを西に出てから分かれ道を北に行った所に湖があるのだが、そこから少し更に北に行った所だそうだ」


「あ、じゃああの三日月湖の近くなんだね」


「知っているなら話は早いな。徒歩での移動になるので、今日は話を聞くだけになるだろう。それと、最近あの近辺で白い獣が目撃されているらしい。魔法を使ってくるので、魔獣ではないかと言われてる。各自、警戒を……」


「ああ、それは多分大丈夫だ。俺の知り合いなのでね、もし出会ったら俺が話をつけるよ」


 フリットとシャルは「何を言っているんだ?」という顔をしているが、事実なので仕方が無いだろ。

 トレーシーもそれに話を合わせてくれたので、訝しがりながらも二人は分かってくれたようだった。


「では、出発だ」






 俺とセドナにとっては、歩き慣れたキツケ草採集のルートを進むだけの道中だった。トレーシーも何度か付き合ってくれているので、鼻歌交じりで歩いている。


 一方でフリットとシャルは、前衛という事もあるのか警戒しながら進んでいる。

 以前はこの道中で獣と出くわす事もあったが、セドナと俺でも倒せる程度であったので、今なら過剰な程の戦力だ。

 一応俺も周囲を気にしながら歩いてはいるが、どちらかというとルビアの母親に出会って変な誤解を生まない為だな。


「そう言えば、かわいい子犬ちゃんですねえ。どうしたのですか?」


「二人には紹介がまだだったな、この子はルビア。俺の所に居候しているわんこだ」


「わんっ!」


 よろしくね、と言っているのだが当然二人には伝わってないようだった。


「鼻が利くから、採集依頼だと強い味方だよ」


 小さい毛玉が、俺の肩の上でドヤ顔をしている。


「まぁ、みんなの邪魔にならないように気を付けておくよ」


『じゃまって、ひどくない!?』


「だってルビアはまだ戦えないだろ?」


『そりゃママほどじゃないけど、ぼくだってこおりをだせるよ!』


「えっ、そうなの?」


 知らなかった。どこまであの氷魔法(?)が使えるのかは調べておかないといけないかもなぁ。


「……何か、会話していません?」


「あっ、うん。マサユキとだけ……ね」


「それは魔法か何かなのか?」


「うーん……、私にもよくわからないのよね。とりあえず、意思疎通が出来るみたいなの。後、私達の言葉を聞くだけなら出来るみたい。ちゃんと理解してる賢い子よ」


「ルビアはまだまだひよっこにゃ。わたしの方が強いのにゃ!」


 それに可愛い唸り声で対抗するルビア。何を張り合ってるんだ。


「ほら、喧嘩するなって。あ、三日月湖が見えてきたぞ。フリット、この先はどっちへ行くんだ?」


「すぐに三叉路があるので、それを更に北へ行く」


 フリットの言葉通りに道を曲がって更に暫く進むと、道の脇に立派な門と大きな屋敷が立っていた。


 この世界においての家の格というのはよくわからないのだが、造りは新市街地にある貴族の邸宅で見るようなしっかりとした物だ。

 石塀で囲まれた中に、母屋らしい建物とその横に少しこじんまりとした建物がある。工房とかなのだろうか。


「ここがエギア氏の家だ」


 フリットは門を開けて中に入り、母屋らしい建物のドアをノックした。

 暫くしてドアが開き、使用人らしき年配の方が応対をしてくれた。


「初めまして。本日お約束をしているウィンドブローのリーダー、フリットと申します」


「御主人様よりお話は伺っております。応接間にて、少々お待ち頂けますでしょうか」


 中に通された俺達は、そこで借りてきた猫のように待った。応接間にはいくつか調度品があり、特に知識のない俺でもその質の高さは見て取れた。

 どうやら、結構儲かってそうですなぁ。


「……お行儀よくしててくれよな」


『はーい』


 こういう時、セドナは普段と違う表情を見せる。やはり王宮で働いていただけあるのか、俺の少し後ろで微動だにしなかった。

 色々と教育を受けたんだろうな。寝相の教育も受けててくれれば良かったんだが。


「ふぅ、すみません。お待たせ致しました」


 そう言って、眼鏡を掛けた銀髪の男性が姿を現した。身なりも整っており、身分の高さが伺える。

 歳は俺と同じくらいだろうか、もう少し上かな?


「マルク・エギアと申します。今回は依頼を受けて頂き、有難う御座います」


「ウィンドブロー代表の、フリットです。宜しくお願いします。早速ですが、今回の依頼についてお話をお聞かせ頂ければと思います」


 どうぞ、と促されたので全員椅子に座った。が、セドナだけは俺の後ろに控えて立っていた。


「私の家は代々錬金術師の家系でして、今は私が家督を継いでおります。技術としては水薬を主に扱っておりまして……と、その辺は既にご存知でしょうかね?」


「はい。たまにですが、その水薬にはお世話になったりもしています」


 俺は特にご存知無いです。新参なものでして……。

 でも、水薬のお世話にはなったな。


「であれば、水薬の価格について何か思う所はありませんか?」


 そう切り出すマルク氏。


「……失礼を承知で申し上げるのでしたら、その価格故になかなか手が出せない代物でもありますね」


「そうでしょうね……。私もその問題点は認識しており、なんとかこちらでも改良を重ねているのですが、なかなか解決策が浮かばない物でして」


「値段が上がってしまう原因をお聞きしても?」


「私の所では、基本的にギルドへ依頼を出して素材収集をしています。それを助手達と水薬へ加工し、市場に卸すという形を取っています。しかし原料となる野草の品質にバラつきが多いのです。ギルドへの依頼料がそのまま原材料費となりますが、質の高い物は少し割高でも結果的には効果の高い水薬になるので、優先的に買い取らせて貰っています」


