三章-1「おとぎ話」
「Odd I's」
第三章「悪の力」
第26話「おとぎ話」
とある山奥に一人の魔女が住んでいました。
その魔女は不思議な杖を持っていて、その杖を使うと「どんな願いも叶う」と噂されていました。
ある日、近くに住む子どもたちが遊んでいるとその内の一人が言いました。
A「おれ、新しいおもちゃが欲しいんだけど買ってもらえないんだ~」
B「ぼくも新しいゲームがほしい」
C「ぼくは勉強ができるようになりたいな」
A「魔女ってずるいよな~。魔法の杖でおもちゃだってゲームだって出せるんだもん」
C「勉強ができるようにもなるのかな?」
B「できるよ!だって魔法の杖なんだもん」
3人は自分が欲しい物や、なりたい姿を想像し合いました。
でも、魔法の杖を持っていない子どもたちがどれだけ話しても願いごとは叶いません。
すると一人がこう言いました。
A「なぁ、今から魔女の家に行って杖を盗んでこない?」
B「えぇ!?でも、森の中には入っちゃいけないって言われてるよ?」
A「ちょっとくらいなら平気だよ!お前も新しいゲーム欲しいだろ?」
B「う~~ん…」
C「ぼくは行くよ!魔法の杖があればなんでも出来るし!悪い魔女なんかが使うより、ぼくらが使った方がイイにきまってるよ!」
A「そうだよ!」
B「…よし、ぼくも行く!新しいゲームほしいもん!」
3人は魔女の家に行き、魔法の杖を盗むことにしました。
3人は薄暗い森の中へ入ると……
バサバサッ!! と、カラスが飛び立ちました。
A「うわぁ!?」
C「わっ!?ビックリした…」
B「うぅ…もう帰ろうよ…」
A「大丈夫だって、鳥が飛んだだけだよ」
一人は怖くなってしまいましたが、他二人に励まされ、なんとか進みます
すると今度は茂みの方から
ガサガサッ!! と、イノシシが出てきました
「「わぁーーーーっ!!!」」
三人はイノシシに追いかけられ、ガムシャラに逃げます。
そして、気が付くと一件の家の前まで来ていました。
看板には「魔女の家」と書かれています。
A「ここが魔女の家だ…」
C「こっそり覗いてみようよ…」
と、小さな声で話していると ギィィイイイイ……
と、扉が開き、魔女が出てきました。
魔女「おやおや、あなたたち…こんなところに何をしに来たのかな?」
えーっと……と答えに困っていると
B「道に迷ってしまったんです!お腹も減ってしまって…中に入れてもらえませんか?」
魔女「おやそうかい…なら、何か作ってやろうかね…中に入りな…イッヒッヒッヒ……」
魔女は笑いながら子どもたちを中に入れました。
テーブルに座って待っていると、壁際にしなやかで美しい杖が立てかけてあるのが見えました。
C「ねぇ…あれって」
A「よし、バレないように盗って逃げるぞ…」
3人はゆ~っくりと杖に近づきます。
魔女は大釜をかき混ぜていてこちらに気づいていません。
そろ~り、そろ~りと近づくと…
コツン! と、近くに置いてあった薪に足が当たってしまいました。
ギロリ!! と、勢いよく魔女が振り返ります。
その顔はとても怒った顔でした。
魔女「何をしているんだっ!それは、あたしの大切な杖だよ!!」
「「ひぃ!ごめんなさいい!!!」」
魔女「まさか、あんたたちもその杖が目当てで来たんじゃないだろうね!?」
B「違います!ぼくたちは本当に迷ってしまったんです!これは、綺麗だったから近くで見たかっただけです!」
一人が嘘をついて説明すると魔女は
ニコッと笑って「なら、いいんだよ」と言い、窯の方へ戻っていきました。
少し経ったあと、3人の前にスープが出されました。
魔女「ちゃんと全部飲むんだよ」
と言って、目の前に座って3人をじっと見つめます。
3人は恐る恐るスプーンでスープをすくい、口の前に持っていきます。
そして、二人がゴクリと一口飲みましたが、もう一人は勇気が出ません。
すると、スープを飲んだ二人がいきなり苦しみだしたのです
A「ああああああ!!!!!」
C「の、喉が焼けるうううう!!!!」
なんと、スープの中には魔女の作った毒が入っていたのです。
その様子を見て、一人は逃げて行きました。
その時、逃げるのに夢中で名前の書かれたハンカチを落としてしまいました。
その日の夜、布団の中でぶるぶると震えていると…
魔女「〇〇くん(ちゃん)…?」
と、自分の名前を呼ぶ魔女の声が聞こえてきました
B「わああああああああ!!??」
魔女「見ぃ~つけた!!」
なんと魔女は名前だけで子どもの家を突き止めてしまったのです。
子どもたちは、魔法の杖を奪おうとしてしまったことで魔女に殺されてしまいました。
母「…おしまい」
「こわ~い…」
母「そうね、この絵本はちょっと怖かったわね。…他に思ったことはある?」
「…う~ん……魔法の杖があったら、魔女さんはもっといろんな人の願いを叶えてあげればいいのに……」
母「…!…そうね…でも、そんなすごい力があったら一人占めしたくなっちゃうんじゃない?」
「う~ん…………」
母「四季は、魔法の力があったら何を叶えたい?」
「ママの病気が治りますよ~に!ってお願いする!」
母「うふふっ、ありがとう」
都市部から離れた集落に住む家族。
都市部から離れるほど、公共施設の質が下がり、災害等が発生した際の対処も遅れるなどの理由のため、土地代等は安くなっていく。
そんな場所に住んでいるため、あまり裕福とは言えないが3人で仲良く暮らす家族がいた。
母は、ここ数日具合が悪く一日中ベッドの上で過ごしていた。
30分以上車を走らせ、病院で診てもらったが原因は分からなかった。
そんな母を心配し、甘えているのは8歳の一人娘である。
母「………………」
「………?ママ、どうしたの?」
母「…式、もしママがいない時でも、知らない人について行ったり、名前とか住んでる場所を教えちゃ駄目よ?」
「え……うん………」
母「もし、その約束が守れなかったら…この絵本の子ども達みたいになっちゃうからね。絶対に守るのよ?分かった?」
「うん…」
母「あとね………(この世に魔法なんて都合のいいものなんてないの…もし、そんな力に頼ろうとしたらこの絵本みたいに………今のこの子にここまで伝えるのは残酷かしら……)」
うつむき、しばらく黙っている母を覗き込む娘
ガチャ!
