一章-4「交錯する運命」
「Odd I's」
第一章「機械の王国」
第7話「交錯する運命」
AI島侵攻作戦、決行当日。橋の前には大量の戦車と兵士が待機していた。しかし、その進行を妨げるように保守派の人達が陣取っている。橋の側面にはマスコミの集団がカメラを構えて待っている。
数十分前、解散しないと攻撃するという旨の宣告を受けた保守派のデモ隊。
「さて…あともう少しで指定の時間になるな…逃げるなら今だぞ。俺たちは国に逆らう反逆者だ。あいつらの言う通り、処刑されてもおかしくない。」
「今更逃げるわけないでしょ!俺たちゃ命を懸けて歴史に名を刻むんだ!」
「そうだそうだ!!」
「そうか…なら気張っていくぞ!!」
「「おーーー!!!!」」
「だが、これだけは言っておく!命は懸けても死ぬな!!ギリギリまで抵抗することに意味があるんだ!わかったな!!?」
「「おーーー!!!!!」」
(それに俺たちには『切り札』もある…)
*
「やつら解散する気は無さそうですね…」
「攻撃の許可は出ている。時間になったら作戦を開始する。」
時間になると同時に隊長は振り返り、戦車の上で兵士に声をかける。
「我々は世界の平和を護るため、国の命令のもと行動する!敵に同情の余地は無い!全てを破壊し、人類の力を示すのだ!!正義は我々にある!!!作戦開始ィイ!!!」
「「ワァ――――!!!!!!」」
陸軍は橋から侵攻を開始、海軍は橋の反対側の海から攻撃を開始、母艦から出撃した戦闘機、待機していた戦闘機を含めた空軍も攻撃を開始した。
ドォン!!ドォン!!ドン!!! ヒューー……バァン!!! ボォオオオオン!!!!
AI島には一瞬にして数えきれない程の砲弾と爆弾が降り注いだ。 島は爆炎に包まれ、テーマパークも無残に破壊された。
正面からは橋を埋め尽くす程の戦車が迫り、後ろを振り返れば地獄のような光景が広がっている。
「うわぁああああああ!!!!!」
「くっ…!パニックになるな!!! 俺達はここで少しでも長く陸軍の侵攻を止めるんだ!!」
ドンッッ!!!
先頭の戦車がデモ隊に砲弾を放った。
「わあああああああーーー!!!!!」
「本当に撃ってきたあああああああ!!!!」
砲弾はかなり手前の壁へ当たったが、死の恐怖を植え付けるには充分だった。
「くっ!みんな!!引き上げるぞ!!撤収だ!!!」
デモ隊は橋の側面からロープで降り、ボートへ乗り込む。
「サラマンダー!聞こえるか!?こっちはもう駄目だ!あとは君に任せる!」
「りょーかいっ♪」
橋の奥で待機する少女が笑みを浮かべながら返事をする。
そして耳についた小型機器で通信を終えると音楽をかけた。
「ん~やっぱブッ飛ばす時はこれがないとねっ!…変身!!!」
ゴォオオオオオッッ!!!!!!
爆炎に包まれ、瞬時に変身。蒼いスーツを身に纏い、背中には背丈よりも大きい太刀をつけている。
バイクのスロットルを全開にし、真っ赤なアフターバーナーで猛烈に加速する。
太刀を抜き、片手で構える。太刀を地面に擦りつけ、火花を散らせる。その火花から炎が広がり、太刀を包んだ。
「隊長!バイクに乗った何者かが突っ込んできてます!」
後方で無人戦車を操作している隊員の一人が報告する。
隊長はスピーカー機能をオンにして「そこのバイク、今すぐ止まりなさい!!」と警告する。が、止まる様子はない。
「撃て」
「っ…!は、はい!了解いたしました」
戦車から一斉に弾が発射される。
「そんな弾があたしに当るかよ!!」
左右に回避し、最後の一発は太刀で斬り払った。 爆発をものともせず、走り続ける。
戦車と戦車の隙間をぬいながら、太刀でブッた斬る。同時に幻獣を操り、手の届かない所の戦車も破壊する。
巨大なトカゲのような見た目をしている焔の幻獣と共に走り抜け、全ての戦車を破壊して橋の反対側までたどり着いた。
ズギャァァアアアアアアア!!!!キュルルルル!!!!
