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15話 三人の冒険者

 掲示板で他の依頼を眺めながら待っていると、再び声が掛かった。


「マサユキさん、お待たせしました」


 戻って来た受付嬢さんの横には、三人の冒険者が立っていた。男性一人に女性二人のパーティのようだ。


 男は腰に剣を携え、小型ではあるが金属製で取り回しの良さそうな盾を左手につけていた。

 また、革製で動きやすそうな防具を胸や各関節の要所に装備している。


 女性の内の一人は軽装であり、防具らしいものは革の胸当てだけだ。

 しかし腰に短剣を二本と、他にも鞄に道具を何やら持っていそうだった。


 もう一人の女性はローブに身を包んでおり、明らかに魔法使いという出で立ちである。

 彼女が持つ木から削り出した杖には、宝石のようなものが付いている。また、耳にも紫色の光を放つイヤリングを着けていた。


 その全員が二十代前半といった感じで、三十五の俺より全然若い。とても眩しい。

 しかし銀級という事なら俺達より先輩である。というか、この業界的には俺がおっさん過ぎるのかもしれない。


「こちらが今回マサユキさんと同行して頂く【ウィンドブロー】の皆さんになります」


「フリットだ、宜しく。剣士で前衛を務めている」


 その堅い口調に対し、髪は明るい黄緑の長髪というアンバランスさが目を引く男だ。


「シャルです。同じく前衛で、短剣が得意です」


 丁寧な言葉に、薄紫の綺麗な色がショートボブに映える娘だ。

 そして胸が大きい。軽装であるのが余計にそれを目立たせている。


「トレーシーよ。後衛で、攻撃魔法でのサポートをするわ」


 この娘の砕けた口調に合った活発そうな金髪のポニーテールが、濃い紫色ローブとの対比になっている。イヤリングの光も、ローブと合っていて綺麗だ。

 程良い大きさ、って感じかな。ローブのせいであまりボディラインは目立たないな。


 いやいや皆さん、これはこれは。ご丁寧にどうも。


「マサユキです、宜しくお願いします。戦闘はそこまで得意では無いのですが、足を引っ張らないよう頑張ります。そして、こっちのネコチャンはうちのメイドのセドナです」


「にゃ! 炎爪でたたかうにゃ!!」


 セドナは腕に付けた鉤爪をドヤ顔で見せた。


 が、どうも「炎爪」と言うのが何なのか伝わってない感じがする。そりゃいきなり技の名前を言われてもわからないだろう。

 ほら、皆さん頭にクエスチョンマークを浮かべてらっしゃるぞ。


「すみません、俺達はこういう事にまだ慣れていなくて……。彼女も前衛で、格闘をメインにして戦います。俺は鞭でそのサポートを普段はしています」


「……わかった。道中は俺達が先導する形で進もうと思うが、マサユキさんはそれでいいか?」


「ええ、そちらのやりやすい形でやってもらえればと思います。何か指示があれば従いますので、遠慮なく言って下さい」


「了解した。それではユニさん、これで依頼受注という事でいいですか?」


 フリットさんが受付嬢さんに声を掛けた。あ、ユニさんって言うんだなこの人。


「はい、大丈夫です。今回の報酬は、ウィンドブローの皆様とマサユキさん達とで別々になります。ウィンドブローの皆様はマサユキさんの護衛、マサユキさんは薬草の納品がそれぞれ依頼達成条件です。納品数の上限はありませんので、納品袋に入るだけ入れてもらって構いません。品質が良ければ当然報酬には色を付けますので、宜しくお願いしますね。期限は本日中になります」


 緊急だって言ってたしな、もしかしたら薬が足りなくて、既に困っている人がいるのかも知れない。


 頑張って、きっちりやり遂げよう。




 ◇◇◇




 ウィンドブローを結成して一年。ようやく俺達は銀貨級冒険者へと上がる事が出来た。


 ウィンドブローを結成するまで、俺達は面識があった訳ではなかった。たまたま依頼で一緒になった中で、やりやすかった人へ声を掛けた結果としてこの三人が集まった。

 そして一年間で俺達はそれぞれのメンバーへの理解を深め、先日昇格試験に受かる事が出来たのだ。


 今日の依頼は銀貨級に上がってから初のものだ。折角なら難易度の高い僻地の調査なんかを受けようと思っていた所に、受付のユニさんからウィンドブローを指名して依頼が入ってきた。

 こういう指名依頼の場合、ギルド側で人選が行なわれる。つまり俺達はそのお眼鏡に叶ったという事である。

 ならば、無碍に断る事も出来ない。


 話を聞くに護衛任務だが、目的地はラテオラから北の山脈麓にあるギルド管轄地域。人数が揃っていて慣れた銅級の冒険者パーティなら、問題無く行って帰ってこられる場所になる。


