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Odd I's  作者: TEAM,IDR
18/58

二章-4「希望」

「Odd I's」

第二章「伝説の神獣」

第18話「希望」

突然現れた謎の女性の腕の中で涙を流す少女

涙が流れるほどに哀しさ、虚しさ、情けなさ、悔しさが込み上げてくる


「もう生きていたって何にも良いことなんてない………私が本当に大切にしていたものはもう二度と戻らない……どれだけ悔いても…どれだけ泣いても……もう取り返しがつかない……」

??「落ち着いて…貴方のご両親はどうして亡くなってしまったのかしら?ゆっくりでいいから、教えて頂戴…」

「ぐすっ……………お父さんは病気で入院してた…その医療費を稼ぐためにお母さんは風俗店で働いてた…。私は、風俗で働いていることを知って……お母さんを……突き放した……!!」

??「……………」

「お母さんに酷いことを言った夜…お母さんはAIロボット撲滅派のテロリストの襲撃に巻き込まれて死んだ……私はお父さんの医療費を稼ぐために………お母さんと同じことをした………何もかも……忘れるほどに……!……っ……病院からの連絡も無視して……知らない男に抱かれてた………滑稽でしょ?…その間にお父さんも死んだ!もう私が出来ることなんて無い!償えるとしたら私も死ぬしかない!!私は死んで、お父さんとお母さんに会いに行くんだ!!」


藍の腕を振り払い、川に飛び込もうとする。

そんな少女の腕を素早く取り、引き寄せて平手打ちをする。

パァン…!


唖然として頬を押さえながら女性を見る


??「いい加減になさい!!貴方がここで人生を終わらせることを、貴方のご両親が望んでいるのかしら!?償いたいという気持ちがあるのなら生きなさい!!たかだが十数年生きただけで生きることを諦めるなんて…!…わたくしが許しませんわ!!」

「っ…!!!何なんだよお前は!!急に私の人生に現れて!好き勝手言うな!!たった十数年の人生でも、私にとっては全てなんだよ!!何も知らないお前が!! いつもいつも勝手な大人が!!私の何を理解できるって言うの!?」

女性に指をさし涙を浮かべて語る

「…終わったんだよ…!私の人生は!!……全ての希望が潰えた…私にはもう何も無い…!……………こんなことなら……生まれてくるんじゃなかった………」

??「っ…!」

「こんな結末だと知ってたら生まれてこなかった……こんな人生…選ばなかった………なんでこんなんになっちゃったんだろ……どうすれば良かったの……?…どうすれば家族揃って幸せに暮らせたの……?……もう嫌だよ……疲れたよ………………もしこのあとを生きたって…何にもない………やってしまったことは消えない………空しい時が流れるだけだ…………そんな人生を送るくらいなら…ここで死ぬ……あぁ…でも…ここで死のうとしたらあんたが止めるのか…………早くどっか行けよ………その後に…必ず死んでやるからな……」


少女は哀しみの涙を流し、力なく座り込む。顔を俯かせ、絶望の表情で自殺を誓う。

その少女の頬にそっと手を当てる女性


??「そんな哀しいこと言わないで…」

「………っ!!」


少女が顔を上げると、その女性も頬を濡らしていた。


??「生きる希望が無いのなら、わたくしがその希望になります……母の温もりが恋しいのなら、わたくしがその代わりになりますわ……。だからもうそんな顔をしないで……。わたくしは貴方のような子どもの希望になるために『ヒーロー』になったのですから……」

(………どうしてこの人は初めて会った私の為に涙が流せるの…?…どうして軽々しく『希望になる』だなんて言えるの…?…私のことなんて…何も知らないくせに……私にとっての希望が、どれほど大きく、優しく、遠く、輝かしいものだなんて分からないくせに…………なんで……どうして……私に寄り添うの…?…私に手を差し伸べるの…?)

