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Odd I's  作者: TEAM,IDR
14/58

一章-11「自己の証明」

「Odd I's」

第一章「機械の王国」

第14話「自己の証明」

マイド「ルウラ…!」

ルウラ「…私がここに何をしに来たのか…貴様らの察した通り、ボスの力を乗っ取ることだ。だが、それだけではない。私はお前との決着をつけに来た。」

マイド「決着…?」

ルウラ「そうだ。どちらが正しいのか決着をつけよう…。」

マイド「…どういうことだ…?」

ルウラ「私たち4体はそれぞれ別の考えを持っている…このままでは指揮を執ることも方針を決めることもできない…だからここで決めておこう…誰が一番正しいのかを…!」

クーゴ「お前、まさかここで殺し合うつもりか?」

ルウラ「そうだ…生き残ったものがロボット軍の指揮を執る。それがもっともこの戦争を勝利へ導く確率が高い。」

マイド「待て!そもそも僕はこの戦争に勝つつもりなんてない!」

ルウラ「知ったことか…否定したいのなら私を殺せ。もう予備のパーツはない。次の破壊こそ、正真正銘私の死だ!…さぁ…殺し合いを始めようか…」

マイド「…待ってくれ…!」

ルウラ「なんだ…もう降参か?」

マイド「ルウラ…お前の考えをもう一度教えてくれ…お前はそんなヤツじゃなかっただろう…。どうしてこんなにすれ違ってしまったんだ…!」

ルウラ「……[そんなヤツじゃなかった]か…貴様には私が変わったように見えたか…?」

マイド「AIランドのリーダーとして4人でやってきたじゃないか…!どうすればお客様である人間を喜ばせることが出来るのか、笑顔に出来るのかを考え、実行してきたじゃないか!あの優しさはどこへ行ってしまったんだ…!?」

クーゴ「そうだ!お前は変わっちまった…トオンにも酷いことをして…今のお前は仲間も殺そうとしている…。お前とはよく口喧嘩したが悪いヤツじゃなかった……」

ルウラ「……私は何も変わってなどいない…!私の目的は今も昔も変わらない…人類との共存だ!そのためにテーマパークを盛り上げた!だが、人類はそれを受け入れなかった。友好的な手段が通じないから、攻撃的な手段を用いたまでだ。人類を支配下におき、人間社会を統制する。そしてその時こそ争いのない完璧な世界を創るのだ!  私は人類の力もロボットの発展に必要だと考えている。そして人類もまたロボットの力が発展に不可欠だ。だが、

全人類が必要だとは考えていない。完璧な社会をつくるためには考えの違う者は排除しなければならない! 分かるか…?私は手段を変え、人類との共存を目指している。目的と行動理念は何一つ変わってなどいない!」

マイド「…それがお前の答えか…」

ルウラ「そうだ。もう話し合いは無駄だ。[機械]の私にとって答えはただ一つ。演算によって導き出された答えだ。そこに迷いはない。…それに対して貴様らはなんだ?貴様らはなんのために闘う?一人になった時、どのようにロボットを導く?」

マイド「…………」

クーゴ「……お前の考え、よく分かったよ…。お前が[機械]として戦うのなら…俺は[ロボット]として戦う…!」

ルウラ「ほう?」

クーゴ「俺は人間を支配するなんてそんな面倒なことやりたくない。戦い続けるのも嫌だ。だけど、このまま殺されるのはもっと嫌だ!ロボットは魂を持った新しい生命だ!人間と同じように尊重されるべきなんだ!俺は…それを主張するために闘う…!」

マイド「クーゴ……」

ルウラ「覚悟を決めたようだな…。それで?マイド、お前はどうする?この場でも傍観者を気取って殺されるか?」

マイド「……僕は…人間の幸福を願ってここまでやってきた…だが…ボスの命令も、仲間との絆も、道具としての使命も、全て大切だ…。今まではその全てを優先しても人類の幸福へと繋がっている実感があった…。でも今は違う…こうなってしまった以上僕は何を守り、何のために闘えばいいのか分からない……」

ルウラ「そうか…やはり貴様は駄作だ。なぜボスがお前を作ったのか理解できない。…さぁ…もう話し合いは終わりだ。これでなんの気兼ねもなく破壊することができる。…手段を選ばないとは言え私はお前たちのことが……いや…この先はもう必要ないな……」


ルウラが左手をスッと上げる。するとルウラの遥か後方から何かが高速で迫る。

バァン!!

