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Odd I's  作者: TEAM,IDR
8/58

一章-5「翠眼の悪魔」

「Odd I's」

第一章「機械の王国」

第8話「翠眼の悪魔」

都会から少し離れた場所にあるアパートの一室。帰宅した三人の親子。

「はぁ………」

「……ねえ…今夜は……?」

「っ!離せよ!…もうわかったろ…もうお前らに興味なんかないんだよ。あんなつまらないテーマパークに連れて行きやがって…」

「待って!行かないで、あなた!」

パァン!!

男の平手打ちが入る。


「触るな!気持ち悪い…もうお前の身体にも飽きた。明日までに離婚届を書いておけ。さもないと…分かってるな?」

「……あ………」

男はどかどかと部屋に戻っていった。


「あああああああああああああ!!!!!」

女は泣き崩れる。その様子を少女はただ黙って見ていた。


しばらく泣いたあと、女は少女に詰め寄る

「お前さえいなければ…!お前なんかいなければ!!!」

ビクゥッ!

少女は驚き、体が固まる。 そして女の平手打ちが少女に直撃する。

パンッ!

「あんたがあの人を怒らせたのよ!!分かる!!!?お前のせいだ!!お前のー!!!!」

「ごめんなさい!ごめんなさいいいいい!!!!」


少女は手で体を護ろうとするが、女はその手ごと何度も平手打ちをした。

ついには馬乗りのような体勢になり、殴り続けた。


「はぁ…はぁ…あんたなんか…生むんじゃなかった……」

「い“っ!!!」


女は少女の髪の毛を引っ張り、瞳を覗き込む。

「ほん…っとうに気持ち悪い眼……きっと悪魔の生まれ代わりなんだわ…だからそんなに気持ち悪い眼をしてるのよ…!…悪魔!!!」

女は少女を壁に叩きつける。


「お前なんか…!!お前なんか!!死ねばいいのよ!!」

バァン!! と扉が開く。

「うるせぇぞ!!カス女が!!」

「きゃあ!!」

男は女の顔を蹴る。そのあと、腹を数発蹴る。


「う…うぅ……」

「ちっ…。お前のせいか…」

ふるふる…!

泣き声をあげると殴られるので少女は泣くのを我慢して首を横に振る。

「嘘つきやがって…」

と、男は脚を上げる。 少女はぎゅっと目を閉じて身構えるがその時は蹴られなかった。

「ふんっまぁいい…今日でお前らとはおさらばだからな。…もう、こんなクソ女と気持ち悪いガキの相手しなくてすむ。」

ドゴォ!

「っが!!」

男は少女の腹を蹴った。


「おいガキ。明日までにこの女にあれを書かせとけよ…出来なかったら殺すからな…」

そう言って男は出て行った。


「は……はぁ……ふ……ぐぅ………」

今にも泣きだしそうな少女

(感じるな……何も……感情なんていらないんだ……何も感じてはならない………心なんていらない……)


