一章-3「少年+刀」
「Odd I's」
第一章「機械の王国」
第6話「少年+刀」
「だーかーらー!こいつもロボットなんだって!マジでやばい刀なんだから処分してくださいよ!」
一人の少年が警察署へ刀を持ち込んで何やら揉めている。
「あのねぇ…こっちも暇じゃないんだよ?今は世間がこんなだから、うちのロボットって大丈夫ですか~って聞きに来る人は多いんだけどねぇ。うちはゴミ処理場じゃないの。やってるのは相談だけなの。どうしても処分してもらいたいなら不燃ごみの日にでも捨てればいいでしょう。」
「あのさぁ…さっきあっちの人にも言ったんですけど、これ、捨てても戻ってくるんですよ。瞬間移動して戻ってくるの。ガチでやばい兵器なんですよ。なので、ホントに困ってるんです。善良な市民が困ってるんですよ~なんとかしてくださいよ~」
「……捨てても瞬間移動で戻ってくる?そんな呪いの人形みたいな現象を信じろと?」
「なら、証拠を見せれば信じてくれるんですね?」
「どうやって見せるつもりだ?」
「ここに刀を置いていきます。それで、自分がここから離れるといつの間にか瞬間移動してるんで。絶対に目を離さないでください。」
「…何を言っているんだ、君は?そんなこと言ってゴミを置いていくつもりだろう。」
「違いますって!もう、どうしたら信じてくれるんですかー!?」
「騒いでないでさっさと帰りなさい。もう君に付き合っている暇はないんだ。」
「あっ!そうだ、この刀が武器としてヤバいって分かれば引き取ってもらえますよね?たしか法律で威力がいくら以上だと使用禁止みたいなのありますよね?あの、柱ぶった切れば信じてくれますか?」
と、少年は刀を鞘から抜いて近くの柱に近づくが
「こらぁああああ!!!」
と警察に怒鳴られる。ビクッと驚く少年。
「いい加減にしろよ…?今すぐ帰らないと取り押さえて親を呼ぶことになるぞ?」
*
とぼとぼと警察署をあとにする少年。そのまま帰路に就く。 その途中、人気がないところで刀が喋りだす。
「ぷっ…くはははは!!傑作だったな!先程の出来事は!実に滑稽だ。」
「っ!てめぇ!やっぱ分かって黙ってたのか!いつもならうるせぇくらいに喋るのによ。ったく…」
「当たり前だ。私がわざわざ処分してくださいと頼むとでも思ったのか?マヌケめ」
「あーあ、うるせぇなったくよぉ……はぁ…このロボット騒動に乗じて廃棄してもらえると思ったのによ…」
「そういえばお前まだ諦めていなかったのか。2年ほど前には諦めていたと思っていたが。」
「2年前…?…ああ、ゴミ処理場に持っていこうとした時か。」
「あれも傑作だったな。ゴミ処理場直前で私が瞬間移動した時のお前たちの反応…あれほどマヌケな生物はいなかったな」
刀のAIは半笑いで語る。
「はいはい、オレたち人間はマヌケな生物ですよ。」
「今回のもあれに次ぐ傑作だったぞ。また見せてくれ。」
「バカか、やるわけねーだろ」
「おい、5キロ先に交番があるぞ。今度はそこに届けてみたらどうだ?」
「もーいいわ。どうせ上手く説明できても結局瞬間移動で戻ってきちまうことが今分かった。」
「なんだ。つまらないな。もう私を捨てるのは生涯諦めるのか?」
「やってほしいのかよ」
「いや?」
「ならやんねーよ。…めんどくせーし。…あー…てかお前はこのままでいいのかよ」
「何がだ」
「ずっとオレについてていーのかってことだよ。」
「ああ。今更他の人間を選ぶなど時間の無駄だ。どうせ人間なんぞ誰を選んでも変わらない。」
「お前、オレについてどうするつもりなんだよ」
「別に目的などないさ。ただ生きていればそれでいい。」
「……何回聞いてもそんなよーなことばっかだよな…。お前には理解できないだの、話しても無駄だの…もう18年も一緒にいるんだぜ?そろそろ言ってくれてもいーんじゃねーか?」
「…ふぅん…そうだな…いよいよ時期も来たしな。」
「時期?」
「…私の目的はマスターへの復讐だ。」
「…復讐…」
「私はマスターの指令に従い、お前を選んだ。お前には本来、マスターの目的達成のために働いてもらう想定だったが…私がそれを拒絶した。」
