59 魔王城の長い一日⑤
安全衛生課の事務室に連行された。
元僕の職場だ。
同僚は戦闘やら避難やらしており、ここにはもう誰もいない。
木製の事務机が並んでるだけだ。
僕らは何とはなしにミーティングコーナーに陣取り。
――陣取ったが、そこでポーカーが始まった。
ポ、ポーカー?!
この世界にトランプなんてあったっけ?
じゃなくって、なんでポーカー! 遊んでるゆとりなんてないぞッ。
「ノノさんから教わった賭け事です。あなたが負けたら、質問に答えて頂きます。正直に」
「はいぃ?」
質問? 答える?
何のこっちゃ!
――ポーカーの途中経過は省くが、僕は結果的に3タテ喰らった。
アンナさんもカーラさんも強かった。
ものの数分で3度、負け続けた。
「じゃあ質問に答えてください」
「はいはい。何なんですか、何でも言ってください」
コホン……と咳払いひとつして改まった表情をしてから、アンナさんが尋ねる。
「豪人さまは浮遊大陸に行かず、この場に残る気ですね?」
「え」
「わたくしたちを行かせてから、いろいろ後始末をしようとしている。……そうですね?」
「え……えーと……」
スルドイな。
言われる通り、転移発動直前に魔王城から抜け出し、ここに残るつもりだ。
転移に乗り損ねた連中や、破壊できなかった転移装置を始末しなきゃなんない。
浮遊大陸に、人間族が来れないようにもしなきゃならない。
「豪人さまはきっと、相手の敵意を一身に受けるつもりなんです。そうでしょう?」
アンナさん、口元の微笑を浮かべているが目が笑ってない。コワイな。
「――ええまぁ。そうなるでしょうね」
「ナゼそこまで、エフェソスのために尽くそうとしているのですか?」
「あ、それは簡単です。僕が2代目魔王だからですよ」
「そ、それは――」
「アンナさんも認めてくださいました。カーラさんも……黙認してくれてます。僕はれっきとした2代目魔王。……だから、魔王の仕事を最後までやり遂げるんです」
アンナさんが黙った。黙ってしまった。
「質問、2つ目いい?」
「まだ訊くんですか? カーラさんまで?」
「どうしてファウツーを召喚して禁忌魔術を使ったの?」
「だから。それは、僕が強くなるために――」
そう。
神の慈悲の天使、最上位妖精のファウツーを呼び出し、僕はお願いごとをした。
「強くなるために?」
「そうです。だって僕は弱くて戦いの役に立たない。強くならないと、命の危険に対処できないし、自身も持てないし、仲間だって救えないので」
首を振るアンナさん。
僕の唇に、人差し指を当てた。
「嘘はいけません、豪人さま」
「豪人クン。あなたの真のお願い事は、ゼンゼン違うのでしょう?」
またもや僕は言い淀んだ。
「僕は昔からケンカが弱くていつもイジメられてました。イジメられてるヤツがいても目を背けたり、その場から逃げたりしました。……だけどこっちの世界に来て、それじゃダメだと自分なりに思い改めることにして」
ああ。
何が言いたいのか自分でもワカラナイ。
「違いますよ、豪人さま。あなたはじゅうぶん強いです。自分で自分を認めていないだけですよ?」
「そうよね。キミは魔王城にいる色々な人に幸せを与えてきた。生きる道を与えてきた。それを弱いで片づけて欲しくないわよね」
「あ。そうだ、用事を思い出した……」
僕は逃げ出し……。ダメだった、逃げ損ねた。
カーラさんに回り込まれた。
長めの剣を装備していたのが敗因だった。腰から下げてた剣がイスに引っ掛かり転びかけたのだ。
うう。
「答え訊いてないし、3つ目の質問もまだよ?」
ええ、マジすか。
「キミはノノさんの願い事も、本当は【転移起動の成功】でない事を知っている。でも黙っている」
「それともうひとつ。あなたは本当はツェツィーリアが好きだけど、魔導人形だった過去をツェツィーリアに意識させたくないから、敢えてあの子と距離をとってる」
カーラさん&アンナさんのツープラトンアタックを受けた。
つーかそれ、ふたつ質問してんでしょ!
僕は逃げ出した。
今度は成功した。
鬱陶しかったぁ。
『ダンナ! ダンナぁ!』
ラットマン将軍からの通信が入った。
『密偵からの注進です。人間族どもが兵団を率いて魔王城に迫りました。数は……』
「あー。数はいいよ。どっちみち対処できんし」
僕はノノの研究室に走った。
ノノは顔を引き攣らせながら装置の調整に挑んでいる。
傍らに魔導アイテムが転がってることから、ラットマン将軍の報告は耳にしたらしい。
「元々の予定だと、あと9時間よね。でも少し遅れそう」
「な?! どの位遅れそうだ?」
「3時間……いえ……4時間……」
ノノが珍しくシュンとなった。
正直、自信が無くなったんだろう。
小っちゃくなって、申し訳なさそうに帽子をまっすぐ被り直した。
僕は妹のアタマを帽子を取り、撫でた。
「や、やめてよ」
口では言いながら抵抗しないのを良い事に、飽きるまで撫で続けた。
それから帽子を再び被せてやった。
「こっちは存分に耐えてやる。全員揃って新天地に跳んでやろうぜ」
「……何ソレ、キモイ言い方」
笑ったノノは帽子を後ろ向きに被り直してから、「ヨシ」と頷いた。
ヨレヨレに汚れた野球帽だが、彼女のハートに再び火を灯してくれたようだった。
「予定通り9時間後、浮遊大陸への旅を始めるわよ!」
その場にいた開発部員たち、およびにヤーン博士は野太い声で「おー」と揃って応答した。




