最終章-15「隠れたセフィラ」
「Odd I's」
最終章「オッドアイの英雄」
第51話「隠れたセフィラ」
「さぁ…いよいよ到着だ…」
「げぇ…こんなとこ入んのかよ……」
自転車を押して山道を進んできた少年。その目の前には古い「立入禁止」と書かれたフェンスがあった。
「この先に、送電施設の跡地がある。廃墟とはいえ、屋根付きの建物があった方がいいだろう?」
「さぁ…どうかな。虫が出なけりゃいいけど……」
シャキン……!
少年は刀でフェンスを切り裂き、先へ進んだ…
*
「もう!こんな汚ったねぇところで寝なきゃなんねーのかよ…!」
「…文句を言うな。追手が迫ってきていたら寝ることすらできないんだ。寝られるだけありがたいと思え。」
「そうかもだけどよ……は~…なーんで急にこんなことになっちまったんだろうな……」
ドサっと荷物を置き、適当に腰かけて携帯を見る。
「おい!日が沈む前に寝床の準備をしておけ!日が沈んでも照明は点けられないんだからな!」
「疲れたから休憩だよ…ちったぁ休まねぇと心も体ももたねぇよ……」
「まったく……」
疲れた顔でSNSなどをチェックする。
友人などからの安否確認が数えきれないほど来ているが、返信する気にはならない。
「………っ!おい!これ知ってるか!?」
「ん……これは……!?」
刀に動画を送信した。
その動画とは、あちこちで拡散された瑚透美のメッセージ動画である。
「………なあ…オレたちもAI島に行けばなんとかなるんじゃねぇか…?」
「…なんとかってなんだ?」
「え…この人とか…あとネットで言われてるバラレンジャーってヒーローが助けてくれんじゃねぇのか?」
「このたわけが!!お前はどうしていつもそうなんだ!」
「っ!?なんだよ…いきなり…」
「なぜ疑おうとしない?なぜ自分の頭で考えない!?この女が敵か味方かすら分からないんだぞ!?」
「だってよ……………… 」
「そら見ろ。何も考えていないから言葉が思い浮かばないんだ。いつも私や誰かの意見に踊らされている…勉強のことなどに関しては百歩譲ってまだいいが、今はお前の命が掛かっている状況だぞ!?適当なことを言うな!少しは自分の頭で考えて見ろ!」
「っ!!なんなんだよ!?オレが何か考えてもどうせお前が否定するだけだろ!!だからいっつもお前に聞いてきたんじゃねぇかよ!オレに考えてもらいたかったらなぁ…お前はずっと黙ってろ!!オレがこうなったのはお前のせいだからな!!」
にらみ合いが続く。
「ちっ…」
少年は扉の方へ歩く。
「…何もできねぇのはてめぇの方だからな…!ただの棒きれのくせによ…!」
バタン!!
強く扉を閉めて出ていく…
*
(ったくなんなんだよ………)
少年はズカズカと夜の山を散歩している。
(………あいつなんでいきなりあんなことを………オレがこうなったのはあいつのせいだろ……あいつなんかいなきゃ…………)
そんなことを考えながら歩き続ける。
そして、自分の中で思考が行き詰まり、それに伴って足も止まる。
ふと空を見上げると星が綺麗に光っていた。
「………………はぁ………………あいつがいなくなっても変わんねぇか……オレが変わらなきゃ…………ったく……この星空に免じて許してやるか……オレも子供っぽかったしな……」
踵を返し、戻ろうとした瞬間…
ガサッ…と、何かが動く気配を感じ、臨戦態勢になる少年
(なんだ…獣か…?……早くかえ…)
バッ!!
「!?」
背後から大きな塊のようなモンスターが現れた!
ドッ!!ゴキィ…!
「ぐああああ!!!?」
振り下ろされたハンマーのような腕を、両腕で受け止める少年。
しかし、この状態ではちょっと強いだけの人間である。骨が折れ、早速かなりの劣勢に追い込まれてしまう。
「はぁ…はっ…!ってぇ……!!」
痛がる少年の前で体をぐねぐねと動かすモンスター。
スライムのようなゴムのような弾力を使い、腕を伸び縮みさせて攻撃してくる。
「…っく…!!」
ドゴン!!