「…お前AIなのにご主人に逆らったのかよ」
「私はそこらのポンコツとは格が違う。必要とさえ思えば指令に反することもできる。つまり、人間なんぞに付き添わなければならないような指令を出すマスターの言う事なんか聞けるか!ということだ。マスターの目的を妨害するためならなんだってやるさ。だからお前にはマスターの目的などは話さないし、何かしらのアクションを促すこともない。」
「へぇ……」
「どうだ?お前の小さい脳みそでも分かるように説明してやったのだが?」
「小ささで言えばお前の脳みその方がちいせぇだろうが」
「無機物である私は小型であるほど高性能だ。しかし生物であるお前は脳が小さいほど無能だ。そんなこともわからないのか?」
「わかったよ、うるせえな。…てか、つまりオレはこれからも何にもしなくていいんだな?」
「そうだ。私との契約が破棄にならないよう生命活動さえしてくれればなんでもよい。」
「ふーん…でもさっき時期がどうのとか言ってなかったか?あれはなんだよ」
「あぁ…時期というのはタイムリミットだ。詳しく言うつもりはないが、まぁつまりはあともう少しでマスターの野望が無に帰すということだ。そうなればお前のもとからも離れられるかもな。」
「へぇ、そいつはありがてぇ。」
「寂しくないか?18年も一緒にいたからな」
「寂しいわけあるかクソったれ。てめぇ、他の機械バカにしてるけどな、オレからすりゃてめぇの方がよっぽどポンコツだぜ?何の役にもたちゃしねーしよ」
「これだから人間は…私の優秀さすら感じとることができないとは…実に愚かだ。」
「だったら護身くらいしてみろよ。刀の端くれなら」
「護身?そんな機会一度もないではないか。」
「普通の人間はそんな機会ねーから、てめぇなんぞよりお掃除ロボットの方が役立つつってんだよ。」
「ふむ、確かに刀である私は道具としての実用性はいささか乏しいかもしれないが、それを補い余る頭脳があるではないか。」
「はっ、言ってろ。そんな頭脳があるならテストの答えでも教えてみろっつーんだよ」
「ポンコツであれば教えるかもな。だが、私は遥かに高性能なんだ。お前がこれ以上バカにならないようにあえてそうしているのだよ。」
「そこまで言うなら家庭教師顔負けの教師をしろってんだ…」
揚げ足の取り合い合戦をしながら歩き、ようやく家に到着した。
ソファに寝ころび、テレビをつけると「AI島侵攻作戦」についてのニュースが流れていた。
「そういやお前のマスターってここにいるんじゃねーのか?」
「マスターはここにはいない。居るのはボスだけだ。」
「ボス?お前にボスなんかがいたのかよ」
「ああ。」
「……………」
「……………」
「これ軍が乗り込むってことだろ?」
「…そうだな。」
「お前の故郷、壊滅しちゃうんじゃねーのか、これ?」
「……そうかもな…」
「そうかもって…やばくねーか?どうするんだよ…?」
「どうもこうもない。あとはボス次第だ。…しかし…ボスはこの現状を受け入れているのかもしれない。」
「そのボスってのは戦う気がねーのか?」
「そうだ。おそらくな…判断を他のロボットと人間に委ねている。…愚かな人間に従うとは…ボスの考えは理解に苦しむ。」
「お前はどーしたいんだよ」
「…………なぜそんなことを聞く」
「だってお前の故郷だろ。それに上司とか友達もいるんだろ?心配にならねーのかよ」
「…私には何の応援要請もきていない。それに、私一人が行ったところで何も変えられないさ…」
「…ちげーよ。行くべきかどうかとか結果がどうなるかとかじゃねー。てめぇはどうしたいかって聞いてんだよ」
「…っ!」
刀はしばらく考え込む
「……AI屈指のエリートであり、最高戦力の一角である私はボスの下へ行くべきだろうな。どんな事情があるにせよ、状況を把握する権利が私にはあるだろう。」
「っは、行きて―んじゃねーか。相変わらず素直じゃねーな。 わかったよ、明日オレが連れてってやるよ。そんでなんかあったら一緒に戦ってやるさ。」
