二章-8「神子とは…」
「Odd I's」
第二章「伝説の神獣」
第22話「神子とは…」
巫女が産まれてから14年……
なつろー君と呼ばれていた竜はもういなかった。
竜神として祀られ、参拝客を幸福に導く世界で最も有名なパワースポットになっていた。
そう……幸運になれる神聖なパワースポットのはずだった……
訪れた人が幸運になるのは事実と言ってもいいほどの不思議な加護がそこにはあった。本物の力があったからこそ、参拝した者は幸福になり、それ以外の人間は幸福を吸い取られたかのように不幸になった。
だから、誰もが参拝を望んだ。
誰かと比べることでしか得られない幸福ばかりを持つ人間は何度も何度も参拝し、『幸福』を手に入れようとした。
他人を蹴落とし、誰かの上に立ってでも手に入れるような幸運・幸福。そんなもののために何度も訪れ、何度も金を払った。
本物の力の加護を受け、儲け話に事欠かない村は繁栄した。村の名前も竜神村へと改名し、超高級な住宅街へと変わった。
人の上に立ちたい大人たちが住む村となり、そんな環境で巫女の役割を担い神の子ともてはやされて育った「みこ」。
みこはたくさんの大人と関わった。村を代表し、竜神様の使いとして数えきれないほどの儀式をしてきたみこは数えきれないほどの謝意を受けた。
だが、そんなものはすぐに埋もれてしまった…
噂が大きくなってしまった分、効力が薄ければクレームが入る。
幸せにしろと一方的にすりよってきたにもかかわらず、誠意を尽くしてやっても文句を垂れる。
親からも村からも世間からも期待の眼差しを向けられる。
最初は温かいものだと思っていた……
だが、その裏には穢れた私利私欲が渦巻いていた………
友達だけは違った。
違うと…………思っていた…………
小さい時から子どもの親は意地汚いと思っていた。
だって私が「神子」だから友達になりなさいってよく聞いていたから…
子どもを使って、パパとママにすり寄る口実にしていたから……
でも…それでも良かった……何も知らない子どもと遊ぶのは楽しかったから。何も考えずに遊ぶあの時間は好きだったから…
「ねぇ!みこちゃん、私この高校入りたいんだけど…合格できるように祈ってくれない?」
「あ~いいなぁ~わたしも祈ってもらいた~い」
みこ「お祈りかぁ…あいにく祈祷の儀式は予約がいっぱいでね……」
「えぇ~友達なんだからさぁ、それくらいやってよ~」
みこ「…んー…あんまり効果ないかもしれないけど、簡易的な形式でいいならやってあげられるよ?」
「は?効果無くていいわけないじゃん。なに?適当に済ませようとしてるわけ?」
みこ「そんなこと無いよ……」
「……前から思ってたけど、みこってさ~調子乗ってない?」
「あ~それはわたしも思ってたぁ~」
「だよねだよね!他の人とは違うって感じで見下しててさ~」
「わかるぅ~なんかぁ~友達にも一線引いてるよねぇ」
「わっかる~!」
みこ「…見下してなんかないよ……私…そんな風に思われてたなんて…ショックなのだけれど……」
「じゃあみこは友達のこと大切に思ってんの?」
みこ「それは、もちろん…!」
「じゃあ私の為になんかしてよ。」
みこ「………………」
「夜でもいいからさ~竜神様のとこ行けるように頼んだりできないの?」
みこ「………できない……」
「はぁ~?じゃあ参拝の予約にわたし達入れといてよ」
みこ「…そんなこと出来ないよ……」
「つかえね~!」
「……はぁ~なんか、もう萎えたわ。せっかく友達してやったのにダルすぎ…」
「ね~、もう友達の意味ないわ~」
子どもも大人に近づくにつれて私を道具扱いした……
力が無ければ友達を続けることも出来ない……
いいや…あんなことで砕ける友情なんて…友情などではなかったのかもしれない……
はぁ……
穢い…………
あまりにも………
どいつもこいつも…………
「みこ、貴方は私達にとって誇りよ」
「そうだぞ、パパはみこが産まれてきて本当に幸せだ!」
…………信じられるか……?
