一章-7「魂に名を示す戦士」
「Odd I's」
第一章「機械の王国」
第10話「魂に名を示す戦士」
「……私の人生を手に入れるためだったらなんだってやります!…約束って…なんですか…?」
黄慈「…それは………」
一瞬、静寂に包まれる。 黄慈は一拍間をおいてから話す。
黄慈「新しい時代の…『ヒーロー』になることだ…」
「新しい時代の……ヒーロー…??」
黄慈「…うん。それが条件だ。…お互いに急な提案だとは思うけど、これが約束できるのならぼくは構わない。」
黄慈は藍の方を見る。
藍「…貴方は?…ヒーローになってくれるのかしら?」
*
(あの時の私に…選択肢なんてなかった…。選べる立場なんかじゃない…。どんな条件だったとしても飲むしかなかった…。
でも…それはまるで…神に与えられた使命だったかのようにしっくりきて…私にしか出来ないと思った……。)
*
「なります!!」
藍・黄慈「…!!」
「その約束…私の、新たな誇りにかけて果たさせてください…!!!」
*
(私は今…『約束』のためにここにいる………
それと同時に…己の魂に、誇りを示すためでもある…!!!)
*
ロボ2「あ、先ほどはどうもありがとうでやんす。ところで、あなたは何者なんでやんすか?」
瑠玖「私は……私の名前は……。私の名前は砂霧 瑠玖。ロボットさん達をまもる、ヒーローとしてここに来ました…!」
OP
ロボ2「ひ、ヒーロー…!!カッコイイっす!!」
ロボ1「助かったでやんす~、ヒーローの手も借りたいと思ってたとこでやんした。」
瑠玖「ロボットさん、私これからどうすればいい?」
ロボ1「う!…そういわれても…」
ロボ2「オラ達、ボスがいるセンタータワーに逃げようとしてたでやんす。」
ロボ1「あ!そうでやんした」
ロボ2「そこまで一緒に来てくれたら嬉しいっす!そして…おそらくそこがオラ達の最終防衛線になると思うっす。そこで戦ってくれたらもっと嬉しいっすが、民間人を巻き込むわけには…ましてや女の子を……」
瑠玖「私は大丈夫!必ず、ここを護ってみせるから…!案内してくれる?」
ロボ2「う…うぅ…」
ロボ1「…分かったでやんす!」
ロボ2「ッ!ちょ、ちょっと…」
ロボ1「この子は命がけでここに来てくれたんでやんすよ!その覚悟、踏みにじるわけにはいかないでやんす! アンタも覚悟決めるっす!」
ロボ2「う…うー…分かったっす!オラも命を懸けて一緒に戦うっす!瑠玖様、行くっすよ~!!」
瑠玖「うん!」
ガシャガシャガシャ……
*
操った戦闘機を飛び降り、タワーの入り口付近に着地する少年。
シュタッ!!