自分に語り掛けているのか、それとも何者かの声なのか…。そんなことはどうでもいい。生きるために必要な考えなのは間違いなかった。


少女の心は決壊寸前だった。



次の日の朝。少女は早朝からゆっくりと歩いて登校する。


「おはよう。…篠原さん?」

「……あ……おはようございます……」

「どうしたの?元気なさそうだけど…?」

「…………なんでもありません……」


先生の前を通りすぎ、教室へ向かう。

教室に入るとクラスメイトの女の子集団を筆頭にクスクスと笑われ、軽蔑の眼差しを向けられる。


「くるくるちゃん、今日もきたんだ~」

「あはは!変なあたま!」

「よくこんなカッコで学校来れるよね~」

「きったな~い」


そして、数々の罵倒を浴びせられる。 少女は俯いたまま、何も出来ない。



給食の時間。

ぐぅ~~

少女はとてもお腹を空かせている。 いただきますの挨拶ののち、勢いよく食事にがっつく少女。その姿はどう言い繕うにも人間の食べ方とは言えなかった。

誰にも取られまいと、素早く口の中に食べ物を放り込み、よく噛みもしないで飲み込む。スプーンや手を使ってあっという間に食べ終わってしまった。


クスクスクス…

先生の見えないところでおかずを床にこすりつける女子。

「ねーくるちゃん、これあげるよ。食べていいよー」

そのおかずを少女に渡す。

すると少女はなんのためらいもなく、口に放り込む。


「きゃーー笑」

「きったな~~!」

クスクス…


(あれ……食べ物ってこんなに味がしないものだっけ…?……あれ……最後に食べた思い出せる味ってなんだろう……最近…何食べたんだっけ………何も……感じなくなっちゃったのかな…………どうしてだろう………)





気が付いたら学校は終わっていた。

夕暮れ時、トボトボと歩きながらゆっくりと帰る。 ゆっくりと歩いているのには無意識から家に帰りたくないという心理が働いているからだろう。


(ほん…っとうに気持ち悪い眼……きっと悪魔の生まれ代わりなんだわ…だからそんなに気持ち悪い眼をしてるのよ…!…悪魔!!!)

(お前なんか…!!お前なんか!!死ねばいいのよ!!)


あの女の言葉を思い出す。


(こんな眼があるからいけないのかな……こんな眼…なければよかった………)


ここで少女が至る結末は一つ。

道端で鞄を開き、ペンを手にする。 そしてそれを目に近づけ…

「あ“っ!!!…っあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ” あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ” あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


喉を潰すほどの勢いで絶叫し、血まみれの右目を押さえる。

「痛い!!!痛い!!!いたいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!…っがああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


これまでの暴力の痛みをも超える痛み。でも少女にとってこの痛みはそれほど苦ではなかった。

この痛みは失いかけていた感情や感覚を思い出させてくれた。

そして、他人にやられるよりもずっと優しい痛みだ…


(この痛み……こんなにも痛いのになんでこんなに胸が晴れるんだろう……こんな眼…いらない!!あいつらの全てを否定してやる…!!)


「はぁ…!はぁ……はぁ………」


もう一度、ペンを構え、左眼に向ける。


(もう片方だって……!…こうすれば私は……私は……!)

グッ!

グンッ!!!!!


勢いをつけた少女の腕を大きな力が抑えた。

??「何やっているの!!!」

そこには驚きながらも心配そうにこちらを見るスーツ姿のおじさんがいた。しかし、そんなことよりも少女にとって最も印象的だったのはその人の綺麗な碧眼だった…


(どうして……どうして私を……)


気を失う少女。



「……っは!」

「おや…気が付いたね…」


病院で目覚める少女。隣には気を失う前にいた碧眼の男性が座っていた。

「ぼくのこと分かるかい?」

「…………さっきのおじさんですよね……」

「そう、通りすがりのおじさんだ。君は〇〇小学校の生徒だね? 名前は、篠原るくちゃん…だよね?」

「…………はい。」

「どうして分かったと思う?」

「……かばんを見たからでしょ?」

「ピンポーン、正解!」


おじさんは優しく微笑んでみせる。


「いやぁ、失礼。レディの名前を先に聞いてしまうとは…紳士としての振る舞いには程遠いな…。申し遅れました、ぼくの名前は砂霧さぎり 黄慈おうじです。」

「…さぎり…おうじさん…?」

黄慈「そう、いい名前でしょ?おじさんだけど、オウジなんだ。はは、自己紹介をすると毎回驚かれるよ。でも、覚えやすいでしょう?」


にこやかに話す黄慈をみて少し緊張がゆるむ。そして、こくりと少女はうなづいた。


黄慈「ある人との大切な思い出のつまった名前だから気に入っているんだ。…おっと、話がそれてしまうね。るくちゃんにはもう一つ、おもしろい話を聞かせてあげよう。るくちゃんの担任の先生は村上先生だろう?」

