三章-5「寄生虫」
「Odd I's」
第三章「悪の力」
第30話「寄生虫」
九頭堀陽介を含め特殊部隊の数名が集められた。
防音の会議室に集まり、進行役の男性が話を始める。
「…君たちが集められたということは今回の件は世間に公表できない極秘任務だからだ。例にもれず、これから話す一切の情報を外部に漏らすことのないよう、お願いする。…それでは早速、事件の概要を説明する。」
スクリーンに画像が映る
「「!?」」
「これはとある男性の脳みそのスキャン画像だ。…見ての通り、気色の悪い虫のような物が脳みそに絡まっている。この男性は翌日、病院を抜け出して行方不明になった。」
次の画像が映る
行方不明者数 90名以上
「この数字は約3か月の間に行方不明になった人数だ。先程の男性が住む都市では異常なほど行方不明者が出ている。そして、調査の結果行方不明者が最後に向かったのはこの湖だということが分かった。」
失踪場所は湖
寄生虫の研究資料が表示される
「…どうやらこの寄生虫は宿主をこの湖へ誘導できるらしい。水のある所や、他の湖ではなく、ここへだ。 これはまだ推測の域を出ないが、研究者によるとこの寄生虫は人間の脳ならかなりの精度で操作できるかもしれない。とのことだ。」
「では何故、この湖へ誘導するのか。…その答えはまだ分かっていない。しかし、調査へはもう入っている…。先日、調査員5名がこの湖へ調査に行き…未だ…連絡が取れていない…。」
「「!!」」
「そこで君たちの出番というわけだ。この湖の調査を行ってもらいたい。…この湖の近辺では霧が濃く、視界も悪い。どんなモンスターが潜んでいるかも、どんな危険があるかも分からない。くれぐれも、慎重に調査を行ってもらいたい…。極秘任務であるということも忘れないようにな。」
陽介「ここへは武装して行け、ということですか?」
「あぁ、もちろんだ。ここは人間がほとんど立ち寄らない場所でもある。どんな野生動物がいるか分からない。武装と発砲を許可する。必要な物があればこちらで準備する。…ただし、戦車のような手で持ち運べない武器などに関しては必要性を確認してからとなる。…他に何か質問は?」
「衛星や、設置カメラなどから湖の様子は確認できないのですか?」
女性隊員が質問する。
「この湖は木々に囲まれている…さらに、霧も濃いため視界も悪い…。近くへ行かなければ様子は分からない。」
「……ふむ…」
「…………他に質問は?」
「…質問よりも、まず説明だろう?まだ、話し終わってないだろう…」
おじさん隊員が言う
「…あぁ…説明はまだ終わっていない。君たちの任務は湖の調査だけではない。寄生虫の…始末もしてもらいたい…」
「「…………」」
「始末」という言葉に緊張が走る。
このメンバーでの任務でごくたまに使われる言葉。
この言葉の意味はとどのつまり…暗殺…
「冒頭で男性が寄生されたと言ったが…どこでどのように寄生されたかについてはもう調べがついている…。」
男女の画像がスクリーンに映る。
「…行方不明になった人物はもれなく、このどちらかの人物に会っている。そして、ほぼ間違いなく性行為をしている。…おそらく、この寄生虫は生殖器から体内へ進入し、脳へ到達後、成長して洗脳する。…この男女が寄生虫をバラまいているという証拠はないが、間違いなくクロだ。これ以上、被害者を出さないためにも…これまでのことを調査するためにも…こいつらは始末しなければならない…。方法は任せるが、なるべく身体を損傷させない方法で頼みたい………出来るか…?」
*
「ターゲットの男を発見…接触し、指定座標へ誘導します…」
小型無線で連絡をとる女隊員。
酔ったふりをして男にぶつかる。
そこから会話をし、飲みに誘うことに成功。
「…ターゲットの女を発見…任務開始します……」
人ごみの中から、女性を見つめる。
その視線に気づいた女性はその白銀のオッドアイに釘付けになる。
硬化の魔眼…!!
(…っ!?か…体が…!動かない…!!??)
陽介「どーしたの、おねーさん?そんなにおれのこと見つめちゃって…」
(っ!…解けた…?)
陽介「あっ、おねーさんも寂しい感じ?おれも一人なのよー…よかったら一緒にどっか行かない?」
「…えぇ、いいわよ。いきましょ♪」
*
数時間後
(もうすぐ…到着します…)
陽介(準備OKだ…いつでもどうぞ…)
アパートの一室のドアを開け、女隊員とターゲットの男が入る。
「さ、入って……ベッドはこっちだから……」
「もう、我慢できないよ……」
部屋の奥に進むと…
パス…!
バタッ!
サイレンサーの付いた拳銃で男の眉間を撃ち抜く陽介。
躊躇いも無く引き金を引いた陽介と、初めて見る人間の死体に驚く女隊員。
部屋の少し奥を覗くと、そこには既に殺されていた女の遺体が…
陽介「任務完了だ…死体はここに置いといていいんだったな?」
「あぁ…今、回収班が向かっている。任務終了だ。あとは怪しまれないように自然に振舞いながら帰宅してくれ…」
陽介「了解」
無線を切り、拳銃をしまって部屋を出ようとする。
女隊員は先程の出来事がショックのようで動けない。
陽介「……早く出るぞ…」
「…………ぅして………」
陽介「…ん?」
「…どうして……人を殺して平然としてられるんですか………?」
陽介「……………早くここを離れよう……」
陽介は女隊員の手を取り、アパートを出た。
*
しばらく歩いた二人
「…………もう……ここでいいです…」
手を振りほどく
陽介「……そうか……」
「……………………」
陽介「おれはもう帰るからな…」
「……待って…!」
陽介「……なんだ……」
「………私も…この部隊の一員として選ばれたからには覚悟をしてた……でも……あれは人だった……ただの人間にしか見えなかった………。…それを……黙って殺すことが…本当に国のためになるの…?」
陽介「…その話はここでするな。」
「っ!…すみません……」
陽介「…まぁ、どうしても話たいのなら…ホテルにでも行って聞いてあげてもいいぜ…?」
俯いた女性の顎を撫で上げる
「やめてっ!!」
陽介の手を払いのける
「…帰ります……変なこと言ってすみませんでした……疲れただけです…。では…おやすみなさい…」
女隊員はスタスタと帰ってしまった。
その様子をぼーっと眺めていた陽介
陽介「……なんで“こう”なんだろうな……ぼくは………」
キンッ…シュボッ…!
