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21話 依頼とナマズ

 午後、セドナとギルドへ入るとウィンドブローの面々が既に集まっていた。

 挨拶を交わし、話の輪に入る。


「みんな。改めて、これから宜しくお願いします」


「こちらこそ、頼りにしている。宜しく頼む」


「よろしくね、マサユキ! セドナちゃん!」


「はいにゃ!」


「よろしくお願いします。マサユキさん、セドナさん。ところでトレーシーちゃん?」


「はい?」


「なんか……マサユキさんと距離感が近くなってないですか?」


「え、いやっ、気のせいよ!? 気のせい!!」


 まぁ、親しくなったのは間違いないとは思うが……。シャルはこっちにも疑いの目を向けてきていた。


 あ、やべえ。

 別に俺は恋愛感情がある訳では無いが、こういうのってサークルクラッシュの原因になりかねんな。気を付けておこう。

 いざとなったら、セドナをダシに使わせてもらうか。毎晩一緒に寝ている仲だと言えば、勝手に勘違いしてくれるだろう。

 別に、嘘は言ってないしな。


「確認なんだが、リーダーはフリットでいいんだよな?」


「ああ、そうだ」


「わかった、指示にはちゃんと従うよ」


「リーダーとは言っても、それらしい振る舞いをする場面は戦闘時くらいだろう。何かしらの決め事は、全員で話し合うのが通例だ」


「なるほど。それで、今日は何をするんだ?」


「今回は普段通り、これから受ける依頼の選別からだ。半日しかないから、手頃にこなせる物を見付けたい」


 依頼掲示板に目を向けると、今日もキツケ草採集の依頼がいつも通りの場所に貼ってあった。決まら無さそうだったらこれでも提案するか。

 それから少しの間、各自で気になった依頼をチョイスして話し合った。


「では、本日は……」


 そうして決まった依頼は【下水道に繁殖するスライムの間引き】だった。


 ラテオラ市街地には水路が張り巡らされており、そこにはスライムという魔物がいる。

 街中の地下とはいえ魔物がいるのか、と驚いた。しかし、魔物と言っても大人しい部類であり、それらは専用に用意された区画で飼われているようなものらしい。

 街からの生活排水は彼らの所へ行き、餌となる。その過程で水が浄化され、海へと流されるという仕組みである。しかし放って置くと増え過ぎて市民の生活に悪影響が出て来るので、それを間引きする依頼が出るとの事だ。

 また、有害物質を取り込み過ぎて変異したスライムも駆除対象となる。こちらは見付け次第、倒さなければいけないとの事。


 スライムと言って俺に想像出来るのは、プニプニだったりグチョグチョだだったりするようなアレなのだが、皆は何回かやった事があるらしく、グチョグチョしている方だとの事。


 この依頼は主にトレーシーが活躍するという事なので、俺がウィンドブローに入った事による効果を測るにも丁度いいのだろう。


 受付のユニさんに早速依頼受諾を伝え、水路の鍵を預かる。討伐数の目安は五十体程らしい。結構な数だな……。


「今回は普段より少し数が多いかもしれません。ここ最近は受けてくれる方が少なかったものでして……」


 ユニさんがそんな事を言っていた。






 地下水路は旧市街地には整備されておらず、新市街地のみとなる。

 入口はラテオラの中央を走るレイジ川の西側になり、出口は東側になっている。川の流れを取り込んで新市街地各所を巡りつつ、浄化用プールにいるスライム達で浄化を行なうというシステムらしい。

 目的地は浄化用プールなので、東側出口から進入すればすぐに行けるとの事。


 現地に着いたので鉄柵を借りた鍵で開け、中を進んでいく。明かりが無い為、松明を持たなければならない。

 水路は両脇に歩けるスペースがあるが、水面との距離は近いので水位が高くなれば水没しそうだ。


「スライムってどんな生物なんだ?」


「どんなと言われても……知能は殆ど無くて、近くにある物を手当たり次第に体内に取り込むの。動きは遅いけど、身体を変形させてこちらに飛び込んでくる事もあるわよ」


 よくある話だと、スライムの体内にある核を潰さないと倒し難いとかあるけど……。


「スライムと言うのは不定形生物ではあるのですけど、それは小さな生き物が集まって成り立っているのです。なので倒し方としては物理攻撃はあまり意味が無く、魔法で跡形も無く消し飛ばすのが一番なんです。その中でも一番良いのは、熱による攻撃ですね」