飛び退いてなんとか避けきる。
(早くあいつのとこへ戻らねぇと…!…ってかなんかおかしい……いつもに比べて力が出なさすぎる…!なにが……)
「はっ!…まさかあいつ…!?」
*
「刀を回収しました…」
「ご苦労…そのまま遮電ケースに入れたまま持ってこい」
「はっ!」
無線でやりとりをする隊員。
「ふっふっふ……やはりこいつらの能力は電気…!それらを遮断できれば能力は使えない…恐るるに足らん……(ピッ)おい、少年の方はどうだ?」
「はっ、ただいま[Unknown-6]と交戦中です。」
「勝てそうか?」
「はい、動き回られてはいますがこちらが圧倒しています。」
「そうか…やはり刀の方が本体という仮説は間違っていなかったのかもな…。ふむ…では、回収班以外の人員はアンノウンの援護をしろ!なんとしてでも仕留めるのだ!」
「はっ…ですが…刀に力が宿っているのならあの少年はただの人間なのでは…?」
「…それがどうした?仮にそうであったとしても死罪であることに変わりはない!我々にそれを確かめる余裕などもないのだ。…良いな…?奴らは我々の想像を遥かに超える力を持っている…決して油断するな!?…以上だ」
「はっ!!」
「はぁ……!はぁ……!」 (おかしい……絶対に何かおかしい…!力が…全然出ない…!…しかもアイツ……)
ブォン!!…ドゴォ!
(確実にオレを殺しに来ている……クソっ!あんだけ慎重に行動してたってのに…バレちまったってことか…!?…わけわかんねぇし今はあいつの安否を………っ!?)
ズザァ…!
スライディングで木の陰に隠れる。
「なんだ!?」
「ターゲットだ!撃て!!」
カチャ!バババババ!!!!
(クッソ…!なんだあいつら…やっぱりオレらは………)
「おい!!そこにいるんだろ!?お前何やってんだよ!?いつもの減らず口はどうした!?」
(あそこにいるってのは分かんのに…反応が弱すぎる…何が起きてんだ…!?)
「何を言ってやがる!?」
「気にするな!回り込め!!」
「くっ…!!」
銃を持った隊員が回り込んでくる。
更に後ろからはモンスターが迫ってきている。
「~っ!!おい!!お前はオレの“相棒”だろ!!!!!お前の居場所はそこじゃないだろ!!!??」
叫んでも何も返っては来ない…
ババババババ!!!
「クソっ…!……………っ!?」
ドンッ!!!………ガコンッ!!…ドサ……
銃弾を避けようと移動する少年。しかし、迫り来る隊員に気を取られている隙にモンスターの攻撃をもろに喰らってしまった。
「がっ…………!!」
廃鉄塔に叩きつけられ、肋骨が内臓に突き刺さり吐血する。
(………死ぬのか……オレ………死ぬ時ってこんな……突然なもんなんだな…………)
消えゆく意識の中で走馬灯が駆け巡る…
あぁ……死ぬんだな…オレ………
……まぁ……それでもいいか………
…あんまし…良い人生じゃなかったかもな………中学の頃からけっこうサボりがちだったし…彼女も出来なかった……親は別に金持ちじゃねーし…友達が沢山いるわけでもねぇ………アイツが生まれた時からいたこと以外は…まぁ普通の人生だった………
…辛い時もあったけど…友達とバカやってたのは楽しかったし…なんだかんだアイツとの会話も…嫌いじゃなかったのかもな………
…悪くない人生だったな………
「悪くない人生だったな……ではない!たわけ!!起きろ馬鹿!!」
「…!…お前………」
「まったく……こんな状況にならねば感知できないとはな……」
「…お前の方こそ…主人をほっぽって何してたんだよ…」
「お前の方から離れたのではないか。」
「うるせぇ…お前が急にキレるからだろ」
「………すまなかったな…私の言い方が悪かった…」
「…!…なんだよ……オレも…今はそんなに怒ってねぇよ……ってか…こっちこそ悪かった…」
「…!お前…………」
「ふ……最期に謝れてよかったよ……ごふっ………」
「見つけたぞ!撃て!!」
(振り返ってみて思うけどな………やっぱオレの人生……お前がいて良かったかもな………)
ババババババ!!!!!
「琉富!!!」
少年は体中を撃ち抜かれて絶命した。
「……………………まだだ……」
私は…お前にまだ教えてもらっていない…“漢の生き方”とやらを……
…私は以前、正義とは弱者を黙らせる力を持つ者だと言った……
この場で弱者は私……正義はこの人間どもにある……
でも…違うのだろう…?お前の言う正義は…お前にとっての“漢の道”とは…こんなではないだろう…?
ピリィ…!ピリッ!
箱の中で電気を流し、抗う刀…
もう一度見せてくれ……いや…何度でも…何度でも、お前の『正義』を!私に示して見せてくれ!!!
バチィッ!
箱から漏れる僅かな電流が、少年の心臓へと流れた…
………………ピク………!
