63 アンサー・エピローグ
【戦士ジュドー視点】
いったん解けた雪がもう一回バリバリに凍りついちまって。
メチャクチャ歩きづれえが、それでもここの道はオレ的に気に入っている。
何故なら店まで近道だし、サキノキの街を一望しながら帰れるからだ。
春になりかけのこの時期は、街の人間が上げる笑いや湯屋から立ち昇る煙が、夢の1コマみたいに見える。縮みこんでいた草木が芽吹き出し、街のあちらこちらで華やぎを与えているのがいい。
特に梅の木だ。
つぼめた口みたいな花を咲かせてて可愛げがある。つい抱きしめたくなるほどだぜ。
だがこのオレが。
花なんてものを愛でるとは。
景色に感動するとは。
まったく思いもよらなかったぜ。
それもこれもみんな、アイツのおかげだ。
――魔王城攻略戦で、オレは光の加護の者としての資格を失った。
勇者の道を外したからだ。
その後、オレは荒れた。
酒……は合わなかったが、それでも飲んだ。
女にも溺れた。
行きずりの女と何度夜を共にしたのか、数えきれない。
賭博にも手を出した。
女と博打で、魔物退治で得た報酬のほとんどを失った。
そんなオレを救ってくれたのはアイツだ。
エロイーズ。
アイツはクソボロに堕ちきったオレに手を差し伸べてくれた。
もっかいやり直したら?
なんて、呆れ顔をしながらも抱き締めてくれた。
よく考えたら同じだったんだよな。アイツだって。
魔王との戦いで水晶玉を壊され、アイツ自身、光の加護の能力を失った。
能力を失ったってことは資格を失ったと同じ意味だ。
オレは、オレだけが不幸で、不運で、最底辺の負け犬だと思い込んでいた。
コレエダ・アンコが去ったあと、オレは誰にも見つからないようにコソコソと魔王城を離れ、そのまま宛てのない放浪の旅に出たが、エロイーズはそのオレにつかず離れず、ずっと寄り添ってくれた。
勝手について来るだけの都合のいい女。
眼中にない。
元勇者の肩書に吸い寄せられる女はゴマンといた。
コイツは予備ゴマ。気まぐれに相手をしてやる。
最初はそんな汚らしい心で接した。
だが。
いつしかオレの方がアイツ無しに違和感を覚えるようになった。
たった1日、姿を見ないだけで苦しくなった。
それでもまだ、素直になれるのに時間がかかった。
やっと自分の気持ちを気づけたとき、アイツは身重になっていた。
自分の子供ができたと知ったとき、オレの中の何かが変わった。
ややふっくらしたその兆しに手を触れた瞬間、オレは、それまでの自分の行いを蹴り飛ばしたい衝動にかられた。
殺してしまいたいほどに自分がイヤになった。
エロイーズはそんなオレを笑い飛ばした。
「それじゃあさ、いったん死ねば? それで、もし生まれ変われたらこの子を愛すの。あなたにできる?」
オレは。
我が子を。
そしてエロイーズを。
命に代えても幸せにしてやる! そう決意した。
「あ。おかえり」
近頃エロイーズはあまり体調がすぐれない。
つわりってやつらしい。
そのクセ、ずっと動き回っている。
――オレたちは現在、旅の冒険者を相手にした宿屋を営んでいる。
このサキノキの街は湯治で有名で、行商人や地方役人以外に、魔物退治に疲れた冒険者たちも体を癒しにやって来る。
オレらは特に冒険者連中から人気があり、自然、同類が集まる宿屋になっていた。
どうも、オレやエロイーズの冒険譚が楽しくて励みになっているらしい。
エロイーズはそんな連中にひとしきり昔語りをしてから、ヤツらの食事の準備に取り掛かっていたようだった。
オレは山川で採り集めた食材をテーブルに並べ終わると、エロイーズを厨房から追い出した。
「何よ、なんで邪険にするのよ」
「オマエは口だけ動かしてろ。体を動かすのはオレの仕事だ」
「……あーはいはい」
なんだよー、その「はいはい」はよー。
「アリガトって言ってんの。ガキみたいに口尖らせないの」
「んだよーったく」
冒険者仲間がさらに大勢訪ねて来た。
しゃーねーなぁ。相手をしてやるか。
「邪魔すんなよ。オレは今メシづくりで忙しーんだ」
「ほとんど女房任せのクセして何言ってやがんだ。――それよりよ、街外れのべーぜの森での話、聞いたかよ?」
「なんだよ。森で何があったんだよ?」
「何でもよ、年老いたドワーフと子供のエルフが出没するらしいんだが」
