65 フルストップ
高校2年生の2学期を丸々欠席したので進級が危ぶまれたが、そこはそれ、何せ頭脳明晰で勤勉篤実な僕だったので正月明けに特別考査を実施してくれ、春には無事3年生になれた。
それでも元通り、すぐにクラスの雰囲気に馴染めたわけではない。
長期間不登校だった理由が行方不明(=家出)だったことがバレ、帰宅後に警察に話した内容が地方新聞の記者の耳に入って記事になり、面白半分にローカルテレビが取り上げた。
「異世界帰りの兄妹」だととして、妹のノノとふたり、一時ワイドショーの暇つぶしネタにされ、その結果、級友から変人扱いされた。
僕は普段学校では行方不明時の話などしない。
が、警察から事情を聞かれたときには、異世界について理路整然と答えてやった。
ウソはいけないし。
現に、異世界とこっちの世界はつながってるんだし。
点転移装置の入り口か、もしくは出口がどこかに必ず、ある。
案外、思わぬ場所に、行き来する通路があるんだぜ?
だからいつどこで、どんな偶発的なトラブルが起こるかも分からないし。
僕は当初、装置の全破壊を試みたがあまりに設置数が多く、断念した。
犯人はアイツだ、イケメン魔導人形のキリイシ。
彼は良かれと思い、大陸のあちこちに小型化に成功した点転移装置を置いた。
来たるゲリラ戦、作戦名「E号作戦」――に備え(※結果的にこの作戦は企画段階で潰えた。実行しなくて良かった)、それを実行するためにバラまいた。
ただ彼は、その場所を後世に遺す配慮が欠如した。
そして今に至っている。
いまさら過ぎた事を言っても仕方ない。
僕はそれを上手く利用してやりたいと思考を転換し始めている。
警察は……というと、そんなような未成年の僕のフザケた話(繰り返すが僕は大真面目だ)を基にして、数年前に起こった【女子中学生・行方不明事件(=惟江田杏子・異世界召喚事件)】との関連を疑い、カルト組織の関与と春馬越兄妹のマインドコントロールを危惧し、しばらく僕らの暮らす施設を含めた職員全員を監視対象にしたようだった。
ところでノノは高校へは進学せず、高認(=高等学校卒業程度認定試験)を受けて大学を目指すと宣言。
1学期が過ぎ、夏が終わるころ見事合格通知を手にした。
ということで今冬、ふたり揃って【大学入学共通テスト】の会場で相まみえる予定である。
ちなみに互いに金が無いので私大は諦め、割かし難関の、同じ大学を目指す。
まさか年下の妹がライバルになるとは。
何事も有能ぶりを見せつけやがるぜ、まったく。
「なあノノ。お前どうして浮遊大陸に行かなかったんだ?」
「だーかーらー。アンナさまがオニイの面倒を見ろって」
「命令されたからか?」
「それ以外に何があるってのよ」
ここはウソでも「オニイをほっとけないもん」とか頬赤らめ目線逸らしつつ、モジモジのたまうんだよ。
そーしてくれりゃ、お兄ちゃんのヤル気も倍増するんだが。
「あ、そうそう。今朝手紙が来てたわよ、ツェツィーリアさまから」
「てぇがぁみぃ~?」
異世界から、しかも浮遊大陸から、んなもんが届くのか?
はいと渡された。
本当に届いていた。
切手は貼ってない。
でもまぁ、生身の身体が行き来できるんだから、手紙くらい届くか。ムリヤリ納得。
手紙には以前プレゼントした靴のお礼と、その中敷きに書かれていた物語の結末に関する翻訳が書かれていた。
翻訳にはシュテファーニャが手助けしたらしい。
シュテファーニャかぁ。
何か手紙、いい匂いがする……のはカン違いだろうか。
「ちなみにあたしにも手紙が届いてたんだけどさ。オニイがいつ浮遊大陸に来るのかって、やたら訊いて来てんだけど、どー答えときゃいいの?」
「そ、そりゃ明日にでも飛んでくさ。ツェツィーリアがそう期待してくれてんだったら」
「けどあの子にはサシャがいるじゃん。二股はエフェソスの法律じゃ、局部引き抜きの上、釜茹での刑よ?」
ウソ、そんな法律あったっけ?