「ただいまー」
「あっ!パパだー!」
ベッドを下り、走って玄関まで迎えにいく。
娘がいなくなった部屋で哀しそうな表情をする母。
母(…私が遺せることは…あの子に伝えられることは……あとどれくらいあるのだろう……)
*
それから数日が経った。
いつものように絵本の読み聞かせをしてもらうが…
母「ゴホッ!ゴホ!!」
「ママ!?」
母「だいじょうぶよ……心ぱいいらないから……」
吐血の数が増している。
たった数日間の間で、みるみるとやせ細り、髪は抜け、眼が白く色落ちしている…。
「ママ…死なないで……」
娘は泣きそうな声と表情で訴えかける。
母はそれを優しく抱きしめる。
母「ごめんね……ママ……ちょっとダメかも………」
「うわぁああああああん!!!!」
母「しき………ごめんね……………」
案の定泣き出してしまう娘
父「どうした!?」
娘の泣き声に驚いて仕事鞄を持ったまま寝室に入ってくる父。
状況を把握し、入院させることを決意する。
*
次の日の朝、娘にお留守番をさせて父が母を病院へ連れて行くことになった。
父「パパは、ママを病院へ連れて行くから…いつも通り、ちゃんと学校へ行くんだぞ?」
「………うん……」
父「学校から帰ってきたら、鍵を閉めて、ちゃんとお留守番してるんだぞ?」
「……うん……」
父「もし、何かあったらパパか、おばあちゃんの所へ電話しなさい」
「……分かった……」
父「じゃぁ、気を付けて行ってくるんだよ」
「…………いってきます……」
娘は通学路をトボトボと歩いて行く。
だが、母親のことが心配で居ても立っても居られず、自宅へと引き返した。
そして、父が車で出かけたのを見届けて、家に入る。
携帯を取り出し、調べごとをする。
「魔女 どこにいる」 検索
そこに出てきたサイトで目を引くものがあった。しかも、同じ場所を指している記事が他にもいくつも見つかった。どうやら、魔女は存在し噂も有力、そしてかなり有名らしいことが分かった。
娘は身支度を整え、リュックに水筒やライト、お気に入りの人形、お財布などを入れて家を出た。
何度も携帯の画面とにらめっこしながら、バスに乗り魔女がいると噂されている山の近くまで辿りついた。
*
地図を見ながら近くを歩いていると、山の中に入れそうな道があった。
が、そこには「立ち入り禁止」の文字が
横にも注意書きの看板があるが、落書きだらけなのと、漢字が多いことから読めない。
娘は道の先を見る。
だが、道は先にいくほど闇を濃くしており不気味さが漂っている。
大人であっても入るのは躊躇われるほどだが
娘は恐怖を振り払うかのようにブンブンと頭を振って、意を決して山の奥へ入っていく…
*
真昼間だというのに、山へ入ると暗闇に包まれる。
まるで光を嫌っているかのように
娘はリュックからライトを取り出す。
スイッチを入れて灯りを点けるが…
バサバサ!!! と、鳥が飛び立つ音にビックリして落としてしまう。
涙目になりながらも落としたライトを広い、道を進む。
絵本の時とは違い、魔女の家にいくための看板などなく、道もところどころで分かれている。
直感を頼りに進み続けるが、ここでライトの様子がおかしくなる。
点滅し始め、しまいには消えてしまった。
さっき落としてしまったせいだろうか…
真っ暗な森の中で、一人取り残され、戻る道も分からずにいる。
「うっ…!…うぇ……ぐす………うぇえ…………」
不安で不安でたまらない。
迷子になり、この世界は自分一人だと錯覚させられる。
もう二度と出られない、帰れない。そんな思考が頭から離れない。
「ママぁ……!…パパぁ……!!」
二人の顔を思い浮かべながら、その場にうずくまり、泣いてしまう。
でも、両親の顔を思い出して、ここに来た理由を再認識した。
娘(……泣いてちゃだめだ……ママの病気を治すんだ………ママを…助けてもらうんだ……)
娘はリュックからお気に入りのお人形を取り出し、胸に抱えながら暗闇の道をまた進む
娘「魔女さん、いたら返事をしてください!魔女さ~ん!お願いです!出てきてくださ~い!!魔女さ~ん!お願いします!出てきてくださ~い!」
娘は声を出しながら、懸命に歩いた。
恐怖に押し潰されそうになっても、どれほど寂しい想いをしても
もしそれで母親が救えるのなら、母を失う怖さ寂しさに比べればなんてことはないと、己を奮い立たせながら必死に歩いた。
だが、その声に気づいた獣が襲い掛かる…
ガサッ!!!
「っ!?」
*
気絶してしまった娘は見知らぬ小屋で目が覚める。
そして小さなお人形の妖精と出会う!?
そこはどこなのか、魔女に出会えるのか、彼女の物語はどこへ向かうのか…
次回『奇跡なんて無い』