三章-6「一石二兆の銀拳銃」
「Odd I's」
第三章「悪の力」
第31話「一石二兆の銀拳銃」
何か事件の手がかりがあるかもしれないな…
そう考えて、脚に触れたものを手に取る。
服……?
そう思った。
なぜすぐに服だと分かったのか…
ぐずぐずの何かの中に芯のような堅い枝のような物がある。それを布越しに触っている…?
この細さ…まさか腕…!?
っ!?これは…!!
触っていくと胴体のような物がある
そして腕のエンブレム…
そう…これが服だとすぐに分かったのは同じ制服を着ていたからだ……
脚は……無い………
頭は……あっ……
ぐらん!…ポチャ……
……取れた……のか…………
陽介(この液体…非常に危険な液体だ…普通の人間ならすぐに皮膚が溶かされるだろう……。ここから出ることは出来ず、声も届かず、脚から段々と溶かされ、激しい苦痛と恐怖が死ぬまで襲い続けてくるのだろう………
「…お前は……いつまで生きていたんだ……?」
持ち上げたぐずぐずの身体に問う
ブチブチ……ボチャン…!
腕と胴体がちぎれ、掴んだ腕以外の部分が下へ落ちた
陽介「…………変身……」
ダンッ!ダンッ!!ダン!ダン!ダン!!ダダダダダダダダダダ!!!!!!!!
モンスター背中から弾丸が飛び出し、ボロボロになった皮膚をブチ破って変身した陽介が出てきた。
ギュォオオオオオオオオ!!!!!??
陽介が陸に着地する。
重厚なブーツが地面に触れる音から始まり、降下の勢いでジャララ…と金属がぶつかり合う音…
シュッ!と、腰の後ろに付いたホルスターに二丁拳銃を仕舞う音…
苦痛の悲鳴を上げながら、陽介に向かって大口を開けて突進してくるモンスターの音…
カッッッ!!!!!
鎧の奥に光る銀の魔眼が開眼。その背後には8つの首を持つ蛇がもれなくモンスター(カエル)を睨む。
肉体の制御権を奪われたかのように静止するモンスター。その間に7体の蛇が右手へ、1体が左人差し指と中指の間にシュルシュルと移動する。
視界を覆いつくすほどの巨躯が陽介に巻き付くほどに小さく変化していき、鱗と尾の鋭利さを残し、最後にはリボルバーと弾丸へ変化した
ガチャッ!…スッ……キンッ…!
シリンダーに装填し、構える
陽介「fuck you(くたばれ!)…」
ダァンッ!!!バbbbbbbbbbbbbbbbb!!!!!!!!!!!!!!!!
放たれた弾丸はモンスターに命中した瞬間、『空間の壁』に当たり跳ね返る。
角度を変えて飛んだ弾丸はモンスターの肉壁を貫いた。
その跳弾が何度も続く。
狙った獲物が粉々になっても…
塵すら残さないほど…
何千…何万…何億回と…!!
それが一瞬で起こるため、弾丸の描く軌道は幾何学模様の花火のように美しい残光を見せる
約数兆回の跳弾を繰り返し弾丸と共に対象は消える。
クルクルと銃を回し、腰横のホルスターへ仕舞う。
陽介「………………………………」
静かになった霧の濃い湖畔でしばらく佇む…
ただ………
気に入らなかっただけだ……………
*
警察署 屋上
陽介「…っふ~~……」
「九頭堀さん!」
室外機の隅に隠れてタバコを吸っている陽介
「またこんなとこにいたんすね……署長が呼んでますよ。先日の事件のことについて話があるって……」
陽介「………………」
「……九頭堀さん?」
陽介「…吸い終わったら行く…戻っていいぞ…」
「…はい…それじゃぁ……」
呼びに来た後輩がいなくなると、携帯を取り出し女の子に連絡をする
陽介「あ~もしもし?…うん……今日空いてるか…?……じゃぁまた仕事終わりにな………」
*
陽介「失礼します…」
署長「九頭堀……ま、座ってくれ」
陽介は署長の机の前にあるソファにドカッと座り、腕を組む。
陽介「なんですか…話って……」
署長「…湖での調査…ご苦労だった。お前の報告通り、激しい戦闘の形跡があった。…人間を食っていたと思われるモンスターのものと思われる肉片も僅かだが採取できた…。」
陽介「おれが嘘をついたことがありましたか…?」
署長「…お前のことを疑っていたわけではないが…その……さすがに跡形も無く消し去ったなど、まさか想像もできないのでな……」
陽介「…………」
署長「それはいいんだ……この事件のことなんだが…分かっていると思うが、他言無用だ…。」
陽介「…分かっていますよ…口固いのは知っているでしょう…」