つーか、なんでそんなにツンケンしてんだよ。
単に「憧れの君に会いたいわ」って言ってるだけで、それってただの乙女の夢だろうが?
「……アレ? 末尾に別の字で『豪人会いに来て』って書いてる。……これ、杏子さんの字だ」
うーん?
おかしいなぁ。
僕、モテモテのようだぞう?
「あたし、何だかイライラしてきたから自分の部屋に戻ろうかな。オニイは猛省しといて。何なら、生まれてごめんなさいって空に向かって100遍くらい土下座で絶叫しといて」
「近所迷惑だ。所長に殺される」
僕は大学に受かったら18歳の誕生日になる前に施設を出ようと思ってる。
どこかに手頃な部屋を見つけて妹とふたり暮らしするのだ。
兄妹で手を取り合い、施設から巣立つ。
一人前になる。自立する。
これは僕の大きな目標だ。それは僕の勝手な妄想であり希望だ。
働いてお金を貯めて、もう一度エフェソスへ。浮遊大陸へも行ってみたい。
いっそ異世界で働くのも悪くない。
アンナさんのもとで国づくりをやり直すとか。
それもいい。
魔王稼業は苦労も多いがとてもやり甲斐がある仕事だ。
将来の選択肢にしてもいい。
一方ノノはどーだろう。
妹はこっちの世界で普通の仕事に就くのを考えているだろうか?
別にそれもいいだろう。
「そんな余所行きのカッコウして。どっか出かけんの?」
「ああ。友だちと図書館にな」
「友だち? 女の子?」
「ちげーよ、オトコ」
最近勇気を出して話し掛けた級友がいる。
あの勇者の、ジュドーってチャラ男戦士に似てたんで、何となく親近感が湧いたんだ。
そしたらオタ話で盛り上がり、そのままよくバカ話するようになった。
外見で人を判断するのは良くないって判ったし、ときには自分の殻を破るのも必要だって思った。
「じゃあ、行って来る」
ツェツィーリアはともかく、杏子との事はハッキリさせよう。
僕は正直、彼女のことが好きだ。
あの数年前の、彼女からの告白を、今度は僕の方からしたいと思っている。
結果?
結果がどうなるのかは分からないなぁ。
フラれたらフラれたで踏ん切りがつくかもしれない。
なんせ彼女は姉妹ほどしか年が離れてない子供のいる、未婚の母なのだから。
高校出たての青二才の僕なんて、全く相手にされないかも知れない。
「行ってきます」
不敵な笑みを浮かべた僕は、まだ暑さの残る道路へ、大股で出て行った。
(了)
以下余談。ヤーン博士のことだ。
博士は魔王城落城の後、魔王城の連中と共に古巣の浮遊大陸に跳んだ。
新天地で自分の子供のシュテファーニャと再会し、改めて惟江田杏子と過去の記憶をたどりながら、その子が、前世での杏子との間にできた子であることを確信した。
博士は、当時、自らの勝手な思い込みで置き去りにしてしまった杏子に深く詫び、シュテファーニャを自分の子供として育ててくれた魔王さまとアンナさんにも心から感謝したそうだ。
博士が亡くなったのは、それから半月もしないうちだった。
杏子とシュテファーニャに食べさせてやると大量に釣って帰ったイカ(=異世界名:エピ)を天ぷらやフライにし、「最高の味の物を食べさせたい」と自分でそのほとんどを試食してしまい、結果、食あたりを起こして寝込み、そのまま逝ってしまった。
一説にはノドを詰まらせたとか、上機嫌でアルコールを摂りすぎたからとか色々言われているが、いずれにせよ、最後まで騒がしくて豪快で、人生駆け足気味なドワじいさんだった。
葬儀に僕とノノはもちろん参列できなかったが、一番大泣きしていたのはサシャだったと聞いてちょっと意外な気がした。
杏子は葬儀の後、こうこぼしたそうだ。
「不器用すぎ、バカ!」
なお博士のお墓は、杏子の希望で現在唯一発見されている浮遊大陸とエフェソス大陸を結ぶ点転移装置の近くに建てられた。
ときどきその近くにある温泉街で、杏子とシュテファーニャ母娘が仲良く湯治している姿が見られるそうだ。
博士にはうってつけの供養かも知れない。
――結。
完結出来ました。
ありがとうございました。