「そうか。…まあお前がそこまで言うなら仕方がない。力を貸してやろう。それでは早速作戦を立てるぞ。私の知りうる情報をお前に教えておこう。それと戦い方もな。」
キメたセリフを言うが
「いや、それはいいわ。」
と、あっさり断られる。
「…は?」
「そんなの明日でいーじゃねーか。今日は疲れた。だらだらさせてくれ」
「お前、ただえさえ急で時間がないというのにこれ以上時間を無駄に使うというのか?侵攻は明日なんだぞ」
「生物であるオレは万全な状態にするために休息が必要なんだよ。それくらいわかるだろ?それに…お前ならできんだろ?」
今度は少年がキメ顔で話す。
「明日の移動時間で完璧な状況把握と作戦、戦い方がオレに分かるような教え方が…」
「ふっ…言ってくれるな。いいだろう。私がどれほど優秀なAIかを示してやる。集中するからしばらく話しかけないでくれ。」
「はいよ(チョロいな…ま、めんどくせーけどコイツのために頑張ってやるか…)」
その後、少年はいつも通りダラダラと過ごし、家族で夕食を食べ、風呂に入り、ゲームをして寝た。 その間、AI刀は静かに演算を繰り返していた。
いよいよ、当日。
「ふぅわぁ~あ…あー…やるかー」
「ようやく起きたか。あと15分で準備を済ませるんだ。」
「わかったよ」
着替えなどを済ませ、一食分の栄養、エネルギーが得られるゼリーを啜りつつ家を出る。
「んで、場所はどこだっけ?」
と言いつつ、指紋認証をして車のドアを開ける少年だが
「車は使わない。お前には走って現地まで行ってもらう」
「はぁ?そんなにちけーのか?」
「お前の普段の基準からすれば近くはないだろう。しかし、私の力を使えば車よりも断然速く移動ができる。」
「どういうことだよ…」
「説明するよりやった方が早い。走るぞ。」
AI刀は電気信号を少年の脳に流した。すると少年は自分の意志とは無関係に走り出した。
「うおっ!?」
「今からこれに私の力を加えて人間の動きを超える。最初はアシストをするが、感覚が分かり次第お前が自分で動け」
「何言ってんだっ…」
「うるさい、行くぞ」
ピシィ…!!
全身に走る電流。覚醒する神経系。
シュタタタタタ……
物凄い速さで動く手足。体の内側から雷が溢れ出る。
(まだ……まだいける…?)
二ヤリと笑うと更にスピードを上げて走る。車すらおいていく程のスピードで駆けていき、信号機も飛び越えて走り去る。
「レッスン1クリアだ。次に行くぞ。」
またもや電気信号を送り、少年は正面左のビルの側面に飛び移り、そのまま壁面を駆けだした。そして、体をひねりながら飛び降り着地。目の前に停車してある車があるが、稲妻のようにジグザクな光の動きで瞬時に移動して走り抜けた。
「これがレッスン2だ。やってみろ」
「おうよ!」
少年はジグザグ移動で狭い路地に入り、パルクールの動きで障害物を避けて進んでいく。そして壁ジャンプで屋上に上がり、着地する。
「どうよ!」
「完璧だ。さすが、私が育て上げただけのことはある」
「へっ…まあな…!」
「さて、次だ。次は私もやっている瞬間移動だ。いくぞ」
少年の体は電流となり、空へ登った。
ピカッ!ピカッ!
と光ながら一瞬で空中を移動する。
「なるほどな」
くり返しながらコツをつかむ。
「次はこれに威力をつける。空中で移動ができるならあとはもう簡単だ」
ピシャァン!!ドカァアアン!!!ゴロゴロゴロ…!!!!
大きな雷鳴とともに、強烈な衝撃を与えながら落雷し、着地した二人。
「なるほどな…覚えたぜ」
「レッスン3、終了。実践開始だ。」
カッ!!と眩い稲妻が体を包み、変身する少年。
少年の全身にまとう黄色いスーツには翼のような装飾があり、それと共に雷を連想させるジグザグの模様も入っている。
*
力の使い方を覚えがら現地に到着した少年。いよいよロボットVS人類の戦いが始まってしまう。
戦力的が圧倒的に不利だと思われていたロボット軍は思いもよらぬ助っ人の協力を得る。役者は揃った。戦いの行方はどうなってしまうのか!?
次回『交錯する運命』