最終章-2「届かない光」
「Odd I's」
最終章「オッドアイの英雄」
第38話「届かない光…」
ケルベロス「星ごと砕け散れェエエエエ!!!!トリシュゥウラァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
ユニコーン「破壊しろ!!!エクスカリバァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
トリシューラとエクスカリバーが莫大なエネルギーを放ちながら衝突する。
ケルベロス「ッオラァァアアアアアアアアアア……ッ!!!!!!!!!」
ユニコーン「ぐっ…!!ぐぅうぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
雄叫びを上げながら能力によって更に威力を増加させる。
互いの力量は同じに見えたが、トリシューラが次第に優勢となり、ユニコーン共々押し潰した。
ドォオオオオオオオオン…………!!!!!
余波により底が見えないほど地面がえぐれた。
地殻を30㎞ほど削り、上部マントルにまで到達するほどだった。
ほとんど威力が相殺されたとは言え、地球上に存在するどの兵器よりも大幅に上回る“余波”であった。
シュッ…!
風に包まれて手元に戻るトリシューラ
ケルベロス「ハァ……ハァ………最高……だったな……!」
ケルベロスは満足そうな笑みを最後に気を失って落下していった。
*
「はっ!…はっ!…お父さん!待ってよ~!」
「ははっ!頑張って追いついて来い!」
誰よりも近くにいたのに誰よりも遠い…
父はそんな存在だった
どれだけ手を伸ばしても、その背中に手が届くことはなかった。
でも、それでも手を伸ばすことはやめられなくて…
それは…強い…『憧れの光』のようだった……
「ねぇ!お父さんはヒーローだったんでしょ!?どんなヒーローだったの?」
「ん?そりゃもうすごかったぞ?通報が入ったらシュバババっと現場に行って一瞬で悪者を倒してたんだ!」
「いっしゅんで!?」
「そうだ」
「すごーい!僕もお父さんみたいになれるかな!?」
「一瞬で悪者を倒せるようにか?」
「うん!」
「はははっ」
父は僕の頭を撫でて言った
「父さんはな?お前や、母さんや、お前の友達なんかが命がけで戦ったりしなくていいような世界のために戦ったんだ。だから、お前も戦わなくていい。平和で、笑顔の溢れる世の中で楽しく生きてくれたらそれでいいんだ!」
その時の父の笑顔がとても印象深く残っている。
*
僕が少し大きくなると、父と会えるのは年に一度になった。
でもあまり寂しいとは思わなかった。
宇宙に行っていろんな調査をしている父が誇りだったし、その邪魔をしてはいけないと思った。
僕は僕で自分の成長のために集中が出来たし、その成長を一年ぶりに沢山話すのがとても好きだった。
夜更かしをしながら互いに目をキラキラと輝かせながら二人っきりで話した。
密度の高い時間が親子の絆を深めてくれた。
「お父さん!僕ね、かけっこでクラスで一番になったんだよ!」
「おお!すごいな!」
「お父さんと一緒に走ってたおかげかな!?皆にも褒められたんだよ~!」
「流石、おれの息子だ!お前はよく頑張る子だからな~」
「うん!」
「そうだ、勉強はしっかりやってるか?」
「うん!冬休みの宿題ももう終わらせたんだよ!あっ!そうだ、お父さんのことも宿題に書いたんだよ!」
「ん?父さんのことを?」
「うん、将来の夢っていう作文で「お父さんみたいなヒーローになりたいです」って書いた!」
「そっか…!…なれるさ…お前なら…!」
あの時の父さんの言葉がずっと忘れられない……
物心ついた時からずっと憧れだったヒーローから激励の言葉をもらえたのが嬉しくてたまらなかった。
ヒーローという職業はなくなってしまったが、それに近いことをしたいと思うようになった。
温かな心で人を助け、みなの手本となるような誇り高い生き方をしたいと思った。
それは「光」のような生き方だと思う。
それに触れると温かく…勇気を貰え…憧れる……
そんな光の生き方を目指した。
だがしかし…
強い光というのは…濃い影を産み落とす…
父の光はあまりにも強すぎた…
あまりにも強大な力を恐れた人類は父を宇宙へ追放している。
それだけでは飽き足りず、ついにその事件は起こった…
父の乗った宇宙船が謎の爆発を起こし、消息不明になるという事件だ。
機器の不調や、隕石との衝突が原因だなんだとさんざん言われていたが、そんなわけがなかった……
力を恐れた誰かが父を殺したんだ…
英雄であるはずの父を……世界を救ったヒーローである父を殺した………
…誰もが父の死を望んでいた…
父の力を不安に思う声はなくなり、父の死を悲しむどころか喜びの声が上がる始末だ。
原因について追及されることもなく、すぐにメディアでも取り上げられないようになった。世間から抹消され、英雄の伝説は風化された……
許せなかった
それだけじゃない。学校のやつらも…母の知り合いも、父がいなくなってからは急に優しくなり始めた……
その優しさに触れて人生で初めて『本気の殺意』が芽生えた。
憎い
父さんはこんな世界を護りたかったのか?