 成る程、群体なのか。それじゃ、セドナとトレーシーに頑張ってもらうしか無いんだな。

 それを考慮してか、今回の隊列はセドナとトレーシーが前衛で、すぐ後ろに俺が配置されている。これは魔法強化を見込んでの事だ。そしてシャルとフリットが後方にいる。


 レンガと切り出した石で造られた水路を進んでいくと、まだあまり歩いていないにも関わらずスライムに出会った。

 天井にへばりついているようだ。そんな器用な事も出来るのか。


「セドナちゃん、炎爪を維持出来る?」


「わかったにゃ、炎爪!」


 セドナの手がメラメラと燃えている。このまま斬りかかればいつもの炎爪になるが、何か考えがあるらしい。


「風の女神よ、風塊をもって……彼の者を、吹き飛ばせ!」


 セドナの手の周りの空気が渦を巻き、トレーシーはその風の塊を大きく維持した。そして、少し経ってからそれをスライムへとぶつける。

 陰圧でだろうか、風塊の中にスライムが吸い込まれて暫く揉みくちゃにされていた。そして風が無くなると同時に、スライムも消えてしまっていた。


「うん、成功! やっぱり別属性の使用者がいると応用が出来て面白い! マサユキもありがとね」


 ちなみに俺はこっそり、自分のオドを拡散させていた。理由さえ分かれば、自らのオド消費量と実際の効果の差で、俺が手を出したのかどうか判別が出来るようだ。


「うん、これはなかなか悪くないな」


「スライムを一発ですか。私達で一箇所に誘導したら、もっと効率が良くなるかも知れませんね」


 フリットとシャルにも好感触だったようだ。

 今のはさしづめ、炎爪で変質したマナを更に風で包み、巻き込んだ相手を蒸し焼きにしたような感じだろうか。


「よし、このまま進んでいこう」


 さて、この暗い水路にはどんな魚が住んでいるのだろうか。折角移動するのだから、イザークに貰った片軸受けリールを使ってスプーンをテクトロしてみる。

 暗がりはフィッシュイーターにとっては身を隠すのに絶好の場所ではあるが、全体が暗いとそれはそれで具合が良くない。あくまでも明暗の対比が大事なのだ。


「ねぇマサユキ、歩くのちょっと遅くない……って、何やってるの?」


「あ、いや。ちょっと釣りをな……」


「真面目にやんなさいよっ!?」


「なにをっ! 俺はこうやってちゃんと真面目に釣りを、うおっ来た!」


「えっ、なんなんですか!?」

「何があった!?」


 やばいめっちゃ引く! 引くけど、走るんじゃなくて暴れまわる感じだ。こいつはもしかして、あいつなんじゃないか!?

 ドラグすら無いので、なんとか竿のしなりを利用してやり取りをするしかない。少し太めの糸を選んだのは正解だった。

 薄暗い松明の明かりの中、水面に魚体が見えてきた。


「セドナ、捕れるか?」


「やってみるにゃ、うにゃっ!!」


 彼女は伸ばした爪で魚体を引っ掛けるようにしてランディングしてくれた。まるでギャフみたいだ。鉤爪状の武器も、リリースを考えなければ使う場面があるもんだな。


「ひえっ、なにこいつ……」


 ヌルリとした魚体に立派な口とヒゲ、こりゃナマズさんじゃないか。なるほど、昼間にはこんな所に隠れているんだな。

 サイズは三十センチぐらい、思ったよりは大きくなかった。これならぶっこ抜いても良かったかも知れない。


「マサユキさん、何をしてるんですか……」

「魚、か……?」


 やばい、二人の視線が冷たい。流石に空気を読めてなかったか……。


「そうだ、これは俺の国ではナマズと言われる魚でな。魚食性の強い魚なんだが、一説にはこいつが暴れると地震が起きると言われているのだ!」


 言われてるだけだけどな。


「えっ、そんなにヤバい魚なんですか!?」

「まさか、そんな物がこの地下水路に……」


 おっ、いけるのか? シャルとフリットはもしかして案外チョロいのか?


