三章-8「予感」
「Odd I's」
第三章「悪の力」
第33話「予感」
AI島侵攻作戦から数か月の時が経った。
しかし争いの火種は消えていなかった。
先の戦闘で超常的な力を行使する者、彼らは[能力者]と呼ばれ、その存在は世間に知れ渡ってしまった。
炎のライダー。翼を持つアーチャー。電撃のセイバー。光のユニコーン。戦闘マシーン1・2・3・4・5(ワン:マイド、ツー:ルウラ、スリー:クーゴ、フォー:トオン、ファイブ:シリュー)
戦闘に乱入してきたこの9人。
それ以外にも竜神村爆破事件の生き残りである少女もパワーズではないかと噂されている。
世界の主要国はパワーズへの対応として軍事的介入を提案。
しかし当国がそれを拒否したことで批判や不安の声が数多く上がった。また、この選択が他国間との関係にヒビを入れる結果にもなってしまった。
さまざまな意見や考察が飛び交う中、裏では着々と戦いの準備が進められていた…
世界はいつ、どんなきっかけでパワーズを巻き込んだ戦いが起こるのか分からない状況へと陥ってしまった…
*
戦いの予感…
不安、不況、恐れ、怒り、堕落、虚偽、愚鈍……世界中の罪が溢れ出てくる…
その罪と向き合わなければならないという宿命…
背負い、闘う覚悟を決め各々が動き出す。
*
黒瀬紗良の所では…
紗良「護楼く~ん!」
ドデカい家。
その裏側にあるガレージを改造したような建物に向かって叫ぶ
すると…ウィィィイイイン…とゆっくりシャッターが上に開く。
護楼「よぉ!久しぶりだな!」
紗良「久しぶり~、これ改造して~」
護楼「どこを改造すんだ?」
紗良「見た目変えて!」
慣れたようにずかずかと入り、勝手にバイクを立てかける。
護楼「お前、ニュース見たぞ。またド派手にやらかしたな…」
紗良「へへ…ちょっとね…」
紗良は苦笑いで誤魔化す
護楼「ま、見た目は変えてやるけど他はどうすんだ?」
紗良「ん~、とにかく強くしてくれる?」
護楼「というと?」
紗良「あたしが本気で乗っても耐えられるような!」
護楼「お前毎回それじゃねぇかよ…んで、その度にぶっ壊しやがって…」
紗良「しょーがないじゃん、あたしの運転技術がすごすぎるんだもん…!」
護楼「こんのじゃじゃ馬娘が…」
紗良「うるさい…!」
ゲシっと蹴る。
護楼「いて」
紗良「前のチューンナップからけっこー経ったんだからまた強く出来るでしょ?」
護楼「…っふっふっふ…!できる!」
紗良「さすが!」
護楼「実は今大学で新しい冷却機構について研究していてな。うちのAIが導き出した予想だと…」
紗良「あ~、長くなりそうだからいいや」
護楼「む…そうか…ま、馬鹿娘に話しても無駄か…まさに馬の耳に念仏というわけだ」
紗良「さっきから馬で例えるのなんなの…」
護楼「最近、競馬にハマってしまってな。」
紗良「うわ…ギャンブルとかよくないよ~?普段から研究とか言って金使いまくってるのに…」
護楼「(ピキ…)お前のバイクにもかなりの金がかかってるんだからな?」
紗良「ひゅーひゅー…なんのことかな~?」
護楼「…ったく…ま、話を戻すとただ俺はギャンブルにハマっているわけではない。数体のAIに勝馬を予想させてその予想結果に至るプロセスの違いを調べたり、そこから発展させて経済やあらゆる事象の未来予想へとつなげることが出来ないかという研究も兼ねて…」
紗良「あー、もーいいって!じゃバイクのこと頼んだよ!あたしこれから用事あるから~」
護楼「あ、おい!…ったく……」
ロボ「ふふ…紗良さまは相変わらずですね」
護楼「まったくだ…あいつ俺の話聞いたこと無いんじゃないか?…ま…元気そうでなによりだ…よし、早速始めるか!」
ロボ「ゴロー様、今から始めてしまわれますと課題を進める時間が無くなってしまうのでは?」
護楼「あー、課題は[しぐれ]にやらせる。あいつの成長確認も兼ねてな。」
ロボ「さようでございますか」
護楼「学校の課題など学びにならん、こちらの方がずっと心が躍る。ほら[むらさめ]、速く資料を持ってきてくれ」
むらさめ「はい、かしこまりました」
*
少年と刀の家では…
自室のベッドで携帯をいじる少年
「……なぁ……」
「…なんだ…」