「なんなんだよぉ…!…なんでそんなことが言えるんだよ…何も……知らないくせに……!」


涙が更に溢れる少女


「ううううぅ…!……うぐっ……ううぅ……!」

頬にある女性の手に触れる

(……どうしてこんなにも温かいの…?…どうしてこんなにも大きいの…?…頼りたくなってしまうの……どうして……こんなにもついて行きたいと思ってしまうの………この希望を…信じてみたいと…手に取ってしまうの……)

女性の手を両手で握り、頬に抱き寄せる。

「ぅわああああああああああああああん!!!」



たまに自動車が通る道の歩道で、二人は橋の手すりにもたれかかっている。

少女は目はすっかり腫れてしまったが、ようやく落ち着いた。 女性の腕の中に、子どものようにベッタリとくっついている。


??「……ご両親が亡くなったのは、貴方のせいじゃないわ…それだけは覚えておきなさい。ご両親も絶対貴方のことを恨んでなんかいませんわ。遠い空の彼方から貴方を見守ってくれていますわ……」

「………だとしても……私は最悪の別れ方をしてしまった………お母さんがどれだけ傷ついてしまったか……お父さんがどれだけ寂しかったのか……。…悔いても悔いても悔やみきれない……。そして…謝る事も…もうできない……。…私は…どうすればいいんですか………」

??「……親子の喧嘩なんてよくあることですわ。喧嘩するほど仲が良い、貴方の家庭はそんな言葉がよく似合うような気がしますわ…。喧嘩してしまったのならまた仲直りすればいい…でも、会いに行くのはまだ早すぎますわ。あちらに行ったらもう戻れないのですから、どれだけ話しても話しつくせないほどの楽しい思い出を持ってから会いに行きなさい。」

「…ふふ…………それ…いいかも…………」

??「…貴方が楽しく、元気に生きていると知ったらお父様とお母様はさぞ喜ぶでしょうね…」

「………はい…」

??「…親孝行がしたいのなら、土産話を沢山持ってから逝きなさい。いいわね?」

「…………………」

??「……何か気になる?」

「…………そんなこと…………私にできるんでしょうか…………」

??(……この子はまだ絶望の中にいる………ならば…わたくしが希望とならなくては………)


??「…貴方、夢はあるの?」

「…え……夢…?」

??「そう、夢よ。なりたいものはあるの?」

「………そんなもの無いです……」

??「…わたくしのために働く気はある?」

「え?」

??「夢が無いのなら将来はわたくしの従者になりなさい。貴方のこと気に入ったわ。わたくしのお屋敷に来て働くのよ。貴方の家の何十倍も広いお屋敷に住み込みで働くことになるわ。そんなお屋敷、絵本の中でしか見たことないでしょう?」

(コクリ)

??「そうでしょう…!中には数えきれないほどの美術品のコレクションもありますわ。きっと見ているだけでも心が躍りますわ。他にも、わたくしの従者になればボディガードとして高級リゾート地に行き放題ですわよ。貴方が食べた事もないような高級な料理、見たこともない美しい景色、快適な空間…その全てが体験できますわ。どう?おもしろそうでしょう?」

目を閉じて想像する少女。そして少し口角を上げて答える

「…………はい……ちょっと楽しそう……」

??「なら決まりね。そうとなれば、わたくしの従者に相応しい教養を身に付けてもらわねばなりませんわね。沢山勉強するのよ?ご飯もしっかり食べて…あ、食事のマナーも叩き込まないとですわね。忙しくなりますわよ。泣くことなんて忘れるくらい忙しくしてあげますからね…!」

「……はい…!」

??「ふふっ……ちょっと笑顔が戻ってきたわね。やれば出来るじゃない……いい?これからは前を向いて進みなさい…これから先、どんな絶望が待ち受けていようと希望を目指しなさい。進んだ先に、必ずわたくしがいますわ。」

「…はい…!」

(この人のカリスマ性はなんなんだろう……こんなに簡単に、流されるようにこんなことしていいのかな………まぁ…いいか……。一度は捨てかけた命だ。救ってくれたこの人の為に使うのは悪くない。………悪くない……か……。……違うかな……私……もうこの人のことが好きなのかも………この人の為に力を使いたい……私の命に出来ることなら、なんだってしたっていい。お母さんのように優しくて温かいこの人のためなら……お父さんのように大きくて頼りになるこの人のためなら……絶望のその先にいた、遠く…何よりも輝かしいこの希望(ヒーロー)のためなら…!)


