14話 ゴミからルアー
さて、アルフレッドが悩んでいる間にもうひとつの用事をこなす事にした。彼に許可は取ったので、好きなようにやってみるとしよう。
まずは鍛治店の外にあるゴミ捨て場漁りからだ。木箱があり、そこには処分の為に店に持ち込まれた物が入っている。
探すのは鉄製品である。加工しやすくて、でもそこそこの厚みは欲しい。そうだな、一ミリから二ミリくらいであると嬉しいんだが。
盾……は流石に分厚いし、木製のものだと枠と持ち手に部分的に使われるだけだから駄目そうだ。
剣……もなかなか鉄が分厚い。しかも焼入れがしてあるから硬度があって加工は難しそうだ。
お、胸当てだ。ちゃんとしたものより安物っぽいものならいけるかもしれないな。……お、あったあった。
これをベースに作ってみよう。
目的の物があったので、次は工具探しだ。金切りバサミとヤスリ、金属加工用のノコ、後は穴を開ける何か……ドリルはあったら嬉しいけど、無ければ釘とかでいいか。バリはヤスリで取ろう。
早速、加工に入る。
胸当てから裏打ちやベルトなんかを取っ払って、金属部分だけにする。縁の補強のリブなんかも要らないので、金ノコで切断。後は金切りバサミで楕円形や涙滴型に切り出していく。
ガリガリとやってみるが、なかなかしんどいなこれ。
さて、いくつかサイズ別に作ってみよう。正確な重さはわからないから、全長を基準にして三センチ、五センチ、七センチくらいでやってみようか。
切り出したらその上下に釘を打って穴を開ける。ヤスリでバリ取りと大きさを整えて、後は金床で曲げ加工を入れてく。ハンマーで叩いて広い方を湾曲させたり、S字型に曲げたり。
そんな事をやっている内にアルフレッドから質問が飛んできた。
「この本体側のカップの固定はどうするのが良いんだ?」
ネジで止めるのが一般的だけど、ネジって見た事がないな……。
「何か切り欠きを入れて、捻ったら固定されるとか出来ませんかね?」
「成程な。後、このブレーキシューってのはどんな素材がいいんだ?」
「何か柔らかくて摩擦力の高そうな素材がいいですね。棒をスムーズに移動する必要もあるので……」
「だとすると、小さく切った革を重ねて筒形状にしてみるか……」
「他にも何か硬めの素材、例えば骨とか鉱石とかでも色々セッティングが試せそうで良いかも知れないですね」
「この歯車の加工は彫金師あたりに出した方が良さそうだな。スプールも精度を出すならそっちの方が良いかも知れんから、知り合いを当たってみる」
「お願いします。歯車加工は難しかったら、ハンドルでスプールを直接回す案でも問題無いですよ」
「このレベルワインダーってのはどうやって動かすんだ?」
「これはスプールの歯車と連動させて、中にあるウォームシャフトって物を動かします。こんな感じでギザギザに溝を掘った所にレベルワインダー側の出っ張りを入れると、言ったり来たり動く様になりますので……」
「ふむ……これはよく考えられている機構だ。で、お前さんは防具のゴミで何を作ってるんだ?」
「これはルアーと言って、簡単に言ったら魚の餌ですよ」
「はぁ? こんなもんに魚が食い付くってのか? 流石にんな訳ねぇだろ……」
そういう反応になるのは当然だろうな。誰だって最初はそう思うもんだ。
でも、現実にこれで釣れるんだから面白いんだな。
「まぁ見てて下さいよ。鍛冶屋の新しい商品になるかもしれませんよ?」
「それは嬉しい話だが……どうせ捨てるモンだから、それが商品になって金を産むってんならありがてぇしな。期待させてもらうぜ」
そんな感じでアルフレッドとやり取りをしながら、午後の時間は過ぎていった。
そう言えば夢中になりすぎて、昼食を取るのをすっかり忘れていた。もう日は傾き始めているので、帰るまで我慢するか……。
ルアーはひと通り完成したので、後は……そうだ、折角だからアルフレッドにもうひとつ試作を依頼しておこう。
「すみません、追加で作ってもらいたい物があるんですが」
これも絵の方が理解が早いだろう。適当にサラサラっと。実寸大の絵も描いておこう。
これはスナップと呼ばれる金具だ。糸をルアーに直接結んでも良いのだが、これがあるとルアー交換が圧倒的に楽になる。
「これは針金をこの形に曲げればいいのか?」
「そうです。ただ大きさが小さいので、硬い針金をどこまで加工出来るか……。これは形で強度を出す物なので、なるべくこの絵を再現して下さい」
「小指よりちいせぇな、鍛冶屋の領分から外れてる気はするが……。まぁ、試してはみよう」
「お願いします。これは釣り針と同じ消耗品なので、数を頼む事になりますね」
「値段は作ってみてどのくらいの手間が掛かるのか次第になるが、それでもいいか?」
「構いません。結構な必需品なので、先行投資と思ってもらえれば」
「こんなもんがねぇ。釣りの世界はわかんねぇな……」
そうだろうなぁ。使ってみると便利さがわかったりするんだが、見ただけだと何に使うのかすらわからないような小物は多いしなぁ。
でも、ルアー釣りをやる人が増えれば嫌でもこの手の小物は使いたくなる筈だ。
「納期だが、流石にこれはどのくらい掛かるのかわからねぇ。どんなに少なくても一ヶ月以上はあると考えて欲しい」
「どのくらい掛かってもいいですよ。わからない所があれば気軽に呼び付けて下さい」
「わかった、そうさせて貰おう」
日がすっかり落ちてしまったので、お礼を言ってアルフレッドの店を出た。
さて、本格的なルアーフィッシングの開始だ。まずは今日作ってみたスプーンを明日の朝、イザークに試して貰ってみよう。
そして空腹が限界になりつつ帰宅したら、セドナが寝ていた。
机の上の、大量の魚の骨と共に。
まさか、貰ったセバマーを全部こいつは……。俺だって少し味見してみたかったのに。
「むにゃ……もうたべられないにゃ……」
そりゃそうだろうねぇ!