「これから戦争って起こると思うか?」
「……どうだろうな……そんなこと考える暇があったら勉強でもしたらどうだ?」
「うるせー、今休憩中だろーが」
「…休憩してから56分経ったぞ。もう十分だろう」
「…休憩は1時間だろ…まだ休ませろ…」
「………………」
「…………てか……話そらすってことはやっぱそうなのか……?」
「……………」
「図星かよ!おめー、けっこう分かりやすいよな…!」
ベッドから身を乗り出し、刀を見る
「たわけ!今の沈黙はお前への説教を考えていたからだ!世界のことを考える前に自分の心配をしろ!テストも近いだろう!」
誤魔化すように早口でしゃべる刀を軽く笑ってベッドに戻る。
「……………………」
「……………………」
「……………なぁ……」
「……今度は何だ…?あと数十秒で休憩は終わりだぞ…」
「…………オレらも狙われるよな…?」
「………………」
「……テスト近いけどよ……しばらく家には帰らないほうがよくねぇか?」
「………テストから逃げる口実か…?」
「…相棒…!」
「…!」
「真面目に言ってんだ……家族を巻き込みたくねぇ……どうしたらいい…?」
「…………………分かった……共に考えよう……」
*
魔女の森では…
志紀「先生!」
みどり「おー、おかえり~」
志紀「頼まれていたもの、採ってきました!」
籠に入ったキノコをみどりに差し出す。
みどりはそれを手に取って確認する
みどり「うん!ちゃんと間違えずに採れたね!上出来上出来~♪」
志紀「これは何の魔法に使うんですか…!?」
みどり「へ…?」
志紀「え…?」
お互いに首をかしげる
みどり「魔法に使うとか言ったっけ?」
志紀「え…でも…あのお鍋でなんか作ってるんじゃ…?」
みどり「…スープ作ってるだけだけど…?」
志紀「え…じゃぁ……これは……?」
みどり「スープに入れるの♪少し多めに採ってきてもらったからお家にも持って帰りな~」
魔女とは「イーッヒッヒッヒ!」とか言いながら大釜をかき回して毒々しい物を作っているのだと思っていた…
野草を採ってきても料理に使うだけ……今日は鍋を使おうとしていたから、今度こそは…!と思ったが違った……魔女のイメージがまた崩れた…
みどりが魔女ではなく、優しかったのは嬉しいのだが、「魔女」という非日常を味わえたドキドキ感というのを味わっていたのだと失ってから気づいた。なんというか…魔女なら魔女キャラを徹底してほしい…。これだと山奥でサバイバル生活しているだけの変わり者……なんというか…釈然としない感がある…
だが、それを言葉に整理出来ないためモヤッとしたまま無言で席に着く。
みどり「いや~、志紀ちゃんが来てからおつかいが捗って助かるよ~。他の使い魔たちは毒キノコでも平気で採ってきちゃうからね~…たぶんあの子たちにはおいしい匂いがしてるんだろーね?ふつーに食べてたし」
そんなことを話しながら料理をするみどり
みどり「はいっ…♪」
コト…とスープが目の前に出される。
みどり「ん?なんか元気ない?どうかしたの?」
志紀「……ひとつ…聞いてもいいですか?」
みどり「なに?」
志紀「…先生って…なにか…こう…すごい魔法とか使えたりしないんですか…?」
みどり「魔法?さっきも言ってたけど、例えばどんな魔法?」
志紀「う~ん……あっ!可愛いドレスを出したりとかは!?」
みどり「あー出来ないねー」
志紀「う~ん…不老不死の薬を作ったりとか!?」
みどり「そんな薬作れないよ」
志紀「う~ん………」
みどり「…魔法使いになりたいの?」
志紀「えっ!?いや………」
志紀はしばらく考える
必死に今の気持ちを整理し、言葉にしようとした
みどり「…魔女が使う魔法はもっとすごいと思ってた?」
志紀「…!」
みどり「ふふ…そうでしょ。あたしはこの力、すごいと思うんだけどね~。ま、子供が思うような何でも出来るような力じゃないかもね……」
ちらりとキッチンへ目をやる
みどり「この力だと火加減も調節できないしね。早く作りたくてもじっくりと火を通すしかない……このスープを作るのにも時間がかかる……志紀ちゃんにとってこの力は思ってたものじゃないかもしれない。でもね、この力にしか出来ないことも沢山あるんだよ?…それは…使ってて分かるでしょ?」