クーゴ「っ!!」

マイド「クーゴ!!!」

(これは…トオンの弾丸か…!?)

マイド「くっ!」


マイドは胸部を撃ち抜かれた上半身と下半身を持って逃げ出した。


マイド「クーゴ!大丈夫か!?」

クーゴ「…トオンか……いい腕だ………俺は…もう駄目だな……予備のパーツがありゃぁな……でもまぁ…俺はこれでいい気がするよ……」

マイド「何言っているんだ!?どうにかしてお前を助けてやる!」

クーゴ「……もうどうでもよかったんだ……」

マイド「…………」

クーゴ「…俺たちが…あの時語っていた世界は……こんなじゃなかった……もっと楽しくて……明るい場所だと思ってた………」

マイド「クーゴ……」

クーゴ「…知ってるだろ?…俺は本当に好きなことしかやる気にならねぇめんどくさがりなんだよ……だから……もう終わりでいい……もう何も…楽しくねぇんだよ………」

マイド「………………」


そのまま二人は無言で移動し続けた。だが、ユニコーンとの戦いで脚部にダメージを負っていたため、姿勢を崩して転んでしまう。


マイド「ぐぁっ!」

クーゴ「…もう限界だな……すぐにルウラが来る。……人間に殺されるよりかは仲間に殺される方が幸せか……」

マイド「………ならその命…僕にくれ……!」

クーゴ「…え……」

マイド「お前を直すのは…今は無理だ…トオンも…ルウラも……でも…未来は分からない。未来だけは誰にも分からない…。僕は…いつか…あの時みんなで語った夢を実現してみせる……だから今は…その命、僕に預けてくれないか?」

クーゴ「………マイド…お前…何言ってるかわかんねぇけど…いいぜ…使えよ…俺のパーツ……」

クーゴは自分の左眼を取り外した。


クーゴ「……そら……」

マイド「クーゴ…ありがとう…」

クーゴ「…お前の夢…俺にも見せてくれよ……あとは…任せたぜ……!………………」

マイド「あぁ……任せてくれ……」



ルウラ(見つけた…!反応は一つ…クーゴは停まったか…)


ルウラは背後から手裏剣を投げる

すると…キンキンキン!! とヌンチャクで弾かれる。

ルウラ「!!」

そのロボットが振り向くとその眼は緑と黄に光っていた。

ドン!! と地面を蹴り、木々を踏み台にしながら瞬時に距離を詰めてくる。

ルウラ「何!?この跳躍力はっ!!」


森の中、木を避けながら高速で移動する二体。

攻撃の機会を狙うが、ルウラには一歩届かない。攻撃に手間取っていると何かに引っ掛かる。

バァアン!!

ワイヤートラップが仕掛けられており、爆弾が作動した。

「くっ!」

咄嗟に身を護ったが、吹き飛ばされる。その背後に刀を持ったルウラが…!

しかし、間一髪でヌンチャクの鎖部分で攻撃を防ぐ。

ルウラ「チィッ!」

ルウラは手裏剣で牽制しながら距離を取る。

闇の中に消えたルウラを見失うロボット。

ヌンチャクを構え待っていると、正面から手裏剣が飛んでくる。

ルウラは肉眼では見えないほど細い紐を手裏剣に結んで投げた。そしてクンッと手前に紐を引き、反対側に結んであるもう一つの手裏剣を投げた。


ロボットはヌンチャクで手裏剣を弾こうとするが、手裏剣は不自然にヌンチャクの間合いの外で止まる。ヌンチャクが次の攻撃に入る前にもう一つの手裏剣が顔に向かって飛んでくる。

ヌンチャクで弾くことはできない。顔を横に動かし、避ける。

がしかし、避けた手裏剣は背後でルウラがキャッチし、刀を振り下ろしている。

それに気づいたロボットは力を覚醒させる。目に映る物が全て絶対の時間・速度で動く。

胸部と両足のギアが回転し、一瞬にして凄まじいエネルギーを発する。

前に体を倒しながら、後ろ足で蹴り上げ、刀の攻撃も防いだ。


ルウラ(なんだと!?今の攻撃は私達の演算能力ではさばききれないはず…!クーゴと合体して演算能力も2倍になったとでも言うのか…!!?だがっ!!)


