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【完結御礼】異世界バイト 身代わり魔王のダミー生活 ―ラスボスの影武者したら、元カノが勇者になって攻めてきた。ちなみに魔軍宰相はツンな妹が務めます―  作者: 香坂くら
冬の章 明日の朝はあなたのために

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51 魔王と勇者、ひっそりと決戦す①


 三人称



「ねえ。カレシ、カノジョになってみない?」


 階段の途中。


「――え?」


 振り返った瞬間に、足を踏み外す少年。

 惟江田杏子(これえだ・あんこ)の言葉はいかにも不意打ちだった。


 杏子はぐらつく少年をとっさに抱きとめた。


「悪い。助かった」

「こっちこそゴメン。そりゃビックリしたよね。急に、だもんね」


 逆ハグされる形になった少年は飛び退き、「いや……」と手で顔を覆った。


「あ、あのさ、豪人」

「――? なに?」


「ヘンなコト、訊いていい? わたしたち、ずっと前から知り合いだった……かな?」

「……えーと。ホントにヘンな事訊くな」


「近頃やたらと気になって……と言うか」

「小っちゃいときからさ。杏子と僕は施設でずっと一緒だったろ?」


「そういうこと……じゃなくって」


 モジモジして黙りこくった杏子に、少年が続けた。


「だからさ……、僕ら昔から兄妹みたいに過ごしてたろ? 何と言うか、その――」

「だ、だよね。――あ、あ、あのさ。豪人がさ、もしそういう気分ってか、気持ちになったら、良かったらどーかなあ? なんてふと……思っただけ」

「そ、そうだな。……何かさ。そういうの疎くて。――ごめん」


 春馬越豪人はそのとき、気の利いた返しが出来なかった。


 ここは学校だったので、教室間を行き来する生徒らが、彼らの横をすり抜けて行った。

 そのどれもが訝し気な、好奇な目をしていた。


「また。後で」


 ふたりはそれ以上会話を続けられず、上りと下りに別れた。


 また後で。

 それは「後で施設に戻ったらね」という仲間うちだけに通じる隠語だった。


 そしてそれがふたりにとって、日本での最後の会話になった。




〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 三人称



 玄関の扉を開けたコレエダ・アンコは、意外なる訪問者に棒立ちになった。

 相手の訪問者も完全に固まっている。


「豪人」


 ポツリ。……と口をついたアンコは額を押さえた。

 寸時の激痛を覚えてのち、瞼の奥で春馬越豪人との過去を思い出した。


 それは落雷を喰らった如来を思わせた。閉じていた心眼が突如開いたようだった。


 かたや豪人は1年半ぶりの彼女に眼をしばだたせた。

 彼は魔王城で受けていた報告で、既にそこにコレエダ・アンコがいると識ってて訪ねていた。


 だがしかし、再会の心構えはまだ不十分だった。


 なぜなら、戸を開ける者が本人だとまでは予想していなかったので。

 心臓が飛び出た面持ちだった。


「何だよ、こっちに来てたんかよ」


 どうにかそんなセリフだけ漏らした。おどけたつもりだった声は詰まり気味で、しかも嗄れていた。

 自分が抱いていたほどの余裕は、実際全く持ち合わせていなかったのである。


「何よ豪人こそ。ここは日本じゃなくて異世界なんだよ?」

「知ってる。分かってる。気付いてる」


 彼らしいヘンな言い回しにやや頬を緩めたアンコは、彼の後ろに控える1組の男女にようやく気を回せた。

 外野は少女と……もうひとり、少女と釣り合わせるには薹が立った男。男の方は、前傾気味なので表情は読めない。だが魔族出身者だと察したらしく、再度、今度は引きつる額を押さえた。


「――アンコはしばらくここに逗留してるのか?」


 豪人の視線が建物全体に及ぶ。

 アンコに返事は無く、自然、彼の次の質問が封じられた。


「中に入る?」

「ああ。……そう、だな」


 アンコは笑みを浮かべているが、むしろ豪人の緊張は高まった。




〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


【コレエダ・アンコ視点】



 素直に嬉しいよ。

 豪人に会えた。


 まさか会えるとは思ってなかったし、豪人は少し背が高くなってた。

 ちょっぴりだけ格好良くもなっていた。

 安心できる優しい顔。


「何だよ。こっちに来てたんかよ」


 彼の第一声。

 こっちって、この世界にっコト?


 ――うん。

 来てたよ。


 そんで忘れてた。

 こっちに来る前の、日本でのコトを――。


 それを一瞬で思い出したのはたぶん、豪人に会ったからだよ。

 再会できたからだよ。


 久しぶりに。

 ……いったい、いつぶりかよくは判らないけれども、とにかく久しぶりにだよ。


「何よ豪人こそ。ここは日本じゃなくて異世界なんだよ?」


 こっちって簡単に訊くよね?

 まるで隣町かせいぜい他県ぐらいの感覚でさ。


 この状況、びっくりするほど異常なんだよ?

 断っておくけど、ここは異国じゃなくって異世界なんだよ?


「知ってる。分かってる。気付いてる」


 何よう、それ。

 めちゃくちゃ軽いよね、豪人って。

 昔っからそう。


 ホントのホントに分かってんのかな?


 ……ん?

 そういや、ダレなの?

 その後ろの……女の子……それと……。

 それと、とても危なそうな人。


 なのに豪人は普通にしてる。

 気にも留めてない。


 つまりは豪人の知り合いか仲間? 友だち? 味方……?

 それって。


 ……それって、わたしの味方? ……じゃない、よね?

 ……あんまり考えたくない。

 嬉しいのに、アタマがズキズキする。

 わたし……まだ忘れてることがある気がする。


 なんだろう。

 何かな。


 とにかく引き留めなきゃ。豪人の話を聞いて状況を整理しなきゃ。


「……中に入る?」


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