こくりとうなづく。
みどり「出来ないことなんて山ほどあるんだから、出来ることに目を向けて行こ。その方が人生楽しくなるよ~?」
みどりは笑みを浮かべながら桃色の目で真っすぐ見つめる。
みどり「ほら!志紀ちゃんが採ってきてくれた食材で作ったんだからじゃんじゃん食べな!魔法がかかったみたいに美味しいよ~?…(パクッ)…う~ん!おいし~♪」
アンシィ「おっ、また旨そうなん作ったな」
アンシィがどこからか現れ、机を登って来た
みどり「美味しいよ~はい、あ~ん」
アンシィ「あーん…うん、おいしい!って食えるかボケー!汚れただけやん!」
みどり「あははは!」
志紀「…………(ぱくっ!)…!…おいしい…!」
「「!!」」
みどり「そうでしょそうでしょ~!志紀ちゃんが頑張って採ってきたんだもん。美味しいに決まってるよ!」
志紀「うん…!」
志紀はこの出来事をきっかけに野菜にも積極的に挑戦するようになった。
トマトも頑張って食べるようになった。 母「あらっ!」父「おお!」
魔女だと思っていたけど魔女じゃない…
でも、自分の知らないことを教えてくれたり、学校では出来ないようなことを沢山やらせてくれるのはとても特別な感じがする…。
実は魔女ってこのくらい気まぐれで気軽な存在なのかもしれない……
なんせ、「魔女」という存在を知っているのは自分くらいだ。周りの人が持つイメージと違っていても事実を知っているからそれでいい…むしろ、イメージとは違う事実を自分だけが知っていることに少しワクワクしているのかもしれない。
友達と話していても、絵本を読んでいても「ふ~ん…でもわたしは本物を知ってるけどね!」って思えそう…。それってなんだか不思議で楽しい…!
みどり「明日はこの力を使った、日常生活に役立つテクニックを教えてあげる♪動きやすい恰好で来てね~」
志紀「…うん、分かった!」
*
紅葉探偵事務所では…
楓「時差ボケはもう取れた~?」
ワンちゃん「あぁ…もうすっかり」
楓「もっと長い事かかると思ってたけど以外と早かったね」
ワンちゃん「まぁ肝心の戦闘で苦戦しなかったからな…ほとんどが移動だった」
楓「ふぅ~ん……やたら変なお土産が送られてくるからそうなんだろうなとは思ってたけど何にもなくてよかった…」
そんな会話をしながら事務仕事を進めていく。
昼が過ぎ、丁度小腹が空いてくるぐらいの時間…
楓「はぁ~…!やっと終わった…」
ワンちゃん「お疲れ……これでひと段落か?」
楓「うん…明後日に蜂の巣駆除の依頼が入ってるくらいでそれまではもう暇だね」
ワンちゃん「そっか…じゃあ今日は早めに上がるか?」
楓「……その前に少し話さない?」
ワンちゃん「? 話ってなんだよ…」
楓「まぁまぁ~お茶菓子もいっぱいあるんだし、ちょっと減らしていこうよ~」
ワンちゃん「…ふっ…それもそうだな」
外国のバラエティに富んだお菓子をつまみながらお茶をすする…
楓「…………………ねぇ…」
ワンちゃん「…ん?」
楓「…ドラゴン狩りに行っている間、ライオンのこと話してくれたでしょ?あれからあの時の出来事を色々整理して考えてみたんだ…」
ワンちゃん「…おう…聞かせてくれよ。」
楓は語り出す
楓「あの誘拐事件を調査した日…畑を荒らし、人を襲った獣を追跡して謎の施設を発見…。その時にいた氷のライオンは実は事件とは無関係。その謎の施設は政府の研究施設だった…。ここまでは合ってるよね?」
ワンちゃん「あぁ…恩実さんの話だとそうだ。あそこの職員づてにスカウトされたってんだから、あそこが政府の物ってのもまぁ合ってると思う。」
楓「ふぅん…ワンちゃんはその施設に近づいた時、護衛ロボットに射殺されそうになったんでしょ?」
ワンちゃん「まぁ…あれくらいじゃ死なねぇけど…撃たれたな。」
楓「普通はあんな弾丸が当たったら死ぬの!…しかも警察側の人間がいたのにも関わらず銃を撃ってくるだなんていかれてる…。それだけじゃない…その夜にワンちゃん達が忍び込んだら施設ごと爆破…あとで調べてもどこにも事件として載ってないし、九頭堀さんに聞いても調査はしてないって…。そこまでして守りたい秘密があるってことだよ。誘拐事件と結びつけるのなら…倫理を無視した人体実験を行っていたとしてもおかしくはない。」