??「そうそう、肝心なことを忘れていたわ。……はい、わたくしの名前は星乃藍。「流星会」の児童養護施設を運営しているトップよ。」


名刺を受け取る


藍「今、一人でしょう?貴方が良ければいつでも施設に入っていいわ。どうす…」

「行きます!私も、ここに入れてください…!あなたの傍に居たいです…!!」

藍「! いいわ…。なら、早速準備しましょうか…!」

(パチンッ!) 指を鳴らす

藍「一狼!!」


一狼と呼ばれる男性が車を近くに移動させた


藍「さ、乗りなさい」

「は…はい」

藍「準備と言っても今日は疲れたでしょうからまずは食事と休息からですわ。これからわたくしのお屋敷に向かいますわよ。一狼、車を出しなさい」

一狼「はい」


ブゥゥウウン…



「こうして私と藍さまは運命的な出会いをして、今に至るの。」

瑠玖「……すごい大変な人生だったね……」

「…うん…。でもその人生があったから藍さまに出会えたって考えれば幾分かマシかな!」

瑠玖「…藍さんに出会えたら…嫌な思い出は帳消しになるの…?」

「……帳消し…かぁ……確かに藍さまは素晴らしいお方だけど…帳消しにはならないかな。…これから先どんなことがあったって失ってしまったものは二度と手に入らない。でも、人生は失うだけじゃないよ!嫌な思い出は無かったことにはならない。でも、それが帳消しになって、あんなことがあっても別に良かったなって思えるくらい楽しいことを手に入れたい…!今はまだそこまで思えてないかもだけど…いつか……藍さまについて行けば、[あの出来事があったから今の私がいるんだ]って納得できる日が来るような気がするの…」

瑠玖「…………」

「今はそんな『希望』に向かって進んでるって感じかな!」

瑠玖「…そっか……」

「……………瑠玖ちゃんにも、辛い思い出があるよね?」

瑠玖「え…………うん………」

「…そっか………。まぁ、ここまで大変な思いをしている子は少ないと思うけど…ここには少なからず心に傷を負った子たちがたくさんいる…。だから辛い気持ちも分かり合えると思うんだ。瑠玖ちゃんも辛くなったら、私や他の人にいっぱい頼りなさいね…!藍さまが私にしてくれたように、私も……精一杯の優しさで包み込んであげるから…!」

瑠玖「……うん…!ありがとう…お姉ちゃん。」

「……(ニコニコ…!)」

瑠玖「…………あの………」

「ん?なぁに?」

瑠玖「私も一つお話してもいい…?」

「もちろん、いいよ~」

瑠玖「………この眼のこと……………」

「……瑠玖ちゃんの眼、とっても綺麗だよね~。青い眼も、緑の眼もどっちもすごく綺麗!」

瑠玖「………ありがとう……」

「…………私もオッドアイだけど、片方はカラコンなんだ~。こっちの黒い方は私が自分を偽りながら仕事していた時に使っていた色……。でも、今は大好きな藍さまとお揃いだからつけてるの!そして、もう片方のピンク色のおめめはお母さんとお揃いなの!どう?この眼はともだ…いろんな人からもよく褒められた自慢の眼なの!綺麗でしょ?」

瑠玖「…うん……とても……」

「…………話しにくいこと…?」

瑠玖「…!…………お姉ちゃんは………その眼のこと…好き…?」

「うん…とっても!」

瑠玖「……私は……自分の眼……あんまり好きじゃない………」

「っ!!そうなの?…もしかして眼のこと言われるの嫌だった?」

瑠玖「……………いやじゃ……………………お姉ちゃんに言われるなら……大丈夫…………でも…………………その…………………お姉ちゃんみたいに…なりたい……っていうか…………その……………」

「…うん……」

瑠玖「……私……お姉ちゃんみたいに…親のこと好きじゃない……」

「…うん…」

瑠玖「…嫌い……大っ嫌い……いっつも……あんな奴……死ねばいいって思ってる……」

「…うん……」

瑠玖「…こっちの…緑色の眼は…いっつも気持ち悪いって言ってた……学校でもいじめられた………」

「うん……そっか……」

瑠玖「…全然…!……好きになれないの……!!」


瑠玖は泣いてしまう

すぐにそばに寄り、抱きしめる。


「そうか…そっか……辛かったね………」

瑠玖「うん…!……うぅ………ぐすっ………私もお姉ちゃんみたいになりたい……お姉ちゃんみたいな眼になりたい……!!」

「っ! なれるよ!」

瑠玖「……え…?」

「絶対になれる!だって、私がオッドアイでいるのは瑠玖ちゃんの瞳が綺麗だったからだもん! 最初は私…藍さまと同じ色だからっていうのもあったけど…あの出来事を忘れさせないための戒めとしてつけてたんだよね……。色もアンバランスだし、自分でもちょっとおかしいかもって思いながらつけてたの…。でも初めて瑠玖ちゃんのオッドアイを見た時、なんて綺麗なオッドアイなんだろうって感動したの…!」