「妙な組み合わせだな」
イスに腰掛けていたエロイーズが、ずらしたメガネをさらにずらした。
聞き耳を立てていた。
「ジュドー。いってらっしゃい」
魔物退治は勇者を辞めた今も続けている。
街のもんに請われたり、お役所から要請されたりするからで、成功報酬も割かし良くてバカにできないんで。
なんせこの宿屋の開業資金はほぼ全額エロイーズが工面したんでなぁ。
挽回せにゃ、一生アタマが上らんワケで。
「しゃーねぇなぁ。行ってやるよ」
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【チュテレール視点】
懐かしいベーゼの森でジュドーに会ったよ。
ますます格好良くなっててビックリしたー。
彼、だいぶと驚いてたなあ。
でも、チュテだって相当驚いたし。
「おまえ! なんでこんな所に?!」
「それは言えないよう」
ジュドーの目線がチュテの足元に注がれて。
「……その墓はなんだ? 誰の墓だ?」
「えー、これ? これはぁ、ドワじいのお墓だよ?」
「ドワじい? あの魔王の手下のか?」
「まー……そうだよう。別に人間じゃないからって、お墓くらい建てたっていいでしょ? 墓荒らしされたらイヤだから黙っててあげてね?」
ジュドーってば、ムッツリと黙り込んじゃった。
バレちゃわないかな……?
ここが【浮遊大陸とつながってる点転移地点】だって……。
「なんだって?! この墓が浮遊大陸とつながってんのか!」
「あーッ。心同士で伝わり合うのって不便ー」
アタマ抱えて反省しなくちゃ。
「オマエな。だいぶと重要な秘密、バラしてんぞ」
ジュドー、キョロキョロ周りを見だした。
「何してんの?」
「あ、いや。そのドワじいとエルフのガキとやらが目撃されたってんで、事実ならほっとけねーし」
「ドワじいはホントに死んじゃったし、シュテファーニャはドワじいの娘だし、一緒に下界を見たいって、ちょっとだけ来ただけだし」
「スマン、もう少し分かりやすく説明してくれ」
ええ? もおー。
ジュドーは強くて格好いいけど、アタマは弱々だし、しょーが無いなぁ。
「アタマ弱々は余計だ。――で? ドワじいさんとアンコが結婚して、シュテファーニャって娘が生まれたと。そーかそーか……――って。な、なんだってえええーッ?! あのジーサンとアンコがケッコンだとおぉぉ?!」
「でも、それは前世でのハナシだよお。幾ら元気でもさー、あのオジイさんに子種なんてなかったよう……たぶんだけど」
ジュドーってば、ハーハー言ってる。
興奮しすぎのジュドー、キモイなあ。
チュテ、もう大人のオトコとオンナのエッチいなの、ちゃんと勉強して知ってんだからね!
「チッ、まーいーや。オレにはカンケーねぇ話だし。じゃあ達者でな」
「え? え? 何しに来た? とか、エロイーズに会ってくか? とか優しい心遣いとかは無いの、ジュドーには?」
「裏切りもんにかける言葉なんて、これっぽっちもねーよ」
「ふんふん。そー言いながら、チュテの大好物って何だったっけなぁ……ってさー、考え出してくれてるよねえ?」
やっぱりジュドー、良い人だ。
「あのねぇ。パルマコシくん、割といいヤツだったんだよう? アンコの子供をとーっても長いお昼寝から目覚めさせたんだから」
「どーでもいー、そんなハナシ」
「でねー。でもねー。パルマコシくん、浮遊大陸に来なかったんだぁ、妹と行方不明」
そっぽ向くジュドーの背中、大きいなあ。
オンブして欲しいなぁ。
「お前なぁ、オンブなんてするかよ。オレもう妻子持ちなんだぞ?」
「サイシモチって?」
「知らんのか。じゃ黙ってろ」
「あのねぇ。アンコがさあ、ジュドーとエロイーズに顔向けできないって言うんだよ? だからチュテが仲直りさせよーかな? ってさ」
「分かった分かった。もう黙ってろ」
「――え? この場所ってオバケが出るの? 近付いちゃったら呪われるの?」
「だからあ! そう言う事にしといたら、近付くモンもちっとは減るだろが……って、心読むなって!」
「ふーん。チュテ、案外カワイイかな? けどサイシモチだからダメなんだ?」
「あーもー!」
あれれ、ジュドー顔まっか。
なんかかわいー。
やっぱりチュテたちって、ちゃんと通じ合ってるんだよ?
ね? アンコ。