ドリフトし、一回転して停まった。そして事前に投げていた太刀をキャッチし、納刀。
彼女の炎は消えたが、背後には橋を埋め尽くす爆炎が轟々と燃えていた。
「なんだ…………あいつは…!?」
「あ…悪魔だ…人間じゃない…」
「リーダー…サラマンダーのやつ、やったっぽいっすね…」
「あ…あぁ……ここまでやるとは思わなかったな……というか何者なんだ…?」
「俺、あの子のこと人間だと思ってましたよ。でも違いますね。ありゃ地獄からきた悪魔だ。一瞬で火の海にしちまった」
「……蒼髪の……悪魔……」
*
「さーて、やるとすっか。で、作戦はどうすんだ?」
「私達の目的はボスの護衛だ。ボスはAI島のシンボルであるセンタータワーの地下にいる。侵攻軍である相手は陸海空から攻めてくる。ボスを含めた我々ロボット軍は近接戦闘しか出来ないはずだ。だがその代わり近接であれば負けることはない。よって陸軍は無視する。最も脅威となるのは空軍だ。私達は空を制圧するぞ。」
「あー空ね。さっきの雷で移動しまくって斬ればいいのか?」
「それも悪くないが、それでは凡愚だ。私の能力を最大限に発揮できるよい戦法がある。」
「ほー?それは?」
「まぁ見てみろ」
空を飛んでいる無人爆撃機が急に進路を変えて二人に向かってきた。
「うぉっ!?突っ込んでくるぞ!!」
「乗れ!!」
少年は突っ込んできた爆撃機に飛び乗った。
「これお前がやったのか!?」
「そうだ!この能力を持ってすれば人間程度が作る電子機器など全て思いのままだ!この力を使って戦闘機を乗っ取り、敵の軍艦に特攻させる!そうすれば空と海を同時に制圧できる。どうだ?分かりやすい作戦だろう?」
「ああ…!鳥頭の俺でも分かるぜ いい作戦だ…!!」
腰の刀を抜き、爆撃機に刺す。そこから電気エネルギーを流し込み、もとの性能以上の機動力で飛行する。
編隊を組んで飛行している機体に近づき、一瞬で操作系を支配した。 すぐに進路を変更させ、空母や戦艦へ特攻させた。
「めちゃくちゃ数が多いな!」
「向こうの空母の中にもまだまだいる。優先的に空母を狙え」
「つってもよ、戦艦の攻撃が激しすぎるぜ。まともに特攻できたのは一機か二機だ。どうする?」
「確かにこれは誤算だった。お前から距離が離れてしまうと乗っ取った機体の性能が極端に落ちてしまう。それに、器用に動かせるのは今乗っているこの一機だけだ。お前と私だけでは演算が間に合わん。敵の性能も想定以上だ。この戦争のために色々と新兵器を導入しているらしい。」
「こまけーことはどうでもいい!結局どうすんだ!?」
「空が制圧できれば時間は稼げるはずだ!あらかたの戦闘機を破壊したらボスの下へ行く!」
「へっ…あいよ…!!」
「あああああああ!!!オイラのお店がああぁぁぁ……」
トオン「わたし達の理想郷が……」
マイド「辛い気持ちは僕も同じだ!だけど今は感傷に浸っている場合じゃない!早く消火するんだ!」
「どうしてこんな酷いことするんでやんすか…オイラたちが何をしたって言うんでやんすか!?」
トオン「うっ……そうね……」
胸を押さえて顔を歪めるトオン。
ルウラ「見張りからの報告だ!もうすぐ第二波が来る!消火はもう間に合わない!死にたくなければセンタータワーまで逃げるんだ!!」
「ここを放っておくなんてできない!私の使命はおいしい料理を沢山の人に振舞うことだ!もっと、もっと人々を笑顔にしたいんだ!」
ルウラ「っ!この地獄を見ろ!これが人間の意志だ!人間はロボットを信用してなんかない!我々は必要とされていないんだ!!」