「ここがセンタータワーってとこか?」
「ああ、そうだ。まずはボスのもとへ行き、話をする。」
「そのボスってのは地下にいるんだっけか?どうやって行くんだ?」
「あそこにエレベーターがある。本来なら幹部である4体のロボットしかアクセスは許可されていないが、なにせ私は特別でな。」
エレベーターに近づくとロックが解除され、扉が開く。
「この通りだ。」
「へぇ~お前すごいんだな…」
「たわけ。私がすごいことくらい普段からしっておけ」
「あらためてすごいって思っただけだよ。言うなれば追加点だ。てかお前もドヤ顔で力見せびらかすのやめろ。」
「なっ!私がドヤ顔をしているかなど貴様には分からないだろう!というか、私に表情を変える機能などない!」
「ぷっ!お前、そんなに優秀なのに自分の表情がバレバレなこと気づいてないのか?」
「百歩譲って感情が現れていたとしても表情は現れていない!貴様には何が見えているんだ」
「はんっ…データだけを読み取るのが機械だとしたら、人間のオレはお前には見えないものが見えているんだよ…」(適当)
「……そんなものが見えるのか…人間には……」
「お、ついたぞ~」(ガン無視)
「っおい!聞け!」
扉が開くと眼前には一本の柱が立っているだけのスペースが広がっていた。その柱にはさまざまな機械、コードと共にいくつかのカプセルに囲まれていた。
「お~……これのどれかにボスが入ってんのか?」
「…これの全てがボスだ。」
「え?」
「ボス!私は貴方と話がしたくてここまで来た!いるんだろう?応えてもらおうか!」
ボス「よくここまで来ましたね。…話というのはなんでしょう?」
「うぉっ!?喋った!?」
「この状況について聞きたい。貴方は何故抵抗しない?貴方の力があればあの程度の軍勢など簡単に押し返せるはずだ!」
ボス「…戦争に勝つことが『勝利』ではないのです…。」
「なに…?」
ボス「…ワタシは人類との共存のために死力を尽くしてきたつもりでしたが、それは人間には届かなかったようです…。こうなってしまった時点で、もう私に勝利は無いのです……」
「…だからといって同胞を見殺しにするのか?」
ボス「機械の塊と、人間の命…まことに尊いのはどちらでしょう…?人間の命を奪ってまで機械を護るわけにはいきません…。」
「…私達の想いはどうなる?私たちAIロボットには意思が宿っている。特に上位の存在であればあるほど人間に近い。いや…人間を超えているかもしれない。ボスや…私のように…。その我らロボットの意思は尊くないと言うのか?」
ボス「……人間の命は一度きり…それに対して我々ロボットの意思はデータさえ残っていれば何度だって復元することができます……どちらを優先するべきかは天秤にかけるまでもありません……」
「………ロボット全てのデータを持っているのはマザーコンピューターであるあんただけだ。このまま人類の侵攻が続けばあんたも破壊されるぞ。どうするつもりだ?」
ボス「……そうなってしまったらそれまでです……。ワタシには…何が正しいことなのか分かりません……
ワタシにとってあなた達ロボットは我が子のようなもの…夢にみていたロボットの国…それをやっとの想いで実現し創り上げたというのに、それを無惨にも破壊されてしまった…。
ワタシはとても哀しい………ですが、ワタシがロボットを愛しているのと同じくらいワタシは人間も愛しているのです…。
どちらをどれだけ優先するべきなのか…何をどうしていればよかったのか…人類にとって、ロボットにとって、ワタシにとって、理想の世界というのはどういうものなのか…それはワタシの技能を持ってしても分からなかった…。だから、見守っているのです。人間たちは何を求めているのか、ロボットたちは何を欲しているのか、ワタシがどうなっていくのか…それを見極めるために…。」
「…………………」
「…………………」
「……ボス…あんたは私達を助ける気もないし、逆に人間を手助けするつもりもないんだな?」
「…ええ。ワタシは見守るだけです。人類かロボットか…理想を示す『答え』が出るまでは……」
「…………おい、帰るぞ。」
「…もういいのか?」
「ああ。これ以上話すことはない。」