陽介「…っふぅ~……」
*
後日 例の湖に調査へやってきた一行
「霧が濃いな……」
「…数十メートル先も見えませんね…」
陽介「湖に近づくほど霧が濃くなっているのか…?」
「これ以上進んでいいんですか?」
「…任務だからな…。位置情報は問題なし、視界が悪いだけで今のところ他に問題はない。手ぶらで帰るわけにはいかんしな…」
さらに歩みを進める一行。するとそこに人影が見える
「「!?」」
「こんな所に人が…!?」
「………………」
「行方不明の方…でしょうか…?」
ザッザッザ……
「おい、九頭堀!」
陽介「ただの人でしょう…何故そんなに怖がるんです…」
近づいてみると、それは若い女性であることが分かった。
しかも妖艶な雰囲気を纏わせる絶世の美女だ。
陽介(ほぼ全裸みたいな恰好で……誘ってんのか…?)
美女はゆっくりと陽介に近づき、身体をいやらしい手つきで触り始める。
「何してんすか…」
陽介「悪いな…誘われちまった。お前も混ざりたきゃ来ていいぞ?」
「行かないっすよ!」
「正気かお前…?こんなところで……」
陽介「いいじゃないすか、役得ですよ。クソみたいな世の中なんだ…このくらいあってもいいだろ…」
陽介は服を脱ぎ始める。
「…行きましょう…先に他の所を捜索しましょう…」
「お、おう…」
「…ま、そうだな…九頭堀、気が済んだら合流しろ…特別に休憩として扱ってやる…」
「…いいんですか…陽介さんを放っておいて……」
「…まぁあいつもバカじゃないからな…それに誰よりも強いから特殊部隊の隊長になったんだ。心配の必要はないさ…」
「………………」
*
夢中でセックスを楽しむ九頭堀。
女を抱く時間は嫌なことを忘れられる…そして刹那的ではあるが多幸感を得ることが出来る…
だからこの時間は、ぼくの人生にとって必要なんだ……
その時間を邪魔するヤツは許せない…
バァン!!
美女の腹を出現させた拳銃で撃ち抜く
「!!!!!」
陽介「確かにお前とのセックスは極上だがな…おれは女の喘ぎ声が好きなんだ…人間の女としては下の下だな…」
バァン!!
頭部に弾丸を撃ち込む。
腹に穴が開き、頭部も吹っ飛んで行ったが、残った体は引きずられるように霧の中へと消えて行ってしまった。
地面へ視線を落とす陽介。
そこには美女の体内から出てきた寄生虫がうねうねと動いていた。
陽介(やはりセックスをきっかけに寄生するつもりだったか……今回は人間じゃなかったがどういうことだ…?アイツが本体だったのか…?)
裸で考えていると…
ザパァアン!! ブォオオオオオオオオオ!!!
湖から飛び出した何者かに引きずり込まれる陽介。
触手のような何かに絡められ、丸呑みにされてしまった。
食道のような場所を滑り落ち、おそらく消化液で満たされているであろう内臓に到達した。
陽介「ぶはぁ!くっさ!!?…ちっ…!なんだここは……」
暗くてほとんど何も見えない。
液体は腰よりも下くらいまで溜まっている。
陽介「気持ち良い体験が出来たと思ったらこれか……。だがまぁ…おれを飲み込んだコイツが事件に関わっている可能性は高そうだ…なるべく傷つけないように殺さないとな…」
持っていた銃のチャンバー、マガジンの弾丸を慣れた手つきで確認し、真上に向ける。
コツ…
陽介(ん?)
何かが脚に当たる。
そうか…このモンスターが人間も丸呑みに出来るというのなら他に犠牲者がいてもおかしくはない。
何か事件の手がかりがあるかもしれないな…
そう考えて、脚に触れたものを手に取る。
服……?
そう思った。
*
20数年前、地球にやってきた生命体の侵略により、既存の生態系は壊され変化を繰り返してきた。
独自の進化を続けた種、地球外の新たな要素を取り入れ進化した種、地球の生物を利用し更なる進化を遂げた種、ヒーローからの駆逐を免れひっそりと地球に住み着いた種…
人間が地球に与える影響は無視することが出来ないほど大きい。
そして、他の様々な種を支配・管理できるほどの力を持っている。
だが、人間の力では地球に生息する全ての生物をどうこう出来るほどの力はない。
ただ生きるために最善を尽くし進化した生物は悪だろうか…?
人間にとって害であるのなら悪だ…!
そこに例外はない。害をもたらすのなら駆逐する。人間さえよければよい。これも人間という生物が生きるために選んだ最善の道だ。たとえどれだけ残虐で、自分勝手な考えだとしても……
次回『一石二兆の銀拳銃』