料理ロボットの胸ぐらをつかんで怒るルウラ
クーゴ「やめろ、ルウラ!こんなことしてたら時間の無駄だろ?お前も、料理をまた作りたいなら今は生きることだけを考えろ。またやり直すために!」
「…っ…分かりました…」
クーゴ「よし、俺たちも逃げるぞ。ボスにも万が一があるかもしれない。すぐに向かおう」
ルウラ「ボスに万が一などない。向かった所で無駄足だ。だが、放っておけばボスが戦闘に参加する可能性はある。」
マイド「ボスが死んだら僕たちも死ぬんだぞ?データは消失し、このコアの回転も止まる。他のロボットだってボスをなくしたら生きる道を失ってしまう。分かっているのか?」
ルウラ「当然分かっている!お前こそこの状況が分かっているのか!?このまま行けば全ての施設、ロボットが破壊されるのは時間の問題だ。ボスが戦ってくれなければ我々は全滅だ!」
マイド「だからといってボスを見捨てていいわけがないだろ。それにボスにだって何か考えがあるはずだ。もう一度確認しにいこう!」
ルウラ「考えなんてないさ。ボスは現状を受け入れている。おれ達も見捨てる気だ。もしも、オレ達が生き残る可能性があるとすればボスが危険にさらされ、戦わざるを得ない状況になった時だ。」
トオン「ルウラ!いい加減にして!ボスがそんなことするわけない!」
ルウラ「……お前らとはいくら話しても分かり合えないな。……行きたいなら勝手にしろ。オレは…オレの道を往く…」
クーゴ「ルウラ……」
ルウラは三人から離れ、どこかへ歩いて行ってしまう。
クーゴ「なぁ、マイドとトオンは人間と戦えんのか?」
マイド「どうしたんだ急に?」
クーゴ「俺たちは何のために生まれた?人間と共に生きるためだろ?その人間を攻撃するのは使命に背くことになるのかな…」
トオン「…………」
マイド「………使命を果たすにはまだ早すぎたのかもしれない。僕たちロボットを受け入れるには人間はまだ準備が足りなかったのかもしれない。 僕らはここで死ぬかもしれない。でも、この出来事は歴史に残る。何度も繰り返され、少しずつ分かり合っていけばいつか必ずこの夢は叶う。僕たちが生きる理由は使命を果たすことじゃない。夢に向かって進むことなんだと思う。今が全てじゃない。ボスはその先まで考えているんじゃないかな。」
トオン「………そう…だね。うん…そうだよ、きっと。」
クーゴ「…マイド、トオン、お前ら死ぬ覚悟が出来てんのか?」
トオン「え…?」
クーゴ「使命の…夢のためならこんな理不尽な死に方しても許せるのかよ。」
クーゴはロボットの死体を指さす
マイド「クーゴ、僕たちはロボットだ。命じゃない、道具なんだ。人間のためになるのなら破壊されたってかまわない。」
クーゴ「ロボットは道具じゃない。命だ! 意思を持って、生きている!俺には夢だけじゃない。楽しみがある。プラモデル作りっていう趣味がある。それを壊され、奪われて納得なんて出来ない。使命があったって好きなことをやる権利はあるはずだ!俺は死ぬのは嫌だ!!」
トオン「わたしだって死ぬのは嫌だよ!でも…それが人類のためになるっていうなら……わたしは………」
マイド「…もう、やめよう。この話は。 二人とも今何をするべきか分かるだろう?一刻を争うこの状況でするべきことは、住民の避難と被害を少しでも抑えることだ。話し合いはこの戦いが落ち着いてからにしよう。」
トオン「………わかった。」
クーゴ「………わかったよ…」
マイド「…じゃあ行くぞ…(ピーッ!)