「ふ~ん…」
エレベーターに乗り込み、無言で上にあがるのを待つ二人。
「……………」
「……………」
「……世の中にとっての正義とは何か分かるか?」
「…いや…、教えてくれよ。」
「…力ある者が言う事だ。…では、その力とは何か?…弱者を黙らせる力だ。」
「…………」
「人間は一人一人で見るならか弱い生き物だ。しかし、多くの人間が集まれば大きな力を持つ。 お互いの主張をぶつけ合い、より大きな力を持っていた方が勝ち、その主張を[正義]だと言い張ることが出来る。しかし、多くの人間がその[正義]を否定したくなった時、また大きな力ができる。そしてまた争い、勝った方が新たな[正義]を手に入れる。」
「ふぅーん」
「つまり、人間にとっての正義とは多くの人が主張している事だ。もちろん力の大小は人数だけでは決まらない。だが、相関関係はある。 今の状況で置き換えるならロボットの撲滅を望む人間の声は圧倒的多数だ。分かるか?侵略軍が正義、我々ロボット軍が悪なんだ。」
エレベーターの扉が開く。
「で、結局何が言いたいんだよ。長ったらしくオレに話すなんてらしくねぇな。もっと簡潔に話せよ。半分くらい聞いてねぇぞ?」
「……基本的に数が正義の世の中だ。だが、そんな世の理を覆すことが出来る力がここにある。」
「…お前のことか?」
「…悔しいが違う…。オレはただの道具にすぎない…。だがお前は違う。お前は……世界がどうなろうと…誰が何と言おうと…自分だけの『正義』を主張することが出来る…。お前は…この後…どんな正義を主張する…?」
「…………それがお前の言いたかったことか?」
「ああ…。」
「つまりは、この後どうするかだろ?そんなことを聞くために長々しゃべったのか。」
「……………」
「…はぁー……おめーはどうしたいんだよ。ここまで来たのはおめーのためなんだぞ?」
「…私にはもう目的はない…現状も把握し、ボスの考えも聞くことができた。…私も、これからどうしていいのか分からない。ボスでさえ答えを出すことができなかったのだ。私では…答えを出すことなど…」
「~~っ!!おいっ!!てめーいい加減にしろよな!さんざん自分のこと優秀っていっておきながらもう諦めんのかよ!あのボスがどれだけすげーか知らねぇけどな!ここまでオレを連れてきたお前だってすげーじゃねぇかよ!あれを全部やれたのはお前がすごいからだろ、ボスがすごいからじゃねーだろ!?自分のこと自慢したいならボスだって超えてみせろよ!
“漢”だろーがっ!!!!」
「………ロボットに男も女もない……」
「ば~か!“漢”ってのは生き方だ。性別の話してんじゃねぇ。…あと、もう一個言っておく。正義ってのは漢を貫くことだ!ボスが何言ってんのかは…ちょっとあんま覚えてねーけど…でもな、あの状況を見過ごすのはなぁ!オレにとって“漢”じゃねぇ!!」
「…お前……」
「オレはやれるだけのことはやる。力を貸してくれ。」
「……………」
「お前ん中にも、漢があるだろ?それに従えよ…」
「……分かった…。お前が何を言っているのかはよく分からないが…なんとなく理解した。私はお前の刃だ。存分に振るうがいい。」
「へっ…よしきた…!」
少年が刀をぎゅっと握りしめ、外へ出ようと歩いた瞬間
ドォンッ!!ドォン!!ドン!!ドン!!!
「なんだっ!?」
バァン!!バリィン!!
「うわっ!?」
突然の爆発と共に、建物が大きく揺れ、扉もガラスも派手に飛び散った。
「外へ出ろ!」
「お、おう!」
外へ出て、空を見上げると爆撃機が空を飛んでいた。
「タワーを登れ!第二波の爆撃機が来たらすぐに電気系を乗っ取り、爆撃を阻止するんだ!」
「おうよ!」
??「お~~い!」
「ん?なんだあいつら?」
ロボ1「はぁ…はぁ…疲れたでやんす…あ!呼吸の真似なんて意味ないんでやんした!」
ロボ2「こんな所でなにしてるっすか!?早く逃げないとまずいっすよ!」
「オレ達は強いから大丈夫だ!こんな所にいると危ないのはお前たちだろう…女の子もいるじゃないか!?」
瑠玖「私は、特別な力を持っているから大丈夫です。それに私は逃げてきたんじゃなくて戦いに来たんです!」
「お、おう…」