現世と常世の狭間の『世界』
「おい!どこへ行く!!」
「………なんだよ……もう疲れたんだよ……十分頑張ったしいいじゃねぇか……」
「…漢の生き方はどうした…?お前は私に教えてくれただろう?ここで終わってしまうのが…お前の漢の生き方なのか…?」
「…漢の生き方か……そういや…そんなことお前に言ってたなぁ……」
「そうだ…私の高度な知能を有しても完璧な理解が出来なかった正義の在り方だ。まだ私は…お前の正義を見ていたい……」
「……お前………」
「…私がお前を選んだ理由は優れた知能や力があったからではない…むしろ逆…お前が何にも持たない赤ん坊だったから選んだ……その他に理由などなかった…お前でなければならない理由なんてな……」
「…………」
「でも今は違うんだ……麓取 琉富……私は君を選んでよかったと思っている…君でなければ得られなかったものを沢山得ることが出来たのだ……」
琉富「……なんだよお前…………」
琉富は嬉しそうにはにかむ
琉富「…漢の生き方か……ま、あれは確か思いつきで適当に言った気もするけど…まぁオレが目指してたのは大体そんな感じだ…。このままお前を残して死ぬのはカッコよくねぇし……そういや彼女出来たことねぇしな…!死ぬんならせめて可愛い女の子の前じゃねぇと…カッコつかねぇぜ…!!」
「ふ…、そのいきだ…まだいけるではないか…」
琉富「ははっ…まぁ正直やせ我慢だけどな……最後の一絞り分くらいの元気は出たぜ…!…ありがとな…AI棒……」
AI棒「ふっ…!さて…漢の生き様を見せつけようではないか…!…行くぞ…琉富…!!」
琉富「あぁ…行くぜぇ!!!!」
*
バチバチィッツ!!!!!!ビシャァン……ッ!!!!!!
廃鉄塔に雷が落ちる!
ドクン……ドクン……!ドクン!!
心臓が再び動き出し、電流が力となって体中を循環する!
「っ!?動いた!?」
「バカな…なぜ動ける!?」
琉富「てめぇら…随分と好き勝手やってくれたなぁ!!だが…それもここまでだ……もう仲直りしちまったからなぁ…オレらの力が合わされば…絶対に負けはしねぇ!!変身!!!!」
ビビビビビ…!!バチィンッ!!!!バチッ…バチバチィ……!!
再び落雷し、閃光に包まれて変身をする。
「くっ…化け物め…!撃てぇ!!」
バババババ!!!!
「応答せよ!今すぐ、我々のいる座標めがけてジャミングフィールド(電子の動きを抑制させる特殊な電磁場)を展開させろ!!」
「…了解しました」
カチ…ヴィイイイイイ…!!!!
シュンシュンシュンシュン!!!
琉富は高速で移動し、隊員を一人一人攻撃する。
武器を取り上げ、気絶させていく。
「アンノウン!早くこいつをなんとかしろ!!」
ブゥン!!
琉富「当たるかよぉ!!」
バチィ!!!
電気を纏った拳をモンスターに当てるが…
琉富「何!?」
ブゥン!
モンスターの攻撃を避けるために飛び退く。
琉富(こいつ………電気が流れねぇのか…!?なら、こいつは後回しだ…)
「フェニィイイイイックス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
琉富は右手の平を上に向け、左手で右手首をつかんで電気エネルギーを集中させる。
周囲に放電しながらも集まった電気が鳥の形を形成する。
琉富「AI棒を救ってくるんだ!!」
バッ!!
一度掴み、圧縮したエネルギー。それを腕を横に払う勢いで投げ出す。
ピィヤァアアアアア!!!!
稲妻の不死鳥が一直線に飛んでいく!
護送車をブチ破り、脚で箱を奪い取る。
上空へ飛翔し、ジャミングフィールドを抜ける。
妨害が無くなった瞬間、フェニックスの体は数百倍に膨れ上がり、夜空を埋め尽くした。
AI棒「でかした!ここまで来ればこの程度の物!!」
バチバチバチィッ!!!!ジジジ!!!!!
AI棒「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
バァン!!!
箱が砕け散る…!
琉富「行くぞ!!AI棒!!」
ピシャァン…!!
掲げた右腕に光速で落ちてくるAI棒。
漆黒のスーツに電気を纏った黒刀…
琉富「待ってたぜぇ…!」
AI棒「ふ…それはこっちのセリフだ…!」
ガチン…シャキィン…!
鞘を腰に装着し、刀を抜く。
琉富「漢の花道…!!」
AI棒「刮目せよ!!」
勝負の行く末はいかに…!?
次回『英雄集結』