たとえ親でも………
こんな金づる、手放すはずがない。産まれて不幸なはずがない。
巫女の役割を全うし、気高く威厳のある生き方をしてきて…人前でも堂々と振舞った…
こんなに良い子を誇りに思わないはずがない。
……信じられるだろうか……
…もし私が「みこ」じゃなかったら同じ言葉を与えてくれただろうか……
この二人は私のことを誇りと言うか?自慢の娘だと言うか?
………信じられない…………どうせ…証明もできない………
*
祈祷を終え、営業時間が終了する。
竜神の前で一人残った巫女は静かに語り掛ける
みこ「…神様はいいですわね……ただ眠っているだけでちやほやされて……………。「眠りの神獣」だなんて大層な呼び名ですわ………………貴方が神様なら……誰もを幸せにする力があるのなら……一番、神様に近い私は…どうして幸せになれないの…?」
「…………………………」
みこ「…………無駄か……」
「みこちゃん!そろそろ閉めるよ!」
みこ「…今行きます。」
*
もし神様がいるのなら…あんなことは起こらなかった……
あんな地獄の光景を……お許しになるはずがないのだから………
ズゥゥウン…!!!
その事件は建物が崩れる大きな音から始まった。
祈祷の途中だったが、急いで外を見るとそこには信じられない光景が広がっていた。
数百メートルはある巨大な翼を持った火を吹くドラゴン。そして、その周りには無数の飛竜が旋回していた。
手当たり次第に街を破壊し、人々を襲っていた。
それを見た参拝客たちはパニックになった。多くの者は道を引き返したが、ある者が「竜神様助けてー!」と叫び、近づいたことから他の者もつられてしまう。
一斉に押し寄せた人波に抗うこともできず、巫女は押し潰された。
少女の身ではどうすることもできず、猛烈な勢いで迫られたみこは体中を踏まれ、一瞬でほとんどの骨を折られ、内臓はぐちゃぐちゃに潰された。
死ぬ寸前、こちらに飛んできた巨大なドラゴンが人々を吹き飛ばし、踏みつぶし、薙ぎ払い、灰にした。
倒れていた巫女はどうすることも出来ず、ただただ死肉の横で空を見上げるだけだった。
みこ(……死ぬんだ……私……あまりにも突然過ぎて…あんまり痛くないかも……でも…どこも動かせない……血もたくさん出てる……これもう…駄目なやつだ………死ぬんだ……私…こんなに…あっけなく………)
そんなことを考えていると、竜神様がすぐそばで叩きつけられた。
振動で飛び上がり、転がる。
竜と目が合う。
竜は何の抵抗もしていない。食われるのを待っているかのようだった。
そんな竜を見て、みこはもうそんな獣を神なのだとは微塵も思わなくなった。
みこ(なに…やってんだ……!…ふざけんな…!…戦えよ……戦えよ!!……どうして力を持っているのに戦おうとしない…!!…ふざけんな…ふざけんなよ……私はこんな情けない獣に…あんな毎日を………)
顔を歪めて涙を流す
(…呪ってやる……!!…神に何が出来る!!?貴様なんか神ではない!!愚かな人間を弄んだ獣畜生にすぎない…!!!…許さない……許さない…!!私は気づいたからな…!貴様のような外道に踊らされた愚民として、死なないからな…!!!……後悔しろ………私と同じように、死んで己の非力さを後悔しろおお!!!!!!!!!!!)
みこの視界は闇に包まれた…
自分が生きているのか死んでいるのかも分からない……
そこに…
声が…
聞こえる………
「私は…侮っていた……この力をコントロールできると……願いを叶うことができると……
しかし、出来なかった…私には、この今にも爆発してしまいそうなほどのエネルギーを押し込めることが精いっぱいだった……。もう動くことも出来ない……だが、なんとしても契約を果たしたかった……」
(…なんだ……?何を言っている……?)
「…貴方に問いたい……力が……欲しいか…?」
闇を照らす一筋の光
それに近づく「みこ」
だが、そこに肉体があるのかも分からない
何で視ているのかすらも分からない
「力を望むのなら…ソレを手に取ってください…貴方は…相応しい……」
みこ「………力だ……力が欲しい………全てを壊し…神すらも否定できるほどの……圧倒的な力が……!!」
ソレになにかを伸ばす。
それは鉄槌。
死にゆくはずだった身体に莫大なエネルギーが注がれる。
高貴と革命を示す紫色の鉄槌を強く握りしめる。
同時に、カシャカシャと機械的なパーツが全身を覆い瞳の部分がピシュン!と光る。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
カッ! ドゴー―ンッ!!!!!!