その寝言、大量に食った奴が言うのは初めて見たよ!!
仕方が無いので保存食として買っておいた干し肉を齧って、飢えを凌いだ。
ひもじい……。
翌朝である。
昨夜は、自分が寝る前に机で寝るセドナを起こそうとしたが、あまりにもぐっすりと眠っていたのでそのままベッドに運んで寝かせた。
……のだが、やっぱり朝になるとこちらの毛布に入り込んでいるのだこいつは。
くぅくぅと可愛い寝息を立て、俺の脇にしがみついている。偶にニギニギされてちょっと痛い。
「セドナ、おはよう。ほら、起きるぞ」
「んんっ、いやにゃ……もうちょっと……」
だんだんなんか、慣れを通り越してダラけモードに入ってきた感じがする。一度しっかりと咎めるべきなのか、悩んでしまう。
しかし亜麻色の髪に包まれた幸せそうな顔を見ると、そんな気も失せてきてしまうのが良くないよなぁ。
ま、いいか。
日課の朝の店番へ行き、昨日作ったルアーをイザークにいくつか渡した。
とりあえず細かい事は言わないで、本体の幅が広くなっている方の穴に糸でフックを付け、道糸は細くなっている方に付ける事。それと使い方として一旦底まで沈めた後に、チョンチョンとアクションを入れて誘う事。食いが渋いなら針に餌をつけるのもアリだという事くらいを伝えた。
……思い返すと結構細かいな。まぁいいか。
そうして店番が終わる頃に、イザーク達が帰ってきた。
「マサユキ、これは凄いの! 餌が無くても魚が釣れるのじゃよ!! どうしてこんなものに食い付いてくるのじゃ!?」
興奮したイザークが捲し立ててきた。
彼に同行していた人達もイザークの不思議なタックルに興味津々だったようで、俺が作った事を伝えると質問攻めにあってしまった。
イザークはそれを見て、いくつかアルフレッドに片軸受けリールを注文すると言っていた。
ただその一方で、餌が売れなくなってしまう事を心配していた。釣り餌は釣具屋にとって定期的な収入になる大事な物だ。だからルアーが流行ってそればっかりになると、収入が減ってしまうと考えたのだろう。
しかしルアーも無くす事があるし、そのうちに魚が見慣れてしまって反応も悪くなる。そうしたら生き餌の強さがまた出て来るだろう。そんな話をしたら、安心していた。
また、ルアーのお手軽さが新しい客を呼び込む可能性は充分ある。特に貴族の遊びとして売り出すのはアリだと思う。
その辺はアーネストへ話を持ちかけたら良さそうだな。
とりあえずスプーンは受けそうだ。構造もシンプルだし、アルフレッドなら簡単に再現出来るだろう。
そんな話をイザークにしたので、後は商売人同士で上手くやってくれると思う。
お互いに明言はしていないが、俺の現代知識でタックルを再現し、イザークへ提供する事で今は共生関係が成り立っている。
打算的に考えたらお互いに得をするという悪くない関係だし、そんな利害関係を抜きにしても個人的にこの世界でルアータックルが調達出来るようになるだけで俺にとってはありがたい。
イザークにも何かしらの思惑があるとは思っているのだが、今はこの流れに乗らせて貰おう。
ちなみにアーネストに譲ってしまった片軸受けリールのタックルだが、近い内に俺の分をアルフレッドへ依頼してくれるらしい。
記念すべき異世界第一号の作品だから、ちょっとは俺も思い入れがあったりするので嬉しい。
さて。
当分はリールが出来ない事には、俺の釣りは最初の延べ竿か現代タックルしか選択肢が無い事になる。
なので、その間はセドナとの薬草採取による金策を進めると共に、新しいフィールドの開拓も目指す事にした。もっと経験を積んで、俺個人の戦闘技術を上げる必要もあるからだ。
いや、異世界無双とかを考えている訳ではない。全ては釣りの為である。
アラスカで鮭釣りをするには、護身用の大口径リボルバーをディスカウントストアで買わなければいけないのだ。
という訳で、昼食後にセドナとギルドへ顔を出した。
ギルド内は今日も冒険者、という名の労働者達で溢れている。あちこちで数名の集団が、依頼書を手にして作戦を立てているのだろう。