三人のもとに連絡が入る
「マイドさま~!島の反対側から上陸されてしまいました~!!」
マイド「何っ!?」
「気が付いたら船が近くにいたんですー!!」
「たくさん人間がきてます~!早く逃げt…(パンパンパン!! ザザーッ…!………)
マイド「おい!どうしたんだ!?返事をしろ!!」
トオン「今のって…」
クーゴ「上陸されたか……ボスのところに来るのも時間の問題だな……」
マイド「……最優先でボスのもとへ向かおう。」
トオン「ちょっと待って!まだ避難出来ていないロボットがたくさんいるのよ!?助けにいかないと!」
マイド「他のロボットにはセンタータワーに避難するように伝えた。僕らはボスを護るのが最優先だ。手助けには行けない。」
トオン「そんな……」
クーゴ「トオン、もう助けに行っても無駄だ。ここまでやられたらもう安全な場所なんてない。自力でどうにかしてもうらうしかない…」
*
島の海岸部付近の森
ロボ1「うわああああ!!もう無理でやんす~~!!!」
ロボ2「オラ達何も悪いことしてないっすよー!!」
がしゃガシャと走るロボットが二体、歩兵に追われている。
ピュンピュンと弾丸が飛び交う。
ロボ1「ひいいいいい!!!も、もう無理でやんす~!!!」
ロボ2「だ、誰かたすけ…」
??「助けてーー!!!」
二人のロボットが助けを懇願するより、一瞬早く、誰かの助けを求める声が聞こえた。
ロボ1・ロボ2「「!?」」
ロボ2「今の声は!?」
ロボ1「すぐに言ってみるでやんす!」
二人はルートを変え、女の子の声がした方へ走っていった。
??「あっ!よかった!ロボットさんが来てくれた…!」
ロボ1「こんな所でなにしてるでやんすか!?」
ロボ2「早く逃げるっすよ!」
??「私をさらって!」
ロボ1「え!?」
??「早く!!かついで!!」
ロボ1「う、う~分かったでやんす!」
と、ロボットが女の子をかつぎ、また逃げ出す。すぐに歩兵が追い付いて銃口を向けるが
??「きゃー!助けてー!!ロボットに殺されちゃう~!!」
ロボ1・ロボ2「「えっ!!」」
ロボ1「オイラ達そんなことしないでやんすよー!」
??「いいから、私に合わせて…!あいつらにも、近づくとこの子を殺すぞって脅して…!」
女の子はロボットに耳打ちする。
ロボ1「え、え~…」
??「いいから!やって!!」
ロボ1「ん~…よし! おい!お前ら、これ以上近づくな!!近づいたらこの女の子をこ…殺しちゃうでやんすよ!!」
歩兵「っ!お前ら止まれ!!」
ロボ2「よ、よし。その調子っすよ!もう、追っかけてこないでほしいっす!」
ロボ1「では、さいなら~!」
ガシャガシャがしゃ……
ロボットと女の子は歩兵を引き離すことに成功する。
「女の子を発見したぁ!?」
歩兵「はい…人間の女の子です…少なくとも、私にはそうとしか見えませんでした…」
「そんなわけないだろう!一杯食わされたんだ。こんなところに人間がいるわけがない!…それに…これは非常事態だ。仮に人間がいたとしても発砲は許可されている。次はない。必ず仕留めろ。いいな!」
歩兵「っ!…了解!」
*
ロボ1「はぁ…はあ…!ふ~…疲れたでやんすね~。あ!おいら呼吸しないんでした!てへ!」
コン、と頭を小突くがその拍子に手のひらのパーツが取れた。
ロボ1「おああああああ!!!!取れちまったでやんす~!!」
??「ふふふ…!ロボットさんてやっぱり面白いね!」
ロボ2「あ、先ほどはどうもありがとうっす。ところで、あなたは何者なんすか?」
??「私は……私の名前は……」
*
サラマンダーと電気少年の乱入により、戦況は大きく変わった。しかし、ロボット軍が劣勢であることに変わりはなく、護れるものにも限りがあった。そのせいでルウラ達四人はもめてしまい、関係にヒビが入ってしまう。 運命は彼らをどこへ導くのか…そしてこの少女の名は…
次回『翠眼の悪魔』