ワンちゃん「なに…?」
楓「何を研究しているかも分からないし、今どこにあって、どんな権力者が関わっているのかも分からない…。そして…おそらくそれを探ったら消される…冗談じゃなくね…。この社会の裏側とも言える秘密に触れているのはごく少数…そしてその人物に共通しているのが…」
ワンちゃん「ゴクリ…」
楓「[能力者]だと言うこと。」
ワンちゃん「……パワーズか…」
楓「おそらくこの秘密を知ってしまったと思われるのはライオンとワンちゃんと…もしかしたら警察の九頭堀さん。この3人くらいのはず。ロボットさんたちはあの事件の後すぐに解雇されたから知らされてないと思う。でも、警察に残ってる九頭堀さんは口止めや、調査が行われない理由として知らされていてもおかしくない。…でも、近づいてきた人間を問答無用で射殺するようなとこが簡単な口止めだけで生かしておくとは思えない。ならどうすると思う?」
ワンちゃん「ん~…口止め料をマシマシで払うとか?」
楓「そんなわけないでしょ。秘密を知られてるなら抹殺するに決まってるでしょう。」
ワンちゃん「聞いといてなんなんだよ…でも、ワタシ達、殺されるどころか仕事までもらって報酬もガッポリもらったんだぜ?」
楓「そうね…ここでさっきの話に戻るわよ。さっき、秘密を知ってる人の共通点がパワーズだって言ったよね?」
ワンちゃん「あぁそうだな…」
楓「パワーズのあんたらは…簡単に殺せないってことよ。」
ワンちゃん「…殺す気はあるのに出来ないってことか?」
楓「そう。物理的にも難しそうだし社会的にも難しい…。それに、もしかしたらその力を利用できるかもと考えてるかもしれないわ。だから、今後、あなたは命を狙われるか、その力を利用されるかどっちかになるかもって話…!」
ワンちゃん「………………」
楓「……今、世間はかなりピリついてる…。ロボットの撲滅運動で過激な思想が広まって、さらにはそこでパワーズの存在が世間に知れ渡ってしまった…。ネットでもいろんな噂が広まってるし、他国の政治家も能力者に対して攻撃的な意見の人ばかり…今にも戦争が始まりそうだわ……」
ワンちゃん「……そうだな……」
楓「…この事態を丸く収めることが出来るのだとしたら、そのパワーズが積極的に国や社会の役に立って、認めてもらうことしかないと思うの…。ワンちゃんのこと…昔からすごいと思ってたけど、今は冗談抜きで世界を変える力を持ってると思う…。これからの行動は特に慎重になって……」
楓はいつになく真剣で憂いを帯びている。
ワンちゃん「……分かったよ…慎重に行動する。」
楓「…約束できる…?」
ワンちゃん「約束するよ…」
楓「……………」
約束すると答えたのに楓の表情は変わらない
ワンちゃん「なんだよ…まだ心配事があんのか?」
楓「…!…心配事…そういえばもう一つ、言おうと思ってたことがあるわ。」
ワンちゃん「なんだ?」
楓「ユニコーンのことよ…」
ワンちゃん「あいつか……そういやあいつAI島侵攻作戦の時にもいやがったな…何か分かったのか?」
楓「ユニコーンは世界の各地で突然現れては消えるを繰り返しているらしいわ。目的は不明で神出鬼没。故意に被害を出そうとはしていないみたいだけど暴れ回ってるらしいわ…。ユニコーンは、他のどのパワーズよりも危険視されてる…。今までの話も踏まえるともしかしたら…」
ピリリリリ…!
ここでワンちゃんの携帯が鳴る。
画面をタッチし、耳に当てる。
「コードネーム[ケルベロス]、君に新しい依頼をお願いしたい…」
それは…ライオンと再び共闘し、ユニコーンを討伐せよとの依頼だった…
悪い予感ほど的中してしまう…
もしかして…もしかして……
そんな不安が全てあり得そうで…それがまたどうしても怖い……
どうか……どうか……最悪なことにはなりませんように……
しかし現実はそんな想いを知ってか知らずか、そう思っている時ほど逆の結果になる時がある…
まさかこの電話が新たな争いの扉を開けてしまうとは思いもしなかった……
次回『龍の娘』