そういえば冒険者ギルドと言えば何故か酒場も併設されているイメージがあるが、ここはそういった施設では無いようだ。あくまでも市民と為政者の間に立つ、役所と言ったところだろうか。
ゴロツキがたむろしている事は稀であり、そういった部分は彼らに人気の酒場が担っているようだ。まぁ、それは道路を挟んで反対側の建物にあるんだけど。
旧王城の真ん中を主要道路が通り、その西側がギルド、東側が酒場となっているという構造である。元々ひとつの建物だったものを、真ん中をぶち抜いて道路を通したらしい。
セドナは今日もメイド服である。
俺の後ろをケモミミメイドの少女が付いてくる光景は、まだこのギルドでは新鮮なものらしい。周囲から奇異の目を向けられている。
「マサユキ様、今日はなにをするのにゃ?」
「そうだなぁ……。依頼次第ではあるけど、あの三日月湖みたいな場所をまた見付けられそうな物があればいいな、とは思ってるんだけどね」
早速、入口近くにある依頼掲示板を眺めてみる。
キツケ草の採取依頼はいつも通りの場所に貼られていた。だが、今日の目的はそれ以外だ。
「あっ、マサユキさんですよね?」
突然後ろから女性に声を掛けられた。
振り向くと、そこにいたのは何度かお世話になった事のある受付嬢の人だった。
濃い茶色の綺麗な髪が腰辺りまで伸びていて、肩のあたりで一度シュシュみたいなもので纏めてある。年齢は二十代だと思うんだが、下手な事は言えないので心に仕舞っておこう。
そういえばキツケ草の時も大体この人が対応をしてくれたんだったな。
「あ、どうもお疲れ様です」
えーっと、そういえば名前を聞いていなかったな。この人も美人さんだったので顔は覚えているんだけど。
「良かった、実はマサユキさんにご相談したい事がありまして……」
「構いませんが……俺で良いんですか?」
「マサユキさんがいいんです!」
なんと俺をご指名である。
自慢じゃないが、俺はまだそんなに依頼をこなした訳でもないし、まだペーペーの銅級冒険者だ。そんな人間は掃いて捨てる程いるだろう。
勿論、顔だってそんなに良い方ではないので、あらぬ期待なんてしてはいけない。
なんでだろう? 逆になんか不安になってきたんだけど……。
「実は、国立病院から急ぎの依頼が来ているんです。加工をすると外傷の手当てに使える薬草があるのですが、どうやら質の良い薬草を運んでいたエクカバ車が盗賊に襲われてしまったとの事でして……」
ん? またエクカバか。いや、エクカ馬車なのか?
襲われたって事は、やっぱ馬車みたいなもんなんだろうか。
「まさか、盗賊から奪い返すんですか?」
それはちょっと困るな。犯罪者とはいえ、人間相手に戦うのはなぁ……。
心の準備が出来てないよ。
「いえ、そうではなくてですね。その薬草の群生地がこの近辺にあるのですが、そこから質の良い物を選んで調達出来ないかと思いまして」
なるほど。キツケ草の時にどうやら納品物の質が良かったという話があったから、その延長の話なんだな。
「その場所と言うのは教えて頂けるんでしょうか。また、我々二人だけで行けそうな場所ですか?」
「場所はギルドの管理している土地なのでお教えする事は出来るんですが、二人だと少し危険な場所になってしまいます。そこで、こちらで選んだ銀級の方々とパーティを組んで現地へ行き、採取をお願いしたいのです」
そういう事か。どうしようかな……あまり他の人と関わる事を考えていなかったからな。ひっそり食い扶持が稼げれば、くらいを想定していた。
でも急ぎって事は困ってるんだろうな。しかも依頼主が病院だと言うなら、断り辛いところもある。
健康は誰にとっても大事な物だ。
「セドナ、どうしよっか」
「おまかせしますにゃよ」
銀級冒険者が出て来るというなら、それなりに危険があるだろう事は想像出来る。しかし、逆に言えばそういう人達に守られる立場で、その人達の仕事っぷりを近くで見る事が出来るチャンスでもある。
「とりあえず、同行して頂ける方達と話をする事は出来ますか?」
「わかりました。少々お待ち下さいますでしょうか」
受付嬢さんはカウンターに引っ込んでしまったので、俺達はホールにある待合用の椅子で座って待つ事にした。