ヒーローの父が見ていたのは本当にこの世界なのか?
誰よりも称えられ、幸せに生きる権利があるのにこんな扱いを受けていいのか?
虐げられた挙句、世界に殺されて……
悔しさで涙が溢れた。
だがそれはすぐに怒りへと変わった。
怒りが最高潮になった時、何かに呼ばれるように父の部屋へと入り剣を手にしていた。
その剣を手にした瞬間、ありえない程の力が沸き上がるのを感じた。それと同時に感情のリミッターが外れ、気が付けば獣と化していた…
ユニコーンの姿で暴走し、疲れては気絶したように眠り、日常生活で怒りを溜めては暴走の流れを繰り返した…
*
ユニコーン「…………僕は……何をしていたんだろう…………」
深部で横たわるユニコーンは頬を濡らしながらポツリとつぶやいた
父に憧れ…ヒーローを目指し…光の生き方を志したというのに…
今では自分が光に飲まれる「影」となり、人々を脅かす存在になってしまっている…
ユニコーン「……情けない………」
こんなんじゃ誰にも顔向けできない……
父に誇ることなど…できやしない……
ユニコーンはゆっくりと立ち上がる。
体中がボロボロになり、一角獣の鎧は砕け落ちた。
ユニコーン「…見つめ直さないと……自分の生き方を………進むべき……道を…………」
青年は遥か彼方の地上を目指して歩き始める…
*
「………よぅ…!」
「……っ!!……なんだ…ここは……」
「…アタシらの“心の中”だ……」
「…………。…戦闘は終わったのか…?」
この場所については元からなんとなく理解していた。すぐに状況を飲み込み、少し呆れたように質問する。
「ああ…全力を出し尽くした。…サイコウだったぜ…?」
「そっか……ようやく、満たされたんだな…」
「ああ…」
「……なら、今度はワタシの番だ。すぐにでも翼のところに行かないと」
「待てよ…!」
行こうとする自分を引き留める
「…なんだよ…」
「……嘘をつくのはやめろよ……」
「はぁ?ワタシがなんの嘘をついたってんだ?」
「…お前だって楽しかったろ?」
「っ…!………楽しいわけないだろ……楽しんじゃいけないんだよ…!あんなのは…!!」
「……それが本心だ……もう分かるだろ…?」
近づいて胸を人差し指でつんとつつく
「家族を大切に思ってんのも本心だ…だけどよォ…本気出せて気持ちいいってのも………このアタシの気持ちも…本物だろ…?」
「………そんな醜い感情……ワタシには必要ない………」
沈黙が続く
「……そうか……アタシの言葉は届かなかったか……だが消える前にこの記憶だけは渡しておく……ソイツの言葉も聞いて駄目なら…それでいい……」
両手で頬を支え、額同士をくっつける
すると…自分の知らない自分の記憶が流れ込んでくる……
*
楓に誘われて一緒に下校する二人。
ワンちゃんは自転車を押しながら歩く。
楓「ねぇ、最近授業サボり過ぎじゃない?どうしちゃったの?」
ワンちゃん「なんだ、そんな話するためにわざわざ遠回りしたのか?」
楓「そんな話ってなによ!心配なんだよ…?特に体育なんて、最近一回も出てないじゃん…」
ワンちゃん「………つまんねーからだよ……ただそれだけだ………」
楓「え………」
ワンちゃん「…………………」
楓「……つまんないって皆と同じレベルに合わせるのがってこと?」