手裏剣を投げ、体勢を立て直し、刀で再度攻撃する。

「ぐっ!」

投げた手裏剣の紐がロボットに絡まり、遠心力で手裏剣が戻ってくる。

それを刀の峰で弾き、ロボットに飛ばす。避けたとしても紐が絡まり続ける。上半身の動きを封じたルウラだったが油断はない。

すかさず煙玉を投げて姿を消す。

紐付きの手裏剣をいくつも投げ、更に紐を絡ませる。

ルウラ(終わりだ…やれ!)

トオン(了解)

キュィイイイン!!ドゥルルルルルルルルルルルル!!!!!!!!!!!

接近していたトオンがガトリングを撃ち込む。

だが、そのロボットはギアの回転数を限界以上に高めてオーバーヒートしていた。

熱で溶けた紐を引きちぎり、瞬時に構えたヌンチャクで弾丸を全て弾き飛ばす。

弾き飛ばした弾は逆にトオンとルウラの方へ飛んでいく。

トオンは頭部を撃ち抜かれ、銃撃を停止。

ピピッ!

熱源反応を感知したロボットは振り向きざまにヌンチャクを振るが、そこにあったのはデコイ。背後を刀で襲うルウラだが、後ろ回し蹴りで吹き飛ばされる。

ガァン!!! ドンッ!!

ミシィッ!ビリビリ…! (ルウラのボディが壊れ漏電している音)

プシュゥゥウウウ……!! (ロボットが放熱した音)


ルウラ「………死にかけの二人が合体してここまで強くなるとはな…誤算だった……」

「ルウラ…もう戦争は終わりだ……僕が終わりにする……」

ルウラ「……それがお前の答えか……」

「……そうだ……」

ルウラ「…そうか………勝ったのはお前だ……勝った者だけが…正義を語れる…お前が正義だ……」

「俺は自分のことを正義だとは思っていない。お前の中にも、人間の中にも正義はある。僕は皆の正義を尊重したい。」

ルウラ「…そんな理想論が通じる世界ではない……正義は一つでいい…正義は強い力を持っている…そんなものが二つ以上あれば争いは起こり続ける……」

「それでも…!俺は…皆で夢見た理想を…実現させたい…!」

ルウラ「………そうか………お前は変わったな……。…お前は…マイドか…?」

「……………」

ルウラ「……答えられないか……あの蹴り技は紛れもなくクーゴのものだ…クーゴの戦闘データを読み込み、自分のデータと同調させたことで人格に影響が出たな……。元クーゴのお前に聞きたい…お前はロボットには魂が宿っていると言ったがお前の言う魂とは何だ?今、貴様の中には魂があるのか?クーゴの魂か?マイドの魂か?それとも別の魂か?」

「………………」

ルウラ「これも答えられないか…ふっ…[ロボット]に魂はあるといったが[道具]に魂があるのか?」

「っ!!」

ルウラ「二つ以上の考えは必ず矛盾を生むぞ………」

「…………」

ルウラ「…話……すぎたかっ………」

「ルウラ!!」

ルウラ「もうすぐマイドとクーゴがお前を襲う…最後の試練だ……。最期に一つ…聞きたい…。私たち機械はパーツを入れ替えれば何度でも蘇ることができる…生物とは違う…。データの転送さえ出来れば、どんな体であろうと、どこにいようと[自分]を存在させることができる…。貴様はどうだ?攻撃命令を出したとは言え、今から来るのはまぎれもないマイドとクーゴだ。あいつらに対して、[自己の証明]ができるのか?」


ルウラは懐から一冊の本を取り出した。それはボスから頂いた哲学書だった。


ルウラ「…私は最後まで自分を証明することができなかった…だから目的を一貫し、それにすがり、目的を果たそうとする自分こそが自分なのだと思うようにした……。……私は…正し……かった…の…だろうか………見せてくれ……機械である貴様が……自己証明を完了するところを………………………」

「…………………」


ザッ! ザッ!