署長「……行方不明になった調査員の家族にも別の理由をつけて話している…」
陽介「…そうですか…」
署長「…他の課のやつらにも厳重に口止めをしておいたが…何か聞かれても何も答えるなよ…いいな?」
陽介「…………おれは言う気はありませんが…いつかバレますよ…こんなこと……」
署長「……………………」
陽介「……おれのせいにならなきゃいいですけどね……話は終わりですか?終わったんなら帰ります…」
署長「…待て…!!」
陽介「………なんです…?」
署長「……私もこんなこと…本当はしたくないんだ…!…だが…!……ある情報を知ってしまってからはこうした方が正しいとさえ思えるようになってきた……!…九頭堀陽介……君に聞きたいことが一つある……君は……私達人間の味方か…?」
陽介「…………言ってる意味がよく分かりませんね……おれが人類の敵だと…?」
署長「……今回の君の報告が本当だとしたら…君は人間だろうがなんだろうが消し炭にできる超兵器を持っていることになる……AI島侵攻作戦の際に出現し、世間を騒がせた能力者たち…通称「フィーンド(悪魔)」…君はその仲間なんじゃないのか…?」
陽介「…おれがフィーンドの一員だと…?…はっ…!おれは国家権力の犬ですよ…。力を持っているのは事実ですが…平穏に暮らすためなら命令に従い続けますよ……つまり、おれを見捨てない限りおれは人間の味方です」
署長「そうか…!…分かった…、私は君を見捨てない。これからもよろしく頼むよ!」
署長は陽介に近づき、肩をバシと叩く
陽介「…はい……。また何かあったら呼んでください…この労働環境、けっこう気に入ってるんす…仕事があれば…こなしてみせます……」
バタン…
ドアを出ていく
*
タバコに火をつける
陽介「…っふぅ~………」
利用されてるだけだってのに…ちょっと嬉しくなっちまった自分が嫌いだ………
人間の敵とか味方とか心底どうでもいい……事件のことだって…世界のことだって……
……心の中に『カラ』がある………
……何もない……何をしても満たされないようなこの感覚………
誰かに必要とされて初めて生きる意味を自覚している……
仕事が無ければ…任務がなければ…おれにしか出来ないようなことが無ければ生きる意味なんて何も無い………
あの時…全てを持って行かれてしまった……あの時…じゃないか……生まれた時からきっと………何もかも持って行かれちまったんだ………分け合って生まれてくるはずなのに……同じなはずなのに………
女「お待たせ~、待たせた?ごめんね~」
陽介「いや、いいよ…行こうか」
この心の隙間を埋めるために女を抱く……
酒を飲んで思い出を忘れる……
タバコを吸って気を紛らわす……
なんとなく死なないように快楽に溺れ、仕事をして刹那的な生きがいを手に入れる…
クソったれな人生だ……
思えば思う程むなしい人生だ…
続けたいとは思わないのに死ぬ勇気もない…
誰か殺してくれとも思うがそんなの怖すぎる…
結局のところ、だらだらと生き続けることしかできない…
唯一の救いなのが、酒・タバコ・女なんかの快感を得られることだ。
女「ね~この事件みた?家族や近所の人を殺害し、その後焼身自殺だって~怖すぎ~!」
陽介「おいおい、せっかくの楽しい時間なんだからそんなの見るなって。おれに仕事のこと忘れさせてくれよ」
忘れること…考えないこと…それがおれの生きる世界で最も大切なことだ…
言われたことをやればいい…
残りの寄生虫がどうなったのかなんて知らなくていい…
どんなことに使われて、どんな研究がされてるなんてことも考えなくていいんだ……
楽しそうに笑う女の子3人組とすれ違う。
………関係ない………
誰がどうなろうが……知ったことではない……
*
そう…
例えすれ違った相手が敵だったとしても任務外なら関係ない。
女の子が怪しい男に絡まれたとしても関わる理由などない。
その男がたとえ寄生虫に蝕まれていたとしても、そんなことは知る由もない。
九頭堀陽介、この男は正義の味方でもなんでもない。どれほどの罪に穢れようが、世界が負に傾こうが、どうすることも出来ないのだ。
世界に変革が起きる時、悪の力が栄える時、
それを善き方向へ導き、正義の光を示す者こそが『ヒーロー』となる。
彼はヒーローではない。だが彼女たちは…?
次回『高嶺の花道』