 ふむふむ。納品する方としてもありがたい話ですわ。


「ところで最近、ギルド経由でとても品質の高い常緑草とキツケ草が入手出来るようになってきましてね。特にあの常緑草は素晴らしい物でした。あの不運なエクカバ車事故の被害者達が助かったのも、あの素材があっての事です。もし、これらが安定して入荷出来るのならば、より多くの方に水薬が行き届くのではないかと思うのです」


 ほー、そいつは良かった。


「そしてそれらを採集してきた方の名前を伺ったら、貴方がたであったという訳です」


 でしょうねぇ……、身に覚えのある話ばかりです。


「では、今回の依頼は常緑草の採集ですか?」


「いえいえ、それをやってしまうと直接契約になってしまうので、ギルドへ不義理をしてしまいます。それは私共としても仕入れルートが減ってしまうので、出来ません」


 そうなるよなぁ。そんな事をしたらギルドがブチ切れるかもしれないよ。


「今回お願いしたいのは、あの良質な常緑草の採集方法を教えて頂きたいのです。勿論、私だけでそれを独占するつもりはありません。出来ればギルド内で知識を共有してもらえれば、冒険者の方にも損はないと思います。また、水薬が安くなれば、正直に言うと私は損をします。しかし、それより多くの方に水薬が行き届くのを優先したいのです」


 やばい。今すぐにでもここから抜け出したい。

 この人は間違いなく善良な人だ。家の立派さから考えて、もしかしなくても貴族なのかも知れない。これがノブリス・オブリージュって奴だろうか。


「申し訳ありません。実は、私達にもよく分かっていないのです。あの時はギルドからの直接指名があり、こちらのマサユキさんの指示の元で作業をしていました。しかし、特に判別法を知っている訳ではなくてですね……」


 この場の全員の視線が俺に集まる。

 針の筵ってこの事なのか、変な汗が出てきた。


 まず、俺自身ですら何故品質が高いのかを理解していない。

 俺がやってたのは、単に自分が感知出来るオドを発している物を集めていただけだ。それを納品したら「質が良い!」と褒められて追加報酬も貰えたので「オドが出てりゃ良い物なんだな」と考えて、それを続けていただけだ。

 一応はその仮説の上で動いて結果が出ていたから、その仮説は正しいとは思ってはいるが……。


 何より、この行為は属人的すぎるのだ。

 そもそもオドを見れる人間というのが俺以外に居ないみたいだから、そのやり方を広めたいと言われてもどうする事も出来ない。


 また、商売において独占と言うのは大事な事だ。他人より優れている技術を、そうホイホイと渡すと思っているのだろうか?

 人としては立派だとは思うが、流石に商売は下手だと言わざるを得ない。


 困ったぞ、どう返せば良いんだ。

 俺の秘密をバラすリスクを取っても、単にバレるだけで得る物が何も無い。むしろ転移者なんて余計な話までしなきゃならなくなるし、下手したら「一生草を取る仕事に従事」なんて事になりかねん!

 そんなん草生えるわ。


『ごしゅじん! ごしゅじん!』


 なんだよルビア、今はそれどころじゃ……。


『ぼくね、においでわかるよ?』


「なんだって!?」


 つい、ルビアを抱き上げて大声を出してしまった。

 更に俺への視線が力を帯びてしまった。


「あっ、スミマセン……」


 小声でルビアに聞いてみる。


(どういうことなのルビアちゃん!?)


『きのう、くさとりしてたでしょ? ごしゅじんのとったくさと、おなじにおいのものをえらんでたよ』


(それって、同じ形の草でも違う匂いがするのか?)


『そうだよ』


 ふむ……。


「……マサユキ、大丈夫?」


 トレーシーがこちらを心配そうに見てくる。


「……大変失礼を致しました。マルクさんのお話には大変共感が出来ますし、その崇高なご意思にも心を動かされました」


「それでは……!!」


「確かに私は、一見して見分けの付かない物を見分ける術を持っています。しかしこれは【先祖代々我が家に伝わる門外不出の秘伝の究極奥義】であるのです。おいそれと他者にお教えする事は出来ないのです」


 と、適当な事を言ってみる。


「そ、そうなのですか……」


 俺のその言葉に、明らかにがくりと肩を落とすマルク。


「しかし、マルクさんのお手伝いであれば出来るかも知れません」


 そう言って、抱えていたルビアを机の上に座らせた。


「わふ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