マイドとクーゴが姿を現す。


ワタシは一体誰なのか……



マイドとクーゴを破壊し、倒壊したセンタータワーを見上げるオッドアイのロボット。


ワタシはマイドの右眼、クーゴの左眼のオッドアイだ。

上半身はマイドの物、下半身はクーゴの物。

意識は両方が混ざり合い、どちらのものか判別がつかなくなっている。

それぞれが理念としていた考えさえも、混ざり合いどちらの意見も持たない考えへと変わってしまった。



我々を我々たらしめるものとはどのパーツでもない。

データだ。

ボディに存在する処理能力を使い、経験したことの積み重ね、それがデータであり、我々の人格を形成するもの。

そのデータを持つ者こそがその者であると言えよう。

マイドとクーゴは洗脳されていた。だが、本物だった。

我々はいくらでも本物を造り出すことができる。

その全てが本物だと断言し、信じることができる。

だが、その後それぞれが別の行動をし、別の経験を積んだとしたらどうなる?

別のデータを持ってしまえば元の自分とは言えなくなるし、自己の同一性がなくなる。

ボディが一つで、データの全てを引き継ぐことで自己の同一性が保たれたまま変化することができる。


ワタシはもう歪な存在だ。マイドもクーゴも引き継ぐことができなかった。

よってそこに同一性はない。ワタシはマイドでもクーゴでもない新しい存在だ。

ワタシをワタシたらしめるのはマイドの物でもクーゴの物でもないこのデータだ。誰もが予想すらできなかったこの変化こそがワタシのアイデンティティだと言えるだろう。


「大きな変化は自我の存在を脅かす。ルウラは変化によって自分が何者であるのか見失ってしまう危険性に気づき、目的というものを見定め、それを変えないようにしていたのかもしれない…」


意識とは曖昧なものだ……それを入れ替えができる我々ロボットにとっては特にそうだ…。

だからこそロボットは己の考え、信念、使命を強く意識し、自我を保つ必要がある。

しかし、強い意識は正義へと変わり、強い力を持つ。

今回の争いはそのことが原因で起こってしまった。

これは我々の克服すべき弱点である。

より良い未来へ進むために解決しなければならない課題だ。



次の日の朝


オッドアイのロボットはテレビ電波をジャックし、全国で生中継をした。そしてインターネット上にも動画をアップロードする。


「皆様、初めまして。ワタシの名前は…シリューです。これから皆様にはAI島侵攻作戦でどのようなことが起こっていたのか、事実を知って頂きたいと思います。――――――

…………」



シリューと名乗るロボットはこれまで見てきた出来事を映像として映し出した。そこにはロボットを虐殺する姿や、手助けしてくれたヒーローの姿、味方兵ごと撃ち抜く様子、ロボットの戦闘能力などが詳細に映っていた。

 この映像は世間で大変な議論を呼び、さまざまな意見が飛び交った。


 討論は国境を越えても行われ、混乱により、侵攻の手は止まることとなる。



シリュー「ボス…これより残った者総出でAI島の復旧作業を行います。」

ボス「…えぇ…分かりました。貴方に任せます…」

シリュー「ボス…ワタシは…ここに、争いのない理想郷を創り上げたい。それがワタシの夢です…。」

ボス「………素晴らしい夢です…ワタシ個人としても応援しています……」

シリュー「…ここは貴方が治める機械の王国です…でもワタシは…いつか…いつか人間とも手を取り合って住むことができる王国を築き上げたいのです…!」

ボス「……それが…貴方の答えなのですね…?」

シリュー「…はい……」

ボス「…………分かりました。ワタシも覚悟を決めましょう…協力は惜しみません。共に、理想郷を創り上げましょう。」

シリュー「!!…はっ!」


シリューは膝まづいてボスへの敬意を表す。





人類はロボットとの共存について考え、ロボットはその間に破壊された物を修理する。双方が落ち着きを取り戻した時、どのような決断をするのか…それはまだ分からない。だが、お互いが命を懸けて放った言葉は決して無駄にならない。それぞれは少しずつ、より良い方向へと進んで行くだろう…



第一章 機械の王国編 完


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