「えっ…どうして…」

黄慈「実はぼくも学校の先生でね、村上先生が産休をとるために休むからその代わりに来たんだ。 だから、あと何日かしたら君の先生になるんだ…!」


少女は目を丸くして口を開けて驚いた


黄慈「あはは!とても驚いているね…!いやぁ、ぼくも驚いたよ。まさか着任の初日にこんな出会いをするなんて…」

「…………」

黄慈「……明日から教室にお邪魔する予定なんだ。他の子よりもちょっと早いけど、これからよろしくね。」

「……(こくり)」


「出会い」という言葉で先程のことを思い出す。空気は重くなったが、少女はうなづいた。


黄慈「…君はとてもきれいな瞳をしているよね?それなのにどうして傷つけてしまったのか聞いてもいいかい?」

「………………こんな眼…嫌いだ………」

黄慈「………………」

「…………こんな眼が無ければ私はっ………私は…………」

(幸せになれた……ならない………この眼がなくても私は………)

「うっ……うぅ……うわぁぁああああ!」


少女は大粒の涙を流して泣いた。

黄慈は少女に近寄り、背中を優しくさする。


黄慈「…眼のことで何か言われたのかい?」

「……うぅ…ぐすっ……うん……」

黄慈「誰に?」

「……クラスの子たち……それに……あいつら……」

黄慈「…あいつら?」


涙が溢れる翠眼でギッ!っと空を見つめ、少女は語る。


「あの女とあの男だ…!あんなやつらが私を生まなければ…こんなことにはならなかったのに…!!」

黄慈「…………そうか………」


少女の包帯が血と涙でにじむ。


「私は……私は何のために生まれたんだろう………こんなの……生きていても良いことなんてないよ………」

声を震わせて少女は言う。


黄慈「…ぼくの眼を見て。」

「……え……」

黄慈「ほら、綺麗でしょう?…友達にも褒められたし、妻もぼくのこの瞳をとても気に入ってくれていた。」

「…………」

黄慈「君の人生は生まれた瞬間から君のものだ。誰のものでもない。…君のその瞳も君の物なんだ…。誰がなんと言おうと、その輝きは自分が決める。 君の眼はまだ死んでいない。 見えていない物もたくさんある。 今は「あいつら」のせいで世界が狭まっているだけだ。君だけの世界を見るんだ…そうすればその眼は何よりも美しく、誇りあるものになる。」

「……………」

黄慈「ぼくも最初はこの眼が好きじゃなかった。君と同じだ。…だから、自信を持って言うことが出来る。君も必ずその眼が好きになる。自分だけのその眼が…その瞳が映し出す自分だけの世界が…。……だから、大丈夫。生きる意味も必ず見つかる。」

「……………うん………」


少女の眼にはまた涙が溢れた。


黄慈「…これから君はぼくの生徒だ。先生のことを頼りなさい…。今まで頼れなかった分先生に甘えていい…。先生が必ず幸福へ導きますから。」


黄慈は少女をなぐさめながら、傍に居続けた。



医者との話も終わり、少女と黄慈は病院を出た。

両親とは連絡がつかないため、直接黄慈が送ることになった。


黄慈「……るくちゃんはクラシックとか聞いたことあるかい?」

ふるふる と横に首を振る。

黄慈「そうか、そうだろうね。最近クラシックを聞いている人はなかなかいないからね…。でも、クラシックはいくら時が経っても色あせない完成された音楽だとぼくは思うんだ。この心を落ち着かせるメロディー……全ての音が調和して奏でられるこの音楽は自然と心の中に入り込んでしまう。そして、安らかな方へと導いてくれる…」

「………」

黄慈「昔は音楽療法なんていうのもあったくらいだからね。今では精神病も投薬治療がほとんどになってしまったけど……。それで、どうかな?この曲は今の心と噛み合っているかい?」

「……う~ん……たぶん……いいと思う…」

黄慈「!…そうか。…それは良かった。」



数十分の運転の後、家の前まで着いた二人。

そこで目にしたものとは…



少女は新しい担任の教師である黄慈に少しずつ心を開いていく。

少女は出会い、発見し、考え、覚悟する。

彼女はその眼で何を見て、何を想うのだろうか…


次回『新たなおもい』


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