 問題は、護衛対象がどう見ても素人のおっさんな所だ。


「……なぁ、二人はどう思う?」


「そうね。使用人付きだから貴族の遊びなんじゃないかって噂も立ってたけど、ユニさんに聞いたらそんな事も無さそうだったわよ?」


「あの二人、仲が良さそうです。悪い人ではないと思います。フェシル族の方達はすぐ他人に懐くとは言いますけど、それでいて悪意には敏感ですから」


「ただ経験が少ないのは間違いないだろうな。まだここに来て日が浅いのは確認したし、あの歳から冒険者を始めるなんて流石に常識知らずだろう。どんな手札があるのかは知らないが、俺達は一般人の護衛をするくらいの気持ちで行こう」


「ええ、そうね」

「わかりました」


 護衛任務というのは難易度が高い。

 それは護衛対象を完全にコントロールする事が出来ないという面でも言えるし、戦闘時に余計な心配事が増えるという面でも言える。

 なるべく大人しくしていてくれる事を祈るとしよう。




 ◇◇◇




 さて、臨時に編成された五人パーティで俺達はラテオラの北にあるギルド管轄地域へと向かっている。

 馬車に揺られてセドナは心地良くなっているようで、俺の横で丸くなっていた。


 ギルド管轄地域はそれなりに距離があり、馬車であれば日帰りがなんとか出来るくらいであるらしい。

 馬車はラテオラから一旦西へ向かい、そこから山越え用に使われる街道を北へ行く。途中の停留所で馬車を降り、そこから麓へと徒歩になるという事だった。


 そして、その一連の会話でようやくエクカバの正体が判明した。エクカバとは、やはり馬の事であった。

 エクカバの引く車だから、エクカバ車。なるほどね。しかし、車はそのまま車なんだな。


「フリットさん達はそのギルド管轄地域って所に行った事はあるんですか?」


「その前にマサユキさん、あなたは俺達より歳上なんだから呼び捨てで構わない」


 とは言っても、俺の護衛として来てくれている訳だしなぁ。しかも等級だって上だし。


「いやいや。俺なんて歳だけ食ってる初心者なんで、敬意くらいは払わせて下さい」


「まぁ、そちらがそれで構わないなら……。ギルド管轄地域は、何度か行った事がある。確かに、あそこには薬草が採れる場所がある」


「でも、ちょーっとその場所が問題なのよね」


「問題、ですか?」


「基本的にギルド管轄地域と言うのは、土地の所有権がギルドにあるという程度の物なんです。管理人が常駐していたりという物でも無いので」


 シャルさんが言うには、ギルド管轄地域での行為はギルド関係者に優先権が有るという物らしい。依頼を受けた冒険者はギルド関係者に含まれるので、我々にとっては特に制限無く行動出来る場所という訳だ。

 では他の場所では行動が制限されているかというとそんな事は無いので、まぁ陽光の森みたいな普通の土地という認識で良いらしい。

 厳密に言えば陽光の森のような『普通の土地』とは国有地の事になるのだが、パーシフォーム王国はそこでの活動に制限を掛けていない。

 良く言えば誰にでも開かれていると言えるが、実態としては『管理するような人手が無い』との事。

 だからギルド管轄地域は、それらから相対的に見たら制限のある土地になるという事だ。


「問題とは、そういった行政的な話なんですか?」


「いや、違う。今回の目的となる薬草とは『常緑草』と言って、一年中緑色を保つような生命力に溢れた物だ。つまりそれは野生動物にとっても、常に餌となる有益さがある。また、草木が枯れる季節であれば見付けるのは容易いのだが、今はまだ緑が溢れている季節だ」


「本当ならこの季節には誰も受けない依頼なのよ。特にギルド管轄地域は野生動物も多いし、更に目的の物の見分けが付かないからね」


 ははーん、なるほど。だからユニさんは俺を指名してきたんだな。

 でも俺は目利きが出来るんじゃなくて「なんか良くわからないけど見える」だけだからなぁ。多分あれもオドだとは思うんだけど、もしその常緑草がオドを出してなかったとしたら俺にはお手上げだ。

 そうしたらウィンドブローのみんなにも頼んで、頑張って探すしかない。その時は俺の報酬から山分けだな……。






 そうしている内に目的の停留所に馬車が到着した。ここからは徒歩での移動になる。

 ここも陽光の森みたく定期的に馬車が通る場所であり、一日に数便が来るようだ。最終便は日没なので、そこがタイムリミットになるのだろう。

 ちなみにギルドの依頼完了受付は結構遅くまでやってくれるらしい。最終便にさえ乗れれば大丈夫という事だ。


「それでは隊列を組む。今回は俺とトレーシーが前衛、殿はシャルで頼む。マサユキさんとセドナさんはその間にいるようにしてくれ。何かあれば、素早いシャルが遊撃してくれ」


「わかりました」


「はいにゃ!」


 シャルとトレーシーもそれに頷き、フリットに従ってギルド管轄地域へ向かう道を歩き始めた。


 この辺りも、陽光の森付近程ではないが森が広がっている。道の両側にはすぐ茂みがあり、その先は針葉樹林が広がっていた。

 なんだろうこれ、杉かな。花粉の季節だとこの辺に来るのはしんどいかもしれない……。


 そんなつまらない事を考えていたら、早速何かが起きたようだった。

 何やらフリットが地面を確認している。


「新しい足跡が道を横切っている。しかもやけに多いな……」


 足跡の一つ一つはそんなに大きな物でも無いのだが、群れで動いているようだ。


「動物ですか?」


「形からしておそらくサーニだが、何かに追われているようだ」


 おっと、またわからない名前が出てきたぞ。話の文脈からして小型の草食動物あたりだろうか。

 しかしそれを追っているなら、追跡側は肉食動物なのかもしれない。そして、その足跡はどうやら見当たらないようだった。




 静寂を破る突然の咆哮。

 足跡が無いって事は、まだここに来てなかったって事か!


