60 魔王城の長い一日⑥
鐘撞場ではリヴィたんが待ち構えていた。
「き、き、き、聞きましたよ、パルマコシさま!」
いきなりパニクリの興奮状態だ。
「聞いたって何を?」
「転移後も、魔王城跡地に残ると」
「あ、そう……。アンナさんから?」
ギューッと首を絞められた。
「カーラさまからです! どうにかアイツの目を覚ましておくれと頼まれました。なので、こうしてあなたさまの覚醒に手を貸しているのです!」
「クッ苦しい苦しいッ! ギブギブッ!」
僕の真に迫った苦しみように我に返ってくれたのか、ハッと手を放したリヴィたん。
今度は僕を押し倒し、馬乗りになって上から高慢な怒りを叩き下ろしてきた。
「あなたさまはヘンタイ男のレベルで一生を終えて良いのです。何を格好つけようともがいているのですか? そんなにヒーローになりたいんですか? 不快すぎてゲップが出ます」
「ゲップは止めてくれ。……いや別にヒーローになりたいなんて思ってないよ。――ただ、最後まで魔王さまから引き継いだこの国を何とか後始末したいんだよ」
似たような話、カーラさんにもしたんだがな。
そのへんは伝わってないのか?
「そんなの、どーでもいいじゃありませんか」
「そ、そんなのどうでもいい……?」
ぺしぺしと両頬を平手で叩かれた。
ソフト攻撃なので痛くはなかったが、胸に応えた。彼女の心がズンズンと刺さった。
「――い、いや。ごめんな。僕は今できる事を精一杯こなして自己満足したいんだ。そうでないとこれからずっとずっと、後悔ばっかりの人生になりそうな気がするんだ。――だから」
全力パワーで背筋を使ってリヴィたんごと上体を起こした。
自然、向かい合いのお膝抱っこになる。顔同士がスレスレになる。
たちまち、彼女の健康そうな肢体が熱く紅潮した。
つられた僕も耳から頬あたりが熱々になった。
「浮遊大陸で待ってろ。リヴィたんにはリヴィたんのやるべきことをこなせ。今回の大転移は仲間うち皆で取り組まなきゃ達成できないミッションなんだから」
「パルマコシさまはどうしてそうも……。頑固すぎます。意固地すぎます。お人好しすぎます。とてもわたしには理解できません」
「理解せんでいいよ。ただ、応援だけしてくれたらいい。それだけで十分嬉しい」
熱っぽく見詰められる。
心臓の音がバクバクなってるが自分のか、リヴィたんのか、判然としない。
前回に続き、再度チューを頂けるのか! ……と身構えたら、……「ペチン」とビンタされた。
軽く……というより弱々しいビンタだった。
ついでに愛想尽かされたようなタメ息をつかれた。
「さ。気が済んだらそろそろ持ち場に戻ってくれ」
お願いだ。
そんな「ハッ」としたカオすんな。
とにかく行ってくれ。
ようやく体を起こし服の埃をはたいていると、思い詰めた声が飛んだ。
「パルマコシさま! これだけは知ってもらいたい。あなたさまは皆から――」
「あーそれ以上言うな。そんな情報は知らんでいい。頼むから行ってくれ」
「――!」
彼女の立つ反対側、南方の敵を眺めて背中を丸めた。
見知らぬ旗幟がはためいている。
――人間族か?
大勢、いる。
1万は超えていそうだ。
「死の床についた国を屠るのに、ホント大げさだな」
「あの……わたし、持ち場に戻ります」
「ああ。よろしくな」
「一緒に浮遊大陸に参りましょうね」
「リヴィたんはフラグ立てが好きだなぁ。気持ち、充分に受け取ったよ」
「ワケの分からない物言い、ゼンゼン変えませんね」
振り返らずに答える。
「僕はずっと変わらんぞ? 僕は魔王城も、魔王城の人たちも、みんな好きだ」
「……承知しました。このヘンタイさま」
リヴィたんの気配が消えた。静かに去ったのだ。
鼻の奥がジンと痺れた。
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人間族が打ち立てた国、エウロプリア。
魔物の支配から解き放たれた、念願の再興国家である。
その国が放った兵の数、2万。
目指す先は魔王城。狙うものはただひとつ、魔王の首。
それを得れば、真の意味で人間族の平和と秩序が回復する。
大陸に、安穏たる理想郷を築くことが叶う。
魔物国であるアウラ国や、反エフェソス帝国に回ったゴブリン支族たちは人間族に同調することで、己が支配圏の独立を欲した。
その結果、エフェソス帝国の中枢であった魔王城とその周辺は、ただひたすら魔王討滅に意を向ける人魔混在の兵馬で埋め尽くされている。
一部が陥落した魔王城城市は、片羽根をもがれてもなおも頑強に抵抗を示し、生き残った市民と共に戦線を縮め耐えている。
日本で言うところの午後2時。
第二次総攻撃のキッカケを作ったアウラ国、魔竜部隊が空から攻撃を仕掛けてきた。
我が方も虎の子の翼竜部隊を投入するが、この日のためによく訓練された敵方飛空兵は次々にエフェソスの空の勇士たちを撃墜し、制空権を奪った。
僕は歯噛みしてその情景を眺めた。
だがそこで意外な部隊が活躍を見せた。
ツェツィーリア率いる百華隊の面々だ。
ツェツィーリアの発声で矢が空に散り、油断をした敵の後背を衝き、度肝を抜いた。
バタバタと一気に半数を失くした敵飛空部隊は、いったん北の自陣営に引く。
やけにあっさりと退散したので少し怪我に思ったが、今はいい。
主に女子で編成されていた弓兵たちの歓声が響いた。
「陛下ッ!」
ラットマン将軍の注進が、新たな試練をもたらせた。
「人間族共の先頭に、光の加護の者がおります! 正門に立ち、コウゼン将軍と対峙中!」
総攻撃の第二波は地上から、最悪の形でもたらされた。