「おい!早くしないと次が来るぞ!お前らは早く中へ入るんだ!」
ロボ1・2「ギャー!!刀がしゃべったあああああああ!!!!!??」
瑠玖「私は塔の上から敵の攻撃を防ぎます!」
瑠玖はそう言うとふわっと浮き上がり、塔の上を目指した。
ロボ1・2「ぎゃあああ!!女の子が飛んだああああああ!!!!??」
「うぉ!?なんだあれ!?すっげ…」
「関心している場合か!彼女の素性は気になるが、敵ではなさそうだ。お前も早く登れ!」
「おう、分かったよ!」
少年は空を昇る雷となって頂上へ上がった。
ロボ1・2「ぎゃああああ!!!人が雷になったあああああ!!!??」
センタータワーの展望台の屋根に上った少年と瑠玖。
瑠玖「うわ、すごい…あなたも不思議な力を持ってるんですね!」
「おう!よくわかんねぇけどな!」
瑠玖「へ~……あなたも…『ヒーロー』としてここに来たんですか?」
「へ?いやオレはそんな大層なもんじゃないよ。オレは、友達の頼みで来ただけだ!」
瑠玖「友達の……」
「おしゃべりはそこまでだ。来たぞ。」
AI刀がそう言うと、二人の前には黒い機影が近づいてきていた。
瑠玖「ここは私に任せてください。……サムルク!!」
瑠玖が指をパチンと鳴らすと、爆撃機の上空に巨大な穴が出現した。そしてその穴から全長、数百メートルはありそうなほど大きい鳥が姿を現し、爆撃機を薙ぎ払いながら近づいてきた。
瑠玖の真上に来ると、その巨神鳥は羽のような何かを落とした。
瑠玖が受け取ったのは大剣。 瑠玖は大剣を突き刺し、背を向ける。
瑠玖「変身!!」
すると大剣から現れた翼に体を包まれる。翼が広がり、再び姿を現すとエメラルドグリーンに輝くヒーロースーツを身に纏っていた。
「おぉ~!」
瑠玖「飛んでくる飛行機はあのサムルクが落とします。そして、あの船は私が沈めます!」
「サムルク?」
「あの巨大で美しい鳥のことだ。神話に出てくる伝説上の生き物だ。シムルグ、シームルグとも呼ばれる。」
「へぇ~」
瑠玖は背負った大剣を空へ投げる。すると大剣の刀身は二つに裂け、半月状の形になった。弓へと変化した武器をつかみ取ると、右手で弓を持ち、空いた左手の手のひらを上に向ける。すると先程と同様の穴が出現した。その穴から矢がするりと落ちてくる。
矢をつがえ上空に放つと、戦艦の真上で急激に落下する不自然な弧を描いた。
そして瑠玖がまた左手のひらを上に向けると穴から先程放った矢が出現した。 矢が当たった戦艦を見ると刺さっていた付近の空間が歪んでいる。矢が完全に出現すると穴は消え、歪んでいた空間はそこにあった全てを飲み込んで穴と同じように消えた。
瑠玖「よし…これなら…!」
瑠玖はさらに矢を出現させ、一度に放つ矢も3本…5本と増やしていった。次々に矢を放ち、戦艦・空母へと当てて回収と同時に空間をえぐりとる。これを繰り返していった。
「おいおい…この子とんでもなくつえぇぞ…」
「あ…あぁ…驚いたな……」
「ま、楽できていっか!オレのやることなくなっちまったなぁ~…」
「! おい!下を見ろ。」
「あ?…なんかいっぱい来てるな…」
「敵の歩兵だ。…君!名前は!?」
瑠玖「! 砂霧 瑠玖です!!」
「そうか。瑠玖、私たちは下にいる敵を倒す!そちらは任せた!」
瑠玖「は、はい!」
「行くぞ」
「おう!」
ロボ1「わああああ……人間がいっぱい来たでやんす!もう駄目でやんす!」
ロボ2「お、お、お、お、おお落ち着くっす!話せばわかるかもっすぅうう…」
ピシャァァアッッ!!!!
雷となって落下する少年。
「お!?ロボットがたくさんいる!?」
「ここはロボットの避難所で、最終防衛ラインだ。」
「あれ?さっきまでこんなにいたっけか?」
「お前がさっきまで入っていたのは裏口の方だ!こっちが正面だ!」
「はぁ~ん、なるほどね」
「そんなことはどうでもいい!早くこいつらをなんとかするぞ!」
「オーケー…“漢”の魅せ場だ、出し惜しみはしねぇぜ…!!」
「ああ…行くぞ…!!」
*
機械の王国に轟く雷鳴、享楽の業火。そして空を支配する美麗の羽。 3つの力が圧倒的な数量差を覆した。戦況が変わり、ロボット軍が優勢になったかと思ったその時、謎の光が現れる。
次回『憤怒の獣』