「全員、戦闘準備!!」


 フリットが叫ぶと同時に、茂みから巨体が姿を表した。


「嘘でしょ、ウルスアルク……!!」


 トレーシーがウルスアルクと呼んだ物。それは全身が茶色の毛で覆われており、圧倒的な体格に牙と爪を持つ最強クラスの野生動物……。

 森の中で出会うと言ったらクマさんだけどさ、ヒグマはやべぇよ!! いや、ツキノワでもやべぇけど!!


 ヒグマの足元には鹿らしき物が転がっていた。先程の足跡の群れから出た犠牲者だろう。

 あ、サーニって鹿の事なんだな。


「トレーシー、詠唱しろ!」


「風の女神よ……」


 即座にトレーシーへ命令を出したフリットは、その隙に彼女とヒグマの間に割って入った。なんて勇気だ、これが経験の差だろうか。俺なんてビビって動けないっていうのに。

 ヒグマはまだ吠えて威嚇しているが、どんどんボルテージが上がっている。今すぐにでも突進してきそうだ。餌を横取りされるとでも思っているのだろうか。


「セドナ、正面はヤバいから絶対に立つなよ。やるなら後ろからしかないからな、駄目そうなら逃げろよ」


「わ、わかったにゃ……!!」


「一陣の風刃となって彼の者を切り裂け!!」


 ヒグマが動く。飛び掛かりながらフリットへ近付き、圧倒的な質量差のある右手を彼に振り下ろそうとする。

 しかし、その前にトレーシーの身体が緑に光り、轟音と共に突風が発生した。同時にいくつか歪んで見える何かがヒグマの身体を突き抜けていく。突き抜けた場所からは血が吹き出し、ヒグマの右手は切り取られて地面に落ちた。


「えっ……? うそっ!?」


「今にゃ、炎爪!!」


 トレーシーの魔法に気を取られてこちらへ背中を向けたヒグマに対して、セドナが炎爪を全力で叩き込んだ。

 それを食らったヒグマは絶叫と共に背中が焼け焦げ、鉤爪で切り裂いた肉は血を吹く前に炭化していた。


「うおおおおっ!!」


 フリットが一気に踏み込み、残った左腕を切り落とす。そこから返す刃でヒグマの喉元を切り裂いた。

 三連携攻撃を食らったヒグマは口から血を吹き出しながら倒れ、動かなくなった。絶命したようだ。




 ◇◇◇




 それはあまりに一瞬の出来事でした。

 私は最後尾でしたので全てを見ていましたが、今回の戦闘は今まで私達が経験した中でも飛び抜けて奇妙でした。


 まず、ウルスアルクと出会った時点で私は死を覚悟しました。何故ならあれは、魔物では無い野生動物の中ではトップクラスに危険な物だからです。

 しかし背中を見せても逃げられる相手ではありません。また彼の盾ではウルスアルクの攻撃を凌ぎ切れません。

 彼はあの一瞬で、自分の代わりに唯一、効果的な攻撃が見込めるトレーシーを生かす判断をしました。


 トレーシーの使う魔法は風属性です。確かにあの斬撃のような魔法は皮膚の柔らかい相手には効果的ですが、野生動物により効果的なのは炎でしょう。

 彼女の適正は風属性のみなので、それは望んでも無理な事ではあるのですが。


 普段のトレーシーであれば、あの呪文から繰り出す魔法で牽制をしつつ、私とフリットで切り込みに行くという形になります。何故なら、風属性の斬撃には致命傷を与える程の威力は無いからです。


 しかし今日の彼女は違いました。風刃が、あの頑強なウルスアルクの腕を切り落としたのです。

 勿論、彼女自身で補助魔法を掛ける時間なんてありませんでしたし、やった本人が一番驚いていたようです。


 そしてセドナさんの攻撃にも驚きました。炎爪と言っていましたが、炎を纏った爪による斬撃の威力は凄い物でした。

 確か昔、トレーシーが『遠距離の魔法攻撃は威力の減衰が起きるので、効率としては接触する魔法の方が高い』という話をしていたのを覚えています。

 しかし、それを考えてもあの背中の肉を抉って真っ黒にした攻撃の威力は、あの小さな体格から出る物ではありません。一撃でウルスアルクの残りの体力を、ほぼ削り切ったと言ってもいいのではないでしょうか……。


 最後のフリットの攻撃は止めではありましたが……その前にウルスアルクは戦闘不能になっていたでしょう。


 私の経験から考えて、ここにいたのがウィンドブローの三人だけであったなら……今の私がこうやって考える時間は存在しなかったと思います。

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