眩い閃光と、石すらも溶かしてしまう程の圧倒的熱量の爆発
辺り一帯は火の海になり、爆発の衝撃もあって元の景色の面影はない。
残った者は翼を溶かされ、体中をボロボロにしたドラゴンと神殺しの鉄槌を持つ「みこ」。それと、遠く離れた場所にいる無数のモンスターだけだ。
みこ「……一撃…だ……」
鉄槌をドラゴンへと向ける
みこ「次の一振りで忌々しい全てを破壊する……私の幸福のために……神よりも力だと証明するために…!」
鉄槌を地に突き刺し、反対の手を前に突き出す
みこ「はぁぁああああああああああ!!!!!!!!!」
手から紫色に光る球体が出現する
そして次の瞬間、爆風を使ってドラゴンの頭上へ飛び上がる
みこ「獣畜生がッ!私を見下すなぁぁあああああああああああああ!!!!!」
球体を手から発射し、ドラゴンの頭に当てる。
みこ「貴様も地獄で傍観していろッ!!!!憎しみの呪いにのまれながら無力さを思い知れぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
ハンマーで球体を叩き潰すと大爆発を起こした。
その爆発の様子を例えるのなら核爆弾並みだ。村をまるごと消し飛ばすほどの爆発である。
しかし、「破壊力」は爆弾などの比ではない。
球体が持つエネルギーを全て「破壊」のために使っている。
凄まじい高温によって物質同士の繋がりを崩壊させ、それによって目を焼く閃光と何もかもを吹き飛ばす爆風が生まれる。
一瞬にして周りの物質と反応し、全てを破壊へ導く彼女の力は人類の持つ物差しでは計り知れない。
村だった場所に立ち、荒漠とした大地を見るみこ
みこ「ははははは!!あーっはっはっはっはっは!!!!!!!ハァ―――!!!ッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!」
邪悪な笑みを浮かべるみこ
笑いが止まらない
あはははははははははははははははは!!!!!!!!!
ははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!
あーっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!!!!!!!はーーーーっはっはっはっは
??「おい!!」
みこ「っ!?」
気が付くと辺りはすっかりと暗くなっており、目が覚めるとそこにはワンちゃんのパパが立っていた。
パパ「なかなか帰ってこないから迎えに来たぞ。」
みこ「…あ…あぁ……私…いつの間にか眠って………」
パパ「…疲れていたんだろう…だが、もう心配しなくていい。今夜からはぐっすり眠れる。ふかふかの布団も用意したぞ」
みこ「……………」
パパ「……どうかしたか?」
みこ「……貴方は今、幸せ?」
パパ「……あぁ。幸せだ」
いきなりの質問に戸惑ったが、正直に答える。
そこ答えを聞き、何かを思うみこ。
みこ「……私は人を幸せにする竜の傍にいました。14年間ずっと…。それなのに…これっぽっちも幸せじゃなかった……思い出せば思い出すほど不幸な人生だった………」
パパ「………………」
みこ「……いいですわね…貴方達は………大した苦難も無いのに幸せな人生を手に入れられて……私と同じ視座に立てる人なんて絶対にいやしない………」
パパ「…………」
パパはみこの隣に座った。
パパ「辛い思いを…してきたんだな……」
みこ「……………」
パパ「どんな出来事があったか…雪には話したか?」
みこ「…………いいえ…。…話しても無駄ですわ………」
パパ「……そうか……」
二人の間に沈黙の時が流れる。
そして、しばらくした後パパが口を開く。
パパ「…………………君は…誘拐されたことがあるか?」
*
彼女の心は闇にのまれている。神を否定し、破壊の力を手に入れ、無力さに打ちひしがれ、最後に残ったか細い意地だけを守るために傲慢な態度を取っている。
彼女が望むのは…
向かう先は…
次回『ヒーローの救い』