「まさか、地属性の魔物なの……?」


 おっと、トレーシーも釣れてきた。


「こいつはまだ小さいが、大きくなればそうなる可能性もあるだろうな」


 あるかな? ないかも。ないだろ、多分。

 そしてセドナはもう、ナマズを食べる事しか考えてない顔になっている。


「そんな危険な物がここに住み着いているのなら、繁殖しているのかもしれない。早急に手を打った方がいいだろうか……」


 そこまではしなくても良いと思うよ、フリットくん。


「こういうフィッシュイーターは、なかなか大きな物には出会えない。オドを持つようなサイズとなれば尚更だ。そこまでは心配しなくても良いと思う。継続して調査をしておけばそれでいいだろう、俺が時間のある時にやっておくよ」


「わかりました、ではお任せします」


 よし、乗り切ったか。


 釣ったナマズはシャルが持つ魔法の収納バッグに入れされてもらった。そういえば、これはどういう仕組みなんだろうな。

 再びプールへ向かって歩き始めた時に、トレーシーに聞いてみた。


「私も詳しくは知らないんだけど、私達の使う魔法とは少し仕組みが違うらしいの」


「と言うと?」


「私達が魔法というのは、マナとオドを使ったものでしょ? でもこれは持ち主のオドは使うけれど、マナは使わないのよ」


「マナを使わない?」


「そう。マナを使う魔法は属性魔法とも言われていて、一般的に魔法と言えばそれを指すの。で、この収納バッグみたいな道具には魔法陣が刻まれていて、それがオドを変換して色々な効果を生み出すのよ」


 ふぅむ。オドを利用するにしても、色々な技術があるんだな。

 しかし見た目より容量のある収納バッグは、どんな効果の魔法陣で実現しているのだろうか。

 まさか空間圧縮とかしているのだろうか。それが出来るなら、使い方を変えれば光速だって超えられそうだ。


「これは【付与術】って言われる物で、一般的に手に入る物だと携帯型の暖房器具とか、逆に冷やしたりするやつとかかな。魔法が使えない人向けの物ね」


「でもこのバッグは誰にでも有用な物だろ? オドは誰にでもあるのだし、その消費も見てる限りだと活動に支障が無い程度の物だ」


「だから需要が高いのと、必要な製作技術が高いのとで、市場価格がとても高いの。私達は結成してから一年掛けて銀級になったんだけど、必要経費以外の稼ぎを全部注ぎ込んでやっとこれを買えたのよ」


 凄いな、それは努力の賜物だ。そんな物を新参の俺が使わせてもらっちゃうのは、流石に気が引けてしまうな。


「みんな、頑張ったんだな……」


「まぁ、あって絶対に損はしないからね。他の冒険者も大抵はまず、これを買うのを目標にするのよ」


 確かにパーティに一個あるのと無いのじゃ、出来る事の差が大きく出そうだ。


 ちなみにウィンドブローの持つバッグはこれでも低級品らしく、容量の制限があるとの事。こないだのボアであれば、二匹分がなんとか入るかどうかという所らしい。

 それでも滅茶苦茶入るな……。


「ちなみに、他にもオドを使う技術って言うのはあるのか?」


「各個人のオドの性質って言うのは、生まれながらの素養が強いの。私は風属性のマナへの干渉に適性があったから魔法使いの道を選んだけど、そうでない人は自分自身に影響する性質がある人が多いわ。そうねぇ……、例えば身体能力の強化。これはフリットもシャルも使えるわね」


「でも使っている所なんて、こないだは見なかったぞ?」


「マサユキが気絶した後は使ってたわ。あんまりおいそれとは使えないのよ、どうしてもオドの消費量が大きくなるからね。使えても一日に数回って所じゃないかな」


 ……俺が学ぶべきはこっちなのかもしれないな。

 とはいえ、これも感覚が全てな気がする。外に見えない分、むしろ属性魔法より技術としては分かり辛いかもしれない。


「……だから、オドの性質とはその人自身の性質である。なんて、事を言う人もいるわね」


 それはなかなか乱暴な物言いに思える。

 オドの量とか、性質とか、生まれてくる時に何が影響して決まるのかは知らないが、そんな物で人間の在り方が決まるなんて事はおかしい。

 人が成長していく中で一番大きな影響を与えるのは、環境だ。


「俺な、トレーシーがこの間言っていた言葉が引っ掛かってたんだ。魔法は人を傷付ける事しか出来ない技術だ、ってやつ。でも、やっぱり使い方次第だと思う。確かに属性魔法はそういう技術なのかもしれないけど、それだって使い方次第なのは君が実演してくれた」


「うん……」


「勿論、自己強化だって戦闘に使えば傷付ける事になるだろう。けど、それを力仕事に使ったなら、それは傷付ける為の使い方じゃないだろ?」


 道具なんてものは、使い方が全てだ。

 物自体に意志は無いし、そこに意志を与えるのは使用者自身である。


「あのね、マサユキ……私……」


 トレーシーが何かを言い掛けた時、フリットから指示が飛んできた。


「浄化用プールだ。各自、戦闘態勢を取れ」


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