瑠玖「……そう…なの…?」

「そうだよ!瑠玖ちゃんは誰よりも綺麗な眼を持ってるよ!絶対、絶対その瞳のことを好きになれる日が来るよ!」


黒桃のオッドアイが翠碧のオッドアイを力強く見つめる


瑠玖「…でも……」

「親から貰ったっていうのが気に食わないのなら、自分の物にしちゃえばいいんだよ!」

瑠玖「自分の物…?」

「そう!考え方をちょっと変えるだけ!その眼は親に頼んでもらった物じゃないでしょ?瑠玖ちゃんが産まれてくる時に、自分で勝ち取った物なんだよ!誰かから貰った物じゃない、本当は自分が欲しくて持ってきた物かもしれないよ?」

瑠玖「…私が……自分で……」

「どう?簡単でしょ? 私は親のことが好きだから、親からもらったって思う。瑠玖ちゃんは親のこと嫌いだから元々自分の物だったって思う。簡単でしょ?」

瑠玖「…うん…!…でも、なんだかおもしろいね」

「うん…!そうだね!」

瑠玖「あははは…!」

「ふふふ…!」


二人で笑い合う。


「どう?気持ちは軽くなった?」

瑠玖「うん!…やっぱりお姉ちゃん、すごいね…」

「そう?えへへ…ありがと!」

瑠玖「………もう片方の青い眼は、命の恩人から貰ったの。」

「へぇ~!?そうなんだ」

瑠玖「…ヒーローになるという約束と一緒に…」

「約束……」

瑠玖「こっちの眼はずっと好き……。こっちの眼は……」

「…………」

瑠玖「……自分の眼……自分の眼か……ん…そう思ったら好きになれるような気がしてきた…」

「! ほんとに!?」

瑠玖「…うん!」

「よっかったじゃ~ん!絶対好きになった方がいいよ!そんなに綺麗な瞳を二つも持ってるのに好きになれなかったらもったいないよ~!」

瑠玖「そうだね…!」

「はぁ~~、いっぱい話したね~。お腹空いてきちゃった!」

瑠玖「もうお昼だね」

「食堂に行こうか!」

瑠玖「うん!」



藍「あら、やっと来たわね」

「あれ!?藍さま、まだいらしたんですか?」

藍「ええ。これからしばらくは昼食までいることにしましたの。」

「やった~!藍さまと一緒に食べられるなんて~!」

藍「申し訳ないけれど、貴方たちとは一緒に食べませんわ」

「えぇ~!?な…え…ど…どうして…!?」

藍「それは……瑠玖!貴方に食事の作法を叩き込むからですわ!」

瑠玖「えー!?私!?」

藍「貴方、食べ方がすごく汚いらしいではありませんか…。西墨から聞きましたわよ~?しかも、正そうとすると暴れるんですってね…。わたくしの家族でありながら『貪食』だなんて、そんな下品なこと許しませんわ。さ、いらっしゃい。貴方はこっちでわたくしとお食事よ。」

瑠玖「えぇー!!嫌だー!!早く、早くご飯食べたいのにー!!」

「いいな~…瑠玖ちゃん、藍さまとお食事だなんて…」

瑠玖「良くない!代わってあげる!代わってあげるからー!」

藍「ダメよ」

瑠玖「そんなー!?こんなにお腹減ってるのにぃいいいい!!!」




このあと瑠玖はしばらくの間、藍に抑えられながら食事をするようになりましたとさ…

チャンチャン

さて、次回は久しぶりにワンちゃんが登場します。営業停止処分を受けていた紅葉探偵事務所はどうなっていたのか。

次回『巫女と爆発』


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