ワンちゃん「あぁ……」
楓「なるほどね~……ワンちゃん、男の子よりも全然強いもんね……」
ワンちゃん「…生まれつき強くてな…面白くなってもちょっと力入れたら終わっちまう……ここまで力量差があると技術なんかなくても勝てちまうし……とにかくつまらねぇ……しらけるしな……」
楓「だから、やらないようになったんだ……他の授業もサボるのはカモフラージュのつもり?」
ワンちゃん「まぁそんな所だ……」
楓「ふぅ~ん…」
からからと回るチェーンの音だけが響く
ワンちゃん「……もうアタシと関わんなよ……」
楓「え!?」
ワンちゃん「…楓まで不良だと思われちまうぞ……」
楓「…………………」
楓が立ち止まり、数歩歩いたところでワンちゃんもそれに気づいて立ち止まる。
楓「………ワンちゃんは……どうしたいの……?」
ワンちゃん「………………………」
楓「ウチと離れ離れになってもいいの…?」
ワンちゃん「それは………」
返答に困ってしまう
楓はじっとワンちゃんの瞳を見る
ワンちゃん「……お前に迷惑がかかるだろ……それが嫌なんだよ………」
楓「……じゃあウチに迷惑がかからなければいいんね?」
ワンちゃん「…ま…まぁ……」
楓「分かった……」
楓は何かを決心したような表情を見せる
楓「ウチ、今日はここで帰る」
ワンちゃん「え!?ここで?」
楓「また明日学校で…」
ワンちゃん「おい!駅こっちの方が近いだろ!」
楓「一駅分安く乗るからいいの!」
楓はせっかく歩いてきた道を戻ってしまった。
ワンちゃん「………………………怒らせちまったかなぁ……………」
*
その日の夜
楓から電話が掛かってくる
ワンちゃん「もしもし?」
楓「ワンちゃん?今から話しがしたいの」
ワンちゃん「あぁ、いいけど……」
楓「散歩しながら話そ?今から住所送るから、そのお店の前まで来て」
ワンちゃん「えっ!?今から散歩かよ!?」
楓「じゃあ、絶対来てね。待ってるから」
ブツ…
ワンちゃん「なんだよアイツ……」
*
自転車でお店の前まで行くと何やら声が聞こえてきた
「なんだコラ喧嘩売ってんのか?」
「嬢ちゃん、なめてんのかぁ!?」
楓「っ…!…なめてません!ここに居られると迷惑だと言ってるだけです…!」
店の前で、出入り口を塞ぐようにたむろしている男5人に絡まれている楓
いや…絡んでいるのか…?
ワンちゃん「おい!なにしてんだ…?」
楓「っ!ワンちゃん…!」
「なんだぁ?コイツの知り合いか?」
楓「ワンちゃん、こいつら邪魔だからどかしてよ…!」
ワンちゃん「はぁ?」
楓はすぐにワンちゃんの後ろに隠れる。
「テメー調子のってんな…」
男が立ち上がり、威嚇する
「ガキが調子のってんじゃねぇぞ…?」
ワンちゃんの胸ぐらをつかむ
ワンちゃん「…離せよ…」
「…っが!」
男の腕をつかむワンちゃん。
握力の強さにビビッて手を離す男
「オラ!」
蹴りを入れようとする別の男
振り上げた脚の脛に手刀を入れるワンちゃん。
ベキィ!
「ああああああ!!!」
脛を抑えて悶える男
「てめぇ!」
「なめんなぁ!」
他の男も襲い掛かってくるが瞬殺。
男たちは全員逃げて行った。
ワンちゃん「……楓…?これはどういうことだ…?」
闇夜に紅く輝く両目に睨まれる…
*
楓の思惑とは……
次回『本当の自分』